虫干し映画MEMO

映画と本の備忘録みたいなものです
映画も本もクラシックが多いです

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!(2007/イギリス、フランス)

2009年07月21日 | 映画感想は行
HOT FUZZ
監督: エドガー・ライト
出演: サイモン・ペッグ    ニコラス・エンジェル
    ニック・フロスト    ダニー・バターマン
    ジム・ブロードベント    フランク・バターマン
   パディ・コンシダイン    アンディ・ウェインライト刑事
    ティモシー・ダルトン    サイモン・スキナー
   ビル・ナイ         首都警察警視

 ロンドンのニコラス・エンジェル巡査は、有能なあまりに同僚たちの反感を買い、田舎町サンドフォードの警察署に左遷されてしまう。そこでの相棒のダニーは脳天気な上に無類の警察映画オタク。その静かな街で明らかに不審な死が相次いで発生。ところが警察も町の人々も事故だと片付ける。納得できないニコラスは単独で捜査を進めるが…

 「巧い! 素敵! かっこいい!」

 私には他に申し上げるところがございません。
 ほんっとに久々に最初から最後まで心晴れやかに見られた快作!

 ゾンビ映画のパロディ「ショーン・オブ・ザ・デッド」のコンビ、エドガー・ライト&サイモン・ペッグの映画ですが、相変わらず唸りました。「巧い!」

 ストーリーやテンポの運びは軽快で心地よく、笑いが崩れすぎず、重いシーンもきちんとおさまり、登場するもの全て落ちをつけてくれているし、もちろんアクションシーンはガチにカッコよく素敵! 自転車にはぞくぞくしちゃいました。
 ただただ夢中になれるありがたい映画です。

 あ、クレジットなし出演のお二人、私はわかりませんでした。

フリーダム・ライターズ(2007/アメリカ)

2008年08月11日 | 映画感想は行
FREEDOM WRITERS
監督: リチャード・ラグラヴェネーズ
出演: ヒラリー・スワンク    エリン・グルーウェル
    パトリック・デンプシー    スコット
   スコット・グレン    スティーブ
   イメルダ・スタウントン    マーガレット・キャンベル教科主任

 1994年、ロサンジェルス郊外のウィルソン公立高校に赴任してきた若い国語教師エリン・グルーウェルが、暴動後の人種対立や暴力の中で教師にも見放された底辺クラスの生徒たちを、誇りを持って生きることに目覚めさせた実話を描く。製作にダニー・デヴィート、ヒラリー・スワンクなど。

 いい話なんです。あきらめない、理想に向かって突き進む主人公には頭下がりっぱなしです。
 でもまあ、手放しで称賛とか感動まではいきませんでした。
 
 そして自らなすべきと信じたことに、素晴らしい情熱と行動力で、「生活環境・学力・素行すべて処置なし」と思われていた底辺クラスの生徒たちの文科省でいうところの「生きる力・学ぶ意欲・仲間との結束」を引き出し、人生を自分で切り開いていこうというファイターへと変えていきます。
 でもそのために代償も払っています。夫を失いました。
 主人公は24時間教師なんです。私生活と職業生活の線引きなんてないです。教材費のためにバイトしてます。生徒の教育のための費用をなぜ雇用された教師が自己負担するのか、それでいいのか?と立ち止まったりしません。
 私は困難に当たると自分の力の及ぶ範囲をある程度は設定してしまうほうですから、もし教師で、このようなパワフルな同僚がいたらなんか落ち着き悪いだろうなあ、別れたハズバンドの気持ちも理解できるなどと、そっちのほうを考えてしまってならなかったのです。彼女に立ちはだかる敵役の同僚教師としてはごく少数がクローズアップされてましたが、残りの方たちも当たらず障らず、とか、当惑気味の方も多かったんじゃないかな~~、とか。
 とはいえ、そんな教師ばかりでは、生徒たちの人生は閉ざされたままだったわけです。

 臆病で事なかれな私、を確認させられたみたいな気持ちになってしまいました。
 人間一人ひとりが持つ可能性への信頼を感じるはずの映画だ、とは思うんですが…今、私の感覚がずれてるのかもしれません。

パンズ・ラビリンス(2006/メキシコ、スペイン、アメリカ)

2008年07月08日 | 映画感想は行
EL LABERINTO DEL FAUNO
監督: ギレルモ・デル・トロ
出演: イバナ・バケロ    オフェリア
   セルジ・ロペス    ビダル
   マリベル・ベルドゥ    メルセデス
   ダグ・ジョーンズ    パン/ペイルマン
   アリアドナ・ヒル    カルメン
   アレックス・アングロ    フェレイロ医師
   ロジェール・カサマジョール    ペドロ

 1944年のスペイン。フランコの勝利で内戦は終結したが、その後もゲリラ戦が続く山間部。仕立て屋だった父を亡くした少女オフェリアは、臨月の母カルメンと共にある山奥へとやって来た。そこは母が再婚したビダル大尉の任地。その夜、彼女は不思議な妖精に導かれ、謎めいた迷宮へと足を踏み入れパン<牧神>に、彼女が地底の魔法の国のプリンセスの生まれ変わりで、満月の夜までに3つの試練を乗り越えれば、魔法の国に帰ることが出来ると告げられる。

 デル・トロ監督の「デビルズ・バックボーン」にやられた私としては期待しまくっていた作品でしたが、これは「デビル~」以上に哀切なファンタジーでありました。
 この映画のコピーは
「だから少女は幻想の国で、
 永遠の幸せを探した。」

になってます。ちょっと「うーん…??」て感じです。
 ファンタジーがなくては生きられない子供にとってそれが現実からの逃避場所で架空のものでしかない、というのは事実ではありません。それに呑みこまれる危険性はロアルド・ダールみたいなわかりやすいのとか、いくつも書かれています。それに、この話は幻想で現実を受け入れやすくなるような甘い話でもありません。
 私には、自分の人生を生ききれなかった、無垢なままに断ち切られた子供たちの命や、心を殺しきれずに血を流して生きた、また死んでいった人々への挽歌のようにも思えます。彼らには黄金の玉座が用意されているべきだ、と思わざるを得ません。

 それにしても、残酷シーンが多く、息苦しい映画でした。この監督は相変わらず空気の湿度の表現は抜群です。この残酷で哀しい物語は青鈍色の迷宮と血の色と、美しいメロディーで記憶に焼きつくようです。

パンチドランク・ラブ(2002/アメリカ)

2008年05月24日 | 映画感想は行
PUNCH-DRUNK LOVE
監督: ポール・トーマス・アンダーソン
出演: アダム・サンドラー    バリー・イーガン
    エミリー・ワトソン    リナ・レナード
   ルイス・ガスマン    ランス
   フィリップ・シーモア・ホフマン    ディーン・トランベル
   メアリー・リン・ライスカブ    エリザベス

 バリー・イーガンは、相棒のランスと共にロサンゼルスのサン・フェルナンド・バレーの倉庫街でトイレの詰まりを取るための吸盤棒をホテル向けに販売している。突然キレて発作的に破壊行為をしたり、精神に問題を抱えている。そしてマイレージポイントを集めて飛行機に乗ろうと計画している。ある日バリーの前に一人の女性が現れる…

 痛い映画なんですが、今の気分にジャストフィットしたみたいで、ラストでちょっと心がほのぼの安らいでました。
 現実的には、こういう男には近寄らなくて良ければ私は絶対に近寄りません。彼の抱える問題の片鱗が見えただけでさっさと撤退します。でも彼の衝動には身につまされずにいられません。
 人生の不公平とか、カオスでしかない世界とか、人間織り込み済みで生きていかなにゃあ世間様を渡れんわい、と思っていてもそう簡単には割り切れませんです。バリーは困ったチャンには違いないですが、アタるのはガラスやトイレで、決して人を傷つけません。わかって人を傷つけているDV男などとはちゃんと区別してほしいのであります。
 プリンへの彼のこだわりに、最後までなんかやっぱり本末転倒…と思わず苦笑させられます。うん、自分の願望とか形がつかめるようになってよかったねえ。

ベクシル 2077 日本鎖国(2007/日本)

2008年04月30日 | 映画感想は行
監督: 曽利文彦
声の出演: 黒木メイサ   ベクシル
   谷原章介    レオン・フェイデン
   松雪泰子    マリア
   朴路美    タカシ
   大塚明夫    サイトウ

 2067年、日本はハイテク技術を駆使した完全なる鎖国を開始する。10年後、一切の闇に覆われた日本の国際協定に違反したバイオ技術使用の実態を探るために、米国特殊部隊“SWORD”は潜入作戦を決行。しかし潜入後すぐに発見されるがたった一人、ベクシルという名の女性メンバーが逃れる。

 映像はとってもすごかったと思います。
 家の貧しいビジュアル環境で見ても、物の質感とか、なかなかドキッとするものでありました。
 でもね~~~。
 ストーリーとか、話の持っていきようが既視感だらけでう~ぬ…、とため息つかざるを得ませんでした。特にタカシの死から総攻撃までに、畳みかけるようなスピードと高揚感があったら、すごい傑作になったかも知れませんのに。
 話の設定に無理があるのは別にいいので、そこのところをねじ伏せてわくわくさせていただきたい!是非いただきたい、と期待する映像だったので、まあ、残念でした。

ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習(2006/アメリカ)

2008年04月24日 | 映画感想は行
BORAT: CULTURAL LEARNINGS OF AMERICA FOR MAKE BENEFIT GLORIOUS NATION OF KAZAKHSTAN
監督: ラリー・チャールズ
出演: サシャ・バロン・コーエン    ボラット・サカディエフ
   ケン・ダヴィティアン    アザマート・バガトフ
   ルネル    ルネル

 イギリスの人気コメディアン、サシャ・バロン・コーエン扮するボラットというカザフスタン国営テレビのレポーターとが、カザフスタン国民へのレポートと称して、事情を知らない善良なアメリカ市民に突撃取材を敢行した様子がフィルムに収められていく。
 バロン・コーエン自身がユダヤ系であることを逆手に取った過激な人種差別ネタからバカバカしい下ネタまで、笑いのためには危険も顧みないコメディアン魂を発揮しつつ、取材される人々の偽善の裏に潜む本音を暴き出して巧妙な文明批評も展開していく。

 評判を聞いてDVDのレンタル申込みをしたものの、それだけに一生懸命前知識を避けて見た映画。

 これだけお下品な映画は久しぶりです。それに見ている間中ずっと反応に困っていました。冒頭で主人公がカザフスタン人でないことはわかるようになっていますが、手放しで笑えるような内容ではありません。

「この(主人公と相棒以外の)出演者はフェイクとわかってやっているのか?それともまったく知らずに出演させられていたドッキリネタなのか?」

 この疑問がず~っと頭に張り付いたまま。見終わって本物のドッキリとわかってほんとに感心してしまった。下品であってもこれだけのものを作って公開してしまうアメリカはまだまだ懐が深いんじゃないだろか。ついていけないところ、目をつぶりたくなったところはままあれど、自分の周囲の通念や思い込み、価値観だけに縛られて生きてる日常をあざとく開陳して見せつける精神にはともあれ敬服です。

 全米で予想を超える大ヒットを記録し、その過激な内容で数々の訴訟問題を引き起こし、果ては国際問題にも発展するなど一大センセーションを巻き起こした話題のコメディ・ドキュメンタリー。
 allcinemaの作品紹介にはこう書いてありましたが、確かに、訴訟沙汰が他人事ながら心配になりました。私はこういう映画を見るのはしょっちゅうでなく、たまに、で良いです。

ホリデイ(2006/アメリカ)

2008年03月19日 | 映画感想は行
THE HOLIDAY
監督: ナンシー・マイヤーズ
出演: キャメロン・ディアス アマンダ
   ケイト・ウィンスレット アイリス
   ジュード・ロウ グラハム
    ジャック・ブラック マイルズ

 ロンドンのアイリスは、振られた恋人の婚約発表を目の前で見せられ、ロサンジェルスで映画の予告編製作会社を経営するアマンダは、相手の浮気が原因で同棲中の恋人とケンカ別れ。傷心の2人は、インターネットを介してクリスマスの休暇に“ホーム・エクスチェンジ”することにした。それは、お互いの家や車を自由に使えるというもの。休暇中にアイリスはアマンダの仕事仲間マイルズと、一方のアマンダはアイリスの兄グラハムと出会い、そして恋に落ちるのだが…。

 マイヤーズ監督の映画って、なんとなく私の感覚とはずれてるみたいです。「恋愛適齢期」のダイアン・キートンもそうだったけど、あの年齢なりのナチュラルでさりげない魅力よりも、年配女性なら「どうだ!」と圧倒するような輝きが好きなんです。
 見ていて、ちょっとお疲れのキャリア女性向にソツのないコメディだなあ、と思います。
 アイリスがムシのいい二股男をたたき出すシーンではスカッとします。アマンダがタクシーから降りて駆けるシーンではロマコメ王道の楽しみを堪能できます。
 とはいえ、私は「ああ、よかったわね~」といささか醒めた目で見ておりました。

 それにしても、クズ男を人生から蹴飛ばすために出かけた先に王子様がいてよかったわね~
 ジュード・ロウみたいにどっから見ても何していても様になる男なんてそうはいないものね。
 声をかけたじいさんがまれに見る出来物なんてこともそうそうないし・・・「君は主役なのに、脇役をしてる」なんて誰にも言ってもらったことないぞ。いや、自分でそう思ってるから誰が言ってくれなくてもいいんですけど。

ボルベール<帰郷>(2006/スペイン)

2008年03月06日 | 映画感想は行
VOLVER
監督: ペドロ・アルモドバル
出演: ペネロペ・クルス    ライムンダ
    カルメン・マウラ    イレーネ
   ロラ・ドゥエニャス    ソーレ
   ブランカ・ポルティージョ   アグスティナ
   ヨアンナ・コボ    パウラ

 ライムンダは失業中の夫と15歳の一人娘パウラを養うため、働きつづけている。彼女には、10代の頃、確執のあった母と父が一緒に火事で亡くなってしまうという苦い過去があった。ある日、夫がパウラに関係を迫り、抵抗したパウラに刺し殺されてしまう。ライムンダは夫の死体を処理し事件の隠蔽を図る。そこへ故郷ラ・マンチャに住む伯母の急死の報せが。ライムンダの姉ソーレが葬儀へ駆けつけたところ、彼女はそこで死んだはずの母イレーネの姿を見掛けたという噂を耳にする。

 ちょっと溝口や成瀬を見てるような気になる映画でした。もちろん色彩感はまるで違います。オープニングのお墓のシーンは、お彼岸の乾燥・極色彩版です。でも、男に振り回されて不幸になる女たちのお話なのに、その男たちの存在感の薄いこと、薄いこと。美しく、たくましく、時にもろい女性たちの背景からしか見えてきません。
 現在の殺人・過去の殺人・失踪・家庭内の性的虐待という重い事件がこの映画の展開の軸になっていますが、画面の色彩はあくまで華やかで、ペネロペ・クルスはいよいよ美しく、お話は淡々と進みます。
 おまけに、殺された男は(あくまで男です)殺されてもそれほど「ひどい」とは思えませんです。彼女たちの行為を肯定しそうになります。「トーク・トゥ・ハー」の時は主人公のヒロインに対する行為があんなに嫌だったのに。意思に反する性行為は嫌悪して、殺人につい共感してしまうというのは、なんたることぞや、と思いますが、実際そう思ってしまいます。私が主人公に感じるのは激しい憎しみとかどろどろとかよりも、もっと沈潜した痛みとにわたる傷です。母娘3代にわたるその傷を、パウラとライムンダの行動がいわば代償して晴らしているようで、そこに共感させられてしまいます。

バベル(2006/アメリカ)

2008年02月01日 | 映画感想は行
BABEL
監督: アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演: ブラッド・ピット    リチャード
   ケイト・ブランシェット   スーザン
   ガエル・ガルシア・ベルナル   サンチャゴ
   役所広司    ヤスジロー
   菊地凛子    チエコ
   二階堂智    ケンジ
   アドリアナ・バラーザ   アメリア

 モロッコへ観光にやってきたアメリカ人のスーザンを傷つけた銃弾。夫リチャードは血まみれの妻を抱え、医者を探し回る。夫妻がアメリカに残してきた幼い子供たちの面倒をみるメキシコ人の乳母アメリア。息子の結婚式に出るため帰郷する予定が、夫妻が戻らず途方に暮れる。日本では聾唖の女子高校生チエコが、苛立ちを抱えている。

 前評判ほどの大作という感じはしませんでしたが、いい映画だと思います。
 バベル、という言葉で示される意思疎通のことでもあるけれど、それ以前のもっと根源的な、人間が他を求めずにいられない孤独と、それなのに自分の排他意識を投影してしまうことの相克を感じさせます。
 結局のところ、バベルとは銘打ってあるのに言葉は決定的なものではまるでなくて、ただ目の前の相手の傷ついた心に寄せる気持ちが何かを動かしていく。とはいえ人の心の傷なんて簡単にどうにかなるものではなく、この世は取り返しのつかないことだらけ。

 菊地凛子さんのすさみ方、ヌードもきれいよりただの裸と感じるのもリアルです。私の知ってる高校生はもうちょっと幼さを感じるのばかりで、その点は私的に「?」ではありましたが、実にチエコの行動自体を納得させられました。

パフューム ある人殺しの物語(2006/ドイツ、フランス、スペイン)

2008年01月17日 | 映画感想は行
PERFUME: THE STORY OF A MURDERER
監督: トム・ティクヴァ
出演: ベン・ウィショー   ジャン=バティスト・グルヌイユ
   ダスティン・ホフマン    ジュゼッペ・バルディーニ
   アラン・リックマン    リシ
   レイチェル・ハード=ウッド    ローラ

 18世紀のパリ。魚市場の悪臭の中で一人の赤ん坊が産み落とされる。死ぬはずだった所を救われた赤ん坊は、グルヌイユと名付けられて育児所で孤独に育つ。特別な嗅覚の持ち主だった彼はある時運命の香りを持つ少女と出会い、その香りが彼の運命を動かしていく。

 面白い映画でした。
 はじめは処刑直前シーンだし、誕生シーンは「ああ、映画がにおいが出る程進歩してなくて本当によかった」と心底思う映像でありましたし、深刻な映画かと思いました。ところが、見ていくにつれて深刻は忘れてドキドキしながら見入っていました。

 ひどかったり、えぐかったりする話の連続なんだけど、首やら手やらが簡単に飛ぶ残酷描写つき童話とか、おとぎ話を聞く様な感覚を覚える。ところどころ笑わずにはいられない、というか、大真面目に壮大ほら話を聞かされるようにも感じられる。
 嗅覚のお話なので、主人公の鼻がよくアップになる。美しいと言うより、形が整ったと表現したくなる鼻に見える。主人公の整った、しかし特徴としての過剰も欠損もない風貌と、猥雑で薄汚くて過剰だらけの周囲の対比など、本当に完璧に世界が出来上がってる感じ。
 宿命の渦に引きずりこまれていくような展開のテンポの良さがめちゃくちゃ快感だった。そして彼が去る時、儀式のように彼に対する「用」を済ませた人間が死んでいく… そして最後は…
 私は過剰と欠損の寓話として見るのが一番落ち着いたのですが。

フライド・グリーン・トマト(1991/アメリカ)

2008年01月01日 | 映画感想は行
年が明けました。

本日元旦は、
吉例によって朝食とも思えない量の甘いものを食べて
いつものように胸やけに悩みながら
ダミアンの
「…ケンタッキーだ
 15ピース入りだ
 人生は素晴らしい」
なんて言葉を思い出しておりました。
(どうぞ川原泉の「笑う大天使」をお読みください)

昨年は自分も家族もお医者通いが切れなくて
気持ちがキレ気味なナサケナイ年でしたが、
その2007年を締めくくったのは
なんと大晦日の忙しい昼間に神奈川テレビTVKが堂々字幕で放送した
「フライド・グリーン・トマト」なのでありました。
CMが多くてうっとうしかったとはいえ、
クレジットも含めてきちんと放送してくれたので
すべて放り出してしっかり見ました。

年越しはDISCASから届いた賑々しいスター映画「オーシャンズ13」
1966年のまだまだ無弱な時代の戦争コメディ「地上最大の脱出作戦」で
お気楽気分を盛り上げようと思っていましたが、
こういう映画で活を入れてもらうのも、やたらとよろよろしてばかりいた
年を送るにはナイスなタイミングでした。


フライド・グリーン・トマト(1991/アメリカ)
FRIED GREEN TOMATOES
監督: ジョン・アヴネット
出演: メアリー・スチュアート・マスターソン
    メアリー=ルイーズ・パーカー
   キャシー・ベイツ
   ジェシカ・タンディ

 代わり映えのない自分と、毎日と、家ではビール片手にテレビを見るだけの夫にうんざりしているエヴリンは、ボランティアで老女ニニーと知り合う。ニニーからかつての閉鎖的なアラバマの田舎町で爽快に生きたイジーとルースの物語を聞く…

 この映画は好きな人は多いと思うし、キャシー・ベイツが服から表情まで変わっていくのも面白いし、ジェシカ・タンディは(いつもながらって気もするけど)気骨のカタマリみたいなおばあさんは、「ただ年取ってきたんじゃないわよ」という迫力に満ち満ちております。
 過去のストーリーは暗いけど、過去だけに一種ファンタジーっぽく仕上がって、ラストで語られる「ぎょえ~」なことも後味に水差しません。

 今回の私にとっては、この映画はルースが暴力夫のフランクに脅かされている状況でイジーに語るセリフに集約されました。
「今までの私は、苦しむ母をどうすることも出来なくても、夫に殴られても神に祈るだけだった
 でもフランクがこの子を奪おうとしたら、殺してやる」

 ホントに。やっぱり何があろうと自分に出来ることは全部したいわよ。
 悪あがきでも、あがきたい。
 見てろよ!(となぜかゲンコツ作るワタクシ)
 
 …今年はとても格調高くないニュー・イヤーズ・レゾリューションでした。
 今年は順調に記事の更新ができますように。

ヴィデオドローム(1982/カナダ)

2007年12月20日 | 映画感想は行
VIDEODROME
監督: デヴィッド・クローネンバーグ
出演: ジェームズ・ウッズ
   デボラ・ハリー
   ソーニャ・スミッツ
   レイ・カールソン
   ピーター・ドゥヴォルスキー

 カナダの地方TV局の社長が、暴力と残酷さにまみれたシーンの放送を衛星から捉える。そして次第にその映像の虜となっていく。

 83分で短いんで、つい昼休みに見ちゃったんですが。年末に掃除と仕事の合い間にクローネンバーグ見てしまった。いや、これはゆっくり夜見るべきでありました。
 DISCASのレンタルDVDは、予約したらそのまま忘れていて、何が来るかはあちら様のご都合なので、その時の気分で選んだり出来ません。

 これは、映像に捉われた人間の体が変化して…というホラーですが、テレビ・ビデオその他の小道具・装置類が半端にレトロ感がありました。なんか怖さも半端な感じでした。う~ん。15年前に見ていたらどう感じたのでしょうか?短さも一因だし、やはり犠牲になる恋人役の綺麗なデボラ・ハリーも性格がちょっとイっちゃっていて、あんまり同情できないのも原因でしょうか。暴力・セックスの刺激を求めてしまう人間の暗黒面とかもあんまり突っ込んでいませんし。
 製作年度は1982年で「デッドゾーン」の前なんですね。
 クリストファー・ウォーケンタイプのちょっと不気味だったり不思議だったりする美男を「クローネンバーグの映画に出てきそうな…」なんて形容しますが、このジェームズ・ウッズもまさにそのタイプ。「デッドゾーン」までの切なさは無いですが、やはり巻き込まれてしまった運命に自分の手で始末をつけようという悲壮な主人公でした。後味は悪くありません。

ブリジット・ジョーンズの日記(2001/アメリカ、イギリス)

2007年12月06日 | 映画感想は行
BRIDGET JONES'S DIARY
監督: シャロン・マグアイア
出演: レニー・ゼルウィガー    ブリジット・ジョーンズ
   コリン・ファース    マーク・ダーシー
   ヒュー・グラント    ダニエル・クリーヴァー
   ジム・ブロードベント    ブリジットの父
   ジェマ・ジョーンズ    ブリジットの母

 ブリジット・ジョーンズ、出版社勤務のOL、32歳。独身、太め。彼女の新年にあたっての決意は「日記をつけ、タバコとお酒を控えめにし、体重を減らして、恋人を見つける」

 allcinema ONLINEでは

 爽やかコメディ。30代の独身女性をヒロインに、仕事に恋にダイエットに悪戦苦闘しながらも常にポジティブに生きる等身大の女性像を描き同世代の女性の強い共感を得る。

 なんて書いてありますが、どうなんでしょうねえ。爽やかに感じていますか、皆様? 
 共感…というか、わかるんですけどね「や~め~て~~」「ひいいい~」と、思い出したくない過去の失敗を思い出させられてしまうエピソードの連続で、誰しもここまではしないだろう、という強調ぶりにめげつつ「まいったわねえ」と苦笑い。私どもお局組はそんな感じで、一緒に見ていた22歳女子大生は「引き笑い」と表現してたけど、「何でこうなの?」とドン引きしつつクスリと笑えたそうです。
 だから、マークが彼女のどこに惹かれ、かわいらしさを感じてるのはわかるけど、彼女のどこが決定打なのかはちょっと不明。
 もちろん、レニー・ゼルウィガーは多少太っても、ほっぺたが丸くてもそれなりにかわいいし、あの胸もお尻も醜くはない。女性が自己投影できる美貌は保っちゃってる。
 以上文句の様ではありますが、結局楽しく映画を見るために主人公の魅力は必須ですから。

 ヒュー・グラントも人に合ってるし、マークが「ダーシー」であることもなかなか笑えたし、トナカイ柄のセーターも、サンタのネクタイもママのお見立てですのね。

 私の好みで言うと、映画館よりも女同士で集まって騒ぎながら見るにいい映画です。定番になってます。

ヘアスプレー(2007/アメリカ)

2007年10月31日 | 映画感想は行
HAIRSPRAY
監督: アダム・シャンクマン
出演: ジョン・トラヴォルタ   エドナ・ターンブラッド
   ニッキー・ブロンスキー   トレーシー・ターンブラッド
   ミシェル・ファイファー   ベルマ・フォン・タッスル
   クリストファー・ウォーケン   ウィルバー・ターンブラッド
   クイーン・ラティファ   モーターマウス・メイベル
   ザック・エフロン    リンク・ラーキン
   ブリタニー・スノウ    アンバー・フォン・タッスル
   アマンダ・バインズ   ペニー・ピングルトン
   ジェームズ・マースデン   コーニー・コリンズ

 ワシントン大行進の前年1962年、まだまだ差別意識が頑強な米メリーランド州ボルチモア。16歳の太め女子高生トレーシーは、平等を信じ、でも興味の中心はダンスとおしゃれ。ヘアスプレー企業が手掛ける人気テレビ番組“コーニー・コリンズ・ショー”に出演し、憧れのリンクと踊ることを夢見ていた。
 学校の居残りをきっかけにリンクに見出され、番組のレギュラーになり、とんとん拍子に人気者になったトレイシーだが、彼女の成功が面白くない番組の責任者で差別意識丸出しのベルマと娘で今までショーの中心的スターだったアンバーが、トレイシーを追い出すために次々に罠を仕掛ける。

 久々の映画館!楽しかった!!
 DVDで「300」見たんですよ。もう劇場で見られなかったのが悲しくて泣きましたね。
 そしてこの「ヘアスプレー」 怖い系スターのクリストファー・ウォーケンがコメディミュージカルを歌い踊る!しかもトラヴォルタと! これまで映画館で見られなかったら口惜しくて無事には年が越せない! まだ晴れた日に外を歩くと涙が出るほど眼が弱かろうと、それがなんだ! 
 びっくりマークだらけの決意で行って来ましたが、ほんっっっと楽しかった。やっぱり私は映画なしなんてつまんない人生はやだ。
 私的注目は見る前からトラヴォルタ、ウォーケン、ミシェル・ファイファーのベテランさんたちで、鶏がらのようなファイファーの誘惑シーンから夫婦のダンスまでもう椅子から転げそうなほど笑わせてもらいました。ファイファーは対比のために骨が目立つほど痩せたんでしょうね~~ ご苦労様でした。
 そしてそのあとのデモのシーンでは泣けましたし。

 このストーリーは常道ですが「現実より少し優しい世界」でハッピーエンドで納まってニコニコしてリズムに乗って帰路につけます。音楽全編楽しい。それに主役のニッキー・ブロンスキー、容姿もだけど声が純真さ、可愛さにあふれてノックアウトされました。笑顔を見ているととろけそう。

 絶対また見にいってやる!
 
 コーニー・コリンズ役ジェームズ・マーズデン、ああいうレトロスーツ素敵。

宗教はアヘン、では愛国心とか民族意識は?

2007年10月11日 | 映画感想は行
いろいろありまして、PC立ち上げるのも4日ぶり、WEBメールは満杯状態でした。本当にいつもの生活に戻れるのはいつでしょう。またまた家の中の整理を迫られていて、DVDや本をもっと減らさなくてはいけません。誰かもらってくれないかな。

ヒトラー ~最期の12日間~(2004/ドイツ)
監督: オリバー・ヒルシェヴィゲル オリヴァー・ヒルシュビーゲル
出演: ブルーノ・ガンツ    ヒトラー

「白バラの祈り」でゾフィー・ショルの最後の数日を見て、そしてこの映画を見ると、戦後60年たってあの戦争についての映画では、私の感想では日本映画はドイツに負けてるな、と思ってしまいます。

 この映画でのヒトラーはもはや追い詰められた男です。見た目にも力強さやカリスマの輝きはありません。八方塞の状況のなかで苛立ち、国家を率いる力が残っていないのは明白です。
 周囲も敗れることを前提に行動しだしています。もう総統ヒトラー死後の連合軍との駆け引きを甘い見込みと妙な期待で考えるものもいます。
 しかし、敗色濃いベルリンの街の混乱はそれ以上で、ナチスのプロパガンダにとらわれた者は死に急ぎ、ある者はそれに乗って暴力性残虐性を露わにし、またヒトラーを前にして「勝利へ導いてください」と叫びます。
 思い出すのが、レニ・リーフェンシュタールのナチスの記念大会の記録映画。第1次大戦後のドイツが徹底的に沈んでいた時に民族の誇りを称揚するようなすばらしい映像で、やっぱりリーフェンシュタールの才能のすごさを感じると共に、危険さも思い知らされます。 
 そういった状況下である程度不況脱出の結果を出したヒトラーとナチスに抱いた「この人についていけば大丈夫だろう」という期待は捨てられないだろうし、日本もそうだったけど、それに「愛国心」とか「民族の誇り」という本来善きものがセットになっているので、なかなか呪縛から逃れられない。

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 「失われた時を求めて」を探していて、フランス小説をまとめた箱から「チボー家」が出てきたので、ここ数日この長い小説を飛ばし飛ばしながら読んでいました。この映画で、この小説の中の社会改革に燃える青年たちが開戦の知らせで一瞬にして愛国青年に変わってしまうシーンを思い出し、また「大いなる幻影」を見た時にもそのシーンを連想したことも思い出しました。
「カラきょう」もいいですが、これも絶対読んでおきたい本だと思うんですが。やはりジャックのあまりにも無残な死には泣いてはいけないような厳しさがあり、戦争で死んでいったものたちの、その死の空しさをきちんと描いた反戦小説の最高傑作のひとつです。

 カール・マルクスは「宗教は逆境に悩める者の嘆息であり、また、それが魂なき状態の心情であると等しく、無情の世界の感情である。つまり、それは民衆のアヘンである」と書いています。マルクスの時代ではアヘンは恐ろしい麻薬としてよりはトランキライザ-的な認識だったみたいです。今はどうでしょう?
 冷戦構造終結後の各地の民族紛争で、いや冷戦関係なくずっと続いてるのもありますけど叫ばれる「民族」とか、愛国心って、ドラッグ以上に効いている人もいるみたいではありませんか。