知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

動機付けや示唆がないとした事例

2013-04-10 23:14:25 | 特許法29条2項
事件番号  平成24(行ケ)10168
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文 、裁判官 岡本岳,武宮英子

すなわち,引用発明においては,・・・,使用される針は,皮下注射用の針ではなく,皮内注射に適した針であると理解される。また,引用発明は,注射器針の透過深度をコントロールするか調節するための装置を提供することを目的とし,それによって,皮内注射の間に患者に作用する軽い痛覚はより減少され,主として,繰り返される注射の場合に,患者に対する,より大きな痛み除去を確実にする効果を奏するものであることが認められる。

ウ 上記の認定によれば,本願補正発明は,熟練や経験のない人が皮内注射を行う場合でも患者が苦痛を感じることなく,かつ,経済的合理性に対する要望にも対処することを目的(解決課題)として.皮下注射用の針を用いて皮内注射を行うニードルアセンブリであるのに対し,引用発明は,皮内注射に適した針を用いて注射器針の透過深度をコントロールするか調整することにより,皮内注射の際の患者の苦痛を緩和ないし除去することを目的とした装置であるということができる。そして,上記の引用発明の目的からすると,引用例に接した当業者が,引用発明の「皮内注射を行うのに使用する針」,すなわち皮内注射に適した針を,敢えて,本願補正発明の「皮下注射用の針」に変更しようと試みる動機付けや示唆を得るとは認め難いから,当業者にとって,相違点に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得るとはいえない

エ これに対し,被告は,①皮下注射用の針を皮内注射に用いることは,従来より慣用されており,「皮下注射用の針」が,大量生産され市場に広く流通しているのであれば,引用発明における「針3」として「皮下注射用の針」を選択することは,当業者が当然に試みることである,②引用発明において,内部に収容される内部円筒状ボディー6や針3の長さに合わせて,外部円筒状ボディー5の長さが決められるのであり,針3は,その全長に比して「短い長さ」分だけ表面20から突き出させて構成されるから,「針3」として,全長の長い「皮下注射用の針」を選択することの動機付けも存在する旨主張する。

 しかし,上記の引用発明の目的,及び,引用例に「・・・。」,「・・・。」と記載され(上記(1)イ ),注射を行う際の皮膚に対する押付け力はわずかなものとされていることにかんがみると,たとえ,皮下注射用の針を皮内注射に用いることが従来から慣用されている事実を認め得るとしても,引用発明の皮内注射に適した「針3」を,技術常識からみて皮膚への刺入に要する力がより大きいと理解される皮下注射用の針に変更する動機付けはなく,当業者が当然に試みることともいえない。このことは,皮下注射用の針が大量生産され市場に広く流通しているとしても同様である。よって,被告の上記主張は失当である。

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