知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

サポート要件及び実施可能要件を否定した審決を支持した事例

2013-05-06 21:16:53 | 特許法36条6項
事件番号 平成24(行ケ)10052
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平,裁判官 池下朗,古谷健二郎

2 本件発明2の特許請求の範囲において,昇温結晶化温度が128度以上,かつ,結晶化熱量が20mJ/mg以上という数値範囲は,いずれもシート層,すなわち,容器成形前の状態における物性値を規定したものと認められる。これに対し,本件明細書においては,上記1で認定したとおり,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値は,いずれも容器成形後の容器切り出し片を対象として測定されたものであり,明細書において,特許請求の範囲に記載された容器成形前のシート層に関する記載は認められない

 このように,本件明細書には,昇温結晶化温度及び結晶化熱量について,特許請求の範囲に記載された「シート層」の数値範囲を満たすことによって課題の解決が可能であることを示す直接的な実施例等の記載がなく,これとは異なる測定対象に係る数値しか記載されていないところ,本件明細書の比較例2(・・・)には,容器成形後の容器切り出し片について,昇温結晶化温度が127度,結晶化熱量が19mJ/mgの場合であっても容器側面の光沢がないと記載されている。すなわち,特許請求の範囲で構成する数値範囲から,容器成形によって,昇温結晶化温度が 1 度,結晶化熱量が1mJ/mg外れただけでも課題が解決できないことになるのであるから,本件発明2が本件明細書に記載されている,あるいは,本件発明2の「光沢」黒色系容器が本件明細書に実施可能に記載されているというためには,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値について,容器成形前のシート層と容器成形後の容器切り出し片との間で,当業者が通常採用する条件であればこれらの物性値が不変であるか,当業者が通常なし得る操作によりこれらの物性値の変化を正確に制御し得るか,あるいは,これらの物性値が変化しないような成形方法や条件が本件明細書に記載される必要があるというべきである。

 そこで検討するに・・・これに対し,原告提出に係る実験結果報告書・・・,被告提出に係る実験結果報告書・・・に照らすと,成形温度のみならず,成形時間や延伸の程度によっても,上記の物性値は変化するものと認められるのであって,当業者であっても,それらの物性値の変化を正確に予測したり,制御したりすることは容易ではないと認められる。さらに,上記の物性値が変化しないような成形方法や条件について,本件明細書には記載も示唆も認めない

 以上のとおりであるから,本件発明2は,技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明によりサポートされているとは認められず,特許法36条6項1号の要件を満たさない。 また,本件明細書に,成形条件による上記の物性値の制御について記載や示唆がないことからすると,当業者といえども,本件発明2に係る光沢黒色系の包装用容器を製造することは容易ではないというべきであるから,本件発明2は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項の要件を満たさない。

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