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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

必要であるはずの構成の記載なし

2006-02-26 17:37:59 | 特許法36条4項
◆H15. 2.27 東京高裁 平成12(行ケ)500 特許権 行政訴訟事件
特許法36条4項


『ランプから発する波長380~780nmの可視光領域の光線の光エネルギーのみによっては,空気中の酸素分子を酸素原子に分解することはないと理解すべきであるから,仮に,本願発明の構成により本願明細書に記載されているような効果を奏することが事実であるのならば,ランプから発する波長380~780nmの光線を照射しただけではなく,これに他の技術的要件が加わることによって空気中の酸素分子が酸素原子に分解されたからであると理解せざるを得ない。ところが,本願明細書中には,この技術的要件を推測させる記載すら見当たらない。このように,本願明細書中の記載によっては,当業者が空気中の酸素分子を酸素原子に分解することを容易に実施することができるとはいえないのであるから,本願明細書には,金属の表面処理加工を行った後,ランプから発する波長380~780nmの光線を照射し,空気中の酸素分子を酸素原子に分解することにより,前記金属の表面に付着した有機物を分解させ,これを除去するという,という構成の本願発明を,当業者が容易に実施することができる程度に,その内容が記載されている,とすることはできないというべきであり,これと同旨の審決の判断に,何ら誤りはない。』

特許法36条4項の例外

2006-02-26 16:27:26 | 特許法36条4項
◆H14. 3.28 東京高裁 平成12(行ケ)176 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法36条4項

(旧36条4項の解釈)
『旧特許法36条4項は,「前項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定し,5項は,「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。 1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。 2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。・・・」と規定している。
 本件についてみると,本願発明においては,特許請求の範囲の記載自体から明らかなとおり,「上記連続トリミング機の作動時に上下動するプレス上刃は,連動運転において一つの成形品群の切断分離が完了する作動完了時に下死点で停止すると共にその作動開始時に前記下死点から始動し,停止ボタンの操作による作動停止後を含む寸動運転における作動中,予め固定設定された微速でもって上下動し,その作動完了時に最終的に前記下死点に達するようにした」という構成を特徴とする連続トリミング方法であるから,発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,上記構成が記載されていなければならないはずである。』

(旧36条解釈の例外)
『もっとも,特許請求の範囲に記載されたところが,当業者にとって,その文言に接しさえすれば,それ以上に格別の説明はなくとも容易に実施することのできるという程度の技術である場合には,例外的に,必ずしも,その説明を明細書に記載する必要はないとするのが,上記条項の設けられた目的に照らし,合理的な解釈であるというべきである。』

(例外を主張する場合の立証の方法)
『審決取消訴訟において,特許請求の範囲に記載されたところが上記の程度の技術であるか否かが争われるに至った場合には,特許請求の範囲に記載されたところが上記の程度の技術であることを主張する側において,当業者ではない裁判所であってもそのように認定することができるだけの主張立証をしない限り,裁判所としては,明細書の記載に不備があるものとして扱うほかない,と考えるのが,これまた合理的な解釈であるというべきである。当業者でない裁判所が判断主体である裁判において,明細書に記載されていないことを記載されていると同じに扱うべきであると主張する以上,そのような負担を負うべきは,むしろ当然のことというべきであるからである。』

(本件の「例外」の検証結果)
『本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたシーケンス制御器(21)を中心とする制御機構の作用によると,プレス上刃(11)が単純に寸動運転により上下動を行う場合には,プレス上刃(11)が下死点に達すると,エンコーダ(35)からの検出信号に基づいて,コントローラ(36)がシーケンス制御器(21)に出力信号を送り,これを受けて,シーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力する,ということになるから,プレス上刃(11)を下死点で停止させることができることは,明らかである。
 しかしながら,本願発明の特許請求の範囲の記載によれば,問題となるのは,本願発明の連動運転,寸動運転に係る技術が,当業者にとって,その文言に接しさえすれば,それ以上に格別の説明はなくとも容易に実施することのできるという程度の技術であるか否かということである(なお,審決は,「単動運転」,「一工程運転」をも含めて旧特許法36条4項,5項の問題として取り扱っているけれども,本願明細書を検討しても,「単動運転」や「一工程運転」がどのような運転であるか,「連動運転」,「寸動運転」とどのような関係にあるのか不明であり,そうである以上,「単動運転」や「一工程運転」について旧特許法36条4項,5項の記載要件を論ずることはできない。)。
 原告は,当業者でなくても,上記プレス上刃(11)の動作がプレス上刃(11)の上下動回数のカウンタなど何らかの手段で管理されていることを容易に理解できるはずであるというけれども,そのことを認めさせるに足りる立証は,全くなされていない。』

(感想)
 請求項の「単動運転」や「一工程運転」について、発明の詳細な説明を見ても、不明であった。そうすると、前記例外の場合に当たる場合しか、請求項に係る発明が生き延びる道はないのであるから、その意味で、「旧特許法36条4項,5項の記載要件を論ずることはできない」としたものではないか。

カイロンVS.シスメックス

2006-02-25 18:32:42 | 特許法36条4項
◆H17. 1.31 東京高裁 平成15(行ケ)220 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法第36条4項

 原告は,発明の名称を「抗HCV抗体の免疫アッセイに使用するC型肝炎ウイルス(HCV)抗原の組合せ」とする特許の特許権者である。
 被告は,平成13年10月22日,本件特許をすべての請求項に関して無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,審理の結果,「特許第2733138号の請求項1ないし12に係る発明についての特許を無効とする。」との審決した。

(判事事項1)構成の特定の不足
 「原告は,この点について,本件発明において,厳密なエピトープの特定は必要でなく,おおよその抗原性領域の特定ができれば足りるとも主張する。確かに,正確なエピトープの位置が分からなくても,ドメイン上の領域で,エピトープを含むことが明らかなものを特定することができるのであれば,原告の主張を採用する余地もあるといえる。しかし,そのようなことが,本件明細書に記載されているとも,本件優先日当時の周知技術であったとも認めることはできない。」

(判事事項2)過度の実験が必要
 『原告が指摘するとおり,その予測値が約50%であるにせよ,なお,エピトープの特定には数十万を優に超える回数の実験が必要』
 『前掲甲第31号証には,「どの位置にエピトープがあるかどうかを予測することによって,エピトープの同定に必要な工程数も格段に減少します。通常,このような予測を組み合わせることによって,必要となる工程数は,2桁以上少ない工程数になると見積もられます。」(6頁~7頁)との記載がある。しかし,具体的にどのような方法によるのか明らかではないし,仮に二桁以上少なくなるとしても,HCV1だけでも,7000通りを優に超える実験を行うことになるのであり,これは過度の実験に該当するといえる。』

(感想)化学は専門ではなく、よくわからないところもある。しかし、記載が甘く過度の実験が必要であれば36条4項違背となることを明確に述べたところは参考になる。