知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

出願人(当業者)の合理性を尊重した特許請求の範囲の解釈とリパーゼ判決

2010-01-17 12:19:23 | 特許法70条
事件番号 平成20(行ケ)10235
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年01月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

エ 被告は,最高裁平成3年3月8日判決(いわゆるリパーゼ事件判決)を引用して,請求項1の後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧」について,それが誤記であるとしても,それは同判決が判示するような「一見して誤記であることが明らかな場合」には当たらないと主張し,また,誤記ではないとしても,「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない」場合にも当たらないと主張するので,念のために,所論の判例との関係につき付言することとする。

 上記判示のとおり,本件発明の請求項1の文言は,前段では,組成物の物質の名称が特定の数値(重量パーセント)とともに記載され,後段では,特定の温度における特定の数値の蒸気圧が記載されており,それぞれの用語自体としては疑義を生じる余地のない明瞭なものであるが,組成物の発明であるから,構成としては前段の記載で必要かつ十分であるのに,後者は,さらにこれを限定しているようにも見えるものの,真実,要件ないし権利の範囲として更に付された限定であるとすれば,その帰結するところ,権利範囲が極めて限定され,特許として有用性がほとんどない組成物となり,極限的な,いわば点でしか成立しない構成の発明であるという不可思議な理解に,当業者であれば容易に想到することが必定である。
 そうすると,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,前段と後段との関係,特に後段の意味内容を理解するために,明細書の関係部分の記載を直ちに参照しようとするはずである

 そうであってみれば,本件発明の請求項1の記載に接した当業者は,後段の「32°Fにて約119.0 psia の蒸気圧を有する」の記載に接し,その技術的な意義を一義的に明確に理解することができないため,明細書の記載を参照する必要に迫られ,これを参照した結果,その意味内容を上記判示のように理解するに至るものということができる。

 したがって,本件発明の請求項1の解釈に当たって明細書の記載を参照することは許され,上記の判断には,所論のような,判例の趣旨に反するところはなく,被告のこの点に関する主張は採用することができない。

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