虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

ヤング@ハート(2007/イギリス)

2009年08月26日 | 映画感想や行
YOUNG@HEART
監督: スティーヴン・ウォーカー

 平均年齢80歳のコーラス隊“ヤング@ハート”は1982年結成、ボブ・シルマンの指揮で、全米のみならずヨーロッパでもツアーを成功させてきた。コールドプレイ、ソニック・ユース、ボブ・ディラン、ジェームズ・ブラウンといったロックを歌う。彼らのた年1回のコンサートに向けて練習を重ねる直前6週間の日々に密着。

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 お年を召した方々が、決して最新の曲とは言えないけど、若いころの懐かしの曲でないロックだのなんだのに果敢に挑戦していきます。
 やる気は十分だし、70代、80代のおじいさんがきれいなファルセットで歌ってると、年々音域下がっていくわが身を顧みて忸怩たる思いです。
 さすがに歳が歳な方々なので、練習中に入院したり亡くなってしまうメンバーもいます。そういう日常の中で新しい曲を歌い続けるのです。
 合唱団としては、お歳の割にはすごくてもやはり素人レベルだと思うんですが、粛然たる思いで背筋伸ばして鑑賞したくなります。
 刑務所慰問で歌う“FOREVER YOUNG”(ボブ・ディラン)は我知らず感動。“STAYING ALIVE”(ビー・ジーズ)は恐ろしくテンポがのろいとは思ったけど、十分すぎる説得力。 
 特に、デュエットで歌うはずが、相棒が練習中に亡くなってしまった、ジェームズ・アール・ジョーンズばりの深い声を響かせるおじいさんが、うちのグランパと同じく、酸素吸入のチューブ付きでソロで歌う"FIX YOU"には滂沱の涙。

 映画の公式サイトでは、全曲のさわりが聴けます。でも、これは歌だけで聴くものではなくて、メンバー皆さんの全存在を感じてこその感動ですね。

 私も近所のケアプラザでお年寄りとボランティアで昔のヒット曲(リンゴの唄、とか、丘を越えてとか)歌ってる時に、私が歳とって歌うとしたら、やっぱり童謡まで戻るのかしらね?なんて考えてたけど、どんな音楽が最後まで身に添うのでしょうか?
 自分で考えて一番ありそうなのは
「まあ、お経を唱えてるのかと思ったら『ボヘミアン・ラプソディー』なんですか、それ!」
とかヘルパーさんに言われている私でしょうか。

善き人のためのソナタ(2006/ドイツ)

2007年09月22日 | 映画感想や行
DAS LEBEN DER ANDEREN
THE LIVES OF OTHERS
監督: フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
出演: ウルリッヒ・ミューエ    ヴィースラー大尉
   マルティナ・ゲデック    クリスタ=マリア・ジーラント
   セバスチャン・コッホ    ゲオルク・ドライマン
   ウルリッヒ・トゥクール    ブルビッツ部長

 1984年、壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)の局員ヴィースラー大尉は国家に忠誠を誓う真面目で優秀な男。ある日彼は、劇作家ドライマンとその恋人の舞台女優クリスタを監視し、反体制思想を持つ証拠を掴むよう命じられる。さっそくヴィースラーは徹底した監視を開始する。しかし、彼らの生活を見聞きするにつれ、ヴィースラーに変化が…

 当時の東ドイツが国家丸ごと盗聴・密告社会であるというのを見て、複雑な気持ちにならざるを得ません。
 とんでもなく息苦しい人間にとって生き難い社会であるのは誰が考えても当然と思われますが、社会秩序の維持とか、敵の存在とか、もっともらしくて反論許さない理由はいっぱい存在していて、しかもこれは冷戦時代の東側の過去の話というわけでもなく、今現在進行形の国がまあ、すぐ浮かんじゃうわけで。

 重苦しい話だが、久々に空気の入れ替えをしたような清涼感を味わった映画。

 ヴィースラーが監視している芸術家に心を添わせてしまうのはすごく自然に納得。
 この映画における諸悪の根源のような狒々爺の芸術大臣も、シュタージの部長もどちらも考えていることは己の我欲と保身で、共産主義も国家体制もその保持のための道具に過ぎない。
 対して気の毒なヴィースラーは共産主義と国家の秩序維持が重要で必要であると信じて、身を捧げている。ところが、もっと心に響くものを見つけてしまった。そしてその結果、シュタージを裏切り、それまでの優秀な反体制を追い詰める猟犬のエリートの地位を捨て、社会的な負け犬としての人生を選ぶ。まさに意思的に選んでいる。彼は保身のための細工をしていない。そして黙って不遇に生きる。そしてラストの清々しい表情はどうだろう。そこで私はこの映画全体に感じる冷気が一気に冷たく痛く、しかし清々しく吹き抜けるように感じてしまった。

 ドイツ語の元タイトルは英訳題が忠実なのですね。しかしヴィースラーの純粋さを思うと、巧い邦題だと思う。どぎつい欲望むき出し人間が目立ち、裸体を美しいよりなまなましく映しているようなこの映画のもつ品格は、この困ったような人間の純粋さに起因するものだろうか。

ユナイテッド93(2006/アメリカ)

2007年05月16日 | 映画感想や行
UNITED 93
監督: ポール・グリーングラス

 2001年9月の同時多発テロの際に、ハイジャックされ、しかし「目的地」には至らなかった一機の中で何が起こったのか。

 911テロというのは、気がつけばもう6年です。オリヴァー・ストーン の「ワールド・トレード・センター」でも、その時主人公たちに起こったことと、死に直面していかに生きようとする意思を持ち続けたかに絞って描いていましたが、この映画でも画面上のテロの実行行為者を許さざるべき「悪」とは感じなかった。それほどに911とは微妙で、しかも大きすぎるものなのだろう。私にしても、911の以前と以後では世界は明らかに違うものです。善悪の対決でなく、ギリギリの状況におかれた人間の事態を打開しようとした意思と、如何に最後まで必死にテロを阻止しようと力を尽くしたか-を見た。これが真実であるとは断言できないものの、携帯による家族との最後の交信など、事実の重みにも打たれる思いだった。
 これを書こうとして、allcinema ONLINEのデータを見て「なお、本作に登場する管制官や軍関係者の一部は、9月11日に実際に現場で勤務していた本人が自ら演じているという。」という記述に驚きました。音楽の使い方などもドキュメンタリー・タッチで、見ているほうでは結果を知っているから、管制や軍、そして機内のスタッフ・乗客たちが事態を認識していく過程は初めから胸がキリキリするような思い。

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 痛い映画でした。見た後で、事件後のアメリカの街角でのインタビュ-を思い出していました。「報復する権利がある」って怒ってる人が多かったと記憶してます。日常にこんな形で投げ込まれた凄まじい憎悪には、誰だって戸惑うだろう。自分たちに向けられた憎しみの根源を辛抱強く探るよりも、その元凶がビン・ラディンとか原理主義者とかはっきり対象として名がでてくると、憎む相手が分かって安心してしまいそうな気がする。それでいながら、自分では気付かなかった傲慢さで憎しみを勝っているとか、自分の物差しが全世界で通用しないとかうすうす気がついたら… ほんとにいろいろ混乱させられましたが、ともかく悲しかった。やはり「ツケを払う」のが彼らでなければならない理由なんて見つからないのですから。

予言(2004/日本)

2006年11月22日 | 映画感想や行
監督: 鶴田法男
出演: 三上博史 里見英樹
    酒井法子 里見綾香
   堀北真希 若窪沙百合
   小野真弓 宮本美里
   山本圭 鬼形礼
   吉行和子

 妻と娘と車で帰省中の里見英樹は立ち寄った電話ボックスで娘の事故死の記事を見る。そして直後、彼は記事の通りになるのを成すすべなく目撃した。事故から3年後、妻とも別れ抜け殻のように生きる里見のもとに、ふたたび未来の悲惨な事故や事件が載った“新聞”が届く…。

 三上博史がほとんど全編張り詰めきったような顔をしていて、いつもならいささかうっとおしいと思うかもしれませんが、この映画では罪悪感に押しつぶされようというところに見えました。
 でもあんまり「ホラー」という感じで怖くはありません。どちらかというと心理劇を見たような感じです。あれで本当に彼の命が終わるなら苦しみから解放されます。
 先日の「21グラム」も大事なものを喪失してからどうやって生きるかの苦しみが一つのテーマでした。現実には時間の巻き戻しは出来ません。その意味では優しい終わり方でした。

 とはいえ、このラストは考え落ちでもあるのでしょうか?主人公はどことも知れぬ迷い込んだ異空間で過去に戻って、彼が選択できる中でベストを選ぶことができたのですが、さて、これはあくまで悪夢の中?それに過去は修正できても新聞の呪縛はやはり記事を見てしまった娘に何時の日か降りかかってくる?そこまで考えさせられました。

ヤング・フランケンシュタイン(1974/アメリカ)

2006年09月26日 | 映画感想や行
YOUNG FRANKENSTEIN
監督: メル・ブルックス
出演: ジーン・ワイルダー   フレデリック・フランケンシュタイン博士
    ピーター・ボイル   怪物
    マーティ・フェルドマン   アイゴール
    マデリーン・カーン    フレデリックの婚約者

 フランケンシュタイン博士の曽孫フレデリックは、医学者になっていたが、フロンコンスティーンと名乗り、先祖とは別だと主張している。そんな彼が博士の遺産を受け継ぐことになり、ルーマニアの古城を訪れる。そこで見つけた博士のノートをもとに、やはり生命の創造にチャレンジしてしまう…。

 だいぶ前にビデオで見ただけだったので、今回DVDのメイキングとブルックス監督の音声解説をじっくり見ました。それほど新しい発見というのもありませんでしたが、この映画の原案は主演のジーン・ワイルダーだったのですね。メイキングで最近のお姿を拝見。髪の毛が少なくなっていたけれど、面影変わらず。
 シモネタも入ったコメディ仕立てになった、でも原作の悲劇を知っていると余計救われるように思うパロディの傑作です。やっぱり元の映画を見て「言ってやりたい!」と感じること(女の子のシーンとか、モンスターの演説とか)をほぼ網羅してくれてるようでスッキリする。
 そのほかは
・博士とモンスターが歌い踊るのは、「ザッツ・エンターテインメント」でクラーク・ゲーブルが歌って踊ってた曲なのね。
・ジーン・ハックマンは前回全く知らなくて識別できず、今回はじ~~~っと見ていたらやっぱりハックマンはハックマンでした。

 それにしても、この時代のブルックス監督の映画ってすごい人材揃いでした。
 気弱そうでまともそうでいて、どっか危なそうなワイルダー、容貌魁偉なフェルドマン(怖いのも可笑しいのも何でもござれがすごい)、体格だけで主張してしまうボイル、なんたってマデリーン・カーン。
 マデリーン・カーンの役はまあ、フツーじゃない役が多いんだけど、それにリアリティや共感、果ては賞賛まで抱かせてしまう才能とパワーには本当に感嘆してしまう。おまけに歌がめちゃめちゃうまい。今年の「プロディーサーズ」ミュージカル版はすごく良かったけど、ユマ・サーマン(彼女が悪いわけじゃないけど)のやった役どころにマデリーン・カーンが納まったらさぞや…と思っちゃいました。
 そんなわけで「珍説世界史PART1」のDVD予約しました。この映画のカーンも素晴らしかったですね。

許されざる者(1992/アメリカ) 

2006年03月16日 | 映画感想や行
UNFORGIVEN
監督:クリント・イーストウッド
出演: クリント・イーストウッド     ウィリアム・マニー
    ジーン・ハックマン    リトル・ビル・ダゲット
    モーガン・フリーマン     ネッド・ローガン
    リチャード・ハリス     イングリッシュ・ボブ

 元賞金稼ぎのマニーは、結婚してすっかり暴力と縁を切った。かつての凄腕の面影も無く今は妻を亡くし男やもめとして子どもたちを育てているマニーの元に若い男が現れ、娼婦の顔を切り刻んだ男をおって賞金を稼ごうという話を持ちかける。
 元相棒のネッドと追跡に加わるマニー。しかし事件の街では保安官が恐怖政治のように支配していて、賞金稼ぎは叩きのめされ追い出されている…

 これは西部劇が単純明快さを失った後にその栄光の光を宿した名作だと思う。いろいろ重い問題、割り切れない正義や生命のはかなさ、人間の心の根本を支配するものを提示し、それぞれの人間が選ぶ「生き方」「人生」を描く。しかし過去の西部劇の残照のようなクライマックスシーンでは、イーストウッドの拍車の音に思わず「かっこいいシーン」への期待に心が弾んでしまう。過去の西部劇の栄光の一部はもちろんイーストウッド自身の担ったものでもあり、かつての名場面がその画面の向うに立ち現れるようだ。
 そして、はじめのよろよろ状態のマニーが、その対決シーンでかつての凄腕に立ち返る、そこまでの運びが、ビシビシとツボにはまりまくる。監督として、役者としてのイーストウッドにただただ唸らされてしまった。何度見てもそう思う。

妖星ゴラス (1962/日本)

2005年11月10日 | 映画感想や行
GORATH
監督: 本多猪四郎
製作: 田中友幸
音楽: 石井歓
特技・合成: 向山宏
特技・撮影: 有川貞昌  富岡素敬
特技・美術: 渡辺明
特技監督: 円谷英二 
出演: 池部良  上原謙 志村喬  白川由美 水野久美 佐々木孝丸 小沢栄太郎 西村晃 田崎潤 平田昭彦 佐原健二 天本英世

 地球の6千倍もの質量を持つ星が発見された。その星・ゴラスの軌道は地球を目指していることを発見した土星探査船・隼はその引力から脱出できずにゴラスに呑みこまれた。国連は、ゴラスを破壊できないことを知り、地球自体をロケットに変え、公転軌道上からの離脱を決意する。

 この間深夜に見てしまった「月のひつじ」なんかはもっと穏やかに地球がたった一つの星であることをささやきかけるような映画だったが、これはもっとそれをヒロイックに謳いあげてます。
 地球が巨大な星に破壊されようとする時に、全世界が一つになり、人知を結集して危機を救う。ラストは一難去り、また新たなる困難に立ち向かうという、なかなか感動的なもの。人間の善と科学に対する素朴なまでの信頼に胸を打たれます。
 短い映画だが、セットと特撮の気合の入りようもまた素晴らしい。南極基地建設シーンや、ゴラスの去った後の水没した町の映像など、実に見事。それに、その短い時間内に、複数の恋愛模様やら怪獣(ちょっとしょぼいぞ)まで出現させ、それでもまとめきっているのもお見事。
 キャストがまた豪華で、主な特撮映画常連のほかにも、ちゃんと重量感のある政府の首脳とか、カメオ出演かなというので死神博士にも会えました。

 とはいえ、この映画について不幸な過去を持つ家族がいるので、家では見るときを選ばないといけません。我が家のパパは小学生でアンプを自作し、風呂場に作った洗濯流しに自分の実験室を持っていた国大付属中学の科学部部長でした。それが少年時代にこの映画を見てしまい、テーマはともかく「やっていいことと悪いことがある」と怒り心頭だったそう。引っかかることだらけで、怒りでストーリーを楽しむどころではなかったらしい。ちなみにゴジラは楽しめる人なのだが。だからこっそり見ないといけない。私もこんなに景気良く燃やして酸素は大丈夫じゃろかい、とか南極に作った推進装置で軌道を脱して、北極で同じことをすれば軌道上に戻るっていうのも、もうちょっと色をつけないと理科ファン、天文ファンには親切じゃないかも…とは思う。

 音楽が、はじめのほうが伊福部さんかと思うような感じだが、「我ら宇宙のパイロット」あたりから毛色が変わってくるようです。
 中学生の男の子の感想は「歌が下手だ」それしか覚えてないらしい。

妖怪大戦争 (2005/日本)

2005年08月08日 | 映画感想や行
監督: 三池崇史
出演: 神木隆之介   タダシ
    宮迫博之    佐田記者
    南果歩    タダシの母
    宮部みゆき   宮部先生
    菅原文太    タダシの祖父
    近藤正臣   猩猩
    高橋真唯   川姫
    阿部サダヲ   川太郎
    水木しげる   妖怪大翁
    栗山千明   鳥刺し妖女・アギ
    豊川悦司   加藤保憲

 両親の離婚で、東京から母の故郷に移り、祖父と3人で暮らす10歳の少年タダシ。都会育ちのタダシはいじめっ子の標的となっていた。ある日、タダシは神社のお祭りで“麒麟送子”に選ばれる。

 売り物である妖怪がドンドコサと画面から溢れるようなところは、まあ面白かったけど、結局烏合の衆だったのでした。数は出てくるけど、能力を尽くして戦う場面無し。良く出来てるけど他の映画で見たような絵が出てくる、ややダレるところあり、でも飽きずに見られたのでお金出してもまあいいかな、という映画でしたが、見てるほうと作ってるのと本当に楽しいのはどっちかな、とは思っちゃいました。
 神木君はキャアキャア言ってましたが、剣に引きずられているようなシーンばかりでも、十分期待にこたえる演技だったし、妖怪の造形は良かったです。ぬらりひょんを忌野清志郎がやっていましたが、ちょっとセリフが弱く感じたので、別の妖怪やっていただいたほうが良かったのではないでしょうか。宮部先生は自然でいいと思います。川姫の高橋真唯も可憐でしたし、アギ役栗山千明はかっこよかったし雰囲気あって、もっと迫力ありに見えるコスチュームでもいいかな。
 近藤正臣、阿部サダヲのお二人は目だってがんばってました。
 加藤保憲は、この映画がどちらかというとお子様映画風(お子様映画とは言い切れない。大人うけ狙い過ぎる部分がある)なためか、嶋田久作とはメイクが違い、顔に影を作らず陰影を作らない怖さを狙っていたみたい。ずっとシリアスで通して、それがさほど浮かないのでえらいと思ったのだが、最後のオチはなんでしょうねえ。なんかねえ、ちょっとはずしすぎじゃないですかねえ…

 夏休み中の小学生を誘って行ったのだけれど、お話のまとめ方に「あれは何なの?あれでおしまいなの?あれで済んじゃったの?」と実に納得できない様子でした。それともう一つダメが出たのは神木君の成長後があんまりかっこよくないことだそうです。私は、あんなものかな、と思ってしまいました。主人公と同世代の見る目は違うみたいです。

 考えたのは、「テレビゲームの前と後」、この映画のツクモガミは機械系のゲームモンスターみたいだったし、「ハリー・ポッター」予告編の火を吹くドラゴンとハリーの戦いはまるでFFの画面でも見るようだった。こういうシーンが特別な日のドキドキから、日常の楽しみにしっかり入り込んでしまっては、映画はストーリーや構成をよほど練って勝負しなくてはならないですね。

幽霊と未亡人 (1947/アメリカ)

2005年08月07日 | 映画感想や行
THE GHOST AND MRS. MUIR
監督: ジョセフ・L・マンキウィッツ
出演: ジーン・ティアニー  ルーシー
    レックス・ハリソン  ダニエル船長
   ジョージ・サンダース  フェアリー
   ナタリー・ウッド   アンナ
    エドナ・ベスト マーサ

 20世紀初め、若い未亡人ルーシーは姑や高圧的な小姑との同居を嫌って、幼い娘アンナと家政婦マーサと共に、幽霊の出るという海岸沿いの邸を格安で借りる。案の定あらわれた幽霊のダニエル・グレッグ船長にルーシーは落ち着いて対応し、船長と奇妙な親近感を持った付き合いが始まる。経済的に困窮したルーシーは船長の生涯を本にして出版する。そんな時、ルーシーに出版社で会ったフェアリーという男が付きまとうようになる。

 主演二人が最高な、大人のロマンス。
 ジーン・ティアニーの品があって美しく、レックス・ハリソンは、こんなナイスなおじさんなら幽霊だろうが、実体がなかろうがその辺の男なんかメじゃないくらい魅力的。…だけど、ヒロインは実体のある軽薄男に心がぐらついてしまうのです。それもこれも、ヒロインが幽霊に恋をしてしまうから、そしてそれをそのままに告げることを自分に禁じてしまうから、心に隙間が出来てしまうのですね。
 オープニングのシーンからして、ヒロインが自分の道を切り開いて行こうとする進取の気性に溢れた女性であることが示されているし、時間の経過が長年にわたり、娘、孫の代まで溌剌とした女性たちであることが見えるし、家政婦との関係も、緊張ではなくてある種の同志的な信頼関係がある。それでも埋まらぬ隙間だったのは、それだけ強く惹かれていたから?
 そして彼は去り、ルーシーも船長のことは夢だと思って年月を過ごす。

 特撮はほ~んの少しで、舞台のように「ヒロインにしか見えない」というお約束で「見えない」幽霊がいるのだけれど、まったく自然に見えて、これは撮り方、編集がお見事というべきでしょう。

 思う相手には一言もお互いへの思いを語らず、しかし当然のようにしみじみと幸せな気分にしてくれるラストシーン。品格のあるライトなロマンスとはこういうものなのでしょう。まさに佳品というにふさわしい映画。
 ナタリー・ウッドが子役で出ていて可愛い。

酔っぱらった馬の時間 (2000/イラン・仏)

2005年05月16日 | 映画感想や行
A TIME FOR DRUNKEN HORSES
監督: バフマン・ゴバディ
出演: アヨブ・アハマディ アーマネ・エクティアルディニ マディ・エクティアルディニ

 イラン=イラクの国境地帯に住むクルド人の村は密輸業で生きている。母は既に亡く、地雷で父親が死んでしまい、5人の子どもたちが残された。長男マディは難病で障害を持ち余命もわずか、しかもそれを伸ばすための手術代が必要。12歳の次男アヨブは家長として、生計を支え手術代を稼ごうと密輸のキャラバンに加わる。

 こういう映画を見ると、私の「あたりまえ」と、世界の別のところの「あたりまえ」のあまりの格差を思い知らされて愕然とするしかない。泣ける映画というのは、涙で余計なものと、気持ちの中に積もったものを洗い流してきれいにしてくれるのだが、この映画は、涙を禁じるような、粛然とさせる迫力がある。
 密輸のキャラバンは、あまりの寒さに凍える馬(ラバ)に酒を飲ませて酔わせ、山越えをさせる。荷を担ぎ、あるいはラバを引いて共に歩くアヨブは手袋さえない。その上に騙されたり、様々な不運がのしかかるが、小さな身体で彼は全て受け止め、家長としての責任を果たそうとする。その生き方、行動にまったく迷いがない。誰にも他を恨む言葉がない。ギリギリの生活の中で、はっきり言ってしまえば足手まといのマディを皆が愛し、その命をいとおしむ。妹に自分が働くから学校を続けろと言う12歳の「家長」 但しこれは12歳だからこその言葉でもありそう。
 必死に働くのは彼一人だけではない。土地があっても地雷で踏み込むことが出来ない、耕せないから密輸するしかない生活を送る、また密輸業者相手の商売をする少年たち。
 ラストシーンでも、話をまとめて、見ているものの気持ちをおさめてはくれない。ただ彼らの苦闘は続くだけなのだ。

 ヨアブの男としての姿勢に「男としてこうでなければ」という文化的背景も感じられる。また結婚してしまった姉のこれからにも胸が痛む。10代の女の子たちの感想は「意味不明(ラストで突き放さないで)」「やってられない」納得するにはあまりに過酷だ。でもこれは、覚えていなくてはいけない。見るだけでも、見ておいて欲しい。

屋根 (1956/伊)

2005年04月20日 | 映画感想や行
IL TETTO
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
出演:ガブリエラ・パロッタ ジョルジュ・リストッツィ

 大戦後のイタリアで、何とか住むところを獲得しようとする若夫婦のお話。
 戦後の住宅難で結婚しても住むところが見つからず、義兄の家で同居していたナターレとルイザは、とうとういられなくなって飛び出すが家は見つからない。仮小屋でも屋根がつき、住んでしまえば居住権を主張でき罰金を払えば住むことが出来る。左官見習いのナターレは仲間と小屋を作り、見回りの警官が来るまでに何とか屋根を完成させようとする。

 BS2の昼にヴィットリオ・デ・シーカ監督特集。「ミラノの奇跡」(1951)とこの「屋根」を一度に見たのだが、共に初見。今までデ・シーカ監督の初期作品というと「自転車泥棒」 「靴磨き」みたいな、「わかる、わかるけど苦しい、希望が欲しい…」と感じるようなのばかり見ていたようだ。
 共にちょっとコミカルで、人間の自分しか見えてない困った側面はほかの作品と同じくしっかり描かれているけれど、ラストは想定の範囲内(流行り言葉を使ってみました)ではあるがほっとさせてくれる。「屋根」のデータを見に行ったallcinema ONLINEでこの映画の主演二人が素人だと知ってびっくり。うまいです。それだけ社会に横溢する切実感があったということと、監督が上手だったということでしょうか。「自転車泥棒」もそんな感じでしたが。

 日本の戦後の映画を見ても、壁や屋根にトタンを巻いただけみたいな凄まじい小屋が家になっていたけれど、この映画でも住むところを求める人たちが必死になって作る家のチャチさがたまらない。レンガを積んだだけなので、叩いただけであっという間にばらばら崩れる。それでもレンガ積み上げ、「平屋根は人間の住むところじゃない」と時間の無い時にも主張してしまう主人公がおかしく、切ない。
 主人公夫婦2人を家から追い出し、でもいざとなっては必死で助けてくれる義兄がやっぱり実力のある職人的なかっこよさがあり、じつに気持ちがわかって、好もしい。

「ミラノの奇跡」はファンタジーで、いかにも初歩みたいな特撮が微笑ましく楽しい。でも、ファンタジー映像は技術だけでなくてまず想像力ありき、を頷いてしまう映像。楽しくて、やっぱり切ない映画だった。

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U・ボート(1981/西独)

2005年03月19日 | 映画感想や行
DAS BOOT
監督: ウォルフガング・ペーターゼン
出演: ユルゲン・プロフノウ ヘルベルト・グリューネマイヤー クラウス・ヴェンネマン ベルント・タウバー

第二次大戦下、ドイツの潜水艦U-96の過酷な戦いを描く。

 今回はディレクターズ・カット。長かった。でもそれが当然に感じられる映画。以前にテレビ放送で短くされたのはひどかった。たっぷり息詰らせてもらった。これも見終わって如何に自分の身体がかたくなっているか悟る映画。
 この長い映画の間中、緊張感が途切れない。決して目を離せない。派手な戦闘シーンがあるわけではない。海の中で爆雷を待つシーンなど俳優の顔だけで演じていると言ってもいいくらい。
 男たちが垢じみていく。顔つきが変わっていく。
 なんと言っても、潜水艦という狭い中に閉じ込められた圧迫感、臭さ、プライバシーのカケラもなさなど、潜水艦内を見たこともないのにビシビシ感じられるよう。
 
 それに、緊張と責任と劣悪な環境のなかで、なおも耐え抜く艦長や乗組員たち、戦争の苛烈さ、故郷を、愛する人を思う心に涙せずにはいられない。あの圧迫感にあふれた艦内から海上シーンに移ると、開放感がありそうなのに、それよりも寄る辺なさを感じてしまう。

 そしてあのラスト。

 2度目、3度目と回数を重ねるごとにより一層心に沁みいるような映画。  

夜になるまえに(2000/米)

2005年02月24日 | 映画感想や行
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演: ハビエル・バルデム オリヴィエ・マルティネス

 カストロ政権下で、詩人として同性愛者として迫害され、アメリカへ亡命し、反カストロ運動をし、エイズに苦しみ、自殺したキューバの亡命作家の自伝の映画化。抵抗者としての彼より詩人としての彼を中心に描いているようだ。

 革命にとっての夾雑物として排除され迫害される独裁政権下でも表現せずにいられないのは、芸術家の業なのだろうか。母に懇願されても転向を拒んだ彼が、口に銃を突きつけられ泣きながら革命への協力とそれまでの自己の否定を受け入れてしまう。苦しんだ末に亡命したアメリカでも魂の自由が得られた開放感はない。追われた祖国に自分の根があることを突きつけられる。

 主役の演技は素晴らしい。迫真とはこのことだろう。彼の心の目に映る光景を移したようにキューバの自然の映像は美しい。これが「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」と同時代のキューバである。ここでもラテンの音楽、挿入されている歌は素晴らしい。
 ジョニー・デップの女装の髭もきれいだったが、ショーン・ペンは初めはわからなかった。この映画を見ると「SWAT」のオリヴィエ・マルティネスますますもったいなかったな、と思う。


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ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密 (2002/米)

2005年02月08日 | 映画感想や行
DIVINE SECRETS OF THE YA-YA SISTERHOOD
監督: カーリー・クーリ
出演: サンドラ・ブロック エレン・バースティン ジェームズ・ガーナー アシュレイ・ジャッド マギー・スミス

 ニューヨークに住む若手劇作家シッダは、タイム誌のインタビュー記事で母親との確執を書かれてしまう。その記事が母ヴィヴィの怒りを買い決定的な亀裂が入ってしまう。ヴィヴィの50年来の親友ティーンシー、ニーシー、キャロの3人は、8歳の時に生涯の友であることを誓い合った“ヤァヤァ・シスターズ”。3人はシッダを拉致すると、そのままルイジアナに連れ帰り、彼女の知らない母の姿を伝え、親子の仲を取り持とうとする。

 女性向きのお話だな…と思った。
 美しく、才能があり、世界の中心のような華やかさを持ちながら田舎町に農家の主婦として埋もれた母ヴィヴィ。ニューヨークで劇作家として成功した娘。あふれるほどの野心と才能がありながら、恋人も失い、ままならない自分の人生に怒りを抱いていた女性と、愛しながらも母を誤解していた娘が、母の人生を辿ることによって、そのわだかまりも、自分自身のこだわりからも開放されていく。
 これは、私が主人公の苛立ちにもっと共感できればもっと心に響く映画だったんでしょうけど、今ひとつというところ止まりだった。

 サンドラ・ブロックはいかにも中産階級のインテリらしいムードがあり、映画によってはそれが「臭み」のように感じられる時があるけれど、この映画に関してははまり役。でも老いてもお母さん(エレン・バースティン)のほうが華やかなムードを持ってる。この映画は、アシュレイ・ジャッドもきれいで、行動的ないかにも素敵な女性演じてるんだけど、年取ってからのヤアヤア・シスターズの女優さんの迫力にはどうにも勝てない感じがする。マギー・スミスはじめ、みんな年取ったら「かくありたい」と思わせる魅力に満ち満ちてる。この一人一人しっかりと歩んできた自分の人生を生きられる女性たちなら、支えあいも出来るし、この素晴らしい羨ましい友情も存在するよなあ…と感じさせる。

 出てくる男が、寛容で包容力のある、女の夢みたいな男ばかりで、やっぱりスイートな女性向け物語だなあ…と思っちゃう点なのでした。

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夢のチョコレート工場(1971/米)

2004年08月14日 | 映画感想や行
WILLY WONKA & THE CHOCOLATE FACTORY
監督:メル・スチュアート
出演: ジーン・ワイルダー ジャック・アルバートソン ピーター・オストラム

 チャーリーは、家に4人の寝たきりのおじいさんおばあさんとお母さんの6人暮らし。ひどい貧乏で新聞配達で働く。お菓子も思うように買えない。でも、そんな中からもおじいさんにタバコ代をプレゼントする優しい少年。あるとき世界一のチョコレートを作るワンカが、チョコの中の金の招待状を当てた人に、誰も入れないチョコレート工場に招待するというニュースが…

 ロアルド・ダール原作の映画化。原作を読むにはダールの毒をちゃんと消化できるだけ育っていることが必要かな、と思うけど傑作。スイートなだけでは駄目。苦しいことにも耐えちゃうもんね!の勇気の芽を育ててくれる本。
 これは原作とはちょっと違うけど、楽しくて原作の精神も壊してないと思う。それに一番は「ウンパルンパ」 見た後ついつい歌ってる…ウンパ ルンパ …

 これを見るとティム・バートン版の「チョコレート工場」早く見たくてたまらなくなる。きっとゴシックで(なくてもいいけど)不思議の雰囲気に満ち満ちた夢のような工場が…それにジョニー・デップはワンカに決まってる。どんなワンカに会えるのかと思うだけでくらくらする…