知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

誤認混同を判断する際の取引の実情の考慮

2009-01-02 17:14:45 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10139
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性)について
 原告は,審決が,本件商標からは「キューピー」の称呼・観念は生じないから,「キューピー」の称呼・観念を生ずる引用商標1~6と称呼及び観念において比較することはできないものであり,互いに紛れるおそれはないなどとして,本件商標の登録は商標法4条1項11号に違反してされたものとはいえないと判断したのは誤りであると主張するので,以下において検討する。

・・・

上記(3),(4)によると,本件商標と引用商標1~6からは,共に「キューピー」の称呼及び観念を生ずるものであり,かつ,次項に説示するとおりそれぞれの指定商品は同一又は類似の関係にあるから,本件商標と引用商標1~6は,互いに相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

 この点について,被告は,現在では,原被告以外にも多数の者が「キューピー」に関連する商標登録を得て,商品化するなどして使用しているという取引の実情も考慮すると,本件商標を指定商品に使用したとしても,引用商標1~6を付した商品と出所の誤認混同を生ずるおそれはない旨主張するので,検討する。

 取引の実情を考慮することにより,類似する商標を付した商品について出所の誤認混同を生ずるおそれがないということができるためには,当該指定商品に係る取引の実情を前提として,誤認混同のおそれがないものと認められることが必要である

 本件においては,確かに,上記(1),(2)や(4)イのとおり,多くの企業が「キューピー」のキャラクターを商品等の宣伝広告に使用しているものと認められるが,本件商標に係る指定商品である「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」の取引分野についてみると,本件全証拠を検討しても,例えば,商標以外の目印によって出所を識別して取引が行われているとか,あるいは逆に,多くの者がキューピー」又はこれに類する標章を付した商品を販売しており,「キューピー」の外観の微妙な相違により出所を識別して取引が行われているなどの取引の実情が認められることにより,同一の称呼及び観念を生ずる商標を付した商品について出所の誤認混同を生ずるおそれがないと認めるに足りない

 むしろ,上記指定商品に係る商品は,多くの場合,仕入れの段階において,銘柄と数量を指定して,口頭又は文書により取引されるほか,小売店等において,商品名の簡略な表記を付して陳列され,一般消費者によって購入されることが通常の取引態様であることは経験則上明らかであるから,取引過程のあらゆる段階において,上記の取引分野においては,称呼とこれに基づく表記が商品の出所を判断する上での重要な要素となるものであることは明らかである

 そうすると,上記のとおり同一の称呼及び観念(「キューピー」)を生ずる本件商標と引用商標1~6の類似性について,本件商標の指定商品に係る取引の実情を考慮することにより,これを否定することはできないというべきであるから,被告の主張を採用することはできない。


最新の画像もっと見る