えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・窓を開ける夜

2023年05月27日 | コラム
 風が生ぬるくなり始めた頃が一番風を涼しく感じられる時で、5月の今どきは時々窓を開けて眠りたい気持ちに駆られる。防犯のために閉め切ってはいるが程よい冷房を求めて開けたくなるものの、それはそれで眠れなくなるので結局は窓を閉めてしまう。今朝は半袖では少し涼しいが動いて人の中に紛れていると暑苦しい。マスクは取れた。自分のように癖でマスクを続けているような人間でも、外を歩いている時はマスクを外すことに抵抗がなくなっている。部屋の中ではマスクはつけない。外の風に滲む部屋の空気に触れながら晴天の下を歩くことを思う。思うだけでリモートワークの間は外に出られない。外を思いながら眠るために窓を開けたい。外の物音は移動している。移動する物音が住処のそばに近づくたびに矛盾しているがぞっとして、怯えたまま窓を閉める。その繰り返しで夜が続く。
 朝が来てカーテンを開けて、他人が人間に興味のないことを知っていても、興味のある他人もいないことはないことに怯えながらまたカーテンを閉める。窓は開けられない。窓のそばに座り仕事を始めてやっと、窓を開けることができる。夜に開ける窓から入る夜気を自由に感じられたかつてを思いながら朝を始めて眠るその夜のことを考え続けている。
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・誘惑は常に甘い

2023年05月13日 | コラム
 用事がなければ外へ出ないので買い物をする。一日に使う金額の配分を計算すればリモートワークが解禁されるよりも多く消費しているかもしれない。物価高だ。子供の頃から私が笑顔になるという理由で与えられていたハーシーズのチョコレートアイスクリームの大きさは三分の一ほどになり、厚みは倍ほどに増えた。分量が減ったかどうかは分かりづらいが味は変わらない。歯を入れるとチョコレートのかけらが溢れる厚みは別のチョコレートアイスクリームのような歯触りだが、脳が覚えている記憶とは結びついている。少し大きくなってバニラビーンズの香ばしい味を覚えても、ミルクの甘みが強いチョコレートアイスクリームの記憶はそこから引き出されることはない。というわけで暑くなったのでアイスクリームを買いに行く。家族の中で私だけが食べる赤城乳業のチョコミントアイスも箱で買う。袋越しにも箱が冷たい。早く家に帰りたい。ぎっしりと詰まった冷凍食品の隙間に箱から出したアイスクリームを昔のアイスキャンディー売りのように差し込んでいく。
 いつの間にか減っている誰かのための甘みを買おうと思い立った途端に梅雨が来た。片付けておしまいの毛布を夜もう一度出したくなる。
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