虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

スカイ・クロラ The Sky Crawlers(2008/日本)

2009年07月23日 | 映画感想さ行
THE SKY CRAWLERS
監督: 押井守
声の出演: 菊地凛子   草薙水素
    加瀬亮    函南優一
    谷原章介  土岐野尚文
    山口愛    草薙瑞季
    平川大輔   湯田川亜伊豆・合原
    竹若拓磨   篠田虚雪
    麦人     山極麦朗

 森博嗣原作のアニメ化。平和を実感させるための見世物として“戦争”が行われている世界を舞台に、死ぬことがなく思春期の姿のまま戦闘機のパイロットとして戦わされるためだけに生きる“キルドレ”と呼ばれる存在の運命を描く。

 少し前にDVDで見ました。
 最初の感想は「やっぱ大スクリーンで見るべき映画」というものでした。
 キルドレたちの個性を極力排除したような、まるで古いひな人形みたいな造形(たくさんいるから余計にそう感じる)、それに比べてやたらとリアルな空中戦闘シーン。リアルもデフォルメも色彩も隅々まで同質な感じで、押井監督らしいと言えばそうなのかも。大画面でその映像を楽しみたかったです。

 それはそれとして、見終わってなんとなく違和感・腑に落ちない・取り残された感がありました。
 例えて言うと、不条理劇を見て「?」状態で終わったような感じと言いますか。
 いろんな解釈ができると思うけど、私はハインラインの「フライデイ」のようなアイデンティティを他から規制された存在の物語を連想しました。
 

 で、原作読んでみました。
 私には苦手な部類の小説で、たくさんあるのでちょっと大変でした。そちらのほうはアイデンティティ小説でもあり、、妊娠小説でもありで、結論としては「アニメと小説は別物」でした。小説から入ると、アニメでのキャラのイメージの違いに戸惑ったと思います。小説でのキルドレはもっとユニセックスな感じです。草薙水素はもっとユニセックスを感じさせる声のほうがよかった、と個人的には思います。

禅 ZEN(2008/日本)

2009年06月30日 | 映画感想さ行
監督: 高橋伴明
出演: 中村勘太郎   道元
    内田有紀    おりん
藤原竜也    北条時頼
   テイ龍進    寂円・源公暁

 日本曹洞宗の開祖、道元の伝記ドラマ。

 大学の一時期、仏教に凝ったときがあリました。わが国ではありがたいことに基本仏典が岩波文庫で揃ってたり、参考文献豊富なので読み漁っておりました。読むには読みましたが、お釈迦様の言行録的なものはともかく、仏教書は基本的に哲学書、みんな歯ごたえありすぎ。特に道元禅師の「正法眼蔵」(もちろん解説付き)はむずかしくて理解度5パーセントと言うもおこがましいありさまでした。
 でも、解説などなどのおかげで
・仏性は個々人の中にあり
・ひたすら座る、また日々の修行の中から言葉で表わされるものを越えた「悟り」を得る
・女性を見て心に起る悪心は、女性は存在が悪いからではない。(でも女人往生は難しい)

…と言うような(半端な)理解をしておったのです。

 そういう生半可な予備知識でこの映画見ますと、おりん(内田由紀)があまりにも現代的に美しく、最後に出家をして収まるところがなんか違和感払いきれませんで、もっと勉強しなきゃなあ、とか思うのでした。それに道元を越後に導く波多野さんの登場がちょっと唐突に感じます。
 見た後に教材的な映画を見た以上の満足感はあります。

 田村高広が鑑真和上役だった「天平の甍」はたまたま大画面で見たせいか、中国やら南アジア方面の景色が素晴らしく、また命がけで持ち帰ろうとした仏典・仏像が帰途の嵐でむなしく海に沈むシーンなど、面白いつまらないを越えて絵が印象に残る映画でしたが、これは「絵」でなく、なんだか熱意みたいなものが印象に残る映画でした。
 それにしても昔の日本のお釈迦様映画でも、キアヌ・リーヴスの映画でも、これでも、どうも十分でしかもやりすぎないとみんなが納得できる「悟り」の表現は難しいものだろうなあと思わざるを得ません。

シューテム・アップ(2007/アメリカ)

2009年02月11日 | 映画感想さ行
SHOOT 'EM UP
監督: マイケル・デイヴィス
出演: クライヴ・オーウェン    スミス
   ポール・ジアマッティ    ハーツ
   モニカ・ベルッチ    ドンナ

 スミスは、殺し屋に追われる妊婦を助け、出産を助ける。恐妻家のボス、ハーツが送り込む刺客が次々と現われる中、拾い上げた銃で応戦するスミス。しかし彼女は赤ん坊を産み落としてすぐ流れ弾に当たってあっけなく絶命。やむを得ず赤ん坊を拾い上げたスミスは、なおも執拗に迫る追っ手をかわして母乳プレイの娼婦ドンナのもとへ。赤ん坊の命を執拗に狙う追っ手は、次々に現れる。

 この映画に関しては昨年・ねずみ年のうちに書いてしまいたかったです。
 これまたリアリティなんてどっか行け、という映画で、絵にかいたような過去を背負った不死身な主人公がありえないガンアクションを繰り広げます。
 モニカ・ベルッチ演ずるお約束の過去を持つ娼婦と、お約束のような会話をしつつ、新生児を抱えたままの逃避行を敢行いたします。
 新生児に汚れた靴下かぶせちゃうし、ネズミだらけの場所に平気で連れて行くし、おむつに新聞紙使ってるし、そういう意味では震え上がるようなシーンが展開されてます。赤ちゃんを抱く前に手を洗いましょうなんて注意するナースもドクターもいません。赤ちゃんもあり得ないほどタフです。だいたい、赤ちゃんいい子で無駄に泣きません。
 そもそも話のかなめである赤ちゃんも、ただ要として存在し、「赤ちゃん泥棒」のように要所で天使のようなかわいらしさをアピールしたりしません。
 allcinemaの解説でも、
”クライヴ・オーウェン、モニカ・ベルッチ、ポール・ジアマッティという豪華キャストを揃え、ひたすらクール&スタイリッシュな銃撃戦を追求した痛快ガン・アクション・ムービー。監督は「エリカにタッチダウン」のマイケル・デイヴィス。”
 ということで、全くその通りです。
 そのアクションシーンも、空中狙撃といい、糸仕掛けといい、もちろんあり得ませんが、面白いので全然OKです。
 サディストでなぜか恐妻家の悪役にぼこぼこにされた主人公が最後の逆転!あまりにもお約束にはまった展開に泣かされます。

 というわけで「クール&スタイリッシュな銃撃戦」を堪能するためには格好の作品でありました。
 少なくとも私には、滅入ったときにちょっと元気回復してくれました。

ジャンパー(2008/アメリカ)

2008年12月02日 | 映画感想さ行
JUMPER
監督: ダグ・リーマン
出演: ヘイデン・クリステンセン    デヴィッド・ライス
   ジェイミー・ベル    グリフィン・オコナー
   レイチェル・ビルソン    ミリー・ハリス
   サミュエル・L・ジャクソン    ローランド・コックス
   ダイアン・レイン     メアリー・ライス

 デヴィッドは好意を抱く同級生のミリーのボールを追って冬の川に転落、だがデヴィッドは次の瞬間図書館にいた。自分にテレポート能力があると知った彼は、母が家を出て以来、人が変わってしまった父のもとを離れニューヨークへ。そして、その力を使って銀行の金庫から大金をせしめ、自由を満喫するのだった。しかし、彼のようなテレポーテーション能力を持つ“ジャンパー”たちは、ある組織に次々に抹殺されていた。

 あんまりすっきりしない映画でした。
 テレポーテーション描写はふんだん、世界中を瞬間移動のわくわくはあります。映像効果もがんばってます。でもやっぱりストーリーが難あり。
 母は家出、飲んだくれ親爺との寂しくつらい生活、ぱっとしない学校生活、片思い、で、特殊能力が判明したとたんに家出。15歳の子どもだからと言い訳してその能力で銀行の金庫へ侵入。「はじめは返すつもりだった」 でもそれが生業になっちゃうのね。
 ともかく「できるからやっちゃう」で、遵法精神なんて思い出しもしなくなっちゃう。
 主人公がアウトローでもジコチューでも、素敵だ!かっこいい!と思えれば良いんですが、この主人公なんだかとっても軽いです。アウトローな主人公でも思わず肩入れしたくなったりするのは、対するのが太刀打ちできないような巨大な存在に挑んだり、何を捨てても「これだけは譲れない」というような主人公の姿に共感できたりするような時が多いかな、と思いますが、この映画ではなんか納得しないままに終わりまでお話が突っ走る感じです。
 主役がアナキン君のヘイデン・クリステンセンだからでしょうか「いつもあなたはこうなんだから・・・ 力の使い方を少し考えたら」とか思ってしまいます。
 

ぜんぶ、フィデルのせい(2006/イタリア、フランス)

2008年11月18日 | 映画感想さ行
LA FAUTE A FIDEL!
監督: ジュリー・ガヴラス
出演: ニナ・ケルヴェル     アンナ
   ジュリー・ドパルデュー    マリー
   ステファノ・アコルシ    フェルナンド
   バンジャマン・フイエ    フランソワ

 1970年のパリ。9歳の少女アンナは名門カトリック女子小学校の生徒で、スペインの貴族階級出身で弁護士の父フェルナンドと雑誌記者の母マリー、弟のフランソワと裕福な生活を送っていた。ある日、独裁政権と戦っていた伯父が亡くなり、残された叔母と従姉妹がアンナのやってきた。これを境に、フランソワとマリーは次第に共産主義的な価値観に目覚めていく。アンナの日常も変わっていく。両親から宗教学の授業を禁じられたり、狭いアパルトマンへ引っ越したり、そこにはコミュニストの男たちや女性の権利のために闘争中の女性などがひっきりなしに訪れて・・・と不自由な生活を余儀なくされてしまい…。

 最近見た中では文句なし。じぃぃぃ・・・んと静かな感激のラストシーンを迎えた映画。
 こういう映画が本当に一番響くような歳になったのかな、と思います。
 主人公のアンナ役の女の子の「ふくれっ面」の魅力が喧伝されておりますが、実際目力の強力な女の子です。やわらかそうなふっくらしたほっぺの上で強い眼が輝き、彼女の成長しようとする若い芽の勢いがなんとも愛しく思えます。わがままも文句も「今のうちですがな、せいだいやりなはれ」(私全然関西とは縁はないです)というような、やんちゃを見守る近所のオバサン的な気分になってしまいます。
 弟のフランソワ役の男の子も最高。いや、親やら現状を一生懸命肯定する年頃の子どもの健気に笑わされ、泣かされます。
 両親の行動も、子どものうちからデモ参加はお祭りメーデー以外はやめたほうがいいと思いますが、ともかく一途で一生懸命で子どもへの愛は本物なので、やりすぎに見えることも不快感でなくて困ったな、という気分。言葉の表現を極力削った感じですが、それも好感です。
 
 20世紀の社会主義国家というもののいわば壮大な試みを、ぜんぶ終わったわけではないものの、ある程度週末を知っているわけです。また、この映画に登場する独裁者フランコ、ピノチェトも故人となりました。その観点から見ると、この映画も「イル・ポスティーノ」も切なさと当時の熱気への不思議さを持たざるを得ません。きっと日本の平和ボケも一因です。
 とはいえ、アンナは自分の目でものを見て考え、自分自身の足でその第一歩を踏み出しました。両親とも、祖父母とも、入れ替わり立ち代りの難民のナニーたちとも違う彼女自身の道を探しながら。
 その心細げで一歩になぜか(私の)幸福感がにじんで応援したくなるのでした。

 感想が思い切り年寄りくさくなりました。

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〈こういう映画が本当に一番響くような歳になったのかな、と思います〉
なんて上で書いてますが、いろいろ厳しかったこの数ヶ月、一番よく見ていたのはマット・デイモンのジェイソン・ボーンシリーズとディズニーの「魔法にかけられて」でありました。やっぱ畳み掛けるアクションとか、お家芸の華やかなミュージカルシーンとか出来のいい画面と予定調和は心の友です。

それでも生きる子供たちへ(2005/イタリア、フランス)

2008年09月04日 | 映画感想さ行
ALL THE INVISIBLE CHILDREN
監督: メディ・カレフ 「タンザ」
エミール・クストリッツァ 「ブルー・ジプシー」
スパイク・リー 「アメリカのイエスの子ら」
カティア・ルンド 「ビルーとジョアン」
ジョーダン・スコット、 リドリー・スコット 「ジョナサン」
ステファノ・ヴィネルッソ 「チロ」
ジョン・ウー 「桑桑(ソンソン)と小猫(シャオマオ)」

 “世界中の子供たちの窮状を救うため”というイタリアの女優マリア・グラツィア・クチノッタの呼びかけにユニセフと国連世界食糧計画が賛同し、7ヵ国から7組8人の映画監督が参加、それぞれの国の子供たちの過酷な現実を独自の視点で描き出したオムニバス・ドラマ。

=====
 アフリカの少年兵も、アメリカのエイズの少女も置かれている状況に差はあっても、どうしようもなく孤独。生まれる家を選べない少年が運命に対抗するために選んだ場所は少年院…
 それぞれに本来持つべき子供時代を奪われた子供たちが「それでも生きている」姿。
 見る前からわかってたことですが、批評とかそれ以前の話で、ここに描かれたものが実際に今現在どこかで起こっているとわかっていることが辛い。私自身「見ないようにしている」とわかっています。見れば、無力感に打ちのめされるし、今の安穏な日常に罪悪感を持つことが明白なので。
 とはいえ、救いは「それでも生きる」子供たち自身。祈るばかり。ともかく一度は見ましょう、としか言えません。

ゾディアック(2006/アメリカ)

2008年08月13日 | 映画感想さ行
ZODIAC
監督: デヴィッド・フィンチャー
出演: ジェイク・ギレンホール    ロバート・グレイスミス
   マーク・ラファロ    デイブ・トースキー刑事
   ロバート・ダウニー・Jr    ポール・エイブリー
   アンソニー・エドワーズ     ウィリアム・アームストロング刑事
   ブライアン・コックス     ベルビン・ベリー

 1969年、全米を震撼させた実在のシリアル・キラー“ゾディアック”事件にかかわった男たちの、それぞれの運命を描く。

 マスコミや警察を翻弄するように、暗号や挑戦状を送り続けた「ゾディアック」事件を追い続けた一人の刑事は振り回され、一人の記者は殺人の標的にされて表舞台からの退場を選択し、一人の漫画家は20年をかけて追い続けた。
 結局、誰が真犯人かの真相は断定せずに終わり、あわやこの事件に取りつかれて人生を狂わせそうになった漫画家は一定の結論をもって彼自身のかかわりを終結させたようだ。

 描写は淡々としていて、音楽なんかも目立って怖さとか盛り上げてはいません。怖いことがまさに予想なしで突然眼前に現れるみたいなうすら寒い感じはソクソクと伝わってきます。でも、一番感じたのは私自身この2年ほどこだわり屋さんと向き合い続けているためか「こだわりにつかまってしまった人間と、こだわりをつかみ続けた人間」の違いでした。

再会の街で(2007/アメリカ)

2008年07月09日 | 映画感想さ行
REIGN OVER ME
監督: マイク・バインダー
出演: アダム・サンドラー    チャーリー・ファインマン
   ドン・チードル       アラン・ジョンソン
   ジェイダ・ピンケット=スミス    ジャニーン・ジョンソン
   リヴ・タイラー       アンジェラ・オークハースト
   サフロン・バロウズ     ドナ・リマー
   ドナルド・サザーランド   レインズ判事
   マイク・バインダー     ブアイアン・シュガーマン

 ニューヨークのマンハッタン。歯科医のアランは、大学時代のルームメイト、チャーリーを街で見かけ声を掛ける。チャーリーは9.11テロで最愛の妻と3人の娘を亡くして以来、呆然と日々を送っている。アランは歯科医として成功し、美しい妻と娘2人にも恵まれている。チャーリーにうとまれてもアランは彼をなんとか”立ち直らせよう”とする。

 人生で大事なもの全てを失い、崩壊してしまった世界に、人間はどう対処できるのか。
 ノーマン・メイラーがその著書の中でいみじくも指摘したように、911のその日、喧嘩したりして別れた大事な人がいなくなったものがいちばん悲惨だ。愛しているし、相手を信頼もしているから、人間関係が壊れると思わずに安心して怒鳴りも喧嘩もできる。明日にはまた仲直りできると思っているから。でもその明日がなくなってしまったら…きっと残ったほうの未来もなくなってしまう。
 とはいえ、チャーリーが911遺族であってもなくてもたとえば交通事故でも同じことだ。911はチャーリー自身に負い目のない悲劇ということが鮮明にはなる。それでも彼は自分を責めずにいられない。
 
 悲劇を抱えて苦しむチャーリーだが、妻や子をもぎ取られた悲しみに支配された心から抜け出すことが救いではきっとないでしょう。彼は死者とともに、でも他の人とも一緒に生きる道を見つけ出さなくてはいけない。いつになるかわからなくても。
 そしてアランは今日妻に「愛している」と言うことができた。

「自らに死ぬことも生きることをも禁じたいような、人を求めたいような避けたいような」身の置き所がない、やりきれない心を持て余す男を演じるアダム・サンドラーが見事でした。もちろん、ドン・チードルも十分に渡り合っています。

 それに「ワンダと巨像」! チャーリーがこのゲームしてます。お薦めがあってブックオフで買ってきたけど、なんせリアル系。まだ体調が十分でないので、これもまた酔いそうでまだ未プレイなのよね。やらなくちゃ。

サルバドールの朝(2006/スペイン、イギリス)

2008年07月01日 | 映画感想さ行
SALVADOR
監督: マヌエル・ウエルガ
出演: ダニエル・ブリュール    サルバドール・ブッチ・アンティック
   トリスタン・ウヨア    オリオル・アラウ
   レオナルド・スバラグリア    ヘスス
   ホエル・ホアン       オリオル
   セルソ・ブガーリョ    サルバドールの父
   メルセデス・サンピエトロ    サルバドールの母
   イングリッド・ルビオ    マルガリーダ
    レオノール・ワトリング     クカ

 1970年代のフランコ独裁政権下のスペイン。青年サルバドールは、反体制活動に関わるようになる。活動資金を得るために銀行強盗にも手を染める。警察にに追い詰められ、銃撃戦の中、彼の銃弾は若い警官を撃ち、サルバドール自身も瀕死の重傷を負う。警官は死亡し、一命を取り留めたサルバドールは死刑判決を受ける。

 スペインのフランコ政権下の一見穏やかな日常を一枚めくると…といった恐怖政治はたとえば「ロルカ 暗殺の丘」でも描かれていたとおりです。独裁政権はいやだ、恐ろしい。さはさりながら自分の生活の安泰や己の安全のためには見えるものも見ないようにする、という人間の傾向は独裁政権だろうが、民主主義だろうが変わりません。
 この映画も、オープニングタイトルからメッセージ明らか。と私は思ったんですけど。感動したけど、うすら寒い感じも持たされてしまいました。
 サルバドールは気持ちのいい好青年で、誰かがやらなきゃならないなら、自分が引き受けよう、というタイプ。活動もはじめは理想主義的。銀行強盗もおまけの冒険みたい。まあ、反体制活動の割には、あまりにも間抜け。
 囚人としての生活でサルバド-ルの人間性が丁寧に描かれるので、おそらくフランコ体制下でなければアフリカの飢えた子を救おうというような活動をしていたであろう青年が「変えなければ、行動しなければいけない」と思ったことが何であるかを悟らされます。殉教者になりたくなかった彼は、結局処刑によってシンボルになってしまったのでしょうか。

 私の知ってるスペインはヘミングウェイ「誰が為に鐘は鳴る」、オーウェル「カタロニア賛歌」、それに映画の「蝶の舌」などで見たスペインだけですが、どれでもフランコ将軍を好意的には考えられません。
 それにフランコ政権を存続させた責任を負わなきゃいけないのは、スペイン国民だけじゃないですよね。

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師(2007/アメリカ)

2008年06月29日 | 映画感想さ行
SWEENEY TODD: THE DEMON BARBER OF FLEET STREET
監督: ティム・バートン
出演: ジョニー・デップ    スウィーニー・トッド
   ヘレナ・ボナム=カーター    ミセス・ラベット
   アラン・リックマン    ターピン判事
   ティモシー・スポール    バムフォード
   サシャ・バロン・コーエン    ピレリ
   エド・サンダース    トビー

 19世紀のロンドン。理髪師ベンジャミン・バーカーは、妻に横恋慕したターピン判事によって無実の罪で流刑にされ、15年後、ロンドンに戻った。そしてパイの店の女主人に妻は死に、幼い娘は判事のもとで幽閉されていると聞かされる。ベンジャミンはターピンへの復讐を決意。“スウィーニー・トッド”と名を変え、パイの店の2階に店を開く。

 相変わらず、ティム・バートン風悪趣味で残酷なおとぎ話でありましたが、今回はタイトルから血みどろ。それも印象に残るのは噴き出すよりも、ドロドロと重そうに流れる血。
 もっと不思議なのは、なぜでしょうか、元がミュージカルの舞台だというのに、歌詞は頭に残っても、メロディー忘れちゃう。私はミュージカルの映画や舞台を見ると、帰りはたいがいその中で印象的なメロディー歌いながら帰る、とか、DVD見た日は皿洗ったり掃除しながら歌ってるのが普通なのに、いや、この映画は"beautiful""naive"の言葉は頭に焼きついてもメロディーがどっか行っちゃって。せっかくあんなに歌っていたのに、なぜでしょう?
 ラストもまた血の中ですべて収まるところへおさまって、納得のエンディングなのでした。最後の剃刀は彼にとっての救いだったと思います。そして若いナイーヴな二人は彼ら自身のまた新たな苦労をしていけば良いのです。
 次から次へと斟酌なく喉を掻っ切るという壮絶スプラッタしても見た後に不思議にあくどくなくて、いつもの解放感が残りました。
 しかしこの映画で一番怖かったのは、復讐のためにはすべてかえりみないトッドよりも、不都合を全部「とりあえず横に置いといて」自分の憧れの家庭を夢見ることのできるミセス・ラベットでした。
 
 それにゴキブリを見た時には完全に及び腰になりましたが、あの程度で済んで本当によかった。

シッコ(2007/アメリカ)

2008年06月21日 | 映画感想さ行
SICKO
監督・出演: マイケル・ムーア

 アメリカの医療制度を扱ったもの。
 見るのが怖かったのですが、実際すごく怖かった。
 医療が暴走する資本主義に呑み込まれていくと、こういう結果になります…

 アメリカには「一番病」というのがあるんですね。
 小さい頃から「アメリカ一番」「社会を壊す恐怖の全体主義」「MIGHT IS RIGHT」「社会的成功絶対主義」…どっぷりつかって価値観の骨格ができちゃうんですね。だからほかの国でよさそうなものがあっても、アメリカが学ぶべきだとか、考えられないのかなあ?
 これ見てると、ノーマン・メイラーのアメリカ愛国主義に対する言説を思い出しました。2人ともアメリカの脆い民主主義というものを根底で信じてるんですね。

 日本では、日本人自身の一部が自虐的に日本を貶めていて、歴史を悪いほうにゆがめていると主張がされています。しかしながら、一番病よりは、まだ「俺たちまだまだだよな」的認識のほうが健全に思えてきます。
 医療制度については、日本でも危うい局面です。
 でも日本の言論のほうが虚弱でしょう。

 チェ・ゲバラの娘さんを見ることができてちょっと感動。

スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ(2007/日本)

2008年05月14日 | 映画感想さ行
監督: 三池崇史
出演: 伊藤英明    ガンマン
   佐藤浩市   平清盛
   伊勢谷友介   源義経
   安藤政信   与一
   堺雅人   平重盛
   小栗旬    アキラ
   田中要次   平宗盛
   石橋貴明    弁慶
   木村佳乃    静
   香川照之    保安官
   桃井かおり    ルリ子

 平家の落人の埋蔵金を狙い、よそ者が押し寄せ、やがて村は、平清盛率いる平家ギャング(赤軍)と、源義経率いる源氏ギャング(白軍)の抗争の場になる。そこへ、一人の凄腕ガンマンがやってきた…

 最近、何見てもあまり面白くありませんで、映画見ながら余計なことばっかり考えてる始末で、私の感性とやらはすっかり錆びきっちゃったのかなあ、と思ってました。
 この映画見ていても、ファーストシーンの書割のようなバック、うそくささ満載の大芝居という、いつもだったら喜んでかたずをのんでしまうであろうものを見ていても、なんとなく乗れずおりましたが。

 中盤、1時間も過ぎてから調子に乗ってきました。
 ドロドロ、血まみれ、凶悪の笑いのてんこ盛りを見ていてうれしくなりました。
 ええ、もうギャハギャハ笑わせていただきまして。
 あのマカロニウェスタンの名作を踏襲していまして、そのなぞり方も気持ち良かったです。
 最後の決闘は伊勢谷友介が美しく、獲物に刀を持ってきたところも「キャー!かっこいくていいわ!」なのでした。
 その流れからいえば主人公が痛めつけられるシーンは、もっとこってり見せてもよかったのではなかったでしょうか?

 まあ、皆さん気持ちよさそうでしたね。特に佐藤浩一さん、タランティーノさん。
 源平へのなぞらえについては、元祖宗盛さんがちょっとお気の毒でした。
 ところで、ラストの雪はいきなり積もってましたが、まさか「LOVERS」のような事情ではありませんよね? 決闘をあの色彩で彩るためのものですよね。

 このあと、一気に「荒野の用心棒」「続・荒野の用心棒」を見ました。晴れ晴れする傑作ですねえ!
 おもしろかったけど、やっぱ「ジャンゴ」はまだ勝てないですねえ。

趣味の問題(2000/フランス)

2008年05月08日 | 映画感想さ行
UNE AFFAIRE DE GOUT
監督: ベルナール・ラップ
出演: ジャン=ピエール・ロリ
   ベルナール・ジロドー
   フロランス・トマサン
   シャルル・ベルリング
   アルチュス・ドゥ・パンゲルン
   ジャン=ピエール・レオ

 レストランで働く青年ニコラは、実業家フレデリックに専属の試食係として雇われる。やがて、フレデリックはニコラを食の好みばかりでなく、あらゆる面でつくりかえようとし始める。

 キモチワルイお話です。
 すべて満ち足りたらしい生活をしている実業家が望んだものは、自分のコピーのような人間を奴隷にすることだったんでしょうか。屈折しきった支配欲と自己愛の極致でしょうか?
 素人が軽々に言うことじゃないでしょうが、ドメスティックバイオレンス関係とか、共依存なんて言葉を連想します。ここでも一方が圧倒的に強者ですが。

 いや、それで、中年にしても、青年にしてもさして美しく見えないのが困ったというか…
 スキーシーンはテレビでも目が痛かった。
 共感とか、感情移入とかを拒んで最後まで私をドン引きさせたという映画なのでありました。

さらば、ベルリン(2006/アメリカ)

2008年03月10日 | 映画感想さ行
THE GOOD GERMAN
監督: スティーヴン・ソダーバーグ
出演: ジョージ・クルーニー    ジェイク・ゲイスメール
   ケイト・ブランシェット    レーナ・ブラント
   トビー・マグワイア    タリー
   ボー・ブリッジス    ミュラー大佐

 1945年、ベルリン。ポツダム会談の取材のため、ベルリンにやって来たアメリカ人ジャーナリスト、ジェイク・ゲイスメールは、戦前ベルリン駐在期間があり、その時、人妻のレーナと不倫関係にあった。2人は再会を果たすが、レーナは、ジェイクの運転手の米軍兵士、タリーの情人となっていた。そしてタリーがソ連領で死体で発見された。

 この映画を見ていて前半で感じるなんか紙芝居みたいな感じが、なんだかしっくりきません。とは言っても最近、あまり自分の感覚に自信が持てなくなっていますが、「カサブランカ」へのオマージュ映画だそうですが、ほかのいろんな戦争恋愛映画のパロディを見ているようでもあります。
 とはいえ、嫌いではないのです。
  
 このところ、たまたま夏目漱石の「私の個人主義」を読んでいまして、その中の「国家の道徳より、個人の道徳の規準のほうがずっと重い」という一節もありまして、まあ、こういうところかな…とも思います。その点を言うなら、パロディであっても、元の作品にないものがあります。 
 蛇足な点ながら、ケイト・ブランシェットは白黒だともっときれいかなと思いましたのに。
 トビー・マグワイアのつるんとした感じは無法地帯となった戦後のベルリンで物資横流しに手を染める、若くて馬鹿な兵隊が思いのほか似合ってました。

スキャナー・ダークリー(2006/アメリカ)

2008年02月20日 | 映画感想さ行
A SCANNER DARKLY
監督: リチャード・リンクレイター
出演: キアヌ・リーヴス    ボブ・アークター
   ロバート・ダウニー・Jr   ジム・バリス
    ウディ・ハレルソン    アーニー・ラックマン
    ウィノナ・ライダー    ドナ・ホーソーン
    ロリー・コクレイン    チャールズ・フレック

 フィリップ・K・ディックの小説『暗闇のスキャナー』を、実際の俳優が演じた映像データを基に、アニメーターがデジタル・ペインティングしていく“ロトスコープ”という映像技術で映画化。
 近未来のアメリカ。“物質D”と呼ばれる強力なドラッグが蔓延し、ボブ・アークターは、覆面捜査官として潜入捜査に当たる。新技術で上司や同僚でさえも姿形さえも知らないため、彼はヤク中としての自分を監視することに…

 原作読んでいませんが、自分の存在さえ足元から揺らいでしまうというディック式のお話です。
 これも「あんたなら面白いだろう」と勧められて見たのですが、映画として面白いかといえば、どうかなでした。ものすごく手間と時間をかけたという“ロトスコープ”も映画の雰囲気を決定的に支配しているかどうかは私には判断できませんでした。全体がペタッとした感じで奥行きもなく、その中で人物の輪郭線の中だけが厚みがあって動く感じです。
 ただお勧めの理由が、作中の会話のずれ方が気に入るだろうということだったので、その点ではピタリはまりました。
 オープニングの虫のウゾウゾがすごく嫌でした。中毒者のころころと気分と態度の変わる会話のどうしようもない投げやりさ。
 イライラとか落ち着かなさ、体のどこかが溶けていくような気分を存分に味わうという点では堪能しきって疲れる映画でした。
 貧乏くじって言えば、ほんとにそうですね。映画の有体な感想はむかつく、というところです。