知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当する場合における告知者の過失の有無の判断事例

2012-06-24 15:13:04 | 不正競争防止法
事件番号 平成22(ワ)5719
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成24年05月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(4) 被告の過失の有無
 原告は,特許権侵害の告知が,特許が無効であるため,不正競争防止法2条1項14号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知」の不正競争行為に該当する場合における告知行為を行った告知者の過失の有無については,告知者が告知行為を行った時点を基準として,被告知者に現に示した特許発明(特許請求の範囲記載の発明)についての無効理由を前提に判断すべきである旨主張する。
 そこで検討するに,不正競争防止法2条1項14号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知」の不正競争行為を行った者の故意又は過失(同法4条)については,不正競争行為を行った時点を基準に判断すべきであり,これは,特許権侵害の告知が,特許が無効であり,又は特許に無効理由があるため,同号の不正競争行為に該当する場合も同様である。

 一方で,特許法128条は,「・・・」と規定し,確定した訂正審決の効力に遡及効を認めており,また,同法134条の2第5項は,特許無効審判における訂正請求について同法128条の規定を準用していることからすると,特許権侵害の警告等の告知行為を行った告知者は,仮に告知行為時点の特許請求の範囲記載の発明に無効理由があるとしても,告知行為後の訂正審判請求又は特許無効審判における訂正請求によって特許請求の範囲を訂正し,その無効理由を解消できるものと考えるのが通常であるから,告知行為後に訂正審判請求がされた場合において,当該訂正審判請求が同法126条1項,3項,4項の訂正要件を満たし,かつ,告知の対象となった製品が訂正後の特許請求の範囲記載の発明の技術的範囲に属するときは,その発明が独立特許要件(同法126条5項)を欠くとする理由(無効理由に相当)について告知行為を行った時点における過失の有無を判断するのが相当である。

 しかるところ,本件においては,・・・。
 以上を総合すると,被告の本件告知行為○1,○3及び○6による不正競争行為についての過失の有無は,各告知行為の時点で,別件判決2が判断した第2次訂正後の発明の進歩性欠如の理由(無効理由に相当)を前提に判断すべきである。これに反する原告の上記主張は,採用することができない。
 ・・・

イ 本件告知行為○1,○3の時点における被告の過失の有無
 発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては,・・・,相違点に係る構成の容易想到性が一応認められるとしても,当該発明がその構成から当業者の予測を超える顕著な作用効果を奏する場合には,そのような作用効果が顕著である点において,当該発明が引用発明から容易想到であったとはいえないから,当該発明は進歩性を有するものと解するのが相当である。
 以上を前提とすると,被告の過失の有無は,被告が,本件告知行為○1,○3を行った時点において,別件判決2が認定判断する第2次訂正発明1の進歩性欠如の理由,すなわち,「第2次訂正発明1の構成の容易想到性」及び「第2次訂正発明1の作用効果が顕著でないこと」の両方について調査確認すべき注意義務に違反したかどうかによって判断すべきである。

 そこで,まず,第2次訂正発明1の作用効果が顕著でない点に関する注意義務違反の有無について判断することとする。
 ・・・
 しかし,本件告知行為○1,○3の時点では,別件無効審判事件に係る無効審判請求がされておらず,被告は,原告が行った実験結果である甲15の1,5を見ておらず,その内容を認識していないこと,一般に,自己の採用する方法が当業者の技術水準であると考えるのは自然であることからすれば,被告が,本件告知行為○1,○3の時点で,甲15の1,5のような実験条件での発明の効果についても検討し,あるいは調査確認することにより,第2次訂正発明1に顕著な作用効果を奏さない部分があることを認識し,又はこれを予測することは困難であったというべきである。

b 以上によれば,被告が,本件告知行為○1,○3の時点で,被告において,別件判決2が第2次訂正発明1の作用効果が顕著でないとした点について調査確認をすべき注意義務違反があったものとはいえず,被告に過失があるものと認めることはできない。
 ・・・

ウ 本件告知行為○6の時点における被告の過失の有無
(ア) 平成20年3月10日,原告から別件無効審判事件に係る無効審判が請求され,本件特許の実施例である本件化合物を正孔輸送材料として使用した場合と比較例であるNPDを正孔輸送材料として使用した場合とで効果に大きな差異はないとする原告による実験結果(本訴甲15の1・無効審判甲7)と,同旨の韓国の大学による実験結果(本訴甲15の2・無効審判甲8)が証拠として提出された(・・・)。したがって,被告は,本件告知行為○6の時点(平成20年11月ころ)では,甲15の1,2を認識していたものである。

 しかし,被告は,平成20年5月に自ら再現実験(乙30の実験)を行い,本件訂正明細書に記載された実験結果と概ね同様の結果を得ていたものであり(・・・),別件判決2において,乙30(・・・)の実験結果についても,信ぴょう性を疑うに足る内容を見出すことはできないと認定判断(・・・)されている。また,甲15の1の実験及び甲15の2の実験と本件訂正明細書に記載された実験は,前記(ア)aで述べたように,実験条件に種々の相違点があったものである。なお,原告は,別件無効審判事件において甲15の5(無効審判甲13)を提出しているが,それが特許庁に提出されたのは平成20年12月10日であると認められること(・・・)に照らすならば,被告が甲15の5を認識したのは本件告知行為○6後と認められる。仮に被告が甲15の5を認識していたとしても,本件訂正明細書の実験と実験条件に種々の相違点があったことは,甲15の1の実験,甲15の2の実験と同様である。

 そうすると,被告が,本件告知行為○6の時点において,甲15の1,2には洗浄方法等の実験条件に不適切な点があったため,実験結果が誤っていると考えたとしても,直ちに不合理な判断ということはできない

 以上によれば,被告が,本件告知行為○6の時点で,第2次訂正発明1に顕著な作用効果を奏さない部分があることを認識し,又はこれを予測することは困難であったというべきであるから,被告において,別件判決2が第2次訂正発明1の作用効果が顕著でないとした点について調査確認をすべき注意義務違反があったものとはいえず,被告に過失があるものと認めることはできない。

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