知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項7号の趣旨

2013-02-09 20:16:11 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10267
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌

(2) 本件商標
 本件商標は,「シャンパンタワー」を横書きした商標であり,指定役務は,第43類「飲食物の提供,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,テーブル・テーブル用リネンの貸与,ガラス食器の貸与,タオルの貸与」である(甲1)。
・・・
2 本件商標の商標法4条1項7号該当性
(1) ・・・。
(2) 本件商標は,「シャンパンタワー」なる商標であるところ,・・・,本件商標からは,「シャンパンタワー」のみならず「シャンパン」という称呼及び観念も生ずるということができる。
(3) ・・・被告を始めとするシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者らの努力により,「シャンパン」表示の周知著名性が蓄積・維持され,それに伴って高い名声,信用,評判が形成されているものであり,「シャンパン」という表示は,シャンパーニュ地方のみならず,フランス及びフランス国民の文化的所産というべきものになっている。
 そして,前記1(4)に掲記の証拠によれば,「シャンパン」という表示は,我が国においても,ぶどう酒という商品分野に限られることなく一般消費者に対しても高い顧客吸引力が化体するに至っていることが認められる。
(4) 以上のような,本件商標の文字の構成,指定役務の内容並びに本件商標のうちの「シャンパン」の表示がフランスにおいて有する意義や重要性及び我が国における周知著名性等を総合考慮すると,本件商標を飲食物の提供等,発泡性ぶどう酒という飲食物に関連する本件指定役務に使用することは,フランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益を代表する被告のみならず,法律により「CHAMPAGNE」の名声,信用,評判を保護してきたフランス国民の国民感情を害し,我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであり,国際信義に反するものといわざるを得ない。よって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当するというべきである

3 原告の主張について
(1) 原告は,商標の構成に着目した公序良俗違反ではなく主体に着目した公序良俗違反の場合には,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについて,専ら商標法4条1項17号の該当性の有無によって判断されるべきであり,特段の事情がない限り,同項7号該当性の判断をする判断枠組みは誤りであるなどと主張する。

(2) なるほど,商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができないことを規定し,これは無効理由にも該当する(商標法46条1項1号)。同法4条1項7号は,本来,商標を構成する「文字,図形,記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合」(標章)それ自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形であるなど,公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標について,登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である。
 そして,同条は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を個別具体的に定めていることに照らすと,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,他の条項(同項8号,10号,15号又は19号等)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら当該条項の該当性の有無によって判断されるべきであることは,原告が主張するとおりであって,公益的な事項が問題になっていない私的な領域に関する場合にまで安易に同条1項7号を適用するのは相当ではない。

 しかしながら,そもそも,本件で問題になっているのは,本件指定役務に係る商標であるから,ぶどう酒又は蒸留酒に係る同項17号が問題になることはない。そして,「シャンパン」表示が特定の私人に帰属するものでなく,フランスの原産地統制名称であること,それゆえ,本件商標のような原産地統制名称又は原産地表示として著名な「シャンパン」表示を含む商標に係る紛争は,私人間の私的領域における紛争にとどまるものではなく,被告によって代表されるフランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者を始めとするフランス国民やフランス政府との関係での国際信義の問題であって,公益的な事項に関わる問題であることに鑑みれば,本件について同項7号を適用することが,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈したものということはできない

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