虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

オペラ座の怪人 (2004/米)

2005年01月31日 | 映画感想あ行
THE PHANTOM OF THE OPERA
監督: ジョエル・シューマカー
製作: アンドリュー・ロイド=ウェバー
出演: ジェラード・バトラー エミー・ロッサム パトリック・ウィルソン ミランダ・リチャードソン ミニー・ドライヴァー 

 ミュージカル名作の映画化。
 1870年、パリ、オペラ座は、ゴーストと名乗る謎の存在に脅かされている。寄宿生で孤児のクリスティーヌはコーラス・ガール。そして彼女はバイオリニストであった父の魂だと信じる声の指導で歌手の才能を開花させつつある。そして支配人が変わり新しいパトロンとしてやってきたのはクリスティーヌの旧知の青年ラウル。しかし彼は彼女に気付かない。そんな時、彼女が代役として歌うチャンスで喝采を浴びる。

 心を豪華な世界に遊ばせてくれる映画で、本当に心地よかった。一番大きいスクリーンで音響も良かったので、本当に酔わせてもらった。舞台はナマを見ていないので比較なんて全然出来ないし、ガストン・ルルーの本はまったく別物。
 あの音楽と共に、廃墟のような劇場が豪華な装いを取り戻し、続いてのエントランスから楽屋裏から、舞台まで往時の賑わいと活気がよみがえるシーンには、涙が出てしまった。
 そして、人の気持ちの温かさを知らないファントムが、それを知る時は、自分が一番望むものが決して得られないと悟る瞬間-非情なファントムに思わず同情してしまう。

 オペラがちゃんとオペラで、でもファントムの声がオペラの声ではない。地声のまま伸びていくような発声。でもはじめは違和感だったのが、そのうちにこれでこそファントムと思えてしまった。やっぱりかっこいいし。彼のかっこよさがないとこのお話は成立しません。
 ラウル役の声も甘くて美しくぴったり。それに17歳のエミー・ロッサムの声には感嘆。やっぱり芸暦が長いだけに若くても安定しているし、それに強さは感じなかったけど始めのほうは、本当に「穢れを知らぬ乙女」の清々しさがあり、でもラストにかけてのドン・ジュアンのシーンで妖しさが、最後のシーンで激情が、と本当に聞かせてくれました。

 大げさなプリマドンナのミニー・ドライヴァーが、かわいかった。
 サウンドトラックより、DVD待つことにして、とりあえずピアノスコアを発注してしまった。主題歌、カラオケに入らないかなあ!またみんなの頭痛の種を増やしてやれるのになあ。

クジラの島の少女 (2002/ニュージーランド・ドイツ)

2005年01月31日 | 映画感想か行
WHALE RIDER
監督: ニキ・カーロ
出演: ケイシャ・キャッスル=ヒューズ ラウィリ・パラテーン ヴィッキー・ホートン クリフ・カーティス グラント・ロア

 クジラに乗ってやってきた先祖の伝説を守って生きるニュージーランドのマオリの一族。族長の家に男女の双子が生まれ、母と男の子は亡くなり、女の子だけ助かった。そして父は故郷を去り、その子は祖父母の元で育てられる。
 族長候補の男子を望んでいた祖父は、父が先祖の英雄と同じ名をつけた少女バイケアを愛しながらも、女であることへの失望を隠せない。バイケアは祖父とこの地を強く愛するがゆえに悲しみは深い。

 ドラマは大きいけど大袈裟がなく、感動はじわじわっと来ていつの間にか涙で、身体中の空気の入れ替えしてもらったようなさわやか感が残ります。これ、原作は児童向けではないだろうか、と思った。少し違った世界のちょっとした奇跡の物語を描いた、すごく出来のいいティーン向け文学の読後感によく似ている。

 役者さんたち、ほんとに上手いです。おじいちゃんを見ていると「頑固者…」と思わず呟いてしまう。バイケアに対する愛情と族長としての理不尽な怒りを両方とも本当に山ほど持ってる難しい役どころを、実に的確に演じていると思うし、おばあちゃんの理性的な優しさも素敵。パパもみんなきれい。何より主役の子の伸びやかさと感情の豊かさは素晴らしい。
 祖父の感情を理解して、それでも盲従せずに努力していく姿、愛情を素直に受け止めてもらえない悲しさに涙する姿…思い出しただけで私も涙がでそうになる。
 おじさんもみんな芯の優しい気持ちのいい人たちで、本当に気持ちのよい映画だった。

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毒舌日本史(今東光/文春文庫)

2005年01月30日 | 
 今東光和尚様(1898~1977 この本の出た1972年当時中尊寺貫主)が博覧強記と雄弁で聞き手に池島信平を得て語りおろし、その速記録も今和尚自身が書き直したという。「悪名」原作者が迫力で語る日本史。

 年寄りのお話のひとつに講談ネタのような歴史のこぼれ話みたいなのがひょいひょい出てくるのは、今でもそうなんでしょうか?私が明治~大正生まれの親戚から聞いた話は、だいたい昔のチャンバラ時代劇の内容に一致するようなのとか、「道鏡、膝ではないか」(キャー、分かったらすいません)なんて話とか、けっこう庶民は言いたいこと言ってたんだなあ…など思っていたのでした。もちろん史実として教えてくれたのではなくて、笑い話のなかまみたいな感じで話してくれました。
 この本では、そういう中で聞いた話ががバンバン出てきて、おっかしかった。
「藤原家の先祖は不比等(鎌足じゃない)」
「後醍醐天皇はケチで暗君だった」
「義経と建礼門院のごにょごにょ…」
眉につばつけなくてはいけないかな~と思うものもございますけれど、仏教と日本の歴史の関わり方への見識など、なるほど、さすが、と思うところ大。
 それに人物や事件に対する見方もはっきりしていて、武士の台頭は奥州藤原氏がメインで平将門はスルー。鎌倉幕府が倒れる必然は棚上げで、建武親政瓦解からそこの話が始まったりして。平安時代が日本で唯一のサロン文化の時代というのは大賛成。
 文章も調子がよくてぐいぐい進めるようになっているし、語句解説もご本人によるもので、いつも間にか今和尚の史観に納得させられそうになります。適当な脱線あり、池島氏の冷静で適切な突っ込みあり、面白すぎるので、「やっぱりこれだけじゃいかん」とかえってブレーキがかかります。

 昭和当時の和尚の毒舌、というものの位置づけが今ひとつぴんと来ないけれど、言いたいことをはっきり言っていることは分かります。時代の空気も捉え切れないので共産党と日教組へのワルクチもインパクトのほどが察し切れないのが残念。

 2チャンネルの歴史板なんかでも、歴史オタ様たちのディープな会話が飛び交っていますが、ちょっとそれを連想しました。

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レディ・キラーズ (2004/米)

2005年01月29日 | 映画感想ら行
THE LADYKILLERS
監督: イーサン・コーエン ジョエル・コーエン
出演: トム・ハンクス イルマ・P・ホール ライアン・ハースト J・K・シモンズ ツィ・マー マーロン・ウェイアンズ
 船内カジノの地下金庫に納められた現金の強奪を計画した、知的でスマートに犯罪を行う「教授」。
 彼はその道のエキスパートを集め、信心深い黒人女性の家に下宿し、音楽の練習と偽ってその家の地下室に閉じこもり、トンネルを掘ってまんまと成功するが…

 これもまた、狙いはいいし、音楽いいし、もと作品も傑作だし「ファーゴ」のコーエン兄弟とトム・ハンクスを持ってすれば、ブラックな一級品コメディが…と期待して…スカッた気分です。
 決してつまらなくはなかったんだけど、なんかテンポが遅い早いでなくて「違う」感じ。
 会話に魅力が足りない。こういうところで、わが身の英語力のなさが悲しいけど、英語のみで理解できたらもっと違うのかな、と思ったりした。スノッブな教授と犯罪メンバーのずれ具合とか、老婦人とその仲間、保安官の関係の見せ方とか、もうちょっとという感じが抜けず、なんだか吸引力の弱い映画だった。

 ラストのマントの絵などは、さすがにいい、と思ったのだが。

 ところで、もとの
「マダムと泥棒」(1955/英)
監督: アレクサンダー・マッケンドリック
出演: アレック・ギネス ケティ・ジョンソン ピーター・セラーズ ハーバート・ロム
 一度しか見てないけど、傑作です。ピーター・セラーズ、ハーバート・ロムはピンクパンサーほどはじけてないけどアレック・ギネスといい、目が吸い付いて離れない。
 監督のマッケンドリックは次作の「成功の甘き香り」がこけて映画作るのが難しくなったらしいけど、「成功の甘き香り」も私はすごく出来のいい映画だと思うし、これはほんとにお薦め。昨年DVDが出たので、いまDISCASにリクエストしてます。DISCAS会員の方、リクエストしてくれませんか?是非また見たいので。

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オーシャンズ12 (2004/米)

2005年01月29日 | 映画感想あ行
OCEAN'S TWELVE
監督: スティーヴン・ソダーバーグ
出演: ジョージ・クルーニー ブラッド・ピット ジュリア・ロバーツ キャサリン・ゼタ=ジョーンズ アンディ・ガルシア マット・デイモン

ラスベガスの1億6000万ドル盗難から3年後。オーシャンやメンバーはそれぞれ盗みとは関係のない世界で生きていたが、突然カジノのオーナー・ベネディクトが現れ、2週間以内に利子をつけて返さなければ命はない、と脅す。
 進退窮まった彼らは、ヨーロッパでまた仕事を始めるが、行く先々で邪魔が入り、ベネディクトを彼らに差し向けた張本人が姿を現す。

 あまりに忙しかったので、無性に映画館に行きたくなったのと、無料券を無駄にしたくなくて、夕方の回へ駆けつけました。予告編終了したところで、座ったとたんに始まり。

 クライム・ムービーの面白さ、楽しさって、キャラクターの魅力と、パズル・トリックがいかにうまく組み立てられて、相手を出し抜いたかってところがあります。この映画は、キャラクターの魅力は十分で、ジョージ・クルーニーもかなり粋で軽やかだし、ブラピは素敵だし、マット・デイモンのお間抜けぶりっ子も好きです。ジュリア・ロバーツの本人ごっこもそれなりに笑えました。皆さんのご意見でもあるようですが、ブルース・ウィリスはもっと重要な何かに絡むのかと思いました。それにしても、スターに成りすますのにスタッフの名前を知らないなんて変。こういうことが気になるのは、映画の満足感がたりないのでしょう。
 パーツが組み立てられていって、最後に完成したっていうすっきり感、爽快感がありませんでした。それにそれぞれのパーツが全部パーツとしての必要があったかどうかもちょっと疑問。「オーシャンズ11」のほうは、まだ全員で1チームだったんですが。音楽はけっこうよかったと思います。

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キャサリン・ヘプバーン、アシモフ、亡国のイージスなどなど

2005年01月28日 | 
 このところむちゃくちゃ忙しい。
 土曜渡しの物件があって、期日に間に合わせるためには私も労働・打ち合わせ・催促・連絡待ちでやたら駆けずり回っている。おとといは1日中一人っきりでワックス掛けしてたし、本日は朝7時半からかぎ調整の立会い。一人で仕事してる独立自営の職人さんが多いので、時間の合い間をみて来てくれてるから、こちらの時間はどうしても細切れになるのは仕方がない。腕を持ってる人が優先。
 だから、シネコンの1月中の平日無料鑑賞券があと2枚あるのに行けない!なんとか行きたい!

 キャサリン・ヘプバーンの「アフリカの女王と私」を読んだ。あの映画制作後35年もたってから回想してかかれたものだが、年月を感じさせないほど描写が、細部にわたり、活き活きしている。彼女にとっても、ものすごく印象的なお仕事だったのだな、と思わされる。
 人物の描写、特にボギーは本当に彼の人となりが立ち上がってくるよう。
 
 私の知るかぎり、ボギーほど大きな男はそういない。道の真ん中を、まっすぐに歩いてくる人だった。
「かもしれない(メイビー)」とはいわなかった。口をひらけば「イエス」か「ノー」のどちらかだった。
 ボギーは酒が好きだった。酒を飲んだ。
 ボギーは船に乗るのが好きだった。船に乗った。
 ボギーは役者だった。役者であることに満足し、誇りを持っていた。
 「元気?だいじょうぶ?」私にはいつもそう声をかけてくれた。
 なにかと面倒も見てくれた。「要るものはない?」と訊いてくれるのだ。
 一言でまとめよう。ボギーにはごまかしがなかった。本当に男らしい男だった。(文春文庫版/19ページ)


 キャ~~~! 素敵!文章も素敵!

 アイザック・アシモフの「象牙の塔の殺人」1958年のミステリ。これは、大学の化学の助教授が探偵役で被害者がドクター課程の学生。アシモフのお手のものの世界。ほとんど学内だけの話なので、研究内容とか細部を今風にアレンジしたら、そのまま新作と言っても通用しそうな感じ。古風がよいミステリもあるけど、これは人間をそのまま使えそう。特に刑事さんなんか、コロンボ風で、もしかしてこの本にインスパイアされたのかと思うほど。
 ただ、今なら消しゴムの痕でひらめくのは無理でしょう。

 映画になりますということで今さら「亡国のイージス」読んでました。う~ん、忙しいこともあって、冒険小説らしい一気読みが出来なかったので、感想が違ってきてるかもなのだが、これは爽快感が残るっていう小説ではないのですね。ラストで思わず、「これでいいのかな~」と思ったりして。また時間のある時に、要一気読みです。

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ブルース・オールマイティー(2003/米)

2005年01月27日 | 映画感想は行
BRUCE ALMIGHTY
監督: トム・シャドヤック
出演: ジム・キャリー モーガン・フリーマン ジェニファー・アニストン 

 レポーターのブルースはライバルがアンカーマンになったことで番組をめちゃくちゃにしてテレビ局を頸になった。恋人の慰めにも耳を貸さず、八つ当たりして「神様にいじめられている」と文句を言う。ある日、ポケベルに入っていた連絡先に行ったところ、そこにいたのは神様で、なんと「文句があるなら、神様をやってみなさい」ということに。
 全能のパワーに有頂天になったブルースは、その力で憧れだったニュースのアンカーマンになることが出来たが…

 大ヒットしたそうですが、私個人的には、そこそこ。でも大笑いして最後はジ~ンとした。
 ジム・キャリーの顔面変化は相変わらずすごい芸だと思う。やっぱりダーティー・ハリーとか、「光あれ!」とか一つ一つのギャグで否応なく笑わせられちゃう!この間、近くのシネコンで「十戒」リバイバル上映見てきたところでトマトスープには椅子から転げていました。なんだか予想通りなんだけど、やはり笑える。
 最後にブルースの目覚めをあそこへ持っていくのはけっこう強引だと思うけど、泣きました。

 この映画見ると、今の日本ですごく希薄になっている、人間を超えたものに対する「畏れ」を当然の前提にしている。宗教って、あんまり凝り固まると困ったことも起きてくるし、それだけが絶対だと思われるのは断固としてやめて欲しいけど、人間、「畏れ」を持ってこそ謙虚にもなりますし、神様ってそれのものすごい分かりやすい形です。

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戦争報道

2005年01月26日 | 日記・雑記
 25、26日の夜10時からBS1でアメリカのイラク戦争の報道についての検証のようなものをやっていて、引き込まれて見ておりました。
 なんだかんだ言っても、アメリカの底力はまだまだあると思わずにいられません。
 政府の方針に報道が引きずられていくのを関係者がきちっと証言していくではありませんか。

 あのイラク人質事件の「自己責任」大合唱は、いま考えても世論操作にのったとしか考えようがない。しまいには、パウエルさんに「志のある人たちを非難するのは間違いだ」なんてたしなめられちゃって。
 私も、当時大人の二人はさておきあの19歳の彼には、ちょっとどうかと思ってしまった。まだ情報不足で彼のことについては考えが固まらない。本も出したようなので、読んでみようかと思ってます。やっぱり、行くのはそれなりの貢献ができる人というのが私の考えの基本だから、私の周りにいる19歳だったら、絶対止めます。でもジャーナリストを責めるのはむちゃくちゃです。
 お正月には、人質の高遠さんのドキュメンタリー番組も見たけど、彼女のイラクの子どもたちへの献身を描いてたけど、それだけで、やっぱり日本のマスコミはあの時の大騒ぎへの検証はやってないですね。やらなければ、また同じことが起こりそうなのに。
 しょうがないので、私の感じたことの自己検証だけは続けないと。

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双子の騎士(手塚治虫著/講談社漫画文庫)

2005年01月25日 | 
「リボンの騎士」のサファイヤの双子の子どもたちの冒険。1958年「なかよし」連載のもの。
 続編があることは知っていたものの、今まで読んでいませんでした。
 ちょっとびっくりしました。全体にお話のトーンが暗め。
 サファイヤとフランツが結婚し、男女の双子デイジー王子とビオレッタ姫が生まれたが、世継ぎ問題でもめて男の子がさらわれてしまう。そのため女の子が一日交代で男女2人分を演じる。さらわれた子どもは森で魔法で夜の間だけ人間にしてもらった小鹿のバビに育てられる。
 そして波乱万丈の末、双子が再会し、ワルモノの陰謀で殺されそうになった父と母を助けすべて丸く収まる。

 う~ん、「リボンの騎士」が宝塚風でサファイヤもりりしさにあふれてたのに、この主人公たちはちょっと華やかさがたりない。2世はどうしても小粒になるのか、それとも2人になってしまったせいか?ビオレッタ姫に関わる王子様も姫を憎む悪い王子は活躍できるのに、好きになるよい王子はじっと身を潜めるばっかり。ビオレッタ王女は「王子と王女の2役やって、おまけに陰謀も暴いて、恋人の王子様まで助けて」でやたら忙しい。王子はなんとなく活躍少ない。少女雑誌の宿命だろうか。
 でも男がかっこよくないので、最後の幸福感が薄いような気もする。
 それにしてもフランツ王が頼りない。大恋愛の末がこれかよ、なんてことも頭を掠める。それに実力のある奥様のサファイヤは遠慮がちだし。

 この本の解説で中島梓氏が
「時は流れ、物語は終わるが、それは『次の物語が始まるため』なのだ!」
という提示がなされた、と書いています。でも世代は変わり、主人公は移る… 「ザンス」シリーズなんかはその典型で世代は移り、成長物語は続いています。そういうものはそれで良いけど、でも傑作で、思い入れのある主人公では「二人はいつまでも幸せに暮らしました」の後は考えたくない。「秘密の花園」のアメリカのTVムービーで主人公3人の大人になった後まで付け足していて、それまでいい気持ちだったのが、ムカムカしてしまった。
 お話の終了で時を止めなくてはいけないものも絶対ある! 「その後」なんてのは美しい霧の彼方で良いのだ。

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手錠のまゝの脱獄 (1958/米)

2005年01月24日 | 映画感想た行
THE DEFIANT ONES
監督: スタンリー・クレイマー
出演: トニー・カーティス シドニー・ポワチエ セオドア・バイケル チャールズ・マックグロー カーラ・ウィリアムズ

 事故を起こした護送車から、手錠でつながれた二人の囚人が脱走した。二人は白人と黒人で、互いにいがみ合っており、刑務所の所長も「お互いに殺しあうから、追跡は必要ない」とまで言う様な二人である。逃げるために仕方なく協力し合あう二人。そして追う側は保安官と、そして彼らを「狩る」つもりの民間人たち…

 これもまたすごい映画。
 出来たのは1958年。アラバマのバス・ボイコット事件は1955年、アーカンソーの高校人種統合は57年で、公民権運動も盛り上がろうとしている時期ではある。反発しあう2人が、否応なく一緒にいるうちにお互いを理解し友情を築いてしまうのは、定番、お決まりのコースといえども、スピーディーな展開のうまさに、クレイマー監督に上手に乗せられ、サスペンスにドキドキした上で、「人を人として見る」ということを考えさせられている。
 
 主演のトニー・カーティス、シドニー・ポワチエ共にきれい。まことに美形。二人とも世の中に恨みを持つ。
 黒人のカレンは、黒人であるがゆえに不当に扱われる怒りを父のように神様にすがってなだめることも、妻のように「生きるために耐えなくてはならないこと」と割り切ることも出来ない。プライドを持つ人間として当然の怒りだと、今の目でみれば当然思うだろう。彼の罪状も刑も差別を引きずるものである。
 トニー・カーティスの演じる貧しい移民の子も、差別されていた。そしてなまじに並み以上に美しいために、貧しいこと、差別されていることへの反感を募らせていった末に、でも短絡思考に強盗なんかしてしまうのだ。しかし当然のように黒人を差別している。彼らは相手を見ることで、自分を見ることにもなり気付かないものに気付いていく。
 お互いが相手のために、自分一人で逃げ切るチャンスを捨てる結末には、どうしたって感動せずにいられない。
 この映画では、誰に感情移入するというよりも、主人公だけでなく、人間的に冷静を保とうとする保安官も、二人をリンチしようとする人も、助けようとする人も、今の生活から逃れたいためにカレンを殺そうとする荒地に置き去りにされた妻も、我々がそのどの一人にもなり得る姿を写したものである。

 音楽がポワチエの歌と、追跡者のラジオから流れる騒音として入ってくる音楽だけ。それで、ラストの歌が実に効果的。

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肉体の悪魔 (1947/仏)

2005年01月23日 | 映画感想な行
LE DIABLE AU CORPS
監督: クロード・オータン=ララ 
出演: ジェラール・フィリップ ミシュリーヌ・プレール

 1918年、第1次世界大戦の終結で喜びにあふれる町でひっそりと行われる葬儀を遠巻きに追う一人の少年フランソワ。亡くなったのは彼の恋人、軍人の妻のマルト。大戦下の17歳の高校生と人妻の刹那の激しい、悲劇に終わる恋。

 ジェラール・フィリップは20世紀で最高の貴公子である。彼は何をしても卑しさが無い。身体のどこかに沈んだ澱のようなものが一切感じられない。だから、この勝手きわまりないわがままな17歳への年上の人妻の恋が避けられない運命になる。この時25歳だが、シャツとダボダボのちょっとかっこ悪いズボンの彼は確かに17歳。この、ただ、いるだけで絵になる男っぷりはジミー・ディーンと双璧ではなかろうか。

 マルトの結婚直前に猛烈な、アプローチをかけるフランソワ。そしてマルトの母と、フランソワの父とによって一度は離れる2人。このもののわかった父親というのは、人生の先達とも呼びたいような、まさに大人の振る舞い。でもそれが悲劇の原因となるのだ。娘の幸福を思うマルトの母。しかし、若い恋は理不尽で、良識も、幸福も顧みない。登場でどこかもっさりして見えたミシュリーヌ・プレールは、結婚後の彼を誘うシーンでは危険な恋に分かっていて落ちた女性の、悲しみと喜びと背徳と恐れとふてぶてしさと強さと…様々なものを抱えた彼女は美しい。とても。
 諦めを心の底に持ちつつ、彼の言葉に一喜一憂する彼女の哀れさ。でも彼女はこのどうしようもない若者との恋の甘美を味わってしまって、破滅が見えても離れられない。年取るたびに、このマルトへの共感が強くなってしまう。

 そして、死の床の彼女の部屋を見上げる「自尊心の無い男」と蔑まれるフランソワのげっそりとやつれた表情… 彼女の夫に結局何も言えずに立ち去るフランソワ。
 そして、死者は既に生きているものの感心からは追いやられるのみ。ラストは涙が出るより、どこかが痛むような哀切さ。でもやはり、ジェラール・フィリップに酔っている。

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男性と女性 (1919/米)

2005年01月23日 | 映画感想た行
MALE AND FEMALE
監督: セシル・B・デミル
出演: トーマス・ミーアン グロリア・スワンソン ビーブ・ダニエルズ ライラ・リー
 
 執事クライトンは、仕える家の令嬢メアリに恋している。そして下働きのトウィーニーはクライトンに恋している。それはどうにもならないはかない思慕だが、ある日、海へ出た時に船が難破し、主人一家と無人島に流れ着いた時に、実際に生きる能力を持つ使われる者と無能力な使う者の地位は逆転する。

 ビデオショップの片隅で「わーい、セシル・B・デミル監督の古いのがあった」と単純に喜んで借りてきました。画面はかなり雨降り状態でしたが、若いグロリア・スワンソンは美しかったし、トーマス・ミーアンの表情の変化もくっきり見ることが出来ました。さすがスペクタクルの巨匠セシル・B・デミルで、難破シーンや、挿入されるバビロンの王と奴隷のエピソードなんて、古くてもテンポだけに頼らない迫力があり、それに、サイレントの大げさを感じない映画だった。
 原作がJ・バリ、今注目の「ネバーランド」の主人公。なんてタイミングでしょう。ちょっと原作者本人について読んでいた時で、いろいろ考えさせられることが多かった。
 バリは親が職人で、彼自身の才能で「サー」の称号を与えられ、世界で数えるほどという勲章までかちえた人物であるが、その人生では出自でどれだけ理不尽な扱いをされたことか。この映画見てると華やかで、しかし偽善的なビクトリア朝では、「ネバーランド」的なバリとデイヴィス一家の付き合いがどういう眼で見られたか。

 孤島で、クライトンは王となり、メアリの愛情も得た。しかし、元の社会に返れば、結局関係は主人と召使。でもメアリの愛情は変わらない。そしてクライトンもまた、彼女への愛情ゆえにとるべき道、そして、立場の変化に関わらず、一途な思いをクライトンに捧げていた、そして彼がその無教養さを馬鹿にしていたトウィーニーの愛情の真価をも悟る。だから、彼のラストシーンの表情はとても穏やかである。
 身分違いの恋の苦しみとか、クライトンが帰ってからその選択をするに至る状況を、的確に分かる様に描いているのはすごいと思う。 

 しかしこの映画、挿入される文字が多くて、それに「男性と女性」とか、映画を通してキーワードになる「心は愛するためにある」(ヘンリー詩集)など、その背景を作り上げる聖書とか、文学的基礎知識があったほうがいいみたい。

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五線譜のラブレター DE-LOVELY (2004/米)

2005年01月22日 | 映画感想か行
DE-LOVELY
監督: アーウィン・ウィンクラー
出演: ケヴィン・クライン アシュレイ・ジャッド

 1920年代のパリで、コール・ポーターは年上の離婚暦のあるリンダと出会った。リンダは、彼の才能と優しさに、ゲイでもあることを承知で結婚する。そして彼女の尽力もあってポーターは売れっ子の作曲家になる。
 しかし彼の性癖と乱れた生活は彼女を苦しめる。

 さすがに音楽が素晴らしくて。
 ケビン・クラインがあんなに歌えるなんて知らなかったけれど、やはり実力派の歌手が次々に登場するステージシーンなどは、もうただただうっとり。見終わった時には、そうお酒の飲める人なら極上の酒に良い加減で酔った幸福感、みたいなものでしょうか、私なら穏やかで好きな絵ばかりの小美術館でひと時過ごしたというのに同種の幸福感に酔っておりました。

 ドラマ自体はけっこうシビア。
 コール・ポーターはかなり困った男に見える。でもそのあり様が自然でイヤな男に見えないのはケビン・クラインがうまいというべきでしょう。リンダが彼にとってのミューズであることは、彼は分かっている、分かっていて、しかも甘えてしまう。天才とは、どこかがずれているのか、と思わせられる。リンダの姿はいつも孤独。でもその苦しさが分かっても、結局彼のもとに帰って支えてしまう。
 彼女は、一人の男と、その男に与えられた"GIFT" を愛してしまった。それはとても大きく、心が捉われずにいられないものなのだろう。特にそれを理解するものにとっては。彼はその最上の理解者を得て、羽ばたき、それを亡くした後の喪失感に苦しむ。この2人もまた「天与の出会い」をしたのだろうな…

 この邦題もちょっと苦しい感じがあるけど、仕方ないでしょうか。あちらの人は、原題見ただけであの曲が流れるのでしょうから。
 個人的には「True Love」の曲の使い方が嬉しかった。あの曲は心にものすごい純粋なものを持っている人でないと書けない曲だと思う。

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下妻物語(嶽本野ばら著*小学館文庫)

2005年01月22日 | 
 映画を見て、読んでみようと思った。そして、今まで嶽本野ばらを読んでいなくて、損をしていたと思った。
 おかしい。下妻という田舎で思いっきり浮きまくりのロリータやってる桃子の一人語りの、現実に背中向けちゃった部分と、実にシビアに現実を見る部分のよじれたギャグのおかしさは映画以上。レトロで良い子のヤンキーをやっているイチゴのアッパラパーな突き抜け感も笑える。
 思いっきり笑えるが、泣けた。 

 桃子はテキヤ、バッタ屋の父と、不倫で家出の母を持つ堂々たる欠損家庭の娘であり、現実認識の鋭さは人並み以上。余計な甘えを持たない、人に期待しない彼女はどうしたって孤独。イチゴはクラス中から馬鹿にされる惨めな孤独の中にいた。
 しかし彼女たちは、卑屈に集団に擦り寄ることで孤独から逃れようとはせず、また世の中に対してすねることもせず、自分たちの美学を貫いて敢えて孤独に生きることを選ぶ。その美学がロココの世界であり、イチゴの「主義」なのである。それは世間的価値観からすれば、いかにスットンキョウであろうと、眉をひそめられようと、二人は自分たちの筋を通して生きようとしている。
 見た目は違えど、二人はお互いを知る者なのだ…だから反発もするし、惹かれあいもする。そして馴れ合いからは生まれない孤独を知る者同士の友情は、ここにこそ育むことができるのだ!

 心あらば、この乙女らの雄々しさに泣け!

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少林寺 (1982/中国・香港)

2005年01月21日 | 映画感想さ行
監督: チャン・シン・イェン
出演: リー・リンチェイ フー・チェン チャンティン・ナン ユエ・チェンウェイ

 動乱期の中国、群雄割拠で秩序が崩壊していたような時代。悪辣非道な将軍に父を殺され、自分も瀕死のところを少林寺に救われた青年が、厳しい修行の末、少林寺の仲間と共に将軍一派を壊滅するまで。

 …よく言われていることですが、ストーリーは本当に二の次っ!こういうのは、アクションを展開するための理由をつけるためのストーリーなんですから。これが、この前の「マッハ!」みたいなアクションインデックスつきDVDで単品売りすればすぐ買っちゃう!

 ジェット・リーと初めて出会ったのは「リーサル・ウェポン4」 あまりのかっこよさにメル・ギブソンのほうが悪そうに見えるくらいだった。ビデオ屋に走り見られるものをすべて借りた(もちろん一度にではないけど)この映画の彼は若くてかわいい!でもすごい!あの動きと型の美しさ!「!」マークいくつ付けても付け足りない!!修行シーンなんかバックは書き割りのようだが彼の美しい動きが見られればそれでいいの。
 それにジェット・リーだけではない、出演者全員の身体技の極致のようなアクションの素晴らしさ!(音声とか、特に女性のアクションシーンはつい笑っちゃったりするけど)
 レトロな西部劇を思わせるような主題歌も好き。

 ところで、この映画も悪役(これまた強い!)をとことん悪役にするためでしょうが、いわゆる残酷シーン多いです。
   
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