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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情

2009-01-02 22:21:39 | 商標法
事件番号 平成19(行ケ)10425
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 原告の主張に対して
 これに対して,原告は,本願商標に係る取引の実情として,①原告が指定商品に関する特許を有すること,②引用商標の商標権者は,本願商標の指定商品を製造していないこと,③原告は,本願商標に係る指定商品について,全世界で30.8%のシエアを占めており,そのうちの80%が本願商標を付したものであること等の取引の実情が存するので,これらの実情を併せ考慮すると,本願商標と引用商標とは出所に誤認混同を生ずることなく,両者は類似するとはいえないと主張する

 しかし,原告の主張は失当である。

 すなわち,商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は,当該商標が現に,当該指定商品に使用されている特殊的,限定的な実情に限定して理解されるべきではなく,当該指定商品についてのより一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等を総合した取引の実情を含めて理解されるべきである(最高裁判 第一小法廷昭和49年4月25日判決・昭和47年(行ツ)第33号参照)。
 原告主張に係る取引の実情は,いずれも,現在の取引の実情の一側面を今後も変化する余地のないものとして挙げているにとどまるものであって,採用の余地はない

 本願商標は,引用商標と比較して,類似性の程度が高い点をも考慮するならば,本願商標をその指定商品(類似商品を含む。)に使用した場合には引用商標との間で出所に混同混同を生ずるおそれがあることは明らかである。原告の上記主張は,採用できない。

商標法29条の判断事例

2009-01-02 17:53:39 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10139
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

(1) 商標法29条に基づく主張
 被告は,引用商標1,2,5及び6は,ローズ・オニールが創作したキューピー人形を原告が独自に図案化して商標登録出願をしたものであり,同出願の日前に生じていたローズ・オニールの著作権と抵触するものであるから,原告がこれらの引用商標を使用して無効審判請求及び審決取消訴訟の提起をすることは商標法29条に違反する旨主張する。

 商標法29条は,「商標権者・・・は,指定商品・・・についての登録商標の使用がその使用の態様により・・・その商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは,指定商品・・・のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない。」と規定し,
商標法における(商標を含む)標章の「使用」態様については,同法2条3項1~8号に限定的に列挙されているところ,無効審判請求及び審決取消訴訟の提起は,上記各号所定の行為のいずれにも該当しないから,著作権との抵触の有無を論ずるまでもなく,商標法29条に基づく被告の主張は失当である。

 なお,商標法29条は,商標権者の商標の使用を商標登録出願前の出願や発生に係る他人の権利と抵触しない範囲に限定することにより,商標権と他の権利との調整を図る規定であり,商標権者が類似する他人の商標登録の無効を請求する場合である本件に類推すべき基礎となる事情も認められない

誤認混同を判断する際の取引の実情の考慮

2009-01-02 17:14:45 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10139
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性)について
 原告は,審決が,本件商標からは「キューピー」の称呼・観念は生じないから,「キューピー」の称呼・観念を生ずる引用商標1~6と称呼及び観念において比較することはできないものであり,互いに紛れるおそれはないなどとして,本件商標の登録は商標法4条1項11号に違反してされたものとはいえないと判断したのは誤りであると主張するので,以下において検討する。

・・・

上記(3),(4)によると,本件商標と引用商標1~6からは,共に「キューピー」の称呼及び観念を生ずるものであり,かつ,次項に説示するとおりそれぞれの指定商品は同一又は類似の関係にあるから,本件商標と引用商標1~6は,互いに相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

 この点について,被告は,現在では,原被告以外にも多数の者が「キューピー」に関連する商標登録を得て,商品化するなどして使用しているという取引の実情も考慮すると,本件商標を指定商品に使用したとしても,引用商標1~6を付した商品と出所の誤認混同を生ずるおそれはない旨主張するので,検討する。

 取引の実情を考慮することにより,類似する商標を付した商品について出所の誤認混同を生ずるおそれがないということができるためには,当該指定商品に係る取引の実情を前提として,誤認混同のおそれがないものと認められることが必要である

 本件においては,確かに,上記(1),(2)や(4)イのとおり,多くの企業が「キューピー」のキャラクターを商品等の宣伝広告に使用しているものと認められるが,本件商標に係る指定商品である「清涼飲料,果実飲料,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」の取引分野についてみると,本件全証拠を検討しても,例えば,商標以外の目印によって出所を識別して取引が行われているとか,あるいは逆に,多くの者がキューピー」又はこれに類する標章を付した商品を販売しており,「キューピー」の外観の微妙な相違により出所を識別して取引が行われているなどの取引の実情が認められることにより,同一の称呼及び観念を生ずる商標を付した商品について出所の誤認混同を生ずるおそれがないと認めるに足りない

 むしろ,上記指定商品に係る商品は,多くの場合,仕入れの段階において,銘柄と数量を指定して,口頭又は文書により取引されるほか,小売店等において,商品名の簡略な表記を付して陳列され,一般消費者によって購入されることが通常の取引態様であることは経験則上明らかであるから,取引過程のあらゆる段階において,上記の取引分野においては,称呼とこれに基づく表記が商品の出所を判断する上での重要な要素となるものであることは明らかである

 そうすると,上記のとおり同一の称呼及び観念(「キューピー」)を生ずる本件商標と引用商標1~6の類似性について,本件商標の指定商品に係る取引の実情を考慮することにより,これを否定することはできないというべきであるから,被告の主張を採用することはできない。


商標法4条1項16号の趣旨

2008-11-30 11:33:28 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10086
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 取消事由1(商標法4条1項16号に関する判断の誤り)について
(1) 商品の品質又は役務の質(以下では,商品についてのみ述べる。)の誤認を生ずるおそれがある商標については,公益に反するとの趣旨から,商標登録を受けることができない旨規定されている(商標法4条1項16号)。同趣旨に照らすならば,商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とは,指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において,当該商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なるため,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。

 本件についてみると,登録第1692144号の2の商標は,別紙①のとおり,「キシリトール」及び「XYLITOL」の文字を2段に横書きしたものであるから,指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者は,その使用される商品は,キシリトールが含まれているものと認識,理解する。
 他方,指定商品は,別紙③「指定商品目録2」記載のとおり,いずれもキシリトールを使用した商品に限定されている。したがって,同商標は,その指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において同商標が表示していると通常理解される品質と指定商品の有する品質とが異なることはなく,同商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれはないというべきである。


 この点について,原告らは,被告は成分の100%がキシリトールでない甘味料を添加したチューインガム等にも,登録第1692144号の2の商標を使用しているから,商標法4条1項16号に該当すると主張する
 しかし,公益に反する商標の登録を排除するという商標法4条1項16号の趣旨に照らすならば,商標法4条1項16号への該当性の有無は,商標が表示していると通常理解される品質と指定商品の有する品質とが異なり,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるか否かを基準として判断されるべきものであり,実際に商標を使用した商品がどのような品質を有しているかは,商標法4条1項16号への該当性の有無に影響を及ぼすものではない。したがって,原告らの上記主張は,その主張自体失当である。

 また,取引者又は需要者は,取引の実情の下で,登録第1692144号の2の商標が表示する品質について,キシリトールを使用した甘味料が添加されたものと認識すると解され,キシリトール100%からなる甘味料のみが添加されたものと認識することはないものと解される。
 したがって,原告らの上記主張は,この点からも失当である。

商標の使用の事実の主張立証責任

2008-11-09 17:06:54 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10308
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 なお,本件商標の商標権者である被告,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件審判の予告登録がされた平成19年5月29日より前3年以内に,日本国内において,本件審判の請求に係る指定商品(第5類「薬剤」)について,本件商標の使用をしているとの事実は,被告において主張立証責任を負担する事項であるが(商標法50条2項),被告は,同事項について,何らの主張立証をしない。

 したがって,本件審決が認定した「被告は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,本件商標を請求に係る指定商品中の『薬剤』について使用した」との事実は,これを認定することができない。

次の判決も同趣旨
事件番号 平成20(行ケ)10314
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟

商標法50条2項ただし書の「正当な理由」

2008-10-04 17:41:03 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10160
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘

(2) 正当理由の有無について
ア 商標法50条2項ただし書は,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者が指定商品に登録商標を使用していないとしても,「登録商標の使用をしていないことについて正当な理由」があることを商標権者たる被請求人が明らかにしたときには,登録商標は取り消されない旨を規定する。
 ここでいう「正当な理由」とは,法的な規制によって商品を製造販売することができなかったとか,天災によって商品を製造販売することができなかったなど,商標権者等の責めに帰することができない事情によって審判請求の予告登録前3年以内に登録商標を使用することができなかった場合をいうものと解される

商標法4条1項8号の解釈-人格的利益を有するか否か

2008-09-21 15:55:36 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10142
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

第5 当裁判所の判断
1 取消事由について
(1) 商標法4条1項8号は,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」を含む商標について,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとするものであるが,この規定の趣旨は,人が,自らの承諾なしに,その肖像,氏名,名称等を商標に使われることがない人格的利益を有していることを前提として,このような人格的利益を保護することにあるものと解するのが相当である(最高裁平成17年7月22日判決・集民217号595頁)。

 そして,かかる見地からすれば,肖像,氏名,名称のほか,これらと同様,特定人の同一性を認識させる機能を有する雅号,芸名,筆名について,また,氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称についても,同号による保護を及ぼす必要が生ずるが,氏名,名称が,ほとんどの場合に,出生届出や登記申請等の所定の手続を経て決定され,戸籍簿や登記簿等の公簿により確認することができるのに対し,雅号,芸名,筆名や上記各略称は,無方式で決定され,これを確認する定まった手段等もないのが通常であって,このような意味で恣意的ないし曖昧な部分を残し,当人の認識と周囲の認識との間に食い違いが生ずるような場合もあり得ることを考慮して,同号は,雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称については,同号による保護の要件として,著名であることを必要としたのに対し,氏名,名称については,著名であることを要しないものとしたと解することができる

 もっとも,同号の適用に当たり,他人の氏名,名称等を含む商標について,当該他人の人格的利益を侵害するおそれのある具体的な事情が存在することは,著名性を要する雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の各略称に関して,著名性の有無を判断する際の1要素となり得ることは格別,同号の規定上,人格的利益の侵害のおそれそれ自体が,独立した要件とされているものではない

(2) しかるところ,上記第2の1の(1)のとおり,本件商標の構成中の漢字部分のうち,第1字目は「霊(靈)」の,第3字目は「会(會)」のそれぞれ異体文字と認められるから,同部分は実質的に「霊友会」と書されているのと同じというべきであり,この点は,原告も争っていない。
 そして,「霊友会」は,本件の登録異議申立人である霊友会の名称(フルネーム。甲第15号証の1,2)の表記そのものであるから,本件商標が,他人の名称を含むものであることは明らかであり,かつ,当該「他人」である霊友会の承諾を得ていないことは,原告も自認するところである。そうすると,本件商標は,商標法4条1項8号により商標登録を受けることができないものであるといわざるを得ない


(3) 原告は,商標の使用により他人の人格的利益を侵害するおそれがある場合に初めて,当該商標が商標法4条1項8号の「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」を含む商標に該当するものと解すべきである旨主張する
 しかしながら,同号の立法趣旨が,氏名,名称等を,承諾なく商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあるものとしても,上記のとおり,同号の規定上,他人の氏名,名称等を含む商標が,当該他人の人格的利益を侵害するおそれのある具体的な事情が存在することは,同号適用の要件とされているものではない。すなわち,同号は,他人の肖像,氏名,名称を含む商標,並びに他人の著名な雅号,芸名,筆名及び氏名,名称,雅号,芸名,筆名の著名な略称を含む商標については,そのこと自体によって,上記人格的利益の侵害のおそれを認め,商標登録を受けることができないとしているものと解されるのである
したがって,原告の上記主張は失当である。


(4) 仮に,他人の氏名を含む商標であっても,その使用が当該他人の人格的利益を侵害するおそれが全くない場合には,商標法4条1項8号の適用がなく,当該商標の登録を受けることができると解するとしても,本件においては,本件商標の使用が霊友会の人格的利益を侵害するおそれが全くないとの事実を認めるに足りる証拠はない。

 この点につき,原告は,天理教事件最高裁判決を引用,・・・,本件商標の登録が霊友会の人格的利益を侵害するものということはできないと主張する。

 しかしながら,天理教事件最高裁判決の原告の引用する判示部分は,宗教法人が,その名称を他の宗教法人等に冒用されない権利を有し,これを違法に侵害されたときは,人格権に基づきその侵害行為の差止めを求め得ることを一般的に肯定した上,他方で,宗教法人は,その名称に係る人格的利益の1内容として,名称使用(教義を簡潔に示す語を冠した名称の使用を含む。)の自由を有するから,甲宗教法人の名称と同一又は類似の名称を乙宗教法人が使用している場合において,当該行為が甲宗教法人の上記権利を違法に侵害するものであるか否かは,乙宗教法人の名称使用の自由に配慮し,甲宗教法人の名称の周知性や乙宗教法人が当該名称を使用するに至った経緯等の諸事情を総合して判断すべきであるとし,当該事案に係る具体的事情の下では,乙宗教法人に相当する被上告人の名称使用が,甲宗教法人に相当する上告人の名称を冒用されない権利を違法に侵害するものではないと判断したものである。

 すなわち,天理教事件最高裁判決が,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)について判示したものであることはそのとおりであるとしても,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)を違法に侵害するか否かが問われているのは,他の宗教法人の名称の使用行為であり,当該他の宗教法人も,その人格的利益の1内容として,名称使用(教義を簡潔に示す語を冠した名称の使用を含む。)の自由を有するゆえに,当該名称使用行為が違法な侵害行為とされるか否かの判断に当たっては,その名称使用の自由に配慮し,上記諸事情を考慮すべきものとしているのである

 これに対し,本件において,宗教法人の名称に係る人格的利益(名称権)を侵害するおそれがないといえるかどうかが問題となるのは,商標の登録ないしその使用行為であり,かかる行為は,商標を使用する者の業務上の信用(商標法1条参照)という,取引社会における経済的利益に係るものであって(現に,本件商標に係る指定商品及び指定役務の大部分は,宗教法人の本来的な宗教活動やこれと密接不可分な関係にある事業と直接の関係を有するものではない。),宗教法人の名称の使用がその人格的利益に基づくのと比べ,法的利益の性質を全く異にするものであるといわざるを得ない。

 そうすると,天理教事件最高裁判決が指摘したのと同様の諸事情により,本件における,本件商標の使用が霊友会の人格的利益を侵害するおそれがないといえるか否かの判断をなし得るというものでないことは明らかであり,かかる意味で,天理教事件最高裁判決は,本件と事案を異にするものである。

次も同趣旨を判示。
事件番号 平成20(行ケ)10143
事件名 商標登録取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成20年09月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟

審査対象-標章の表現手法と具体的な形体として表された標章それ自体

2008-07-08 07:17:17 | 商標法
事件番号 平成19(行ケ)10293
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

 本願商標は,平型の略直方体をした板状のチョコレートの上部に長手方向に垂直に直線状の溝を設けてこれを同形の4区画に区切り,・・・,その全体的な形状はチョコレート菓子の代表的形体の一つである板状タイプであると同時に立体装飾タイプでもあり,板状タイプに立体装飾タイプを合体させた形体のチョコレート菓子の一種であるといえる。
これによれば,本願商標に係る標章は,チョコレート菓子の形体を表現する従来の手法に従い,これを組み合わせた表現手法を採用したものということができるから,この意味で表現手法自体に新規性があるとはいえない。
 しかし,本願商標が「一般的に使用される標章であ(る)」と言えるか否かは,その表現手法自体が一般的であるか否かではなく,具体的な形体として表された標章それ自体について見るべきであるから,さらに進んでこの点について検討する

 前記認定のように,チョコレート菓子の取引の実情においては,立体形状タイプとして,植物の葉や実,エビ,貝殻,竜の落とし子等を模した立体的形状のチョコレート菓子が製造・販売されていることから見ると,本願商標を構成する各図柄を分離して個々的に見た場合,車エビ及び貝殻は新規な図柄に当たらないし,竜の落とし子の図柄については,原告は,その尾が背の側に外巻である点において腹の側に内巻である通常の図柄とは異なる新規な図柄であると主張するところ,この点の差異は指摘されて気付く程度のいわば微差と言っても良いものであるから,本願商標の自他商品識別力を評価する上でこの違いをことさらに強調することは困難であると言わざるを得ないというべきである

 しかしながら,本願商標においては,車えび,扇形の貝殻,竜の落とし子及びムラサキイガイの4種の図柄を向って左側から順次配列し,さらにこれらの図柄をマーブル模様をしたチョコレートで立体的に模した形状からなるのであり,このような4種の図柄の選択・組合せ及び配列の順序並びにマーブル色の色彩が結合している点において本願商標に係る標章は新規であり,本件全証拠を検討してもこれと同一ないし類似した標章の存在を認めることはできない
 そして,これらの結合によって形成される本願商標が与える総合的な印象は,本願商標が付された前記のシーシェルバーを購入したチョコレート菓子の需要者である一般消費者において,チョコレート菓子の次回の購入を検討する際に,本願商標に係る指定商品の購入ないしは非購入を決定する上での標識とするに足りる程度に十分特徴的であるといえ,本件全証拠を検討しても本願商標に係る標章が「一般的に使用される標章」であると認めるに足りる証拠はないし,本願商標が「商標としての機能を果たし得ないもの」であると認めるに足りる証拠もない。

オ 被告は,商品等の形状は,基本的に識別標章たり得ないし,商品等の形状には選択し得る形状に一定の幅があるのが通常であり,商品等の製造者・販売者や需要者は,そのような認識を当然に持っているのであるから,商品等の形状そのものからなる立体商標は,それが商品等の形状として一般に採用し得る範囲内のものと認識される限りにおいては,多少特異なものであっても,選択し得る形状の一つと理解されるにとどまるのであって,商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状以外は,「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に当たると主張する

 確かに,商品の形状は,第一次的には,当該商品自体の持つ機能を効果的に発揮させたり,あるいはその美感を追求する等の目的で選択されるものであり,取引者・需要者もそのようなものとして認識するであろうことは被告の主張するとおりである。
 しかしながら,商品の形状は,取引者・需要者の視覚に直接訴えるものであり,需要者は,多くの場合,まず当該商品の形状を見て商品の選択・選別を開始することは経験則上明らかであるところ,商品の製造・販売業者においては,当該商品の機能等から生ずる制約の中で,美感等の向上を図ると同時に,その採用した形状を手掛かりとして当該商品の次回以降の購入等に結び付ける自他商品識別力を有するものとするべく商品形体に創意工夫を凝らしていることもまた周知のところであるから,一概に商品の形体であるがゆえに自他商品識別力がないと断ずることは相当とはいえないものである。

 なお,被告は,商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状に限って自他商品識別力を有するものとして,商標法3条1項3号の商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできないとするが,商品の本来的価値が機能や美感にあることに照らすと,このような基準を満たし得る商品形状を想定することは殆ど困難であり,このような考え方は立体商標制度の存在意義を余りにも限定するものであって妥当とは言い難い

不使用取消につき再審請求された引用商標

2008-06-29 20:23:35 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10042
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘



『3 取消事由2(再審による引用商標の消滅)について
(1) 再審請求に係る事実関係
証拠(甲18~23,乙14~18〔枝番があるものはこれを含む〕)によれば,以下の事実が認められる。

ア 原告は,平成17年8月30日,引用商標の商標権者である株式会社クラブコスメチックスを被請求人として,各引用商標の不使用を理由とする法50条1項に基づく商標登録の取消審判を請求した(取消2005-31061号,同31062号,同31063号,同31067号,同31068号)が,各引用商標はいずれも同審判の予告登録前3年以内に使用されていたとして,特許庁により請求不成立の審決(平成18年3月31日ないし4月11日付け,甲18-3,19-3,20-3,21-3,22-3)がされた。

イ 大阪地裁は,平成16年(ワ)第7663号商標権侵害差止等請求事件(原告株式会社クラブコスメチックス,被告株式会社フィッツコーポレーション)に係る平成19年11月5日言渡しの判決(甲18-4)において,前記引用商標1~3に関し,「したがって,原告が本件原告商標等の『LOVE』商標を使用していたのは,昭和50年6月12日のスミス・クライン・アンド・フレンチオーバーシーズ・カンパニー及びラブジャパン社との和解成立までであり,通常実施権者の使用も平成元年9月28日までであるから,被告による被告標章の使用開始時である平成15年8月…まで長期間にわたって本件原告商標等の『LOVE』商標は使用されていなかったものである。」(20頁2行~8行)などと認定した

ウ 原告は,上記大阪地裁判決の認定を援用して,平成19年12月4日,特許庁に対し上記各審決に対する再審請求(再審2007-950006~10号)を行った

(2) 原告は,上記のような事実関係を前提に,引用商標は上記不使用取消審判の再審請求により不使用取消審判の請求登録時の3年前である平成14年9月14日又は請求登録時である平成17年9月14日に遡って消滅するから,これを引用商標とする審決の判断は誤りである旨主張する

 しかし,登録商標は,これにつき不使用取消審判の再審請求があったとしても,現に商標登録の取消しを認める審決がなされかつ同審決が確定するまでは依然として有効に存続するものであるところ,弁論の全趣旨によれば,本件口頭弁論の終結時である平成20年5月28日当時,本件における引用商標につき商標登録の取消しを認める審決がなされこれが確定したと認めることはできない

 したがって,原告の上記主張はそれ自体失当といわざるを得ない。』

立体商標について

2008-06-29 12:00:59 | 商標法
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年06月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=07&hanreiNo=36510&hanreiKbn=06

『第5 当裁判所の判断
 当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における商品等の形状
ア 商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(・・・。)からなる場合についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定する(商標法2条1項,5条2項参照)。

 ところで,商標法は,
 3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商標登録を受けることができない旨を,
 同条2項で「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨を,
 4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。

 このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性について,平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではないが,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられないものとし,同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと,商品等の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解される

 そうすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されない形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追求する目的により選択される形状であっても,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格な基準を充たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することになれば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきである

イ 以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商標法3条1項3号に該当するか否かについて考察する

(ア) 商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。
 このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものではないといえる。
 また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いといえる。

 そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するのが相当である

(イ) また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。

 しかし,同種の商品等について,機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,同号に該当するものというべきである。けだし,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである

(ウ) さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商標法3条1項3号に該当するというべきである
 けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美感の観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品等の形状について,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するからである。』

『・・・
エ 以上のとおりであるから,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当するものというべきである。

2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1) 立体商標における使用による自他商品識別力の獲得

 前記1(1)アのとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条1項18号)。

 立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要する。

 もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,その出所たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であり,また,技術の進展や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば,使用に係る商品等の立体的形状において,企業等の名称や記号・文字が付されたこと,又は,ごく僅かに形状変更がされたことのみによって,直ちに使用に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな形状の相違が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。』