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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

小売等役務商標制度の施行と商標の使用

2010-02-07 11:07:48 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10305
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年02月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


ウ 原告の主張(5)について
 原告は,「PINK BERRY」の表示は,特定の商品との密接な関連性がなく,単に店舗における小売サービスを認識させるにとどまるから,小売等役務の出所を表示するにすぎず,指定商品の出所を識別させるものではなく,本件商標が指定商品について使用されていたとはいえないと主張する

 平成19年4月1日に小売等役務商標制度が新たに施行されたところ,商標を小売等役務について使用した場合に,商品についての使用とは一切みなされないとまではいうことができない
 すなわち,商品に係る商標が「業として商品を…譲渡する者」に与えられるとする規定(商標法2条1項1号)に改正はなく,「商品A」という指定商品に係る商標と「商品Aの小売」という指定役務に係る商標とは,当該商品と役務とが類似することがあり(同条6項),商標登録を受けることができない事由としても商品商標と役務商標とについて互いに審査が予定されていると解されること(同法4条1項10号,11号,15号,19号等)からすると,その使用に当たる行為(同法2条3項)が重なることもあり得るからである。

 そして,商品の製造元・発売元を表示する機能を商品商標に委ね,商品の小売業を示す機能を小売等役務商標に委ねることが,小売等役務商標制度本来の在り方であり,小売等役務商標制度が施行された後においては,商品又は商品の包装に商標を付することなく専ら小売等役務としてのみしか商品商標を使用していない場合には,商品商標としての使用を行っていないと評価する余地もある。

 しかしながら,本件商標は,小売等役務商標制度導入前の出願に係るものであるところ,前記1の認定事実によれば,被告は,小売等役務商標制度が施行される前から本件商標を使用していたものである。
 このように,小売等役務商標制度の施行前に商標の「使用」に当たる行為があったにもかかわらず,その後小売等役務商標制度が創設されたことの一事をもって,これが本件商標の使用に当たらないと解すると,指定商品から小売等役務への書換登録制度が設けられなかった小売等役務商標制度の下において,被告に対し,「洋服」等を指定商品とする本件商標とは別に「洋服の小売」等を指定役務とする小売等役務商標の取得を強いることになり,混乱を生ずるおそれがある
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

商標法3条1項6号の趣旨

2010-01-31 22:05:28 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10270
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年01月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 商標法3条1項6号の趣旨
 商標法は,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条),商標の本質は,自己の業務に係る商品又は役務と識別するための標識として機能することにあり,この自他商品の識別標識としての機能から,出所表示機能,品質保証機能及び広告宣伝機能等が生じるものである。

 同法3条1項6号が,「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を商標登録の要件を欠くと規定するのは,同項1号ないし5号に例示されるような,識別力のない商標は,特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,自他商品の識別力を欠くために,商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。

登録商標が使用された指定商品の認定(商標法50条)

2009-12-30 19:11:57 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10171
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 被告の反論
(1) 使用標章が使用された商品に係る認定判断の誤り(取消事由1)に対し原告は,原告商品が「形鋼」に属するから,請求に係る指定商品である「鋼」に該当すると主張する。
 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
 すなわち,原告商品は,「建築用又は構築用の金属製専用材料」である。
 ・・・原告商品は,家屋を建築するのに用いられているのみで,機械,金型,家具の材料等となる汎用鋼材として使用している例はない。
 以上によれば,原告商品は「建築用部材」に該当するから,「鋼」には当たらない。

・・・
 以上のとおり,原告商品が,「建築用又は構築用の金属製専用材料」である以上,「鋼」と「建築用又は構築用の金属製専用材料」とが互いに排他的関係にあるか否かは関係がなく,「鋼」には当たらない
・・・

第4 当裁判所の判断
1 使用標章が使用された指定商品に係る認定判断の誤り(取消事由1)
(1) 原告商品が「鋼」に当たるかについて
・・・
イ判断
(ア) 原告が登録商標を使用した原告商品が,被告において登録商標の取消しを求めた指定商品である「鋼」に含まれるか否かを判断する(なお,取消審判の争点は,原告が登録商標を使用した原告商品が,商標法施行規則6条別表所定の「鋼」に形式的に該当するか否かではなく,原告商品が,被告において取消しを求めた指定商品である「鋼」に該当するか否かである。・・・。)。

 上記のとおり,原告は,審判の請求の登録がされた平成19年11月6日の前3年以内に,原告商品の宣伝広告,見積書,契約書等に,使用標章を表記してこれを使用している。そして,原告商品は,次のとおりの特徴を有している。・・・。原告商品は,このような性質・特徴を持った典型的な鋼材であるから,被告において登録商標の取消しを求めた指定商品である「鋼」に含まれることは明らかである。

(イ) この点,被告は,原告商品が「建築用又は建築用のスチール製専用材料」に該当するから「鋼」には含まれない,したがって,審決の認定,判断に誤りはないと主張するようである。
 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。

 商標法50条は,何人も,登録商標に係る指定商品等について,その登録商標の取消しの審判を請求することができる旨,及び,被請求人(商標権者)が,その請求に係る指定商品等のいずれかについて登録商標の使用を証明しない限り,登録商標の取消しを免れない旨を規定する。不使用取消しに係る審判請求人において,広範な範囲の指定商品等を不使用取消請求の対象として選択すれば,広範な範囲で取消しの効果を得ることができるが,他方,被請求人(商標権者)は,広範な範囲の指定商品等のいずれかについて,登録商標を使用していることを証明することによって,登録商標の取消しを回避することができ,立証負担は軽減されることになる。同条は,そのような公平の観点から規定されたものであり,不使用取消に係る審判請求人は,これらの得失を考慮して,取消しを求める指定商品の範囲を選択することになる。

 ところで,本件において,被告が請求した本件不使用取消しの審判は,指定商品「鋼」についての登録商標の不使用を理由とするものであって,「建築用又は建築用のスチール製専用材料を除外した,その余の鋼」についての登録商標の不使用を理由とするものではない(このような特定方法が,取消請求の適法な特定として許されるか否かについて,ここでは言及しない。)。そして,原告(登録商標権者)は,同審判において,本件商標を「鋼」について使用したこと証明できた以上,不使用を理由とする取消しを免れるのはいうまでもない。

 なお,本件商標の指定商品は,「鋼」とともに「建築用又は構築用のスチール製専用材料」の両者が併記して登録されているが,そのような指定商品の登録があるからといって,指定商品「鋼」の意義を,下位概念である指定商品を除く趣旨に解釈しなければならない根拠とはなり得ないのみならず,被告のした不使用取消審判の対象とした指定商品について,「建築用又は建築用のスチール製専用材料を除外した『鋼』」と解する根拠にもなり得ない

商標の構成それ自体でなく商標を使用することが公序良俗に反する場合(商標法4条1項)

2009-12-23 14:56:46 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10055
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


第5 当裁判所の判断
1 はじめに
 商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」については,当該商標の構成に,非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形等を含む商標が,これに該当することは明らかである。
 また,当該商標の構成に,そのような文字,図形等を含まない場合であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが
① 法律によって禁止されていたり,
② 社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反していたり,
③ 特定の国若しくはその国民を侮辱したり,国際信義に反することになるなど特段の事情が存在するときには,当該商標は同法4条1項7号に該当すると解すべき余地がある
 ただし,
① 商標法は,同法4条1項7号の外に,同項各号の規定によって,公益との調整,既存の商標権者や既に同一又は類似の商標を使用している者との利益調整など,さまざまな政策的な観点から,登録されるべきでない商標を具体的かつ網羅的に列挙していること,
② 公の秩序又は善良の風俗を害するか否かの判断は,社会通念によって変化し,客観的に確定することが困難であること
等に照らすならば,当該商標の構成それ自体ではなく,当該商標を使用することが,いわゆる公序良俗に反するとして同法4条1項7号に該当するとされる場合は,自ずから限定して解釈されるべきものといえよう。

 特に,商標法4条1項15号,19号等の各規定が置かれている趣旨に照らすと,単に,他人の業務に係る商品や役務と混同を生ずるおそれがある場合,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするもののような場合は,それぞれ同法4条1項15号,19号等に規定された各要件を充足するか否かによって,同法4条1項所定の不登録事由の成否を検討すべきであって,そのような事実関係が存在することをもって当然に同法4条1項7号の不登録事由に該当すると解するのは妥当とはいえない

 なお,同法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するか否かの判断は,登録査定時(拒絶査定不服審判の審決時)を基準とすべきである。
 上記の観点を前提として,本件商標の同法4条1項7号該当性について,検討する。


2 「テディベア」の語の意味及び逸話を理由とする本件商標の商標法4条1項7号該当性について
 原告は,「テディベア」の語及びセオドア・ルーズベルトに関連する逸話は,本件商標の登録査定時(昭和61年11月28日)において,我が国で周知であったから,本件商標登は,商標法4条1項7号に該当すると主張する。
 しかし,以下の証拠(当審において提出された証拠を含む。)によっても,本件商標の登録査定時に,我が国において,「テディベア」の語及びセオドア・ルーズベルトに関連する逸話が一般に広く知られていたと認めることはできないから,原告の本件商標登録が,商標法4条1項7号に該当するとの原告の主張は,主張の前提を欠き,採用できない。


平成21年12月21日 平成21(行ケ)10057 飯村敏明裁判長 も同趣旨

商品についても使用される小売等役務の商標(商標法50条)

2009-12-23 11:25:34 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10177
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


(4) 次に,本件使用標章の使用が本件商標の指定商品についての使用といえるかについて判断する。
ア 上記(1)認定のとおり,本件広告には,「カーナビゲーション装置」,「DVDプレーヤー」及び「スピーカー」といった商品の写真とともに各商品の品番,価格等が表示されているから,本件商標の指定商品の一つである「電気通信機械器具」についての広告であるということができ,上記(1)認定のとおり,その広告の右上角に本件使用標章が付されているのであるから,本件使用標章の使用は,本件商標の指定商品についての使用ということができる。

イ この点について
原告は
① 本件広告の上記各商品の写真には,固有の書体からなる「SANYO」,「JVC」,「carrozeria」,「macAudio」等の製造業者の商標が併記されているところ,これらは明らかに当該商品の出所を表す製造者の商品商標と認識されるものである,
② 一方,本件広告の右上角に表示された商標は,当該新聞折り込み広告主であり,かつ,掲載商品を取り扱う小売等役務の商標として認識されるものである,と主張する


 しかし,一つの商標が小売等役務の商標として使用されるとともに,商品についても使用されているということはあり得るのであって,本件使用標章が,小売等役務の商標として使用されているからといって,商品について使用されていないということはできないというべきである。

 また,上記(1)認定のとおり,本件広告の商品の写真には,「SANYO」,「JVC」,「carrozeria」,「macAudio」等の製造業者の商標が付されているが,一つの商品に複数の商標が使用されるということも妨げないのであるから,本件広告の商品の写真にこれらの製造業者の商標が付されているからといって,本件使用標章がこれらの商品について使用されていないということはできないというべきである。

商標法50条2項の規定の証明対象

2009-12-06 20:14:35 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10122
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年11月30日A
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

ア SLC社(被告代理人)とジャス社との間の本件専用使用権設定契約は,平成16年10月30日の期間満了により終了した(当事者間に争いがない)ことに伴い,ベスト社の本件商標についての通常使用権は,その基礎を失い,消滅した。すなわち,本件においては,ジャス社はベスト社に対して,本件専用使用権設定契約の終了前である平成16年9月10日付けで,本件通常使用権を付与したが,ジャス社の本件専用使用権設定契約が平成16年10月30日に期間満了により終了したため,これにより,ベスト社の通常使用権者たる地位は消滅したが,ベスト社は,前記認定のとおりの態様で,本件商標を使用した

 ところで,ベスト社の通常使用権は消滅したのであるから,ベスト社の上記使用が商標法50条2項所定の「通常使用権者」による使用に当たるとするためには,ベスト社が,何らかの取得原因によって本件商標についての通常使用権を得たことを,被告において証明することが必要となる。しかし,本件全証拠によるも,ベスト社が,本件商標についての通常使用権を失った後に,通常使用権を取得した事実を認めることはできない

 したがって,ベスト社が本件商標を継続的に使用したことをもって,通常使用権者の使用がされたとした審決の認定,判断は誤りである。
・・・

3 結論
(1) 商標法50条2項は,登録商標の取消しを免れるためには,被請求人において,「・・・通常使用権者・・・が・・・登録商標の使用をしていること」を証明すべき旨を規定している。

 ところで,法律効果そのものは証明の対象にすることはできないのであって,証明の対象にされるのは,当該法律効果を発生,変更又は消滅等させる根拠となる具体的な要件事実の存在である。
 本件の主たる争点は,本件予告登録がされた平成19年12月14日より前の3年以内の時期に本件商標を使用したベスト社が,本件商標権についての通常使用権者であるか否かであるが,「ベスト社が通常使用権者である」という点は法律効果であるから,それ自体を直接証明の対象にすることはできない。立証の対象にすることができるのは,ベスト社が通常使用権を取得した根拠となった具体的な事実が存在したこと(例えば,それが契約であれば,当該契約が,いつ,どこで,いかなる当事者間で,どのような内容の意思の合致がされたかに係る事実の存在等)である

 本件では,ジャス社の本件専用使用権設定契約は平成16年10月30日に期間満了により終了し,これに伴いベスト社の通常使用権者たる地位も消滅したのであるから,「ベスト社が通常使用権者である」という法律効果を導くためには,その要件に該当する具体的事実の存在することが立証されることが不可欠となる。そのためには,要件事実に該当する具体的事実が何であるかを,主張立証責任を負担する被請求人(被告)に求釈明するなどした上,それが証拠によって裏付けられるかを検討することが必要不可欠となる。

 審決では,通常使用権者としての地位を取得した根拠となる具体的な要件事実がどのようなものであるか,どのような証拠によって裏付けられたかについて審理及び判断をすることなく,直接「ベスト社が通常使用権者である」との結論を導いている点において不備があるというべきである。

法4条1項8号,10号,15号及び19号該当性(趣旨、判断基準時)

2009-11-08 19:18:36 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10323
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 法4条1項8号該当性について
(1)  法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからみると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち,人は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。
 そうすると,人の名称等の略称が8号にいう「著名な略称」に該当するか否かを判断するについても,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべきものということができる(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号597頁)。

 そして,上記のとおり,法4条1項8号が一定の人格的利益を保護するものであることからすると,ある商標登録が8号に該当すると判断されるためには,当該商標に係る人格的利益の帰属主体(自然人又は団体)が特定されることが必要であり,この特定は,当該商標が当該主体の肖像・氏名・名称を含むか否か,著名な雅号,芸名又は筆名を含むか否か,これらの著名な略称を含むか否かといった各要件該当性判断の論理的前提となるものである

 しかも,法4条1項8号該当性の基準時は同号に違反したとされる商標登録の出願時及び登録査定時と解されるから,上記人格的利益の帰属主体ひいては上記著名性等はこれら基準時において現に存在することを要するし,人格的利益は一身専属的な権利であり相続の対象にはならないことからすれば,自然人の場合はその死亡により8号により保護すべき人格的利益が消滅し,8号該当性も消滅すると解すべきことになる。

・・・

4 法4条1項10号,15号及び19号該当性について
 法4条1項10号,15号及び19号は,基準時である出願時及び登録査定時の双方においてある商標が需要者の間に広く認識されている場合などに,当該商標が出所を表示する他人の業務との関係で商品又は役務の混同の防止を図ろうとする趣旨の規定であり,基準時である出願時及び登録査定時の双方において当該商標が表示する出所の主体(すなわち「他人」)を特定すべき点において,前記3(1)に説示したところと同趣旨が妥当する。

 そうすると,上記各規定該当性を判断する上では,前記3(3)に説示したとおり,Aの生前における「極真会館」に周知性が認められるだけでは足りず,原告自身又は原告が運営する「極真会館」という団体の上記各基準時における周知性やそれらの業務に係る商標と本件商標が類似するかどうかなどを審理判断しなければならない。しかるに,審決はこれらの点について審理判断をしておらず,審理不尽といわなければならない。


関連事件
平成20(行ケ)10323

平成21(行ケ)10074
(商標法4条1項8号における「含む」の意義)

特に取引の実情を考慮して類似するとした事例

2009-10-31 22:28:37 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

・・・
エ 取引の実情等について
 前記(1)に認定したとおり,原告は,平成6年ころから,長年にわたって,引用商標中の「優肌」を含む商標(「優肌シリーズ」,「優肌」,「優肌絆」,「優肌包帯」,「ゆうきばん/優肌絆」,「優肌パミロール」,「優肌パーミエイド」等)を,原告の製造に係る商品(医療用粘着テープ,医療用粘着フィルム,医療用包帯等の商品)の包装箱に継続的に使用し,また,雑誌等の宣伝広告媒体に掲載していること,絆創膏等の商品について,複数のメーカーが存在するが,各メーカーは,例えば,ニチバンは「スキナゲート」,祐徳薬品工業は「ユートク」,スリーエムヘルスケアは「マイクロポア」の各商標を有して,互いに異なった商標を使用していること等の事情に照らすと,「肌優」が本件商標の指定商品に使用されると,取引者,需要者は,同一の出所に由来するものと誤認する可能性があるという意味で「優肌」と類似する商標と理解するというべきである。

オ 小括
 以上のとおり,取引の実情を考慮して,本件商標と引用商標とを対比すると,観念及び外観において類似する。本件商標と引用商標がいずれも造語であり,特に本件商標については,複数の称呼が生じ得ることにかんがみると,本件商標と引用商標の類否を判断するに当たり,本件において称呼を重視するのは妥当とはいえない

 本件商標に係る指定商品のうち,ばんそうこう,包帯,創傷被覆材が引用商標の指定商品と同一であり,その他の指定商品が引用商標の指定商品と類似することは当事者間に争いがない。

 そうすると,本件商標は,引用商標とその指定商品が同一又は類似する。

商標法50条1項の「使用」の意義

2009-10-25 16:20:20 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10216
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 標章の「使用」に当たる行為について規定する法2条3項2号に法改正によって「輸出」が追加されたのは,経済のグローバル化の進展により,模倣品問題が国際化・深刻化してきたことにかんがみ,国内の製造や譲渡の段階で差し止めることができない場合でも,輸出者が判明した場合には,権利者が輸出の段階で差止めなどの措置を講ずることを可能とするためであり,主として商標権の侵害の場面が想定されている
・・・
 したがって,「輸出」は不使用取消しの場面における商標の「使用」には該当しないというべきであり,仮に,本件において被告主張の輸出の事実が認められるとしても,当該事実から本件商標について法50条にいう使用を認めた本件審決の判断は誤りというべきである


第4 当裁判所の判断
・・・
(1) 不使用取消審判における「使用」の意義
 法50条1項は,継続して3年以上日本国内において指定商品についての登録商標の使用がされていないときに,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨を規定し,同条2項は,不使用取消審判においては,商標権者等が使用の事実を証明しない限り商標登録の取消しを免れない旨を規定しているが,法は,標章の「使用」に当たる行為についても法2条3項各号をもって定義しているところ,同項2号によると,「商品又は商品の包装の標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為」は標章の「使用」に当たると規定されている

 法50条に規定されている不使用取消審判の制度は,本来商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられる商標法上の保護を,長期間にわたって使用されていない商標に与えたままにしておくことは,国民一般の利益を不当に侵害し,かつ,その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなるため,そのような商標登録を取り消すための制度であると解される。
 そして,この制度の適切な運用により,長期間使用されていない登録商標が取り消され,登録商標に対する信頼が相対的に確保されるのであり,これは商標を保護して商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図るという法の目的に合致するものであり,不使用取消審判の場面における「使用」の概念を法2条3項各号において定義されているものと別異に理解すべき理由はない

 この点について,原告は,法2条3項2号に規定する標章の使用に当たる行為に「輸出」が加えられたのが法改正(判決注:平成18年法律第55号による改正をいう。)によるものであることから,法改正前には使用に当たらなかった輸出については,法改正後も使用に当たらないと解すべきであるとの趣旨の主張をするが,少なくとも法改正後の現在においては上記のとおりに解されるべきものであるから,原告の主張を採用することはできない。

平成21(行ケ)10217も同趣旨

商標法4条1項8号における「含む」の意義

2009-10-24 21:56:22 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10074
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

・・・
(2) 事案に鑑み,法4条1項8号における「含む」の意義の観点から,審決の当否について判断する(取消事由2)。

ア 本件商標の内容は,前記のとおりであり,文字部分「INTELLASSET」のうち冒頭の5文字は被告の略称である「INTEL」と同一であるから,本件商標は物理的には被告略称を含んでいることになる。
 しかし,法4条1項8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標はその他人の承諾を得ているものを除き商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護すること,すなわち,人(法人等の団体を含む)は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護することにあるところ(最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁),問題となる商標に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず,当該他人を想起,連想できないのであれば,他人の人格的利益が毀損されるおそれはないと考えられる
 そうすると,他人の氏名や略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく,その部分が他人の略称等として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解すべきである。

イ かかる見地からみると,本件商標は,前記のとおり図形部分と「INTELLASSET」の文字部分から成るものであるところ,図形部分は青い縁取りのある正方形内の中央に欧文字の「I」を白色で表し,「I」の文字の背景には全体として青色と白色とが混ざり合った色彩が施されており,・・・ことに照らすと,「INTELLASSET」の文字部分は外観上一体として把握されるとみるのが自然である上,「INTELLASSET」が日本においてなじみのない語であり,一見して造語と理解されるものであって,特定の読み方や観念を生じないと解される(本件商標中の図形部分を考慮しても同様である。)。
 したがって,被告の略称である「INTEL」は,文字列の中に埋没して客観的に把握されず,被告を想起・連想させるものではないと認めるのが相当である。

 そうすると,本件商標は物理的には被告の略称である「INTEL」を包含するものの,「他人の氏名・・・の著名な略称を含む商標」(法4条1項8号)には当たらないというべきであり,原告主張の取消事由2は理由がある。

1個の商標から2個以上の呼称,観念を生じる場合の類否判断

2009-10-18 09:18:20 | 商標法
事件番号 平成21(ネ)10031
事件名 商標権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成21年10月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 商標の類否
(1) 判断基準
 商標法37条1号は,「指定商品…についての登録商標に類似する商標の使用…」を商標権の侵害とみなす旨規定するところ,商標の類否は,同一又は類似の商品に使用された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものであるが,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準というにすぎない。したがって,上記3点において綿密な観察によれば個別的には類似しない商標であっても,具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があるし,他方,上記3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,取引の実情によって出所を混同するおそれが認められないものについては,類似しないというべきものである(最高裁平成3年(オ)第1805号平成4年9月22日第三小法廷判決・裁判集民事165号407頁,最高裁平成6年(オ)第1102号平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。

 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
・・・

(3) 本件商標と被控訴人各標章との類否
 ・・・
 このように,被控訴人各標章は,「Agatha」と「Naomi」の2つの語から構成され,それぞれの冒頭は大文字であり,2つの語の間には空白があることにもかんがみると,被控訴人各標章の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとまでいうことはできない。そして,上記アのとおり,アクセサリーの分野において「AGATHA」が周知性を有し,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えることに照らすと,被控訴人各標章からは,「Agatha Naomi」という一連の称呼・観念が生じるとしても,それだけでなく,「Agatha」という称呼・観念も生じ得るものと解するのが相当である。
 ・・・

 そこで,被控訴人各標章中の「Agatha」と本件商標「AGATHA」とを対比すると,まず,「Agatha」からは,「アガタ」又は「アガサ」の称呼が生じ,本件商標「AGATHA」の称呼である「アガタ」と同一又は類似である。また,「Agatha」からは,アクセサリーの分野で周知性を有する控訴人又は控訴人の製造販売に係るアクセサリー,宝飾品の観念が生じ得るから,本件商標「AGATHA」と観念においても同一である。

 被控訴人各標章中の「Agatha」の文字は一部が小文字であったり大文字に装飾が施されており,必ずしも本件商標と外観において類似するとはいえないものの,「Agatha」がアクセサリーや宝飾品に使用されるときは,称呼及び観念が同一又は類似であることに照らすと,デパートにおける販売とインターネットを通じた通信販売という販売方法の相違を考慮してもなお,被控訴人各標章中の「Agatha」は,周知の「AGATHA」との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ず,両者は,全体として類似といわざるを得ない。

エ そして,1個の商標から2個以上の呼称,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。よって,被控訴人各標章から生じる称呼,観念の1つである「Agatha」と本件商標「AGATHA」とが類似する以上,被控訴人各標章と本件商標は,類似するものといわざるを得ない。

法4条1項8号の趣旨

2009-05-29 20:37:35 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10005
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年05月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=07&hanreiNo=37632&hanreiKbn=06

1 取消事由1(法4条1項8号に係る法令解釈の誤り)について
(1) ・・・。

(2) 原告は,法4条1項8号の立法趣旨などにかんがみると,本願商標が引用会社の名称を含むものであって,かつ,原告が同社の承諾を得ていないとしても,同社の人格的利益を侵害しない場合には,同号に違反するものではなく,本願商標の登録が認められるべきであるとるる主張するが,
同号は,
その括弧書以外の部分に列挙された他人の肖像又は他人の氏名,名称,その著名な略称等を含む商標は,括弧書にいう当該他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないとする規定である。その趣旨は,肖像,氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。」(最高裁平成15年(行ヒ)第265号平成16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁)上,また,
「法4条1項は,商標登録を受けることができない商標を各号で列記しているが,需要者の間に広く認識されている商標との関係で商品又は役務の出所の混同の防止を図ろうとする同項10号,15号等の規定とは別に,8号の規定が定められていることからみると,8号が,他人の肖像又は他人の氏名,名称,著名な略称等を含む商標は,その他人の承諾を得ているものを除き,商標登録を受けることができないと規定した趣旨は,人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像,氏名,名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち,人は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである。略称についても,一般に氏名,名称と同様に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には,本人の氏名,名称と同様に保護に値すると考えられる。」(前掲最高裁平成17年7月22日第二小法廷判決)のである。

 法4条1項8号は「他人の肖像又, は他人の氏名若しくは名称」を含む商標について,括弧書きによる「その他人の承諾を得ているもの」を除き,商標登録を受けることができないと規定するにとどまるが,そこには,前記最高裁判例に判示されているとおりの意味があるのであって,原告の主張するように,同号の規定上,人格的利益の侵害のおそれがあることなどのその他の要件を加味して,その適否を考える余地はないというべきである。

 要するに,同号は,出願人と他人との間での商品又は役務の出所の混同のおそれの有無,いずれかが周知著名であるということなどは考慮せず,「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」を含む商標をもって商標登録を受けることは,そのこと自体によって,その氏名,名称等を有する他人の人格的利益の保護を害するおそれがあるものとみなし,その他人の承諾を得ている場合を除き,商標登録を受けることができないする趣旨に解されるべきものなのである。

ホームページ中の記事中の標章の使用

2009-03-28 22:20:50 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10326
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年03月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義


(2) 上記(1)によれば,被告のホームページ(甲18及び25)は,全体として,被告の役務(本件商標に係る指定役務である「建物の貸借の代理又は媒介」)に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するものであることは明らかである。
そして,「スタッフ日誌」と題する各記事を被告のホームページから独立したものとみるべき事情は窺われないし,その内容をみても,最寄り駅から遠方に所在する物件(そのような物件の借り手が比較的見つかり難いことは明らかである。)の借り手を誘引するものや,仙川駅(上記(1)によれば,被告が取り扱う物件は,仙川駅を最寄り駅とするものが多いものと認められる。)周辺の魅力を紹介するものであるから,「スタッフ日誌」と題する各記事を被告のホームページ上に掲載する行為も,被告の上記役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するものであると評価し得るものである

そうすると,そのような「スタッフ日誌」と題する各記事の冒頭に原告主張標章を付すことは,商標法2条3項8号に規定する「役務に関する広告・・・を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」,すなわち,標章の「使用」に該当することが明らかであり,また,そのような各記事の冒頭に付された原告主張標章は,同条1項2号に規定する「業として役務を提供・・・する者がその役務について使用をするもの」,すなわち,商標法上の「商標」に該当することが明らかであるから,被告は,少なくとも平成19年秋ころまで,原告主張標章を商標として使用していたものと認めるのが相当である。

商標法51条1項の解釈

2009-03-01 19:33:10 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10347
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年02月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


ア 商標法51条1項は,商標権者が故意に登録商標に類似する商標の使用等であって他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるもの等をしたときは,何人もその商標登録を取り消すことについて審判を請求することができると規定し,同条2項は,前項の規定により商標登録を取り消すべき旨の審決がなされたときは,商標権者であった者は,審決が確定した日から5年を経過した後でなければ,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品等について,その登録商標又はこれに類似する商標についての商標登録を受けることができないと規定している。
 ところで商標権者は,指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有するが,そのほかに,他人による類似商標の使用等が商標権侵害とみなされるため事実上類似商標の使用等も独占していることから,商標法51条は,商標権者自らが故意により上記にいう類似商標等の使用を行い,その結果他人の業務に係る商品等と混同を生じさせたときは,商標権者としての商標の正当使用義務に違反するのみならず,他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するものであるから,何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとし,商標権を不法に行使する者に対して制裁を課すとともに,第三者の権利及び一般公衆の利益を保護しようとしたものである(最高裁昭和61年4月22日第三小法廷判決・裁集民147号587頁参照)。

 上記のような商標法の趣旨に照らせば,同法51条1項にいう「商標の使用であつて…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る商標が他人の商標と類似するというだけでは足りず,その具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との混同を生じさせるおそれを有するものであることが必要と解される

審決書の記載事項及び審理のあり方

2009-02-04 07:19:12 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10317
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年01月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 以下,審判における審決書の記載事項及び審理のあり方について述べる。
(1) 本件審判は,商標法50条に基づく商標登録についての不使用を理由とする取消しの審判である。同条2項は,「審判の請求の登録前3年以内に・・・商標権者・・・が,その請求に係る指定商品・・・についての登録商標の使用をしていること」についての主張立証責任は,商標権者において負担すべき旨規定する。
 ところで,同条は,取り消すべき場合の要件を,一般的抽象的な形式により規定している。そこで,登録商標不使用取消を審理判断する審判体としては,
①まず,主張立証責任を負担する商標権者に対して,当該法規の要件(取消しを免れる要件)である「審判の請求の登録前3年以内に・・・商標権者・・・が,その請求に係る指定商品・・・についての登録商標の使用をしている」との抽象的事実そのものではなく,同要件に該当する具体的事実(立証命題)を主張させ
②しかる後に,商標権者の主張に係る,法規の要件に該当する具体的事実が証拠によって裏付けられるか否かを審理すること
が不可欠
となる(請求人に対して,反論の主張及び反証の機会を与える必要があることは当然である。)。

 また,審決書には,「結論」のみならず,結論を導く「理由」を記載しなければならない旨規定されている(商標法56条,特許法157条2項)。

 登録商標不使用取消の審判における結論を導くための論理は,上記に述べたとおりであるから,審決書の「理由」には,①法規の要件に該当する具体的な事実主張(立証命題)が何であるか,②具体的な事実主張(立証命題)が,証拠によって裏付けられるか否の判断が,論理的に過不足なく記載されることが必要となる。

(2) 本件審決書では,理由欄に,「当事者の主張」として「第2 請求人の主張」及び「第3 被請求人の主張」が,書面の提出された時系列にそって記載され,また,「審判体の判断」として「第4 当審の判断」が記載されている。

 しかし,審決書に,具体的な要件事実と無関係な主張を,そのまま記載する意味はないのみならず,本件審決書の全体をみても,審理の対象である原告(被請求人)の主張に係る「商標権者,専用実施権者又は通常実施権者のいずれかが,・・・指定商品・・・についての登録商標の使用をしている(事実)」に該当する具体的事実(立証命題)が何であるかについて,明確な記載がされていない。