1972年、ロンドンのクラブでカードゲームをしていた紳士フォッグ氏は、80日間で世界一周できるかどうか賭けをし、それを実証する為に、雇い入れたばかりの召使・フランス人のパスパルトゥーとともに旅にでる。
これを読むのは実に小学校以来で、しかしヴェルヌって本当にストーリーテリングの天才!もっともっとヴェルヌの小説が読みたくなってしまった。
登場人物のキャラクターがまた魅力的。フォッグ氏はロンドン紳士で、しかもその中でも一風変り種。自分の日常のスケジュールを厳守し、髭剃り用の湯温を間違えただけで召使を首にする。芸人から消防士から経験してきたパスパルトゥーは穏やかで平穏な日常を望んでフォッグ氏のところへ来たというのに、哀れにも世界一周のお供。
この、いかなる事態にも動じずに、いかにも紳士然とした冷静さで突き進んでいくフォッグ氏と、気のいい力持ちで何でも屋のパスパルトゥーのコンビがたまらなく絶品。
フォッグ氏の人物像は変わり者であっても基本的にとっても「ヒーロー」である。彼はとっつきにくく、計算高く、行く手を阻むものを惜しみなく金をばら撒いて次々打開し、目的のためには他のものを切り捨てる集中力がある…が、人間として「行かねばならぬ」時、インドで夫の死体とともに焼かれそうになるアウダ夫人救出や、アメリカで行方不明になったパスパルトゥーを助けるという場面では躊躇なく旅の成功を危うくするような決断ができる。
フォッグ氏を強盗と思い込んでつけまわして、一緒に世界一周してしまうフィックス刑事。この刑事の邪魔したり助けたりもドキドキはらはら。そして最後に一発逆転まで納めてハッピーエンド。読み出したら止まらない。
80日間の予定内訳は次の通り。
ロンドン-スエズ 鉄道および客船 7日
スエズーボンベイ 客船 13日
ボンベイ-カルカッタ 鉄道 3日
カルカッタ-香港 客船 13日
香港-横浜 客船 6日
横浜-サンフランシスコ 22日
サンフランシスコ-ニューヨーク 鉄道 7日
ニューヨーク-ロンドン 客船および鉄道 9日
(1956年版の映画はかなり忠実だけれど、本では気球は出てこないし、スペインにも寄らない。でも映画のフラメンコは素晴らしかった。それにアメリカ大陸横断の一部は寒さの中を橇で進む)
このスケジュールに沿って、フォッグ氏は何日得した損したを記録しつつ、障害は金の力で突破する。全世界に大英帝国が君臨した時代だなあ、ヴェルヌもイギリス人を主役にせざるを得なかっただろう、と思う。
このように事細かな計算を積み上げてきた小説の終わり方がまた粋。フォッグ氏がこの旅で得たものが、男の人生を最大に幸福にする一人の女人であった…と、この勘定で締めるのかと思うと、最後にとどめの一文。
そもそも人は、得られるものがもっと少なかったとしても、世界一周の旅に出かけるのではなかろうか。(454ページ)
うまい!完璧!
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これを読むのは実に小学校以来で、しかしヴェルヌって本当にストーリーテリングの天才!もっともっとヴェルヌの小説が読みたくなってしまった。
登場人物のキャラクターがまた魅力的。フォッグ氏はロンドン紳士で、しかもその中でも一風変り種。自分の日常のスケジュールを厳守し、髭剃り用の湯温を間違えただけで召使を首にする。芸人から消防士から経験してきたパスパルトゥーは穏やかで平穏な日常を望んでフォッグ氏のところへ来たというのに、哀れにも世界一周のお供。
この、いかなる事態にも動じずに、いかにも紳士然とした冷静さで突き進んでいくフォッグ氏と、気のいい力持ちで何でも屋のパスパルトゥーのコンビがたまらなく絶品。
フォッグ氏の人物像は変わり者であっても基本的にとっても「ヒーロー」である。彼はとっつきにくく、計算高く、行く手を阻むものを惜しみなく金をばら撒いて次々打開し、目的のためには他のものを切り捨てる集中力がある…が、人間として「行かねばならぬ」時、インドで夫の死体とともに焼かれそうになるアウダ夫人救出や、アメリカで行方不明になったパスパルトゥーを助けるという場面では躊躇なく旅の成功を危うくするような決断ができる。
フォッグ氏を強盗と思い込んでつけまわして、一緒に世界一周してしまうフィックス刑事。この刑事の邪魔したり助けたりもドキドキはらはら。そして最後に一発逆転まで納めてハッピーエンド。読み出したら止まらない。
80日間の予定内訳は次の通り。
ロンドン-スエズ 鉄道および客船 7日
スエズーボンベイ 客船 13日
ボンベイ-カルカッタ 鉄道 3日
カルカッタ-香港 客船 13日
香港-横浜 客船 6日
横浜-サンフランシスコ 22日
サンフランシスコ-ニューヨーク 鉄道 7日
ニューヨーク-ロンドン 客船および鉄道 9日
(1956年版の映画はかなり忠実だけれど、本では気球は出てこないし、スペインにも寄らない。でも映画のフラメンコは素晴らしかった。それにアメリカ大陸横断の一部は寒さの中を橇で進む)
このスケジュールに沿って、フォッグ氏は何日得した損したを記録しつつ、障害は金の力で突破する。全世界に大英帝国が君臨した時代だなあ、ヴェルヌもイギリス人を主役にせざるを得なかっただろう、と思う。
このように事細かな計算を積み上げてきた小説の終わり方がまた粋。フォッグ氏がこの旅で得たものが、男の人生を最大に幸福にする一人の女人であった…と、この勘定で締めるのかと思うと、最後にとどめの一文。
そもそも人は、得られるものがもっと少なかったとしても、世界一周の旅に出かけるのではなかろうか。(454ページ)
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