知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

不使用取消につき再審請求された引用商標

2008-06-29 20:23:35 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10042
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘



『3 取消事由2(再審による引用商標の消滅)について
(1) 再審請求に係る事実関係
証拠(甲18~23,乙14~18〔枝番があるものはこれを含む〕)によれば,以下の事実が認められる。

ア 原告は,平成17年8月30日,引用商標の商標権者である株式会社クラブコスメチックスを被請求人として,各引用商標の不使用を理由とする法50条1項に基づく商標登録の取消審判を請求した(取消2005-31061号,同31062号,同31063号,同31067号,同31068号)が,各引用商標はいずれも同審判の予告登録前3年以内に使用されていたとして,特許庁により請求不成立の審決(平成18年3月31日ないし4月11日付け,甲18-3,19-3,20-3,21-3,22-3)がされた。

イ 大阪地裁は,平成16年(ワ)第7663号商標権侵害差止等請求事件(原告株式会社クラブコスメチックス,被告株式会社フィッツコーポレーション)に係る平成19年11月5日言渡しの判決(甲18-4)において,前記引用商標1~3に関し,「したがって,原告が本件原告商標等の『LOVE』商標を使用していたのは,昭和50年6月12日のスミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及びラブジャパン社との和解成立までであり,通常実施権者の使用も平成元年9月28日までであるから,被告による被告標章の使用開始時である平成15年8月…まで長期間にわたって本件原告商標等の『LOVE』商標は使用されていなかったものである。」(20頁2行~8行)などと認定した

ウ 原告は,上記大阪地裁判決の認定を援用して,平成19年12月4日,特許庁に対し上記各審決に対する再審請求(再審2007-950006~10号)を行った

(2) 原告は,上記のような事実関係を前提に,引用商標は上記不使用取消審判の再審請求により不使用取消審判の請求登録時の3年前である平成14年9月14日又は請求登録時である平成17年9月14日に遡って消滅するから,これを引用商標とする審決の判断は誤りである旨主張する

 しかし,登録商標は,これにつき不使用取消審判の再審請求があったとしても,現に商標登録の取消しを認める審決がなされかつ同審決が確定するまでは依然として有効に存続するものであるところ,弁論の全趣旨によれば,本件口頭弁論の終結時である平成20年5月28日当時,本件における引用商標につき商標登録の取消しを認める審決がなされこれが確定したと認めることはできない

 したがって,原告の上記主張はそれ自体失当といわざるを得ない。』

職務著作の規定(著作権法15条1項)を設けた趣旨

2008-06-29 17:27:43 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)33577
事件名 販売差止等請求事件
裁判年月日 平成20年06月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『(2) 我が国の著作権法が職務著作の規定(著作権法15条1項)を設けた趣旨は,著作権法自体が,登録主義を採用する特許法等と異なり,創作主義を採用しているため,著作物を利用しようとする第三者にとって,法人等の内部における権利の発生及び帰属主体が判然としないこと,法人等の内部における著作活動にインセンティブを与えるために,資金を投下する法人等の使用者を保護する必要があること,従業者としても,法人等の使用者名義で公表される著作物に関してはその権利を法人等の使用者に帰属させる意思を有しているのが通常であり,その著作物に関する社会的評価も公表名義人である法人等の使用者に向けられるという実態が存することなどから,著作権及び著作者人格権のいずれについても,個別の創作者による権利行使を制限し,その権利の所在を法人等の使用者に一元化することによって,著作物の円滑な利用・流通の促進を図ったものであると理解すべきである

 そして,職務著作が成立するためには,当該著作物が,
①法人等の使用者の「発意に基づき」,
②「その法人等の業務に従事する者」により,
③「職務上作成」されたものであって,
④「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であること

が必要とされる(著作権法15条1項。以下,各要件を「要件①」,「要件②」等と表記する。)ところ,上記のような規定の趣旨に照らせば,要件①の「発意」については,法人等の使用者の自発的意思に基づき,従業員に対して個別具体的な命令がされたような場合のみならず,当該雇用関係等から外形的に観察して,法人等の使用者の包括的,間接的な意図の下に創作が行われたと評価できる場合も含まれるものと解すべきである。

 また,要件③の「職務」についても,同様の観点から,法人等の使用者により個別具体的に命令された内容だけを指すのではなく,当該職務の内容として従業者に対して期待されているものも含まれ,その「職務上」に該当するか否かについては,当該従業者の地位や業務の種類・内容,作成された著作物の種類・内容等の事情を総合考慮して,外形的に判断されるものと解すべきである。

(3) 上記(1)の認定事実及び上記前提となる事実等によれば,原告教本については,次のとおり,職務著作の各成立要件をいずれも充足するものというべきである。

ア 要件①(原告の発意)
 原告教本は,原告の前身である京西テクノスの時代から原告設立後に至るまで,そのエンジニア教育・育成サービスの事業のうちの教育事業のため,京西テクノスないし原告の従業員である講義担当講師らが,その講義の補助教材として作成したものが基本となっているのであるから,少なくとも,使用者である原告の包括的,間接的な意図の下で創作が行われたと評価することができ,①原告の「発意に基づき」作成されたものというべきである。

イ 要件②(原告の業務に従事する者)
 原告教本を作成したのは,当時原告の従業員であったAらであるから,要件②の原告の「業務に従事する者」を充足している。

ウ 要件③(原告の職務上作成されたもの)
 原告の従業員である講義担当講師らは,原告の業務としてエンジニア教育・育成のための講義において用いることを目的として,原告教本の基本となる講義資料を作成したものであり,前記⑴エで認定したその内容も考慮すれば,同講義資料は,上記従業員らが講義において行う説明と一体となるものであり,講義の内容と離れて上記従業員らの興味,関心に従って作成されたものではないと認められる。また,当該講義の内容自体,上記目的に照らして,上記従業員らの興味,関心に従って行われるものではないと認められることから,例えば,大学教授が,大学での研究の過程で講義案や教科書を執筆し,それを講義で用いるような場合とは異なり,上記従業員らによる当該講義資料の作成は,上記従業員らの行う職務の範囲に含まれると認められる
 したがって,このような講義資料をとりまとめて作成された原告教本は,③原告の「職務上作成されたもの」ということができる。

エ 要件④(原告の著作の名義の下での公表)
原告教本は,その表紙において,原告を表す「KYOSAI」という表示が付されていることから,要件④の原告が「自己の著作の名義の下に公表するもの」を充足している。
⑷ したがって,本件においては,原告教本について職務著作が成立し,その著作権及び著作者人格権が原告に帰属するものと認められる。』




人の精神活動等が含まれる発明の成立性の判断

2008-06-29 17:07:48 | 特許法29条柱書
事件番号 平成19(行ケ)10369
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『第5 当裁判所の判断
・・・
ウ ところで,特許の対象となる「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であり(特許法2条1項),一定の技術的課題の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものである
 したがって,人の精神活動それ自体は,「発明」ではなく,特許の対象とならないといえる。しかしながら,精神活動が含まれている,又は精神活動に関連するという理由のみで,「発明」に当たらないということもできない。けだし,どのような技術的手段であっても,人により生み出され,精神活動を含む人の活動に役立ち,これを助け,又はこれに置き換わる手段を提供するものであり,人の活動と必ず何らかの関連性を有するからである。

 そうすると,請求項に何らかの技術的手段が提示されているとしても,請求項に記載された内容を全体として考察した結果,発明の本質が,精神活動それ自体に向けられている場合は,特許法2条1項に規定する「発明」に該当するとはいえない。他方,人の精神活動による行為が含まれている,又は精神活動に関連する場合であっても,発明の本質が,人の精神活動を支援する,又はこれに置き換わる技術的手段を提供するものである場合は,「発明」に当たらないとしてこれを特許の対象から排除すべきものではないということができる

エ これを本願発明1について検討するに,請求項1における「要求される歯科修復を判定する手段」,「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」という記載だけでは,どの範囲でコンピュータに基づくものなのか特定することができず,また,「システム」という言葉の本来の意味から見ても,必ずしも,その要素として人が排除されるというものではないことから,上記「判定する手段」,「策定する手段」には,人による行為,精神活動が含まれると解することができる。さらに,そもそも,最終的に,「要求される歯科修復を判定」し,「治療計画を策定」するのは人であるから,本願発明1は,少なくとも人の精神活動に関連するものであるということができる

 しかし,上記ウのとおり,請求項に記載された内容につき,精神活動が含まれている,又は精神活動に関連するという理由のみで,特許の対象から排除されるものではないから,さらに,本願発明1の本質について検討することになる

(ア) 本願発明の明細書には,次の記載がある。
・・・
(イ) 以上の記載を参酌すると,本願発明は,・・・,近年,新しい材料及び技術が開発され,処置の選択が劇的に増大した結果,歯科医師が個々のケースについて最適の材料及び治療方法を選択するための情報が過多となったという課題認識の下,歯科医師と歯科技工士が歯科治療計画及び最適な修復歯科治療計画を作成し,最適な材料を使用することを支援する方法及びシステムを提供するものであり,従来歯科医師や歯科技工士が行っていた行為の一部を支援する手段を提供するものであることが理解できる。

 そして,データベースには,歯科補綴材の材料,処理方法及びプレパラートに関する情報が蓄積され,ネットワークサーバには,歯科補綴材の材料や処理方法についてデータベースを照会することを可能にするプログラムが備えられ,診療室又は歯科技工室には,人間が読み取れる形式で表示する端末が置かれ,コンピュータを使用して歯科補綴材の材料若しくは処理方法を確認,確立,修正又は評価し,この照会に対するデータベースからの回答を受信するように構成されている。さらに,歯及び歯のプレパラートのカラー画像を分析する手段を有し,歯科補綴材の色を患者の歯に最も近く整合させるために必要なデジタル画像を表示できるようにされている。


(ウ) 本願発明の明細書には,「発明の詳細」として,更に次の記載等がある。
・・・

(エ) 以上のうち,・・・の記載によれば,初期治療計画は歯等のデジタル画像を含むものであり,そのデジタル画像に基づいて歯の治療に使用される材料,処理方法,加工デザイン等が選択され,その選択に必要なデータはデータベースに蓄積されており,策定された初期治療計画はネットワークを介して診療室と歯科技工室とで通信されるものと理解することができる。そして,画像の取得,選択,材料等の選択には歯科医師の行為が必要になると考えられるが,これらはネットワークに接続された画像の表示のできる端末により行うものと理解できる。

 また,・・・の記載によれば,本願発明は,スキャナを備え,歯又は歯のプレパラートをスキャンしてデータを入力し,データベースに蓄積されている仕様と比較することによって,治療計画の修正が必要かどうかが確認できるものであることが理解できる。もっとも,実際の確認の作業は,人が行うものと考えられる。

カ 以上によれば,請求項1に規定された「要求される歯科修復を判定する手段」及び「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」には,人の行為により実現される要素が含まれ,また,本願発明1を実施するためには,評価,判断等の精神活動も必要となるものと考えられるものの
 明細書に記載された発明の目的や発明の詳細な説明に照らすと,本願発明1は,精神活動それ自体に向けられたものとはいい難く,全体としてみると,むしろ,「データベースを備えるネットワークサーバ」,「通信ネットワーク」,「歯科治療室に設置されたコンピュータ」及び「画像表示と処理ができる装置」とを備え,コンピュータに基づいて機能する,歯科治療を支援するための技術的手段を提供するものと理解することができる

キ したがって,本願発明1は,「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たるものということができ,本願発明1が特許法2条1項で定義される「発明」に該当しないとした審決の判断は是認することができない。』


立体商標について

2008-06-29 12:00:59 | 商標法
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=07&hanreiNo=36510&hanreiKbn=06

『第5 当裁判所の判断
 当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における商品等の形状
ア 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(・・・。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定する(商標法2条1項,5条2項参照)。

 ところで,商標法は,
 3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,
 同条2項で「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を,
 4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。

 このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性について,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられないものとし,同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと,商品等の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される

 そうすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追求する目的により選択される形状であっても,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである

イ 以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する

(ア) 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。
 このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。
 また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。

 そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である

(イ) また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。

 しかし,同種の商品等について,機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。けだし,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである

(ウ) さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである
 けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美感の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。』

『・・・
エ 以上のとおりであるから,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。

2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における使用による自他商品識別力の獲得

 前記1(1)アのとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号)。

 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要する。

 もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり,また,技術の進展や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,企業等の名称や記号・文字が付されたこと,又は,ごく僅かに形状変更がされたことのみによって,直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。』

設計事項とされた事例と顕著な効果の検討例

2008-06-29 11:17:36 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10313
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『本願発明の係止手段と引用発明1のリングとを比較すると,その方法及び機能において相違はない。すなわち,本願発明の一体型の固定手段も引用発明1の挿着による固定手段も共に,係止手段及びリングを前進及び後退移動させる点において共通しており,また,これら一体化手段及び装着手段の固定手段は,当業者が普通に採用している技術であるから,どちらを採用するかは,当業者が適宜決定する設計的事項であるといえる
 
(3) 本願発明の顕著な作用効果について
 原告は,本願発明には,①製造コストの削減,②自己破壊の効果を備えることによる再使用を不能とする点において,引用発明にはない顕著な作用効果を奏すると主張する

 しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,①製造コストの削減は,胴部及びプランジャを射出成形によりプラスチック材料から形成した場合に実現できるというにすぎないし,本願発明の注射器をプラスチックにより構成することは,特許請求の範囲に記載されていないこと,
本願発明にはプランジャが自己破壊するような接続ロッドを有することに限定されていないことから,原告の上記主張はいずれも特許請求の範囲に基づくものではなく,失当である。』

新規事項の追加とした審決が取消された事例

2008-06-29 11:07:36 | 特許法17条の2
事件番号 平成19(行ケ)10409
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(補正についての判断の誤り)について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載を再掲すると,以下のとおりである。
「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル~14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg~0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン~3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する高度水処理方法。」これによると,前段部分のいわゆる「おいて書き」によって,本願補正発明が「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル~14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法」についての発明であることが示され,後段部分の記載によって,本願補正発明のオゾン処理の具体的な内容を構成として特定しているものと理解することができる。

(2) 審決は,上記の本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載から,本願補正発明は,同請求項の後段に規定した構成のみにより,その前段に規定した「飲料水レベルまで浄化する」発明を含むことになった旨判断するところである

 そこで検討すると,確かに,審決が指摘するように,前段の規定は本願補正発明の連続処理方式の高度水処理方法が達成しようとする浄化の程度を「飲料水レベル」と規定するところではあるが,後段が規定している技術的事項は,オゾンによる有害物質の酸化分解工程であり,オゾン処理のみにより前段に規定する浄化レベルを達成するものであるか否かについての記載は請求項中に存在しない
 そして,かかる記載振りに加え,一般に,特許請求の範囲の記載において,当該発明の構成特定事項の記載の前段に置かれる「・・・において,」とするいわゆる「おいて書き」は,発明の属する技術分野や当該技術分野における従来技術を特定するなど,当該発明の前提を示すことを目的として記載される場合が多いことも勘案すると,上記前段部分の記載は,「飲料水レベルまで浄化する」ことを目的とする連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における水処理の一工程としてのオゾン処理に係る発明であると解する余地も十分あり得るのであり,審決のように本願補正発明のみによって上記目的を達成する発明を含むものと即断することは困難であるといわざるを得ない

 そこで,進んで本件補正に係る手続補正書(甲第10号証)の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,同説明中には以下の記載がある。
・・・
 以上の各記載によれば,本願補正発明による汚水の高度水処理方法は,オゾン処理を基本とした高度水処理技術の提供であり,処理対象水の汚染の程度に応じて,オゾン処理に加えて,過酸化水素水処理,電気分解処理,紫外線照射処理,炭化濾材処理等の各種の浄化工程を予定しているものであることは明らかというべきである。
 そうすると,これらの記載を総合すると,本願補正発明は連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における基本工程としてのオゾン処理に関する発明であると認めるのが相当であり,同補正発明に係る特許請求の範囲の請求項1の前段の記載があるからといって,オゾン処理のみで前段の浄化レベルを達成する発明を包含することになったものでないことは明らかというべきである

 もとより,上記認定の記載中にもあるとおり,浄化の対象となる処理対象水によって汚染レベルは様々であり,汚染レベルの低い処理対象水については,オゾン処理を行うことによって,「所望の浄化レベル」に到達することもあり得るところである。しかしながら,このことは,本願補正発明のように「飲料水レベルまで浄化」する場合だけでなく,本願発明のように「浄化」する場合においても起こり得ることであり,前者の場合において,「所望の浄化レベル」の内容が若干具体的に記載されているにすぎないものである。

 したがって,本件補正に係る補正事項について,「請求項1に『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』という事項を記載することにより,請求項1に係る発明を,オゾン処理のみにより,『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』ものを含む発明とするもの」との審決の理解は,誤りであるといわざるを得ない。

 そして,審決は,補正事項についての上記のような誤った理解に基づいて,本願補正発明は,オゾン処理のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」発明を含むところ,かかる発明は当初明細書等に記載された事項の範囲内のものということはできないとし,その余の点を検討するまでもなく,本件補正を却下すると判断しているのであるから,上記に説示したところから明らかなように,審決は本件補正についての判断を誤ったものというほかない。

2 なお,被告は,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項を追加することが新規事項の追加に該当するものでもあると主張するので,念のためにこの点についても検討する(ただし,上記1のとおり,審決は「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項が新規事項となるかどうかについて何ら判断を示していないから,仮に被告の主張が認められても,本件補正を却下した審決の判断が誤りであることに変わりはない。)
・・・

 したがって,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことを付加する補正は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において行うものであるということができる。』

(所感)
 オゾン処理のみで「飲料水レベルまで浄化する」とした審決の認定は行き過ぎであったと思う。「連続処理方式」の用語の技術的意義を明細書を参酌して認定し「飲料水レベルまで浄化する」ことを目的とする連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における水処理の一工程としてのオゾン処理に係る発明であるとするべきであった。

 請求項は一読したところでは、飲料水レベルまで浄化することと、オゾン処理とその他の工程の処理の役割分担が明確でないようにも読め、印象が悪い。審決はこの「悪印象」の部分を問題としたかったのではないか。そうであれば、新規事項の追加とするのではなく、記載不備を問題とすべきだったのではないか。


ロケーションフリーサービスの送信可能化行為の主体

2008-06-29 11:06:55 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)5765
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年06月20日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

『第4 当裁判所の判断
・・・
3 争点2(本件サービスにおいて,被告は本件放送の送信可能化行為を行っているか)について
(1)自動公衆送信装置
「送信可能化」とは,著作権法2条1項9号の5に規定されるとおり,同号のイ又はロに該当する行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう

 上記イ及びロは共に「自動公衆送信装置」の存在を前提とする行為であり,「自動公衆送信装置」とは,「公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」をいう(著作権法2条1項9号の5イ)。

 上記のとおり,自動公衆送信装置は,自動公衆送信する機能を有する装置であり,「自動公衆送信」とは,「公衆送信(公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(・・・中略・・・)を除く。)を行うこと」(同項7号の2)のうち,「公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう」(同項9号の4)。

 そして,同法2条5項が「公衆」には,「特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めていることから,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,「公衆」に対する送信に該当するものと解される

(2)本件サービスにおける送受信行為の主体
・・・
エ本件サービスにおける被告の役割
(ア)本件サービスにおいて,被告が行っていることは,
①ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと,
②ベースステーションを被告の事業所に設置保管して,放送を受信することができるようにすること
である


(イ)①の点について
 本件サービスを利用しなくても,利用者が,実際にテレビ視聴を行う場所(外出先や海外等)以外の場所(自宅等)に必要なアンテナ端子及びインターネット回線を準備してベースステーションを設置すれば,ベースステーションのNetAV機能を利用して,外出先や海外等においてテレビの視聴をすることが可能である。

 ベースステーションの取付け及び設定作業については,利用者自らが行うこともできるし,メーカーであるソニーの提供する設定サービス等を利用することもできる。アンテナ端子及びインターネット回線を準備し,ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションを稼働可能な状態にすること自体は,本件サービスを利用しなくても,技術的に格別の困難を伴うことなく行うことができる

(ウ)②の点について
 前記のとおり,本件サービスにおいて,利用者は,自らが購入し,被告の事業所に設置保管されているベースステーションを所有しているものといえ,被告は,所有者である利用者からベースステーションの寄託を受けて,これを被告の事業所内に設置保管しているにすぎないといえる
 そして,本件サービスにおいて,利用者は,被告に対し,ベースステーションを稼働可能な状態で被告事業所内に設置保管することを求め,被告は,ベースステーションが稼働可能な状態において,これを被告の事業所内に設置保管する必要があるものの,このような義務を伴うからといって,被告によるベースステーションの設置保管が寄託の性質を失うものではない
 寄託の性質を有すると解される,いわゆるハウジングサービスにおいても,ハウジングサービス業者は,利用者からサーバを預かり,利用者のパソコン等とインターネット回線との接続によりデータの送受信をすることができるようにすることがあるのであるから(弁論の全趣旨),被告がベースステーションの設置,保管に伴い,ベースステーションとアンテナ端子やインターネット回線との接続を提供しているからといって,本件サービスが,いわゆるハウジングサービスとは,その性質を異にするものであるとはいえない(いわゆるハウジングサービス一般が著作権法に違反するとの主張,立証はない。)。

 利用者は,本件サービスを利用しなくても,ベースステーションを東京都内のテレビ放送波の受信状態が良好である場所に設置すれば,外出先や海外等において本件放送を視聴することができるのであり,このようにすること自体は,技術的に何ら困難を伴うものではない

(エ)本件サービスは,メーカーの提供する設定サービス等と比べ,ベースステーションを被告の事業所に設置保管して,ブースター及び分配機を経由してアンテナ端子からベースステーションに放送波が流入するようにし,かつ利用者がプロバイダーと契約しなくてもベースステーションからインターネット回線への接続が行われるようにする点において相違するものの,それ以外は,利用者が上記設定サービス等を利用してロケーションフリーのNetAV機能を使用するのと異ならず,本件サービスを利用しなければ,本件放送を視聴することができないというものではない(メーカーの提供する設定サービス等が著作権法に違反するとの主張,立証はない。)。

オ 上記アないしエで述べたベースステーションの機能,その所有者が各利用者であること,本件サービスを構成するその余の機器類は汎用品であり,特別なソフトウェアは一切使用されていないことなどの各事情を総合考慮するならば,本件サービスにおいては,各利用者が,自身の所有するベースステーションにおいて本件放送を受信し,これを自身の所有するベースステーション内でデジタルデータ化した上で,自身の専用モニター又はパソコンに向けて送信し,自身の専用モニター又はパソコンでデジタルデータを受信して,本件放送を視聴しているものというのが相当である

 要するに,本件サービスにおいて,本件放送をベースステーションにおいて受信し,ベースステーションから各利用者の専用モニター又はパソコンに向けて送信している主体は,各利用者であるというべきであって,被告であるとは認められない。

(3) 自動公衆送信装置該当性
ア 前記のとおり,自動公衆送信装置に該当するためには,それが(自動)公衆送信する機能,すなわち,送信者にとって当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者に対する送信をする機能を有する装置であることが必要である。

 前記のとおり,本件サービスにおいて,ベースステーションによる送信行為は各利用者によってされるものであり,ベースステーションから送信されたデジタルデータの受信行為も各利用者によってされるものである。

 したがって,ベースステーションは,各利用者から当該利用者自身に対し送信をする機能,すなわち,「1対1」の送信をする機能を有するにすぎず,不特定又は特定多数の者に対し送信をする機能を有するものではないから,本件サービスにおいて,各ベースステーションは「自動公衆送信装置」には該当しない

イ 原告らは,被告が本件サービスに供している多数のベースステーション,分配機,ケーブル,ハブ,ルーター等の各機器は,有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり,一つのアンテナ端子からの放送波を,このようなシステムに入力して多数の利用者に対して送信し得る状態にしているから,上記システムを全体としてみれば,一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものである旨主張する

しかしながら,上記(2)のとおり,各ベースステーションによって行われている送信は,個別の利用者の求めに応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレスあてにされているものであり,個々のベースステーションからの送信はそれぞれ独立して行われるものであるから,本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても,不特定又は特定多数の者に対する送信を行っているということはできないというべきである。
したがって,上記システム全体を「自動公衆送信装置」に該当するということはできない。
・・・

ウ 以上のとおりであるから,本件において,ベースステーションないしこれを含む一連の機器全体が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず,ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当するものということはできない。

エ したがって,被告がインターネット回線に接続されたベースステーションとアンテナ端子を接続したり,アンテナ端子と接続されたベースステーションをインターネット回線に接続したりしても,その行為が著作権法2条1項9号の5イ又はロに規定された送信可能化行為に該当しないことは明らかであり,本件サービスにおける被告の行為は,原告らの有する送信可能化権(著作権法99条の2)を侵害するものではない。』