知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

誤記のある拒絶理由に基づく審決

2008-03-09 18:55:27 | 特許法36条4項
事件番号 平成19(行ケ)10181
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『(第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1(手続違背その1)について
(1)  原告は,審決の判断対象となった本願発明は当初明細書に基づくものであるとし,この当初明細書に基づく本願発明について意見を述べる機会が与えられなかったことは手続違背に当たる旨主張するので,まずこの点について検討する。
・・・

(3) 以上によれば,審決は,
 本願発明の内容について,「平成18年9月6日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1~18に記載されたとおりのもの」(審決の理由「1.手続の経緯・本願発明」の下線部分)と認定していることは明らかであるし,また,
 審決が「2.当審の拒絶理由」として平成18年2月9日付け拒絶理由通知(甲4)の内容を指摘し,かつ,「3.請求人の主張」として原告の平成18年9月6日付け意見書(乙5)及び同日付けの本件補正(甲1)の存在を指摘した上で,「4.当審の判断」において,上記意見書及び本件補正を検討してもなお,本願の明細書の記載は実施可能要件を満たすものではない旨を述べていること
からすれば,審決が審判の対象とする本願発明の内容は,本件補正後の明細書の記載に基づくものであることは明らかというべきであって,審決が本願発明当初明細書に基づいて判断したということはできない

(4)ア これに対し原告は,審決が,その理由中で,出願当初の明細書には存在したが第1次補正により変更されたため本件補正後の明細書には存在しない「紙葉捌き装置8」,「紙葉捌き要素9」との言葉を挙げていることを指摘する
・・・

ウ 以上によれば,出願当初の明細書(甲2)においては「紙葉捌き装置(8)」,「紙葉捌き要素(9)」との言葉が使用されていたものの,これらは,平成15年3月20日付け手続補正(第2次補正)により「刷紙区分装置(8)」,「刷紙区分部材(9)」と変更され,その後の平成18年9月6日付け手続補正(本件補正,甲1)においても,これら変更後の言葉が踏襲されていることが認められる。

 そうすると,上記のような変更があったにもかかわらず,平成18年2月9日付けの拒絶理由通知(甲4)が,第2次補正後の発明の認定として「紙葉捌き装置8,紙葉捌き要素9」との言葉を用いたことは明らかに誤りといわざるを得ないし,審決が,このような誤りを含む拒絶理由通知書の記載をそのまま引用した上で,「先の拒絶理由を覆すことはできない。」とか,「本願は,当審で通知した拒絶の理由によって拒絶すべきものである。」などと結論付けることもまた,理由として不適切であったといわざるを得ない。

 しかし,当初明細書の「紙葉捌き装置(8)」,「紙葉捌き要素(9)」と第2次補正後の「刷紙区分装置(8)」,「刷紙区分部材(9)」とは,表現に若干の異同はあるもののその実質は同一であるということができるし(前記イ(ア)及び(イ)の各【請求項02】~【請求項07】参照),また,これらと本件補正後の「刷り紙区分装置(8)」,「刷紙区分部材(9)」についても,表現は異なるものの,基本的な構成部分は一致しており(前記イ(エ)の各【請求項01】~【請求項07】参照),このことからすれば,これらがいずれも同じ装置ないし部材を指すものであることは明らかである。

 以上に加えて,前記(3)に述べたとおり,審決が「1.手続の経緯・本願発明」として審判対象として本件補正後の本願発明を認定していることなどを併せ考慮すれば,上記拒絶理由通知ないし審決の記載は,明白な誤記であるということはできても,本願発明の構成を取り違えたとまでいうことはできない。』

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