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母親になりたての頃。
我が子の、月検診に通っていました。
かつては「日本人病院」と呼ばれていたという、歴史ある総合病院です。
その施設のエレベーターで、ふと行き合わせた御婦人でした。
電動式の車椅子に、体を投げ出すように乗っているその人は、瞳孔が黒く開いたままの、焦点を結ばぬ視線を、あらぬ方向へ投げています。
その目は、「驚愕」の形に凍りついていて動きません。
何か、とてつもなく怖ろしいものを見て、そのままそこに囚われて、魂ごと凝結してしまったような。
狂気の中にいれば、いくらかでも救われるだろうに
いったい、何と対峙しているものか
まともに発狂すらできぬまま、ただ大きく見開かれている、一点の濁りない黒い瞳孔。
あらゆるチューブに体中巻きつかれるようにして、忘我の中、その人の時間は、もう止まっているように見えました。
じっと見続けるのも不躾な気がして、私がそっと視線を外したら
車椅子を押している、介助者らしい年配の日系男性は、私が日本出身の日本人であることを見てとったのか
私に向かって、一言こう言われました。
「ピカ、見よったよ」
と、お国訛りの日本語で。
ヒュッと吸った息を、自然に吐き出すことを、私はつかのま忘れました。
おずおずと指を伸ばして、そっと車椅子に触れてみて
「…ご苦労、なさいましたね…」
語尾が震えて引き攣れて、言いきれなかったことを覚えています。
エレベーターの扉が開いて、一緒に地上に降り立って
そのお二人の後ろ姿に低頭し、言葉も無く見送りながら、ある一点から、私はどうしても目が離せなかったのです。
年配の日系男性が介助する、電動式車椅子の背面越し。
アームレストから、突き出されるように、こぼれるように。
手。
白い。
小鳥の死骸の足のように、半ば軽く握られて強張って。
手。
白い。
真っ白い。
老人性の白斑のように、色素が抜けて、むごいほど儚いほど青白い。
なのに。
童女のようにほっそりした華奢な指で、枯れて萎えているのにどこかしら無垢なまま。
幾度か。
あの日の白い手の夢を見ました。
夢の中だとわかっていても、その手を見つけたら、とにかく手を差し伸べて握ろうと。
でも。
それが叶ったことは、これまでありませんでした。
昨日。
本当に久しぶりに、あの白い手が私の夢を訪れてくれました。
朝方。
私は瞼を開けたのです。
瞼を開けても、枕の向こうに、その白い手が見えました。
私は咄嗟に、手を伸ばしてその手を握りしめました。
半覚醒から、覚醒してみると
その白い手の感触は、ただ単に枕のへりの手触りで。
でも私は、しばらくの間。
枕のへりをぎゅっと握りしめたまま、みじろぎきひとつできません。
プレジデントオバマが、広島を訪問されたという報道に触れて、私の夢を訪れてくれたのでしょうあの白い手は。
あれは私の同胞の手。
間違った方向に、二度と再び、行ってはいけないと、私の手を引いてくれる同胞の手。
白い。
白い。
真っ白い手。
Dear My Sister.
我が子たちにも、若い衆たちにも、ちゃんと伝えていくことは伝えていくから、どうかゆっくり休んで。
日本で暮らした子供の頃、「はだしのゲン」の絵柄が怖くて読めなかったけど
少し大人でなってから「赤い箸とみいちゃん」なら、心気張って読めたから。
私、広島は通りすがっただけだったけど、長崎には一度行ったことがあるよ。
見てきたこと伝える。
聴いてきたこと伝える。
あなたのことも、ちゃんと子供たちに伝えたよ。
この南の島。
広島、長崎とは密接よ。
なんたって、移住されてらした方が多いから。
私の旦那さまの、母方のお婆さまも、不思議な御縁で広島の御出身。
プレジデントオバマ、折り鶴折って持って行ったって。
さすがロコボーイ。さすがプナホの卒業生。ちゃんと教わってたんだねオリガミを。
もう私。
白い手の夢を見ること、きっと無くなることでしょう。
私が、無事、めでたく三途の河とやらを渡り切るまでは。
白い。
白い。
真っ白い手。
そのときは
「でかしたのぅ。そうじゃけのぅ。あんたさん、頑張りんさったのぅ。」
そんなふうに、笑顔で、やんややんやの拍手喝采を、ここぞと浴びせてくれそうな予感がするんです。
※………はっ!そういえば、ペットブログだったっ!
↑お写真は、初代シーズーのホクちゃん。
「Dear My Sisterんとこに、ホームステイさせてもらってる」
今日のところは、そういう「設定」でイイね?
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母親になりたての頃。
我が子の、月検診に通っていました。
かつては「日本人病院」と呼ばれていたという、歴史ある総合病院です。
その施設のエレベーターで、ふと行き合わせた御婦人でした。
電動式の車椅子に、体を投げ出すように乗っているその人は、瞳孔が黒く開いたままの、焦点を結ばぬ視線を、あらぬ方向へ投げています。
その目は、「驚愕」の形に凍りついていて動きません。
何か、とてつもなく怖ろしいものを見て、そのままそこに囚われて、魂ごと凝結してしまったような。
狂気の中にいれば、いくらかでも救われるだろうに
いったい、何と対峙しているものか
まともに発狂すらできぬまま、ただ大きく見開かれている、一点の濁りない黒い瞳孔。
あらゆるチューブに体中巻きつかれるようにして、忘我の中、その人の時間は、もう止まっているように見えました。
じっと見続けるのも不躾な気がして、私がそっと視線を外したら
車椅子を押している、介助者らしい年配の日系男性は、私が日本出身の日本人であることを見てとったのか
私に向かって、一言こう言われました。
「ピカ、見よったよ」
と、お国訛りの日本語で。
ヒュッと吸った息を、自然に吐き出すことを、私はつかのま忘れました。
おずおずと指を伸ばして、そっと車椅子に触れてみて
「…ご苦労、なさいましたね…」
語尾が震えて引き攣れて、言いきれなかったことを覚えています。
エレベーターの扉が開いて、一緒に地上に降り立って
そのお二人の後ろ姿に低頭し、言葉も無く見送りながら、ある一点から、私はどうしても目が離せなかったのです。
年配の日系男性が介助する、電動式車椅子の背面越し。
アームレストから、突き出されるように、こぼれるように。
手。
白い。
小鳥の死骸の足のように、半ば軽く握られて強張って。
手。
白い。
真っ白い。
老人性の白斑のように、色素が抜けて、むごいほど儚いほど青白い。
なのに。
童女のようにほっそりした華奢な指で、枯れて萎えているのにどこかしら無垢なまま。
幾度か。
あの日の白い手の夢を見ました。
夢の中だとわかっていても、その手を見つけたら、とにかく手を差し伸べて握ろうと。
でも。
それが叶ったことは、これまでありませんでした。
昨日。
本当に久しぶりに、あの白い手が私の夢を訪れてくれました。
朝方。
私は瞼を開けたのです。
瞼を開けても、枕の向こうに、その白い手が見えました。
私は咄嗟に、手を伸ばしてその手を握りしめました。
半覚醒から、覚醒してみると
その白い手の感触は、ただ単に枕のへりの手触りで。
でも私は、しばらくの間。
枕のへりをぎゅっと握りしめたまま、みじろぎきひとつできません。
プレジデントオバマが、広島を訪問されたという報道に触れて、私の夢を訪れてくれたのでしょうあの白い手は。
あれは私の同胞の手。
間違った方向に、二度と再び、行ってはいけないと、私の手を引いてくれる同胞の手。
白い。
白い。
真っ白い手。
Dear My Sister.
我が子たちにも、若い衆たちにも、ちゃんと伝えていくことは伝えていくから、どうかゆっくり休んで。
日本で暮らした子供の頃、「はだしのゲン」の絵柄が怖くて読めなかったけど
少し大人でなってから「赤い箸とみいちゃん」なら、心気張って読めたから。
私、広島は通りすがっただけだったけど、長崎には一度行ったことがあるよ。
見てきたこと伝える。
聴いてきたこと伝える。
あなたのことも、ちゃんと子供たちに伝えたよ。
この南の島。
広島、長崎とは密接よ。
なんたって、移住されてらした方が多いから。
私の旦那さまの、母方のお婆さまも、不思議な御縁で広島の御出身。
プレジデントオバマ、折り鶴折って持って行ったって。
さすがロコボーイ。さすがプナホの卒業生。ちゃんと教わってたんだねオリガミを。
もう私。
白い手の夢を見ること、きっと無くなることでしょう。
私が、無事、めでたく三途の河とやらを渡り切るまでは。
白い。
白い。
真っ白い手。
そのときは
「でかしたのぅ。そうじゃけのぅ。あんたさん、頑張りんさったのぅ。」
そんなふうに、笑顔で、やんややんやの拍手喝采を、ここぞと浴びせてくれそうな予感がするんです。
※………はっ!そういえば、ペットブログだったっ!
↑お写真は、初代シーズーのホクちゃん。
「Dear My Sisterんとこに、ホームステイさせてもらってる」
今日のところは、そういう「設定」でイイね?