知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「審決の違法」と「審決を取り消すべき違法」

2008-03-09 18:53:27 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10538
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『1 取消事由1(拒絶理由通知の欠如)について
(1) 原告は,審決が拒絶理由通知とは異なる拒絶理由に基づいて審判を行ったのに,新たに拒絶理由通知を行わなかったから,手続上の瑕疵があると主張する。
・・・

(3) 上記認定の事実によると,以下のとおり,認められる。
①  審査段階においては,引用文献2(引用刊行物)の「衝撃吸収シート片3」が補正前発明の「衝撃吸収シート」に相当し,補正前発明の「空気封入弾性片」に相当するものが引用文献4に記載されているとされていた。原告は,本件補正をした上,引用文献2(引用刊行物)記載の発明が「踵部における衝撃吸収性をねらったもの」であるとして,引用文献2の「衝撃吸収シート片3」と本願発明の「衝撃吸収シート」の技術的意義の相違を論じた。
② 拒絶査定においては,これに対する応答はなかった。
③ 審決においては,引用刊行物(引用文献2)の「クッションシート4」が本願発明の「衝撃吸収シート」に相当するとし,また,引用文献4に代えて引用刊行物(引用文献2)の「衝撃吸収シート片3」が本願発明の「空気封入弾性片」に相当するものとしたことが認められる。

 したがって,審査段階では,引用文献2(引用刊行物)の「衝撃吸収シート片3」が補正前発明の「衝撃吸収シート」に相当し,補正前発明の「空気封入弾性片」に相当するものが引用文献4に記載されていると認定していたところ,
 審決では,引用刊行物(引用文献2)の「クッションシート4」,「衝撃吸収シート片3」がそれぞれ本願発明の「衝撃吸収部材」,「空気封入弾性片」に相当するとしているのであって,引用文献2(引用刊行物)から把握される技術内容を変更した
ものである。

 このように,引用例としては同一であっても,そこから把握する技術内容を変更することは,その限りにおいて,本願発明と対比されるべき公知技術の内容を変更するものであり,出願人である原告には,新たな引用発明を前提として,意見陳述の機会を与えなければならなかったものというべきであるから,拒絶理由通知を行うことなくされた審決は,特段の事情がない限り,特許法159条2項の準用する同法50条の規定に違反するものというべきことになる。

(4) そこで,審決の上記違法が本件の具体的な事情の下において審決を取り消すべき場合に該当するか否かを検討する。
ア まず,本件拒絶理由通知における拒絶理由は,前記(2)アのとおり,「引用文献1~4に記載された発明に基づいて容易に発明することができた」ということに尽き,本件拒絶査定でも同趣旨であり,「引用文献3に記載された発明に基づき容易に発明することができた」という趣旨の本件拒絶査定の備考欄の記載は,本件意見書で示された原告の意見にかんがみて,付加されたものにすぎないから,引用文献を限定したとはいえず,本件拒絶査定の理由は本件拒絶理由通知に記載された引用文献を変更したものでも,また,逸脱したものでもないということができる。

イ しかしながら,上記(3)で判示したように,本件拒絶査定においては,引用文献2(引用刊行物)について何ら言及することなく,備考欄でも引用文献3(周知例1)を中心として拒絶すべき理由を説明していることなどをみると,審査段階では,引用文献2(引用刊行物)を引用文献として掲げながらも,審査官は,引用文献2(引用刊行物)を実質的には拒絶理由としておらず,このため,引用文献2(引用刊行物)を主引用例とする審決については,出願人である原告に意見・反論等の機会が実質上十分に与えられなかったなど,具体的な不利益を生じている疑念が生じるので,吟味することとする。

 本願発明の構成についてみると,本件明細書によれば,本願発明の祭用地下たびは,底部に衝撃吸収シート,これと接地底との間に空気封入弾性片を介在させ,かつ,アッパー爪先部にクッション材を装填すること等という簡素なものであり,その材質は,・・・が用いられるというのであるから,材質等に格別のものが使用されているというわけでもなく,また,発明の効果も,「・・・」(本件明細書の段落【0017】)であるところ,拒絶理由通知に掲記された引用文献1~4も,程度の差こそあれ,いずれも類似した構成の履物であって,各構成について比較対比するについて,格別の困難があるとは考えられない

 しかも,原告は,上記認定判示したように,本件意見書(前記(1)イ)において,引用文献2(引用刊行物)に関して意見・反論をしており,また,審判請求書(前記(1)エ)においても同様であるほか,本願発明と引用文献2(引用刊行物)との比較検討もしており,本件における原告の取消事由2,3に関する主張と比較検討しても,実質的に必要なところは論じ尽くしているとみることができ,原告に具体的な不利益が生じていたとは認められない

 のみならず,原告の主張は,本願発明の「衝撃吸収シート」が格別の衝撃吸収機能を有していることなどを根拠とするものであるが,後に判示するように,原告の主張する根拠が認められないことから考えても,拒絶理由通知に記載された拒絶理由と拒絶査定で用いられた拒絶理由とは,基本的に近似した関係にあると認められるから,原告の主張は,この点からも失当である。

(5) 以上によれば,審決の上記違法は本件の具体的な事情の下において審決を取り消すべき違法はないということができるから,原告主張の取消事由1は理由がない。』

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