虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

戦場のピアニスト(ウワディスワフ・シュピルマン著/春秋社)

2004年12月04日 | 
 今更なのだが、「戦場のピアニスト」原作のほうを読んだ。
 この20世紀の悲劇の重みには、どうにもすぐには処理しかねるものを抱えさせられてしまう。
 映画を見た直後には、それについて、どうこうとはとても書けなくて、やはりワルシャワ出身の作家のシンガーの本について書いたりしてました。(よろこびの日
 映画のほうは、レンタル含めて5~6回見ているのだけれど、この本は映画と感じるものが微妙に違う。
 シュピルマン自身の手になるこの本では「復讐・裁きの要求」が感じられない。ただただすさまじい現実が、淡々と記され、そのまま読まされてしまうが、映画を見てからだとその場面がフラッシュバックしてその悲惨を(とても追体験できるようなものではないが)突きつけられる気分。あのダンスのシーン…映画では時間をそれほどとれないが、どれほど長時間やらされたか。キャラメルのシーン…片隅の死体置き場…時々吐きそうになった。
 原作と映画で印象が違ったのは、ドイツ軍のホーゼンフェルト大尉。大尉の日記も本に入っているが、「良心的なドイツ人」が、いかにナチスを嫌悪してもその波に呑まれ、結局代償を払わされることになったかの記録であり、読んでいて痛ましく苦しい。しかし、日本でも戦後巣鴨で絞首刑にされたなかにも、こういう人たちはどれほどいただろう。

 以前、息子のクリストファー・スピルマン氏の書いた「シュピルマンの時計」を読んだときには戦後のこの本をめぐる共産主義下の社会でのドタバタも記されていた。この本を映画化するに当って、主人公は労働者でなくてはまずい、とか。この凄まじい悲劇さえ、ずれたイデオロギーの餌食になるのだ。

 本の中で登場しては去っていく人々の様々に、結局人間自分の行動を選ぶのは自分なんだ、と思わずにいられない。ヤヌシュ・コルチャックの姿はこの本でも美しい。シュピルマンの逃亡を助けた人、告発した人、戦った人、強いものに擦り寄った人、ひとりでは出来ないことをナチスの名の影でやってしまった人…

 ひどい生活の中で、最後まで自分自身の思考を守り続けたシュピルマンにも感動した。ホーゼンフェルト大尉に自分の名前を告げるところでは、彼が生死のぎりぎりのところでも、状況を把握し、個人対個人としてドイツの将校に相対している。あのピアノのシーンより、本ではこちらのほうが印象に残った。

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