知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

職務著作の規定(著作権法15条1項)を設けた趣旨

2008-06-29 17:27:43 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)33577
事件名 販売差止等請求事件
裁判年月日 平成20年06月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『(2) 我が国の著作権法が職務著作の規定(著作権法15条1項)を設けた趣旨は,著作権法自体が,登録主義を採用する特許法等と異なり,創作主義を採用しているため,著作物を利用しようとする第三者にとって,法人等の内部における権利の発生及び帰属主体が判然としないこと,法人等の内部における著作活動にインセンティブを与えるために,資金を投下する法人等の使用者を保護する必要があること,従業者としても,法人等の使用者名義で公表される著作物に関してはその権利を法人等の使用者に帰属させる意思を有しているのが通常であり,その著作物に関する社会的評価も公表名義人である法人等の使用者に向けられるという実態が存することなどから,著作権及び著作者人格権のいずれについても,個別の創作者による権利行使を制限し,その権利の所在を法人等の使用者に一元化することによって,著作物の円滑な利用・流通の促進を図ったものであると理解すべきである

 そして,職務著作が成立するためには,当該著作物が,
①法人等の使用者の「発意に基づき」,
②「その法人等の業務に従事する者」により,
③「職務上作成」されたものであって,
④「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であること

が必要とされる(著作権法15条1項。以下,各要件を「要件①」,「要件②」等と表記する。)ところ,上記のような規定の趣旨に照らせば,要件①の「発意」については,法人等の使用者の自発的意思に基づき,従業員に対して個別具体的な命令がされたような場合のみならず,当該雇用関係等から外形的に観察して,法人等の使用者の包括的,間接的な意図の下に創作が行われたと評価できる場合も含まれるものと解すべきである。

 また,要件③の「職務」についても,同様の観点から,法人等の使用者により個別具体的に命令された内容だけを指すのではなく,当該職務の内容として従業者に対して期待されているものも含まれ,その「職務上」に該当するか否かについては,当該従業者の地位や業務の種類・内容,作成された著作物の種類・内容等の事情を総合考慮して,外形的に判断されるものと解すべきである。

(3) 上記(1)の認定事実及び上記前提となる事実等によれば,原告教本については,次のとおり,職務著作の各成立要件をいずれも充足するものというべきである。

ア 要件①(原告の発意)
 原告教本は,原告の前身である京西テクノスの時代から原告設立後に至るまで,そのエンジニア教育・育成サービスの事業のうちの教育事業のため,京西テクノスないし原告の従業員である講義担当講師らが,その講義の補助教材として作成したものが基本となっているのであるから,少なくとも,使用者である原告の包括的,間接的な意図の下で創作が行われたと評価することができ,①原告の「発意に基づき」作成されたものというべきである。

イ 要件②(原告の業務に従事する者)
 原告教本を作成したのは,当時原告の従業員であったAらであるから,要件②の原告の「業務に従事する者」を充足している。

ウ 要件③(原告の職務上作成されたもの)
 原告の従業員である講義担当講師らは,原告の業務としてエンジニア教育・育成のための講義において用いることを目的として,原告教本の基本となる講義資料を作成したものであり,前記⑴エで認定したその内容も考慮すれば,同講義資料は,上記従業員らが講義において行う説明と一体となるものであり,講義の内容と離れて上記従業員らの興味,関心に従って作成されたものではないと認められる。また,当該講義の内容自体,上記目的に照らして,上記従業員らの興味,関心に従って行われるものではないと認められることから,例えば,大学教授が,大学での研究の過程で講義案や教科書を執筆し,それを講義で用いるような場合とは異なり,上記従業員らによる当該講義資料の作成は,上記従業員らの行う職務の範囲に含まれると認められる
 したがって,このような講義資料をとりまとめて作成された原告教本は,③原告の「職務上作成されたもの」ということができる。

エ 要件④(原告の著作の名義の下での公表)
原告教本は,その表紙において,原告を表す「KYOSAI」という表示が付されていることから,要件④の原告が「自己の著作の名義の下に公表するもの」を充足している。
⑷ したがって,本件においては,原告教本について職務著作が成立し,その著作権及び著作者人格権が原告に帰属するものと認められる。』




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