いつも新鮮に 進化は止まらない
世界的バレリーナ アリーナ・コジョカルさん
日本共産党 志位和夫委員長と熱烈対談
アリーナ・コジョカルさんと志位和夫委員長
キエフ・バレエを経て、英国ロイヤル・バレエで12年間プリンシパル(最高位のダンサー)を務め、現在、イングリッシュ・ナショナル・バレエでリード・プリンシパルを務めるなど、世界的に活躍するバレリーナ、アリーナ・コジョカルさんと、日本共産党の志位和夫委員長が、バレエについて熱く語り合いました。
対談は、2月に公演のために来日したコジョカルさんのリハーサルの合間をぬっておこなわれました。クラシック音楽とともにバレエが好きな志位さん。「進化を続ける、希代のダンサー」といわれるコジョカルさんの公演を何度も見ています。
志位さんのバレエとの出会いから始まり、コジョカルさんの芸術への向き合い方、人生の苦難をどう乗り越えるか、仕事と子育てなど生き方にまで及んだ対談。政治とバレエという分野を超えて響きあいました。
秋野幸子記者
2020年2月23日「しんぶん赤旗」日曜版より
対談の冒頭、志位さんがコジョカルさんにプレゼントを手渡しました。娘さんのチュルパンちゃんのために、志位さんの妻と娘さんが選んだ、小さなひな人形です。「ひな祭りは、女の子が健やかに育つことを願う日本の行事なんです」と志位さん。コジョカルさんは「とてもきれいですね。すてきなプレゼントです」と笑顔で受け取り、なごやかな雰囲気で対談が始まりました。
志位 妻との初デートはバレエでした。
志位 5日の舞台(アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2020で『マノン』・寝室のパ・ド・ドゥ)を拝見しました。あなたが舞台に立っただけでオーラがみなぎりました。とても素晴らしかったです。
コジョカル ありがとうございます。
コジョカルさんがけがのため、急きょ上演作品が変更されました。
志位 コジョカルさんが公演前にあいさつに立って、「人生は山あり谷ありだけれど、周りの人と力を合わせることで素晴らしいものをお届けすることができる」と話されていました。全体がそういう空気に包まれ、とてもいい舞台だったと思います。
コジョカル 自分の言葉で、きちんと状況を説明する必要があると思いました。私たちは、観客のために踊るのですから。
志位 今日は、お会いするのを大変楽しみにしていました。まずは私の、一ファンとしての、バレエとの出会いを少しお話しさせてください。コジョカルさんもおられたキエフ・バレエ(ウクライナ)の東京公演(1977年)のプログラムを持ってきました。コジョカルさんの生まれる前ですね。演目は『白鳥の湖』で、配役を見てみましたら、キエフであなたの先生をやっておられたアラ・ラーゴダさんも出てきます。
コジョカル わあ、ほんとですね。私がよく知っている名前ばかりが並んでいます。
志位 私が初めてみたクラシックバレエの舞台です。当時は学生でした。なけなしのお金をはたいて、チケットを2枚買いました。実は、妻との最初のデートだったので(笑い)、とりわけ印象に残っています。
コジョカル なぜバレエを選んだのですか。
志位 私も妻も大変音楽が好きなものですから。80~90年代はボリショイ・バレエ(ロシア)の舞台を数多くみました。
コジョカルさんの舞台は、(3年ごとに日本で行われる)世界バレエフェスティバルの公演で2003年から4回ほどみました。DVDは『ジゼル』と『眠れる森の美女』。家族で擦り切れるほど繰り返しみています(笑い)。今日は、バレエへの思いなどをいろいろとうかがいたいと思います。
コジョカル 喜んでお答えします。(笑い)
『ジゼル』の一場面(撮影:Kiyonori Hasegawa)
志位 何度もバレエ団を移籍されましたね。
コジョカル 新しい地でチャレンジしてこそ発見や成長もできますから。
志位 これまで、何度もバレエ団を移籍されましたね。プリンシパルの地位を手放して移籍したこともあります。次々と新しい環境を求めて進化されています。そこには、どのような思いがあるのでしょうか。
コジョカル これはとても大切なことで、それぞれの場所で、そこでしか得られない知識をすべて吸収し、成長して次へ進むことが大事だと思っています。
それまで過ごした場所を去り、強い絆で結ばれた恩師や仲間たちと別れることは精神的に容易な決断ではありません。でも、私の忠誠心は常に芸術にささげるものです。私にとっては成長することが大切なのです。
志位 同じ演目、同じ振り付けの繰り返しだけでは成長できないということでしょうか。
コジョカル そうですね。新しい知らない地で、知らない共演者とチャレンジすることを通してこそ、多くの発見ができ、成長できるのではないでしょうか。
『マノン』の寝室のパ・ド・ドゥ(フリーデマン・フォーゲルと)撮影:Kiyonori Hasegawa
志位 即興性を大事にされていますね。
コジョカル 常に新鮮なものをつくる、その瞬間に湧き出てくるものを、大事にしたいと思っています。
志位 以前、インタビューで「『ジゼル』を踊るときは、あえてプランを持たずに舞台に立ちます」という話をされていました。「基本プランさえ持たずに舞台に立ち、第1幕の冒頭でアルブレヒト(相手役の男性)をぱっと見たとき、その瞬間に、その日の物語のすべてが決まる」と。驚いて読みました。新鮮さ、即興性をすごく大事にされているのですね。
コジョカル 私自身、常に新鮮なものをつくるということ、それから、その瞬間にその場で湧き出てくるものを大事にしたいと思っています。長年の積み重ねになって、計算ずくの演技になってはいけない、過去にやったもののただの繰り返しにならないようにと、常に考えています。
公演前には何百時間も練習し、リハーサルを行います。それを強い土台にしながらも、ある時点ですべて忘れて本番に臨むのです。
私は先生から「練習で、感情的、表現的なものを万端に準備する。そして、それを本番で全て解き放つ」と教えられました。ただアクト(演技)するのではなく、周囲とリアクト(反応)できるような状態に自分を持っていく。それによって新たに違う物語をつくることができるのです。だから私のジゼルは、いつも同じでなく、違うものが出てくるのですね。
志位 なんとなくわかります。DVDであなたの『ジゼル』をみると、ジゼルが最初に登場するシーンで、アルブレヒトがドアをノックして、あなたが出て来て踊り出す。ここは何度みても新鮮でワクワクします。
常に新鮮な踊りをつくるというお話を聞いて、私がとても尊敬するピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテル(ウクライナ生まれ、1915~97年)のことを思い出します。彼の発言のなかに「不意なもの、思いがけないもの、それこそが感銘を生み出す」という言葉があります。「不意打ちの感覚を誘発することが肝心なのです」ということも彼は言っています。彼のピアノを何度も聴きましたが、常に新鮮さに満ちていました。私たちの想像のずっと先を行く音楽がありました。本当に素晴らしかった。
コジョカル すごく面白いポイントをおっしゃったと思います。ピアノには楽譜があり、バレエには振り付けがあります。それにのっとってやるわけですから、観客は何が聞こえてくるか、何がみえてくるか、ある程度頭に入っていて、それを期待してみています。そのなかで、どう驚きをもたらすかというのは、とても難しいことです。
私は、踊る前に楽譜をよみ、そのフレージング(旋律の区切り方)を頭に入れながら踊ることがよくあります。それで、許される範囲でわざと動きを少し遅らせたり、少し動きをのばして音楽を引っ張ったりするようなことをしてみるんです。逆に、少し早く動く場合もあります。そうすることによって、パートナーが驚き、今までと違ったリアクションが出てきて、それが良い連鎖になるわけです。
志位 リスト(ハンガリーの作曲家・ピアニスト、1811~86年)のロ短調のソナタは、最初に「ソ」の音がポーンと鳴ります。リヒテルは30秒ほど数えてからその音を鳴らす。それまで沈黙が続きます。聴衆は「どうしたんだろう。調子が悪いのかな」と心配する。すると、ポーンと音が鳴る。聴衆は不意打ちにあいます。彼は、このソナタには「沈黙」が散在する。「沈黙を響かせる」ことが大切だと言っていました。
あなたのバレエをみて、同じことを感じました。ピタリと動きが止まっている時間が心持ち長いステップが続く。そこが目に焼き付きます。沈黙が響いている、という感じです。素晴らしい踊りだと思います。
コジョカル ありがとうございます。大切なことだし、それは意識しなければいけないことだと私も思っています。実は自分自身を振り返る機会があって、20代後半のある時、ふと気づいて、ステージにただいるだけで何かを語ることの大切さを強く感じるようになったんです。
志位 大けがはどう乗り越えましたか?
コジョカル この苦労は、次のドアを開けるカギ、未来で絶対に役に立つと進み続けました。
志位 (2008年に)リフトから落下して大けがをされたことがありましたね。大変つらいできごとだったと思いますが、どのようにして乗り越えてこられたのでしょうか。
コジョカル 次のレベルに上がっていくためには、本当に厳しいものを乗り越えなければなりません。それは、先生から「こうしなさい」と教えてもらうものではありません。その時は「こんなひどいこと」と思ったことも、人生においては大きなレッスンになっています。そして、そのレッスンが、次のドアを開けるカギ、次に進むための本当に有効な道具になってくれます。
だから厳しいことが何か起きると、「この苦労は、次の苦労を乗り越えるためのカギになる。未来で絶対に役に立つのだ」と考えます。歩みを止めずに進み続ける。自分を閉じることなく、いろんなものを吸収する。人生でもバレエでも同じです。
志位 私たちも、いろいろなアクシデントがあります(笑い)。内容は違いますが…(笑い)。でもやはり同じことがいえます。さまざまなアクシデントをいかにプラスに変えるかということに、常に挑戦しています。
コジョカル 政治の世界も同じなのですね。
『コッペリア』(撮影:Kiyonori Hasegawa)
志位 娘さんが生まれてから、変化はありましたか?
コジョカル 娘といる時は娘に100%、スタジオではバレエに100%向き合うことにしています。
志位 娘さんのチュルパンちゃんが生まれて(2017年)、どういう変化がありましたか。
コジョカル 娘の誕生は、私にとっては奇跡のような出来事です。人生がより素晴らしいものになりました。
志位 仕事と育児をどのように両立されておられますか。
コジョカル 家事も育児も仕事も、同時に100%でやろうとした時期がありました。
志位 全部100%で…。
コジョカル そうです。でも、それは無理なことです。私は、夫や娘や母をとても愛しているし、同じように仕事も愛しています。だから今は、娘といる時は娘に100%、スタジオにいる時はバレエに100%の気持ちで向き合っています。娘も満足しているし、私自身も充実しています。
志位 私が35歳で日本共産党の書記局長になった時、娘は今のチュルパンちゃんと同じ2歳でした。当時、私が娘と100%で向き合っていたかというと、反省することばかりです。(笑い)
コジョカル 私も、頭ではわかっていても実践するのは大変です。(笑い)
コジョカル 若い人たちの未来に貢献したい。
コジョカル 未来のためのアドバイスはありますか。
志位 アドバイスができる立場にありません。あなたの進化する姿をずっとみていきたいということだけです。
コジョカル ありがとうございます。ダンサーの声を、もっとみなさんに知っていただきたい。そのための発言をしていきたいと考えています。
また、バレエ学校の生徒やダンサーたちに私自身の経験を失敗談も含めて伝えていきたい。ダンサーが心から楽しめる環境づくりにも力を入れ、若い人たちの未来に貢献したいと思います。
現在、IT分野など技術の進歩には素晴らしいものがあります。バレエの世界にも良いものは取り入れて、バレエが古い芸術ではなく、未来につながる素晴らしい芸術であると次の世代に伝えていきたいです。もちろん、私自身も踊り続けながら、ですよ。
志位 今日は多くのインスピレーションを得ました。
コジョカル 本当に心から芸術を愛してらっしゃる方で感動しました。
志位 日本にはどんな印象をお持ちですか。
コジョカル 日本は、公演をするのがとても楽しみなところです。観客の皆さまがとても知識豊かで、新たなものをみていただきたいという気持ちが強くなります。
まだ、桜を見たことがないので、いつか娘を連れて桜の時期に来たいです。
志位 先ほど、踊りや音楽の新鮮さという話をしました。私自身も、演説などでいかに新鮮さを出すかということを心がけているつもりです。なかなかうまくいかないことも多いですが。
コジョカル 容易ではないと思います。新鮮さを出すことが決して簡単ではないということが、わかります。
人と人との関係はとても難しいと、私はいつも思います。(客演を続けるハンブルク・バレエの)芸術監督のジョン・ノイマイヤーさんと仕事をしたときに、彼の膨大な知識と人生経験の豊かさに打ちのめされ、言葉を失いました。しかし、ちっぽけな存在に見えていた自分が、彼と一緒にクリエーティブ(創造的)な仕事をして、その要素の一つになれることは、とても素晴らしいことだと感じました。
私は、限られた世界の人々と接することが多いのですが、志位さんは幅広い方々と接していて、想像を超える大変さがあると思います。そういうなかで活動されているのは、素晴らしいことだと思います。
志位 あなたの経験をうかがって、私も多くのインスピレーション(ひらめき)を得ました。私の仕事にも生かしていきたいです。
コジョカル 志位さんが、芸術に対するとても熱い情熱をお持ちになっていることを、とてもうれしく思いました。今日、何に感動したかというと、よく自分を良く見せるために芸術を知ったふりをする人がいますが、今日は本当に心から芸術を愛してらっしゃる方とお目にかかれたことが、私にとってとても感動でした。
志位 そう言っていただけるとうれしいです。
コジョカル 心からです。
志位 これからもファンの一人として舞台を見ていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。(通訳・久野理恵子)