知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法法36条5項2号の要件を満たすとした事例

2012-12-16 22:54:57 | 特許法36条6項
事件番号 平成24(行ケ)10007
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治
特許法法36条5項2号

当裁判所は,本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,法36条5項2号の要件を満たすと判断する。その理由は以下のとおりである。

ア 「せき止め空間」について
(ア) 「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」は,本件発明1の技術分野である流体力学の分野における学術用語ではない(・・・)。一般に,「せきとめる」には,「さえぎりとめる。さえぎる。」の意味があり,流体力学の分野では「せき」とは,「水路を板又は壁でせき止め,これを越えて水が流れる場合」を意味するが・・・,これらを前提としても,特許請求範囲の記載のみから「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」の意義を一義的に確定することは困難である。

(イ) そこで,本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載事項を参照することとする。発明の詳細な説明には,「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」に関し,①・・・,②・・・,③・・・,④・・・との記載がある。
 上記①ないし④のとおりの発明の詳細な説明の記載を参照すると,「せき止め空間」(液体せき止め空間)とは,同空間において液体が静止するために,透過するレーザービームにより温度が上昇し,これによって発生した熱レンズによってレーザービームの焦点がずれ,ノズル壁の損傷を引き起こす空間を意味すると解すべきであり,「せき止め空間のない」とは,上記の意味での空間がないとの意味に解するのが相当である。もっとも,流体空間が一つの連通空間である場合,空間内で流速は連続的に変化し,流速が完全に零になることはないと認められるから,ここでの「静止」とは,流速が完全に零であることを意味するものではなく,ほぼ零を含むと解すべきである。
 原告は,液体供給空間の高さが特定されない限り「せき止め空間」の有無を判断できないとも主張するが,「せき止め空間」は前記のとおりと理解されるものであって,液体供給空間の高さが特定されない限り「せき止め空間」の有無を判断できないものではない。

イ 「流体の速度が,十分に高く」について
 特許請求の範囲には「十分に高」いとされる液体の速度については特段の数値限定等はされておらず,その意義を特許請求の範囲の記載から,一義的に確定することは困難である。そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると,液体の流速については,・・・との記載がある。
 これらの記載からすると,「液体の流速が,十分に高く」することは,液体がレーザービームによって加熱される時間を短くすることで熱レンズの発生を防止しようとするものであるから,「液体の流速が,十分に高く」とは,「フォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される」程度に流速が高いことを意味するものと解される

ウ 小括
 以上のとおり,「せき止め空間」及び「液体の速度が,十分に高く」のいずれについても,その意義は明確であり,本件特許に係る特許請求の範囲の記載には,法36条5項2号の規定に反する不備はない。

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