知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

立体商標が3条2項に該当するかどうかの判断基準

2008-06-01 19:43:50 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10215
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における商品等の形状
ア 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定する(商標法2条1項,5条2項参照)。

 ところで,商標法は,
 3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,
 同条2項で「前項3号から5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を,
 4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を,
 26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。

 このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性について,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられないものとし,同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと,商品等の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される

 そうすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追求する目的により選択される形状であっても,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである。』

『イ 以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。

(ア) 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。
 このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。

 そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である。

(イ) また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。
 しかし,同種の商品等について,機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。

 けだし,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。

(ウ) さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである

 けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美感の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。


(2) 本願商標の商標法3条1項3号該当性
・・・
ウ 判断
 前記ア及びイによれば,本願商標の前記ア(ア)の立体的形状のうち,特徴点aは,液体であるコーラ飲料を収納し,これを取り出すという容器の基本的な形状であって,このうち口部の形状はスクリューキャップの着脱という機能に関連するものであり,特徴点b及びcは,容器の握り易さに資するとともに,容器の輪郭に美感を与えるものであり,特徴点dは,容器の美感を維持しつつ,ラベルの貼付を容易にすることに資するものであり,特徴点e及びfは,容器の輪郭に美感を与えるものであことが認められる。また,本願商標に係る立体的形状は,飲料の容器において通常採用されている,前記イ①ないし④のような形状を組み合わせた範囲を大きく超えるものとは認められない。
 そうすると,本願商標の立体的形状は,審決時(平成19年2月6日)を基準として,客観的に見れば,コーラ飲料の容器の機能又は美感を効果的に高めるために採用されるものと認められ,また,コーラ飲料の容器の形状として,需要者において予測可能な範囲内のものというべきである

エ 原告の主張に対し
(ア) 原告は,本願商標の特徴的形状について,美感や機能を高めるためではなく,同形状に自他商品識別力を持たせることを目的として原告が開発・採用した斬新な形状であり,技術的観点あるいは機能的観点から,取引業界において容易に採用されるものではないと主張する

 しかし,原告の主観的な意図が,美感や機能を高めるためではなく,同形状に自他商品識別力を持たせることを目的とするものであったとしても,そのことにより,本願商標の立体的形状が有する客観的な性質に関する判断が左右されるものではない。また,需要者において予測し得ないような斬新な形状であるか否かは,原告が当該形状を採用した時点ではなく,審決時を基準として判断すべきであり,原告以外の同業者が当該形状を現実に採用していないとしても,そのことから直ちに同形状が予測し得る範囲を超えるということはできない。したがって,原告の上記主張は失当である。

(イ) 原告は,他の同業者が,原告による本願商標に係る立体的形状の事実上の独占使用を許容していると主張する。
 しかし,現時点において,本願商標に係る立体的形状を使用することを欲する原告以外の第三者が顕在していないとしても,そのことから直ちに,当該形状を独占させることが公益に反しないすることはできない。したがって,原告の上記主張は失当である。

(3) 小括
 以上検討したところによれば,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。』

『2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における使用による自他商品識別力の獲得
 前記1(1)アのとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号)。

 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である
 そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要する

 もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり,また,技術の進展や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,企業等の名称や記号・文字が付されたこと,又は,ごく僅かに形状変更がされたことのみによって,直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである

(2) 本願商標の商標法3条2項該当性
そこで,上記の観点から,本願商標が使用により自他商品識別力を備えるに至っているかどうかを判断する。以下, 「使用商標の使用の実情」,「使用商標と本願商標との対比」の順で認定,判断をする。

 ・・・

 以上の事実によれば,リターナブル瓶入りの原告商品は,昭和32年に,我が国での販売が開始されて以来,驚異的な販売実績を残しその形状を変更することなく,長期間にわたり販売が続けられ,その形状の特徴を印象付ける広告宣伝が積み重ねられたため,遅くとも審決時(平成19年2月6日)までには,リターナブル瓶入りの原告商品の立体的形状は,需要者において,他社商品とを区別する指標として認識されるに至ったものと認めるのが相当である。』

法4条1項15号の総合考慮における周知性の考慮の方向

2008-06-01 18:38:55 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10383
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『(3) ところで,「商標法4条1項15号にいう『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』には,当該商標をその指定商品又は指定役務(以下『指定商品等』という。)に使用したときに,当該商品等が他人の商品又は役務(以下『商品等』という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下『広義の混同を生ずるおそれ』という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。」
「そして,『混同を生ずるおそれ』の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである
。」(前記最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決)。

 これを本件についてみるに,上記(1),(2)の事実等及び前記1の認定判断によれば,
①本件商標から生ずる「ルネッサンス」との称呼,観念は,申立人商標「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」及び申立人商標3から生ずる「RENAISSANCE」と称呼,観念が同一であること,
②本件商標の指定役務は「宿泊施設の提供」であるのに対し,申立人商標の指定役務は「宿泊施設の提供」等であり,また,申立人はホテル業者であって,その取引者,需要者に共通性があることが認められるが,他方,
③我が国において,「RENAISSANCE」及び「ルネッサンス」の語は極めて一般的な語であり,類似の「ルネサンス」等も含め,法人名その他の固有名詞等において,単独又は他の語と組み合わせて多数使用されており,その自他識別機能,出所表示機能は弱いといわざるを得ないこと,
④本件商標の登録出願時である平成16年及び登録査定時である平成17年時点において,申立人が経営にかかわる「ルネッサンスホテル」は全国に散在する5軒しかなく,我が国における「ルネッサンスホテル」の紹介も,海外旅行者向けの出版物等が中心であって,国内所在の「ルネッサンスホテル」に係る全国規模の出版物やウェブページでの紹介等もそれほど一般的で多いものであったとはいえず,国内所在の申立人関与による「ルネッサンスホテル」の「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」との名を付しての営業期間が平成16年時点までで約17年から約9年というもので長い歴史を有するというほどのものではなかったことなどに照らすと,そもそも,国内に散在した上記5軒のホテルにつき,同一グループに関連するものであるとして広く理解されていたとは考えにくく,国内旅行者等において,申立人が経営にかかわるホテルについての「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」の標章が相当程度認識されていたとまではいえない状況にあったものであること,以上の事情等が認められる。

 そうすると,本件商標の登録出願時である平成16年9月29日及びその登録査定時である17年12月26日時点において,本件商標を「宿泊施設の提供」に使用することにより,その取引者,需要者である国内旅行者等において,原告の「宿泊施設の提供」という役務が,申立人の「宿泊施設の提供」等という役務と緊密な営業上の関係又は同一の表示による事業を営むグループに属する営業主の業務に係る役務であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)があったものということはできない。』

複数の訂正事項の不可分処理の根拠と射程

2008-06-01 12:21:56 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10163
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『エ ところで,原告のなした本件特許の訂正の申立ては,訂正の拒否が異議事由の有無と一体として審理される特許異議申立ての手続中の訂正請求(平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第2項)ではなく,特許法126条に基づく訂正審判請求である。

 そして上記訂正審判請求は,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる」(126条1項本文)・「訂正審判を請求するときは,請求書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を添付しなければならない」(131条3項)・「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定登録がされたものとみなす」(128条)等とされていることから明らかなとおり,特許出願に準じた法的性質を有するうえ,特許法には請求項ごとに訂正の可否を決すべき旨の規定もないから,訂正審判において一部の訂正を許す審決をすることの可否を論じた最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(民集34巻3号431頁。前述した昭和55年最高裁判決)は,いわゆる改善多項制を導入した昭和62年の特許法改正後においてもそのまま妥当すると解される

 したがって,本件訂正審判請求のように,原明細書等の記載を複数個所にわたって訂正するものであるときは,原則として,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべきであり,これを請求人において複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解するのは妥当でない

 上記のような不可分処理は客観的・画一的審理判断をむねとする特許庁における訂正審判制度の要請から導かれる結論であるから,客観的・画一的処理の要請に反しない場合,例えば上記昭和55年最高裁判決も明言するように,①訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるとき,②請求人において複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは,それぞれ可分的内容の訂正審判請求があるとして審理判断をする必要があると解される

オ そこで,以上の見地に立って本件事案について検討する。

・・・

(3) 上記(1)及び(2)によれば,原告からなされた平成18年9月13日付けの本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1~7を新請求項1~7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。
 本件における上記のような扱いは,原告が削除を求めた新請求項3・5・7は,その他の請求項とは異なる実施例(「本発明の異なる形態」,「実施例2」)に基づく一群の発明であり,発明の詳細な説明も他の請求項に関する記載とは截然と区別されており,仮に原告が上記手続補正書で削除を求めた部分を削除したとしても,残余の部分は訂正後の請求項1・2・4・6とその説明,実施例の記載として欠けるところがないことからも裏付けられる
というべきである。

 そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。』

構成部分の一部だけによって簡略に称呼,観念される事例

2008-06-01 11:22:03 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10411
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『2 取消事由1(本件商標と引用商標1及び2の類似性に関する判断の誤り)について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
 そして,商標は,その構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,みだりに,商標構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが,他方,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念が生ずることがあるのは,経験則の教えるところである。
 そしてこの場合,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同一又は類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人のそれと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。また,外観についてもその一部が他人のそれと類似することによって,両商標が類似すると解することができる場合がある。』


『(2) 本件商標の内容
ア本件商標は,前記のとおり,上段に,「トリートメントチャージ」と間隔を空けずに同一書体かつ同一の大きさで表記し,下段に,「TREATMENT CHARGE」と間隔を空けて同一書体かつ同一の大きさで表記したものである。
・・・
d 以上によると,「チャージ」は,日本語としても広く用いられている言葉で,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に関しては,「補給する」,「蓄える」などといった意味の言葉として用いられることがあるものと認められる。
「チャージ」は,「CHARGE」に由来する外来語であるから,「CHARGE」の語義も,上記「チャージ」と同様のものであると認められる。
 そうすると,「チャージ」及び「CHARGE」は,本件商標の指定商品である「化粧品,せっけん類」に使用された場合には,特に識別力が高い言葉であるとまでいうことはできないものの,上記(ア)で述べた「トリートメント」及び「TREATMENT」よりは識別力が高いことは明らかである
・・・

ウ次に,本件商標が,「トリートメント」と「チャージ」,「TREATMENT」と「CHARGE」に分離して印象されるかどうかについて検討する。
・・・

(ウ) したがって,本件商標は,「トリートメント」と「チャージ」,「TREATMENT」と「CHARGE」に分離して印象されるものであって,全体を一連,一体の商標として把握することができるというものではない。』


『(4) 本件商標と引用商標1及び2の類否
ア 以上の(2)及び(3)で述べたところに照らして,本件商標と引用商標1及び2とを対比すると,本件商標と引用商標1及び2とは,外観において「チャージ」及び「CHARGE」又は「Charge」の文字を含む点が共通しており,称呼においても「チャージ」の称呼を生ずる点が共通している。また観念においても前記(2)イ(イ)認定の観念が生ずる点が共通しているということができる。
 このように,本件商標は,外観,呼称及び観念において引用商標1及び2と共通しているのであるから,本件商標は引用商標1及び2と類似するものと認められる。』

ロゴマークに相当する構成態様の評価

2008-06-01 11:00:20 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『ウ共通点及び差異点の評価
 審決は,上記ア,イの共通点及び差異点の認定を前提として,本件意匠と引用意匠1は,基本的構成態様において相違するとともに,各部の具体的構成態様における差異点が相俟って異なった意匠的効果があり,差異点が共通点を凌駕して,意匠全体として異なる美感を起こさせるものであると評価したものである

 しかるところ,当該評価においては,
 差異点のうち,・・・点が,3辺枠か4辺枠かという両意匠の基本的構成態様に係り,かつ,大きな割合を占める底辺部全体の構成態様における差異であって,看者の注意を引くものであると判断され,
 他方,本件意匠と引用意匠1に共通する構成態様である,・・・構成態様(以下「5本の略帯状部に係る構成態様」という。)は公知意匠(7)~(13)により,ぞれぞれ引用意匠1の公知日以前から広く知られた構成態様であり,新規な創作性があるものではないから,格別看者の注意を引くものではないと判断されている。

・・・

(3) ところで,意匠法にいう「意匠」とは,物品(物品の部分を含む。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであり(意匠法2条1項),同法3条1項3号が,同項1,2号の意匠(公知意匠)と並んで,これに類似する意匠についても意匠登録を受けることができない旨規定しているのは,公知意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき,公知意匠に類似する美感を起こさせるような意匠については,独占的実施権である意匠権を付与するに値しないと考えられるからであり,意匠権の効力が,登録意匠に類似する意匠,すなわち,登録意匠に係る物品と同一又は類似の物品につき,登録意匠と類似の美感を起こさせる意匠について及ぶものとされている(同法23条)ことと裏腹の関係にあるものである。

 したがって,同法3条1項3号に係る意匠の類否判断とは,同号該当の有無が問題とされている意匠と公知意匠のそれぞれから生ずる美感の類否についての判断をいうものであり,その判断は,意匠に係る物品の全体(部分意匠については当該部分の全体)に係る構成態様及び各部の構成態様について認定した共通点及び差異点を,それらが類否判断に与える影響を各々評価した上で,それらを総合して行うべきものである。
 そして,その場合に,共通点又は差異点の認定に係る構成態様がよく知られたものであるときは,そのような構成態様は通常ありふれたものであるから,一般に看者の注意を引き難くなり,そのような構成態様に係る共通点又は差異点が類否判断に及ぼす影響も相対的に小さいことが多く,したがって,両意匠の共通点をなす構成態様がよく知られたものであるときは,当該共通点によって両意匠が類似と判断される度合いは低くなることが多いということはできる

 しかしながら,ある物品に係る特定の製造販売者が,その製造販売に係る当該物品の特定の部位に,特定の構成態様からなる意匠を施し,そのような意匠が施された物品が,当該特定の製造販売者の製造販売に係る商品として,長年にわたり,多量に市場に流通してきたため,当該意匠の態様が,その製造販売者を表示するいわばロゴマークに相当するものとして,需要者に広く知られるに至ったような場合においては,当該物品に関する限り,そのような意匠の態様は,広く知られているからといって,看者の注意を引き難くなるものではなく,むしろ,広く知られているために,かえって,その注意を引くものであることは明らかであり,そうであれば,そのような構成態様が共通する場合においては,その共通点が意匠の類否判断に及ぼす影響は,相対的に大きいものとなるというべきである

 しかるところ,上記(2)の認定事実に,甲第4~第6,第15,第16,第18号証及び弁論の全趣旨を総合すれば,5本の略帯状部に係る構成態様は,原告がその製造販売する運動靴(スニーカー)の側面に施してきたものであって,かかる意匠を施した運動靴が,原告の製造販売する商品として,長年にわたり,多量に市場に流通してきたために,本件意匠の登録出願日前までに,かかる5本の略帯状部に係る構成態様は,原告を表示するいわばロゴマークに相当するものとして,需要者に広く知られるに至っていたものと認めることができる。そして,略変形台形状の外周形状について必ずしも明確に認識することのできない公知意匠(10)の1例が存在するのみでは,かかる認定を覆すに足りず,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

 そうすると,5本の略帯状部に係る構成態様が,広く知られているものであるゆえに格別看者の注意を引くものでないとした審決の評価は誤りといわざるを得ず,かかる構成態様は逆に看者の注意を引くものというべきである

・・・

 そうすると,その余の差異点も含め,本件意匠と引用意匠1との差異点は,上記のとおり,両意匠の最も特徴的な部分であり,看者の注意を強く引くものであると認められる,略変形台形状の外周形状枠内を5等分して,メッシュ地よりなる同幅の略帯状凹部を5本形成し,その各略帯状凹部を略四辺形とし,つま先側に約60度で傾斜させた構成態様における共通点を凌駕するものとはいえず,両意匠が意匠全体として異なる美感を起こさせるものと認めることはできないから,両意匠は類似すると認めるのが相当である。』

29条の発明の要旨の認定手法の参考事例

2008-06-01 10:10:42 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10319
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『イ 既に検討したとおり,本件発明1は,その特許請求の範囲に記載されたように①シリコンアルコキシド,②非水溶媒,③多孔質シリカ微粉末とを含有する低屈折率膜形成用塗料であるところ,これにより形成される膜自体の屈折率は規定されておらず,③の多孔質シリカの平均粒子系径及び屈折率によって規定されている。

 そして,この多孔質シリカの屈折率(1.2~1.4)の点についての本件明細書の記載をみると,まず「シリカの屈折率は1.46」(段落【0011】)とあるのは上記シリカの屈折率はシリカ一般の屈折率にすぎないところ,本件発明1の多孔質シリカ微粉末の屈折率「1.2~1.4」はこれよりも低い数値である。そしてその屈折率の数値については,段落【0011】,【0012】にこの屈折率の多孔質シリカ微粉末を用いるとの記載はあるものの,上記で該当段落を摘示したとおり,その屈折率の多孔質シリカ微粉末を用いると記載されているだけで,その屈折率に関する技術的ないし臨界的意義に関しては何らの記載もない
 加えて,本件明細書に記載された実施例1~3のうち,多孔質シリカ微粉末の屈折率についての記載があるのは実施例2(段落【0043】~【0048】。そのうち実施例2に用いた低屈折率膜形成用塗料の作製に関する記載は段落【0043】)のみであるところ,そこにも「屈折率1.25の多孔質シリカを得た。」(段落【0043】)との記載があるだけである。この屈折率1.25の多孔質シリカを得るに当たっては,低屈折率膜形成用塗料の原料として段落【0040】にあげられたテトラメトキシシランとメタノールを用いて多孔質シリカを得たとされているものの,「この多孔質シリカ/バインダーの量比を変化させて反射防止膜を作製し,その時の屈折率と多孔質シリカ濃度との関係から,多孔質シリカ100%の値を外挿し,屈折率が1.25の多孔質シリカを得た。」とするのみで,具体的に屈折率が1.2~1.4の多孔質シリカ微粉末を用いることに関する記載はない
 なお,「帯電防止・高屈折率膜は,n=1.6~2.0…上記の帯電防止・高屈折率膜の上に屈折率差0.1以上」(段落【0031】~【0032】)という数値についての記載,及び低屈折率膜につき帯電防止・高屈折率膜との屈折率との差を0.1以上とすることの記載はあるものの,多孔質シリカ微粉末の屈折率との関係についての記載はない。

 そうすると,本件発明1の低屈折率膜形成用塗料は,所定成分を配合することにより低屈折率の塗膜を形成できるものであって,分散含有される多孔質シリカ微粉末については,シリカゾルから形成される従来のシリカ(屈折率1.46)よりも低い屈折率物質であることを特定したものであると解されるにとどまるというべきである。』

『イ 上記甲1の【0198】~【0207】には,屈折率の異なる2種類の粒子を混合し,その混合比を変えて屈折率が異なる2層の膜をガラス基板上に形成した実施例が記載されている。具体的には,・・・である。
 これらの記載によれば,甲1には,低屈折率の粒子を混合することによって,シリカ(SiO2)単独の膜よりも低屈折率の膜を形成する手段が開示されているといえる。
 そして,上記低屈折率膜を形成するMgF2粒子の屈折率1.38は,本件発明1の多孔質シリカ微粉末の屈折率(1.2~1.4)の範囲内の数値である。

(6) そうすると,甲1発明の低屈折率膜形成用塗料において,低屈折率膜を形成する手段として多孔質シリカ微粉末をシリカよりも低屈折率のものとすることは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到し得る事項であり,上記(4),(5)のように多孔質シリカは中実(孔のない)のシリカよりも屈折率が小さいこと,(中実の)シリカの屈折率が1.46であることを考慮すれば,甲1発明の多孔質シリカ微粉末の屈折率を,「1.46」より低い数値範囲の「1.2~1.4」とすることに格別の困難性は認められないというべきである。

 さらに多孔質シリカ微粉末を分散含有したことによる本件発明1の効果については,本件明細書(甲24)に「この塗料中に多孔質シリカ微粉末を分散含有させるので,十分に反射防止機能を有する低屈折率膜を製造でき,これを用いて帯電防止・反射防止膜の反射防止機能を向上させることができる。」(段落【0054)】)と記載されているとおり,低屈折率膜の形成により反射防止効果を向上させるという,低屈折率膜から予想できる程度の効果にすぎず,格別顕著なものとは認められない。

(9) 被告の主張に対する補足的判断
ア 被告は,本件発明1と甲1発明とは反射防止原理が異なると主張する
 しかし,本件発明1は,低屈折率膜形成用塗料の発明であり,相違点(b)の多孔質シリカ微粉末を分散含有させる目的は,低屈折率のシリカ膜を形成する塗料を提供することにある(本件明細書の段落【0005】)。

 被告が主張する反射防止原理は,本件明細書の段落【0032】記載のように,帯電防止・高屈折率膜の上に低屈折率膜を形成して反射防止する場合を前提としており,本件発明1は第二層目の低屈折率膜形成用塗料に関する発明であり,被告主張の積層構造は本件発明1の塗料の用途における適用例にすぎない

 したがって,反射防止原理の違いは上記認定を左右するものではない。

イ また被告は,甲5は膜そのものを多孔質としたことに関する文献であり,膜中に微粒子を含有させることを特徴とする本件発明1とは思想及び構成が異なると主張する。
 しかし,甲5には多孔質化による物質密度の低下にともない,物質の屈折率が小さくなることが記載されており,そのような多孔質と屈折率との関係については,物質が膜形状であっても分散含有させる粒子形状であっても異なるところはないから,被告の上記主張は採用することができない。』

遠隔地からの録画・視聴サービス

2008-06-01 09:42:09 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)17279
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『ウ 結論
 以上から,被告は,本件対象サービスを提供し,本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているというべきであり,原告NHK及び東京局各社の本件番組についての複製権(著作権法21条)及び原告らの本件放送に係る音又は影像についての著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものといえる。

 被告は,本件サービスが,あくまでも利用者個人がその私的使用目的で賃借したロクラクⅡを利用する行為であって,その利用に関与するものではなく,利用者が賃貸機器を利用してテレビ番組を複製する行為の主体は,利用者本人であり,被告ではあり得ない旨主張する。

 しかしながら,被告は,上記判示のとおり,本件対象サービスにおいて,自らが本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているのであり,このことと,本件サービスの利用者によるテレビ番組の録画が,私的使用目的で行われるか否か,あるいは,利用者の指示に基づいて複製されるテレビ番組が選択されるか否かとは,直接関連するものではないから,被告の上記主張は,失当といわなければならない。』

『2 争点2(原告らの損害の有無及びその金額)について
⑴ 被告の責任
 被告は,上記1⑵ウのとおり,本件対象サービスを提供して,本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っていると評価されるものであり,原告及び東京局各社NHK の複製権(著作権法21条)及び原告らの著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものである。そして,この侵害については,被告に,少なくとも過失があると認められる。
 したがって,被告は,これによって原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

⑵ 逸失利益について
ア 著作権法114条2項の適用について(主位的な主張)
原告らは,複製権(著作権法21条)又は著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害について,主位的に,著作権法114条2項が適用されるべきであるとして,被告が,平成17年3月10日から平成19年4月18日まで(著作隣接権としての複製権の侵害について)又は平成19年5月及び同年6月の2か月間(著作隣接権としての複製権の侵害について),利用者500人から,初期登録料3000円のほかに,1か月当たり1万0500円の支払を受け,これに対する利益率90パーセントの割合による利益を受けていることを前提として,それを基に計算した被告の利益の額が原告らの損害の額となる旨主張する。

 しかしながら,本件対象サービスの利用者が何人存在するのか,その中に,子機ロクラクを購入し,親機ロクラクのみをレンタルする本件B サービスの利用者がどの程度含まれるのか(・・・。),親機ロクラクの管理についての対価はいくらか,本件対象サービスにおける被告の利益率がどの程度かの諸点については,原告の上記主張を裏付ける証拠はなく(・・・。),被告が本件サービスによって受けている利益の金額を算定することができない

 そうすると,他の点について検討するまでもなく,著作権法114条2項を適用して損害を算定することはできないことになる。

イ 著作権法114条3項の適用について(予備的な主張)
 そこで,著作権法114条3項により,原告らの損害額を計算することができるかが問題となるが,本件対象サービスの利用者数,本件番組又は本件番組の放送に係る音又は影像の複製回数等の事実関係については,上記ア同様,何ら立証されておらず,原告らが受けるべき利益の額を算定することはできないから,同項により損害の額を算定することもできないといわざるを得ない。

ウ 著作権法114条の5による損害の算定
 被告による本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為により,原告らに損害が生じていることは認められるところ,上記ア及びイのとおり,本件対象サービスの利用者数,複製回数等の事実関係が立証されておらず,損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であると認められるから,著作権法114条の5により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,損害額を認定することが相当である。』