知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

プログラムの著作物の「複製」とプログラム実行画面のスクリーンショットの印刷

2012-12-19 23:39:08 | 著作権法
事件番号 平成24(ワ)15034
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年11月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大 須 賀 滋,裁判官 西村康夫,森川さつき

(2) 原告は,本件プログラムは原告が創作した「プログラムの著作物」(法10条1項9号)であると主張する。
 プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法(法10条3項)に制約されつつ,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどについて,法により保護されるべき作成者の個性(創作性)が表れることになる。
 したがって,プログラムに著作物性(法2条1項1号)があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,プログラム制作者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要する知財高裁平成21年(ネ)第10024号平成24年1月25日判決・裁判所ウェブサイト)。

 原告は,本件プログラムのソースコード(甲6の1。A4用紙7枚(1枚当たり36行。全部で232行)のもの。)を提出するものの,本件プログラムのうちどの部分が既存のソースコードを利用したもので,どの部分が原告の制作したものか,原告制作部分につき他に選択可能な表現が存在したか等は明らかでなく,原告制作部分が,選択の幅がある中から原告が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現ではなく,原告の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているものといえるかも明らかでない

(3) 仮に本件プログラムに原告の創作性が認められるとしても,以下に述べるとおり,原告の主張には理由がない。
 原告は,被告がブラウザを用いて本件プログラムにアクセスし,その情報を被告のパソコンのモニタに表示させ,表示された情報のスクリーンショットを撮り,当該スクリーンショットの画像ファイルを紙である別件乙3(甲1の1,乙2)に印刷したことが,プログラムの著作物である本件プログラムの複製に当たると主張する。

 法にいう「複製」とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうが(法2条1項15号),著作物を有形的に再製したというためには,既存の著作物の創作性のある部分が再製物に再現されていることが必要である
 これを本件についてみると,紙である別件乙3(甲1の1,乙2)に記載されているのは画像であって,その画像からは本件プログラムの創作性のある部分(指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなる部分)を読み取ることはできず,本件プログラムの創作性のある部分が画像に再現されているということはできないから,別件乙3の印刷が本件プログラムの複製に当たるということはできない。

(4) したがって,別件乙3の印刷による複製権侵害は認められない。