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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

実施可能な記載の条件

2007-10-21 09:21:47 | 特許法36条4項
事件番号 平成19(行ケ)10011
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年10月16日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

『第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 取消事由1(甲5発明の認定の誤り)
 審決は,無効理由2についての判断に係る,本件発明1と甲4発明との相違点についての判断において,甲5発明の認定を誤った結果,当該相違点についての判断を誤ったものである。
 ・・・
 仮に前者だと解した場合でも,「固定棚の先端」とは固定棚のどの部分を意味するのか,「支持部」は「固定棚の先端」にどのように設けられているのか不明であり,かつ,本件明細書にはこれらを規定する具体的な記載は存在しない。したがって,審決の認定は失当である。』


『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(甲5発明の認定の誤り)について
・・・
また,「円形孔からなる支持部」は,上記のとおり,単一部材によって形成される固定棚の一部であって,外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して固定棚を水平に支持するものでなければならないものの,「固定棚の先端」にどのように設けられているのかについて,それ以上特定した規定はないから,上記限定の範囲内で,任意の技術手段によりなし得るものであり,かつ,本件特許出願当時の当業者の技術水準に照らし,この点につき,周知慣用の技術手段が存在していたことは明白であるから,「固定棚の先端」にどのように設けられるのかが明細書に記載されていないと,発明の実施ができないというものではない。』

複数引用形式で開示のない態様の発明を請求した事例

2007-08-30 06:58:51 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10542
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年08月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『ウ 上記ア,イによれば,本件発明7は,本件発明3~5のいずれかの発明を引用するものであるが,本件発明3は,「…請求項1または2に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されており,本件発明4は,「…請求項3に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されており,本件発明5は,「…請求項3または4に記載されたガス遮断性に優れた包装材。」と記載されている。そうすると,本件発明7は,結局,本件発明1を引用するものであるから,無機薄膜は「…プラズマCVD法により形成された薄膜…」(本件発明1)であるが,他方,上記アに記載した本件発明7の文言によれば,上記膜は「シリコン酸化物膜がモノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜」というのである
そうすると,本件発明7は,モノ酸化ケイ素と二酸化ケイ素の混合物を真空蒸着により被覆した膜であり,かつ,プラズマCVD法により形成された薄膜を,発明の内容として含むことになるが,前記2,(2),ア~ウに照らしても,このような複数の方法による被覆に対応する実施例は何ら記載されておらず,また,その他の発明の詳細な説明中の記載においても,これを実施するについての具体的な説明が記載されているとはいえない
以上によれば,本件発明7については,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているということはできないから,法36条4項に違反するものである。したがって,本件発明7について検討するも,取消事由5は理由がない。』

受精能の刺激される対象を特定しない発明

2007-07-08 19:05:48 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10442
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年06月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

裁判長裁判官 田中信義

『以上のとおり,原告主張の上記記載(1)ないし(3)は,本願明細書においては定量的な記載がされた箇所であるということができるとしても,これらの記載だけでは,LH活性を減少させる特定の結合剤を,具体的にどれだけの量で使用すれば,LH活性の減少量がどれだけになり,実際にどの程度の受精能刺激が得られるのかを示した具体的なデータであるということはできない。また,多卵胞性卵巣病を有する女性に適用した実施例をもってしても,哺乳動物における受精能刺激剤との限定以上に対象を限定するものではない本願発明1について,一定の受精能刺激効果が得られることが理解できるように記載されているということもできない。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明をもってしては,受精能の刺激される対象(動物)を特定しない本願発明1において,「受精能刺激」の効果が得られることの裏付けがあるとはいえず,特許法36条4項の要件を満たしているとはいえない。』

実施可能性を検討する際に、他のすぐれた技術を前提とすることは許されるか

2007-06-08 22:55:36 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10310
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美

『原告は,本件実験1では,それほど大きな照度差が生じなかったが,液晶層の厚さを何倍にも増加させれば,偏光度は増すことが予想される,また,もっと別の現存する優れた液晶を選ぶか,将来造られる可能性もある,はるかに優れた液晶を用いれば,更に良好な結果が得られると思われる旨主張する。
しかし,明細書の記載要件としての実施可能要件を定める特許法旧36条4項は,「前項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定するものであり,本件訴訟において問題とされているのは,本件明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施可能な程度の記載があるか否かである。』

(感想)
 実施できそうだと思ったとき、明細書に記載のない技術や仮定を読み込んでいないか、よく考え他方がよいと思わせる判決。
 出願時点において確かな技術的裏付けのある実施例を発明の詳細な説明には記載する。そして、将来において権利範囲は均等論で拡大するという整理が良さそうだ。

基本的な測定原理の開示を欠いて実施できないとされたもの

2007-03-11 06:48:18 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10083
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『(3) 原告は,本願発明は物質の発明に関するものであるから,その得られた物質の物性等の測定を,発明完成時に存在したその分野で知られている測定装置を使用してその測定結果を測定し,その測定結果を明細書に記載すれば足りる旨主張する。
ア 発明の構成を特定する指標の測定方法に関して,測定装置から直接得られる実測値だけで特定できる場合,あるいは測定方法自体が周知慣用である場合は,測定装置あるいは測定結果を記載する程度の開示であっても当業者は容易に理解できるといえるが,それに当たらない測定方法の場合は具体的な説明が必要である。
イ 本願発明は,溶融相の含有量を「ポリマー含量の5~50重量%」からなる点をその構成要件としているから,製造されたポリマー物質において当該含有量を特定する必要があるところ,本願明細書には,DSC装置を用いることは記載されていても,DSC装置を用いてどのような数値を測定し,どのように計算すれば当該含有量を得られるのかが明らかにされておらず,また,原告の主張する測定方法が本願の優先権主張日当時,技術常識であったと認めるに足る証拠も見当たらないことは,すでに説示したとおりである。
ウ そうすると,本願発明の内容を理解するに当たり,測定装置を構成する学術的な測定原理は必要としないまでも,基本的な測定原理そのものが本願明細書に記載されていないのであるから,上記含有量の測定方法について当業者が容易に理解できる程度に記載されていないことは明らかである。原告の主張は採用することができない。』

特許請求の範囲の用語の認定

2007-02-18 22:13:56 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美

『 原告は,被告が辞書を引用するなどして,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載を解釈したことに対し,本願補正発明1とは技術的意味が異なる引用文献に記載された吸収体製品の表面シートにおける,「凸部」,「凹部」及び「折目状」と解釈することは,
単に,対応するこれらの語が通常の日本語として類語に近いものであるという程度の意味しかなく,高度に専門的で口語とは異なる点において,必ずしも通常の日本語とはいえない特許請求の範囲における技術的用語の解釈としては,はなはだ妥当性を欠くものであり,特許請求の範囲における技術的用語の意味の解釈として,一義的に明確ではない旨主張する。
 特許請求の範囲で使用する用語は,原則として,その有する普通の意味で使用しなければならず,特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用することを要する(特許法施行規則24条の4,様式第29の2備考9参照)ところ,本願補正発明1に係る技術分野において,何らかの技術常識によって,その表面シートの「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が,普通に理解されるのとは異なった意義に理解されるものであると認めることはできず,特定の意味で使用される用語であることを定義した記載も見いだせないのであって,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が有する普通の意味において,その内容が,技術的に一義的に明確であるといえることは,前記(2)のとおりであり,原告の主張は採用の限りではない。』

実施可能な特許請求の範囲の記載の限界

2007-02-18 22:11:32 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10166
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『原告は,本願明細書(甲8)の発明の詳細な説明の記載から,①システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミング及びフレーム・タイミングが基地局マスタ・タイミング・ベースに同期させていること,②基地局内の複数の周波数チャンネルはすべて同一の時間基準を用いていること,③基地局内の受信タイミングと基地局の送信タイミングが同一であること,④加入者局は自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること,⑤加入者局・基地局間距離変動追跡のための「精密調整」がなされていることが理解できるとし,これらの記載内容を参酌すれば,請求項1の前記記載の意味は明確である旨主張する
 しかし,請求項1における他の構成をみても,加入者局が,自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること等を示唆する記載はなく,そのような理解の手掛かりとなる記載もない。
ウ 要するに,原告は,特許請求の範囲に記載も示唆もない事項について,本願明細書の発明の詳細な説明における記載内容を,発明の構成として読み込むことを主張するものであり,採用することができない。』

『付言するに,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との記載が,①順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含むこと,②それら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期していること,を意味しているというのであれば,特許請求の範囲に直截に記載すべきである。特許請求の範囲の記載内容が,明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌・総合して初めて理解できるようなものは,特許法36条3項,4項の要件を満たすものとはいえない。原告の上記主張によれば,請求項1の記載は,本来,簡明直截に記載できる内容をことさら不自然に表現したものであって,第三者の理解を妨げるものといわざるを得ない。』

定性的ないし抽象的な記載に止まり実施できない例

2006-11-08 21:44:18 | 特許法36条4項
事件番号 平成17(行ケ)10820
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘


『本願補正明細書は,富化手段,作用効果,好適な態様,構造成分,具体例の各記載を検討してみても,その記載は定性的ないし抽象的な記載に止まっており,操作の対象である物質の設定,操作の方向性の設定,操作の程度の設定のいずれの観点からも当業者が本願補正発明に係る方法を実施するための指針や目安となる記載がない。
 そうすると,本願補正発明の構成については,あくまで目的に応じて,その目的とする技術的効果が得られるような手段を採用することにより,目的が達成され得る発明であることを,目的・効果との関係において説明するに止まっているというべきであり,方法の発明の技術的手段として開示されるべき「骨形成用」のために有, 用な「活性剤複合体」を生成するための,操作自体に関する事項が十分に開示されていないというほかない。
 したがって,本願補正明細書は,方法の発明の技術的手段として開示されるべき,操作自体に関する具体的事項についての開示が不十分であるため,当業者が,容易に本願補正発明を実施することができる程度に,目的,構成及び効果を記載していないものというほかはない。』


『本願補正発明の方法を利用するに当たって,「構造成分」,「補充成分」,「接着成分」,「増殖・成熟成分」のいずれを枯渇あるいは富化すべきかは,当業者の目的によって異なるとしても,上記アに説示したとおり,当業者は,本願補正発明を実施するためには,活性剤複合体という有機的一体のものの実際の適用部位における標的構造体との相互作用の態様,その中での個々の成分が果たす機能の程度に照らし,骨形成用として有用である活性剤複合体を生成するために,具体的にいかなる操作をすることが必要であるかについての何らかの指針や目安を必要とすることに変わりはないというべきであり,かかる指針や目安がないと,当業者は,上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定したり,枯渇又は富化の程度を適宜調整するために,過度の試行錯誤を強いられることとなると評価するほかないものである。』


『しかし,上記の4つの各成分として発揮する機能の程度や,実際の標的構造体である適用部位との相互作用の程度は,具体的物質ごとに異なると考えられる。そうすると,本願補正明細書において,各成分に該当する具体的物質を選定する方法の記載がないと,骨形成用の当該活性剤複合体を生成するために,具体的にいかなる操作をすることが必要であるかについての指針や目安を示したことにはならないというべきである。そして,かかる指針や目安がないと,当業者は,上記4成分のいずれを枯渇又は富化すべきかを選定したり,枯渇又は富化の程度を適宜調整するために,過度の試行錯誤を強いられることとなると評価するほかなく,本願補正発明を容易に実施することが可能とはいえないこととなることは,上記(2)アに説示したとおりである。』


『確かに,当業者が,実際に骨形成用として有用である活性剤複合体を得るために,選定した成分をどの程度富化ないし枯渇すべきかが,出発材料に含まれる各成分の量や,適用対象たる組織が含有する成分の種類や量,さらには当業者の目的等によって変わり得るものであることは考えられる。
 しかし,このことは,本願補正発明の方法を実施する際に,これに該当する具体的方法が,極めて多種多様なものとなり得ることを示すに過ぎないものであって,当業者が本願補正発明の方法を実施する際の指針,目安がなくてもよい合理的理由となるものとはいえない。
 そして,骨形成用の活性剤複合体を生成する方法の発明である以上,具体的な操作自体について,指針,目安を示すことが不可能であるとする合理的な根拠はないし,かかる指針,目安を,当業者が目的・状況に応じて適宜調整すべき事項とみるのは,下記イに説示したとおり,当業者に過度の試行錯誤を強いるものと言うべきである。』

『以上のことに,前記2(4)を併せ考慮すれば,当業者は,目的とする技術的効果を挙げることができるように枯渇または富化する,という抽象性の高い指針をいわば唯一の目安として,骨形成用として有用な活性剤複合体を得るために,あらゆる試行錯誤を繰り返さざるを得ないものである。
 すなわち,当業者は,本願補正発明を実施するために過度の負担を強いられることとなるというべきであって,枯渇,富化の程度が,本願補正発明の実施可能性と無関係であるとはいえない。』

医薬についての用途発明の記載要件

2006-04-15 09:49:23 | 特許法36条4項
事件番号 平成15(行ケ)104 裁判年月日 平成15年12月26日
裁判所名 東京高等裁判所
特許法36条4項

(注目判示)
 改正前特許法36条4項は,「発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない」と規定しているところ,本件訂正発明のような医薬についての用途発明においては,一般に,有効成分として記載されている物質自体から,それが発明の構成である医薬用途に利用できるかどうかを予測することは困難であるから,当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されているというためには,明細書において,当該物質が当該医薬用途に利用できることを薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載により裏付ける必要があり,出願時の技術常識を考慮しても,それがされているものとはいえない発明の詳細な説明の記載は,改正前特許法36条4項の規定に違反するものといわなければならない(東京高裁平成8年(行ケ)第201号,平成10年10月30日判決参照)。また,いわばその裏返しとして,医薬についての用途発明においては,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超えるものである場合には,その特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないし,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるともいえないから,改正前特許法36条5項1号及び2号に規定する要件を満足しないものと解するのが相当である。

(注釈)
◆H15.12.26 東京高裁 平成15(行ケ)104 特許権 行政訴訟事件
も同趣旨の判示を含む。
上記判示に引用された東京高裁平成8年(行ケ)第201号は検索できなかった。
また、ここでも、用途発明の判決がいくつか紹介されている。

用途発明のクレームの記載要件

2006-04-15 09:38:50 | 特許法36条4項
事件番号 平成17(行ケ)10119
裁判年月日 平成17年06月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所

(注目判示)
 発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)ところ,本願補正発明の薬剤の用途が「哺乳動物における良性前立腺過形成の治療または予防」であることは,特許請求の範囲の記載から,文言上,一義的に明確に理解することができるから,他に特段の事情の認められない本件において,発明の詳細な説明の記載を参酌する余地はないというべきである。また,本願補正発明の属する分野の従来技術を参酌しても,上記のような特許請求の範囲の記載から,「良性前立腺過形成を予防するまたはその病巣を減少する」との部分までもが,本願補正発明の薬剤の用途を規定していると解すべき根拠を見いだすことはできない。
 のみならず,特許法36条5項に,特許請求の範囲には,「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」と規定されていることからすれば,公知発明の用途とは異なる「新たな用途への使用」に基づく用途発明について特許を受けようとする以上,「新たな用途への使用」についての構成を特許請求の範囲に明示しなければならないことは当然である。

用途発明の実施例の記載要件

2006-04-15 09:34:53 | 特許法36条4項
事件番号 平成17(行ケ)10312
裁判年月日 平成17年08月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
特許法36条4項

(注目判示)
 仮に,原告が主張するように,脱血ショックモデルとLPSショックモデルが透析低血圧症を評価するモデルであることや,本願化合物が脱血ショックモデルとLPSショックモデルに有効であることなどが,本件出願当時の技術常識であったとしても,本願発明は本願化合物の新たな用途を発見した用途発明であり,本願化合物がそのような用途に有用であることを本件出願当時の技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得なかったことを前提とする以上,本願発明の当該用途における有用性を基礎付ける薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしなければならないことに変わりはないというべきであり,そのような記載が何ら存在しない本願発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項の要件を満たさないというべきである。

学会の定説でない学説に基づく発明

2006-04-06 22:48:54 | 特許法36条4項
事件番号 平成12(行ケ)66
裁判年月日 平成13年07月16日
裁判所名 東京高等裁判所
学会の定説でない学説に基づく発明
特許法36条4項

(注目判示)
原告は、本件イオン比率は科学的根拠を欠くものであると主張する。しかしながら、上記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明において、発明の実施をすることができる程度に、その目的、構成及び効果が明らかにされている以上、発明の構成要件である数値について、その実験的裏付けないし理論的根拠まで明らかにすることは、特許法36条4項の要求するところではないというべきである(東京高裁昭和52年10月27日判決・無体集9巻2号634頁参照)。
    本件において、本件波高値比率は、本件イオン比率に基づくものであるという点で、その意義は明らかであるから、この点において本件明細書に記載不備の違法はない。確かに、本件イオン比率における「正負イオンの理想的な存在比率」という概念自体が公知であることの確証がないばかりでなく、これが学会における定説であるかどうかも、証拠上明らかではないが、当業者の周知の技術的知見に反するようなものであれば格別、そのようなものであることを認めるに足りる証拠がない以上、これが学会の定説でないからといって本件明細書が記載不備となるものではない。
  原告は、数値限定の科学的根拠が明らかにされていない本件明細書には記載不備の違法があると主張して、東京高裁平成10年(行ケ)第172号同11年5月27日判決を引用するが、上記判決は、考案における数値限定の根拠について明細書で何ら言及されていない事案に係るものであって、本件波高値比率を採用することにより本件イオン比率に等しい割合で生体に交流電位を印加できるために治療効果が良好であるなどの明細書の記載がある本件とは事案を異にし、原告の主張は採用することができない。

誤記により実施不能となる場合

2006-04-05 06:23:22 | 特許法36条4項
事件番号 平成15(行ケ)75
裁判年月日 平成16年01月30日
裁判所名 東京高等裁判所
特許法36条4項

(注目判示)
「全非点収差」及びこれと直接技術的関連を有する「斜光線方向の非点収差」について,当業者に誤記であることが客観的かつ一義的に明らかであると認めることはできない誤った記載がされ,この誤った記載に基づいて全非点収差及び実施形態が説明された本件明細書に接した当業者は,本件明細書に記載された「全非点収差」の意味内容を正しく理解することは不可能であり,本件明細書の表1~5に記載された数値データに基づいて本願発明を実施できるということはできない。したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に,本願発明に係る「全非点収差」で規定される累進焦点眼鏡レンズについて,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しているとはいえないから,その発明の詳細な説明は,旧36条4項に規定する要件を満たさないというべきであり,これと同趣旨の審決の判断に誤りはない。

技術常識を参酌しても実施不能

2006-04-04 22:36:39 | 特許法36条4項
事件番号 平成13(行ケ)422
裁判年月日 平成16年03月17日
裁判所名 東京高等裁判所
特許法36条4項

(注目判示)
一般に,人の体温は,おおむね一定と考えられ,外的温度に対し,着衣等による保温効果がある中,発熱,発汗等により複雑に体温調節機能が働いていることが知られているから,単に頭部を冷却し,足部を加熱した場合,ひざ部,腰部,胸部の温度が傾斜するとは認め難く,
また,乙1の図48「同一外界温における対象グループの体の各部で計ったもっとも高い温度と低い温度の平均」(101頁)によれば,・・・,人の通常時の温度分布は,本願発明が達成しようとする温度分布である①式「T1>T2>T3>T4>T5」とは異なっている。
 したがって,上記のとおりの人の通常時の温度分布を本願発明が達成しようとする温度分布である①式を満足させるようにするというのであれば,そうすることが可能となる具体的手段が明細書又は図面に開示されない限り,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないところ,
 通常の着衣で,頭部を冷却し,足部を加熱してひざ部,腰部,胸部の温度を傾斜させるための加熱部と熱吸収部の温度設定条件が本件特許出願時における技術常識であったとは認められないから,このような加熱部と熱吸収部の温度設定条件の開示がない本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,当業者が,①式を満たすための条件を見いだすことは,技術常識を参酌しても可能であるとはいえない。

必要な記載事項の欠如

2006-02-26 17:41:04 | 特許法36条4項
◆H15. 3.13 東京高裁 平成13(行ケ)209 特許権 行政訴訟事件条文:特許法36条4項

『上記各刊行物のこれらの記載によると,本件出願当時既に頒布されていた上記各刊行物のいずれにおいても,ポリオールについてGPC法により求めた比(Mw/Mn)の数値として,少なくとも小数点以下第一位までを有意なものとしていること,その場合,GPC法の測定条件として使用カラム等の測定条件を具体的に明示していることが認められる。
  上記1(3)で認定した知見に,上記認定の事実を併せ考慮すると,ポリオールについても,少なくとも使用カラムを特定しなければ,GPC法による測定により得られた比(Mw/Mn)の数値を,小数点以下第一位までを有意なものとすることはできないとの知見が,本件出願当時に技術常識として存在していた,と認めることができる。
(5) 訂正後発明は,分子量分布を示す比(Mw/Mn)を,GPC法により求めた場合,2以下であるポリオールであることを,要件とするものである。訂正後明細書の説明においては,訂正後発明に係る上記比(Mw/Mn)の数値を,小数点以下第一位までを有意なものとして扱っているのであるから,前記技術常識,すなわち,ポリオールについて,その分子量分布を示す比(Mw/Mn)をGPC法によって求める場合,少なくとも使用カラムを特定しなければ,比(Mw/Mn)の数値として小数点以下第一位までを有意なものとはし得ないとの技術常識によれば,訂正後明細書においても,少なくとも使用カラムを明確にすべきである。しかし,訂正後明細書には,比(Mw/Mn)を測定するGPC法について,その測定条件である使用カラムに関するものを含め,具体的な記載は一切ない。
  そうだとすると,GPC法により,比(Mw/Mn)の数値として小数点以下第一位まで有意なものとして求める前提として必要となる,使用カラムについての記載がない訂正後明細書の詳細な説明は,当業者が容易に実施できる程度には本件訂正後発明が記載されていないものという以外にない。』