知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

構成自体に公序良俗違反のない商標についての商標法4条1項7号と商標法4条1項6号,19号との関係

2012-12-02 11:20:48 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
商標法4条1項7号,商標法46条1項5号,商標法4条1項6号,商標法4条1項19号

1 審決の取消事由に関する原告の主張
・・・
(1) 商標法4条1項7号は,社会公共の利益又は一般的道徳観念を害するおそれのある商標の登録を阻止することを目的としているところ,商標の構成自体に公序良俗違反のない商標が同条項に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。
 また,商標法46条1項5号は,商標登録後といえども,当該商標が同法4条1項7号に掲げる事由に該当する場合には,当該商標を無効とすることができると規定しているところ,商標法4条1項6号,19号が後発的無効事由とされていないことに照らすと,後発的無効事由としての公序良俗違反は,商標の構成自体に公序良俗違反がある場合に限られるか,少なくとも査定時の判断基準より限定して解釈すべきであり,同法4条1項19号の「不正の目的」(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的,その他の不正の目的)より高い悪性が商標権者に存し,登録を維持することが著しく社会的妥当性を欠き,商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,又は,新たな法令や条約に基づく規制等ないしこれと同視できる社会状況の変化により,公益に反することとなった場合に限られるというべきである。
 なお,商標法46条1項5号については,過去の一時期において当該無効事由に該当する事実が存在したとしても,審判手続における審理終結通知までに当該無効事由が消滅した場合には,当該商標を無効とすることはできないというべきである。


第4 当裁判所の判断
1 商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について,不登録事由としているところ,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは,当該商標の構成に,非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形等を含む場合のほか,そうでない場合であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが,法律によって禁止されていたり,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反ていたり,特定の国若しくはその国民を侮辱したり,国際信義に反することになるなど特段の事情が存在するときには,当該商標は同法4条1項7号に該当すると解すべき余地がある。

 そして,商標法46条1項5号は,商標登録がされた後,当該登録商標が同法4条1項7号に掲げる商標に該当するものとなったことを登録無事由として規定しているところ,商標登録後であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反するなどの特段の事情が生じた場合には,当該商標は同法4条1項7号に該当すると解すべき余地があるといえる

 上記のとおり,被告は,文部大臣(当時)による許可を受けて設立された公益法人であり,・・・。にもかかわらず,当時原告の代表取締役であり,被告の理事長でもあったDは,被告理事会の承認等を得ることなく,本件商標を含む,被告の名称ないし「日本漢字能力検定」に係わる商標を,原告名義で出願したり,出願人名義を被告から原告に変更するなどしていたものであって,そのこと自体,著しく妥当性を欠き,社会公共の利益を害すると評価する余地もある(・・・。)。
 このような経緯に加えて,Dは,・・・,Eと共に背任罪で起訴された上,被告から多額の損害賠償請求訴訟が提起された後,本件商標の登録名義を原告からAらに移転したり,被告に対して本件商標等の使用差止請求訴訟を提起したりするに至ったものである。さらに,DないしEは,本件商標等について,権利の取得・維持の実費相当額での被告への譲渡を拒み,これらを原告自ら使用する可能性に言及するなどしている。

 上記事情に照らすと,原告の前代表取締役D及び現代表取締役Eは,商標権者等の業務上の信用の維持や需要者の利益保護という商標法の目的に反して,自らの保身を図るため,原告が有する被告の名称ないし「日本漢字能力検定」に係わる商標を利用しているにすぎず,原告が,本件商標を指定役務について使用することは,被告による「日本漢字能力検定」の実施及びその受検者に対し,混乱を生じさせるものであり,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,社会公共の利益を害するというべきである。 

(関連事件)
平成24(行ケ)10070 審決取消請求事件
平成24(行ケ)10069 審決取消請求事件  
平成24(行ケ)10068 審決取消請求事件 
平成24(行ケ)10067 審決取消請求事件 
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