「主敵は戦争そのもの、南朝鮮や米国ではない」
金正恩式の平和宣言、その意味とは
北朝鮮の国防力強化は「防御目的」との公開宣言…韓米への重要なシグナル
米国には言葉ではなく行動要求
南には条件付きで「朝鮮半島の緊張は決してないだろう」
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記兼国務委員長は「我々の主敵は戦争そのものであり、南朝鮮や米国(などの)特定のどこかの国家や勢力ではない」と述べた。12日に「労働新聞」が報じた。金正恩総書記は11日、平壌(ピョンヤン)の3大革命展示館で初めて開かれた「国防発展展覧会『自衛-2021』」の記念演説で「国防強化事業は一時も疎かにしてはならない必須かつ死活的な重大国事」とし、このように述べた。金総書記は「強力な自衛力なくして党と政府の対内外政策の成果的推進は期待できず、国の安定と平和的環境は考えられない」とし「まず強くなるべきだ」と強調した。
金総書記が今回の演説で行った対南、対米発言がまず目を引く。「主敵は特にいない」という金総書記の公開宣言は、一般論的には特定国家を「主敵」とは明示も公開もしない国際社会の慣行の脈絡から出たものとみることができる。現実的には、米国を「革命・発展の基本障害物、最大の主敵」と指摘した今年1月の労働党第8回大会の演説とは、雰囲気がはっきりと異なるということに注目する必要がある。
また金総書記は「この地において同族同士で武装を使用する残酷な歴史は二度と繰り返されてはならない」と述べた。続いて「我々は戦争そのものを防止し、国権守護のために戦争抑制力を養っているのだ」とし「絶対に南朝鮮に対して国防力を強化しているのではない」と強調した。「朝鮮半島にもはや戦争はないだろう」(4・27板門店宣言の序文)と誓った文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳間合意を想起させる発言だ。
要約すれば、北朝鮮の国防力強化は「攻撃」ではなく「防御」が目的だということであり、韓国と米国に向けた公開宣言だ。本音がどうであれ、公式・公開演説でのこうしたレトリックの変化は、それ自体が対南・対外政策に関する重要なシグナルを込めた「金正恩式平和宣言」だと言えよう。金総書記が「命をかけた国防工業革命」の成果と課題を明らかにしたこの演説で、これまで国防力の核心だと述べていた「国家核武力、核(戦争)抑制力」などの「核」関連の言及を全くしなかったことも、こうした脈絡から考えてみる必要がある。
「国防発展展覧会『自衛-2021』」という前例のない形式も、金総書記の国政運営方式の変化、特に「資源配分の優先順位の調整」の成否と関連して示唆的だ。「国防発展展覧会」は、韓国、米国、日本、中国、旧ソ連など多くの国でも行われている「防衛産業エキスポ」や「兵器博覧会」を連想させる形式だ。まず、こうした形式の展覧会は、外部からは好戦的と認識されてきた「金日成広場での軍事パレード」より対外負担が少ない。何よりも「金日成広場での軍事パレード」に比べて費用、人員、時間が大幅に節約できる。「最も重要な革命課題」として挙げた「社会主義経済建設」(第8回党大会演説)と「人民の衣食住問題の解決」(党創建76周年記念演説)に「より多くの資源」を回すという金総書記の政策意志がベースとなった「形式の変化」と読み取れる。「自衛-2021」という名からすると、毎年開かれる可能性がある。金総書記は「本日の展覧会は、大規模な軍事パレードに劣らず大きな意義を持つ思弁的な国力示威」だと述べ、展覧会を軍事パレードの代替または補完として活用する可能性をほのめかした。
ただし、金総書記の対南・対米言及は、以前より柔らかくなってはいるものの、全面的に友好的ではない。まず金総書記は「米国は最近になって、我が国家に敵対的ではないという信号を頻繁に発信しているが、敵対的ではないと信じられるだけの行動的な根拠はひとつもない」と指摘した。続いて「米国はいまだに誤った判断と行動によって地域の緊張を引き起こしている」とし「朝鮮半島地域の情勢不安定は、米国という根源のせいで簡単には解消できないようになっている」と付け加えた。米国に対して「言葉」ではなく「行動」を要求したわけだ。このため、北朝鮮が朝米対話・交渉のために先に動くと期待するのは難しい。「ボールは米国側にある」という認識だ。
金総書記は、韓国側に対しては「二重的かつ非論理的で強盗的な態度に大きな遺憾の意を表する」と述べた。「我々の脅威を抑え、平和を守るということを口実」にして、「最近になって度を越すほど露骨になっている南朝鮮の軍備現代化の試み」、「本音の見え透いたミサイル能力の向上」、「攻撃用軍事装備の現代化の試み」などは、「反共和国(反北朝鮮)敵対心の集中的な表現」だということだ。金総書記は、韓米の「軍備増強」は「北南双方間の感情情緒を傷つけ続け」、「朝鮮半島地域の軍事的均衡を破壊」し、「軍事的不安定性と危険をさらに高めている」と述べた。
その一方で金総書記は、「我々に言いがかりさえつけなければ、我々の主権行使にまで手をつけなければ」という「条件」をつけて、「断言するなら、朝鮮半島の緊張が誘発されることは決してないだろう」と述べた。
金総書記のこうした対南・対米言及に照らすと、急激に危機の高まるリスクは低いものの、南北関係と朝米関係の急速な進展を期待するのも当面は難しそうだ。統一部の当局者は「金正恩委員長の今回の演説は、9月29日の最高人民会議での施政演説で明らかにした主要内容と方向性を再確認した程度のものとして評価する」と述べた。金総書記は9・29施政演説で「北南直通連絡線の復元」を明らかにしつつ、南側に「言葉ではなく実践」▽「まず根本問題から解決する姿勢」▽「北南宣言の誠実な履行」を求めている。