えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

過コラム:いとしの借金王

2009年11月12日 | コラム
上海バンスキング再演!

まさか、まさか帰ってくるとは思いませんでした。
本格的ジャズバンド活劇「上海バンスキング」、来年春堂々の再演が決まりました!
斉藤憐作、串田和美演出、吉田日出子主演。もうもう、かつての自由劇場をひっさげての
再演です。おとなになって、行くことが出来る可能性ができただけで、
私はしあわせものだなあと思います。

私の祖父はわりあいにモダンボーイで、色気たっぷりの大人の女の歌が大好きでした。
家にはまだ祖父の愛したCDが残っています。その一枚が、「上海バンスキング」の
再録CDでした。叔父の話によれば、レコードも全て買い集めたそう。
私が聞いたのはCDの一枚でしたが、それでも吉田日出子の声はぞんぶんに色っぽくて、
甘くて、たちまち耳がとりこになってしまいました。初めてこの歌に会ったのは
中学生くらいでしょうか。昨年のBSでダイジェスト版が放映された時は、深夜に
テレビに一人かじりついて見続けていました。
これは、そのときのコラムです。


:2008年4月
『借金王!借金王!!』
-ミッドナイトステージ館「昭和演劇大全集」より『上海バンスキング』

「踊りましょう。レディに恥をかかせないで。」
この声にずっと恋していた気がする。吉田日出子の声はほんとにすさまじい。おんなっぽい媚がたっぷりで、そのくせいやらしくなくて、堂々と朗々と歌う。初めて彼女の声を聴いた『ウェルカム上海』という曲は確実にわたしの音楽ごころをすぽんとかっぱらってしまったのだ。

 第一次世界大戦前から戦争に突入するまでの、ジャズマンの紆余曲折を描いた本作。松坂慶子主演と、吉田日出子主演の映画はあるものの、3/7深夜、BSでオンエアされたのは自由劇場の舞台を録画したものだった。串田和美の演出に乗って、主演吉田日出子、小日向文世や笹野高史、余貴美子も出演する豪華な顔ぶれ。それよりももっと贅沢なのは、かれらが舞台で生演奏するってことだ。笹野高史はトランペットを唇に押し当て、藤川延也はクラリネットを吹き鳴らし、小日向文世はアルトサックスを咥える。そして演奏!

 残念ながら今回の映像は、劇をまるまる一本ではなく途切れ途切れに記録したもので、ストーリーや舞台展開が飛びすぎてわかりづらい点はあるものの、なにそんなこと、『あなたとならば』『月光値千金』そして『ウェルカム上海』の名曲はしっかり押さえられていたので気にはならなかった。

 ああそれにしても、日出子の「舞台用」の声には緊張していたからだがゆるんだ。とろりとした歌声からかけ離れた甲高い声。トーンが明らかに他の役者とはズレているのだがそれがまた、なんともいえず可愛らしく聴こえるから不思議だ。男の手をそっと取り、うつむく彼に一言「だめそっぽむいちゃ。あたしの目を見て」。「そっぽむいちゃ」「あたし」の単語がこんなに可愛い発音だと気づかされる一瞬。『あなたとならば』の前奏、チャイナドレスの日出子が目を閉じて笹野の肩によりかかる一連の仕草。一挙一動にどうしようもなくとろけてしまう。声に惚れて仕草に惚れ直した2時間半はあっという間に終わった。
(797字)

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