知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

裁判傍聴記の著作物性

2008-07-20 11:04:26 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10009
事件名 発信者情報開示等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年07月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
裁判長裁判官 飯村敏明

第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告傍聴記の著作権法2条1項1号の著作物性の有無等)について

 著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(著作権法2条1項1号)。
 以下では,本件に即して言語により表現されたものの著作物性の有無について述べる

 著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,当該記述が,厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でないが,記述者の何らかの個性が表現されていることが必要である
 言語表現による記述等の場合,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,記述者の個性が現われていないものとして,「創作的に表現したもの」であると解することはできない。

 また,同条所定の「思想又は感情を表現した」というためには,対象として記述者の「思想又は感情」が表現されることが必要である。言語表現による記述等における表現の内容が,専ら「事実」(この場合における「事実」とは,特定の状況,態様ないし存否等を指すものであって,例えば「誰がいつどこでどのようなことを行った」,「ある物が存在する」,「ある物の態様がどのようなものである」ということを指す。)を,格別の評価,意見を入れることなく,そのまま叙述する場合は,記述者の「思想又は感情」を表現したことにならないというべきである(著作権法10条2項参照)。

 以上を前提に,原告傍聴記の著作物性の有無について検討する。
・・・

(2) 判断
ア 原告傍聴記における証言内容を記述した部分(・・・)は,証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおり記述したか,又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから,原告の個性が表れている部分はなく,創作性を認めることはできない。

イ 原告傍聴記には,冒頭部分において,証言内容を分かりやすくするために,大項目(・・・)及び中項目(・・・)等の短い表記を付加している。しかし,このような付加的表記は,大項目については,証言内容のまとめとして,ごくありふれた方法でされたものであって,格別な工夫が凝らされているとはいえず,また,中項目については,いずれも極めて短く,表現方法に選択の余地が乏しいといえるから,原告の個性が発揮されている表現部分はなく,創作性を認めることはできない

ウ この点について,原告は,原告傍聴記は本件ノートに基づいて作成したものであり,本件ノートと対比すればその「分類」と「構成」に創意工夫がされているから,原告傍聴記に創作性が認められるべきであると主張する。
 そして,具体的には,
① 原告傍聴記2の証人の経歴に関する部分は,主尋問と反対尋問から抽出していること,
② 原告傍聴記1の「○クラサワコミュニケーションズとの株式交換も計上していることを口頭で説明した」,「■堀江被告は何も言わなかったが,分からないときは質問するので,説明を理解していたと思う」の記述及び原告傍聴記2の「○大学卒業後,未来証券に新卒入社」,「■個人投資家からの株式売買受託やベンチャー企業の資金調達に携わる」,「■1年半弱で退社」の記述は,実際に証言された順序ではなく,時系列にしたがって順序を入れ替えたこと,
③ 原告傍聴記2において固有名詞を省略したこと等を創意工夫として例示する。

 しかし,原告の主張する創意工夫については,経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず,表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないのは前記のとおりであるし,実際の証言の順序を入れ替えたり,固有名詞を省略したことが,原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。原告の主張は採用できない。

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