えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・ゲームが続くという話

2021年05月22日 | コラム
 5月8日に発売された『バイオハザード ヴィレッジ』は吉幾三とタイアップしたイメージソング『俺らこんな村嫌だLV.100』に、NHK教育テレビを彷彿とさせる人形劇『バイオ村であそぼ♪』全3話で「怖くない」ことをアピールするなど宣伝の奇天烈さが目立ったものの、当日を迎えてみればインターネットはゲーム実況や攻略動画が雨後の筍のように出揃って大いに盛り上がっていた。
 本作はシリーズ7から主人公を務める一般人イーサン・ウィンターズが続投し、7の事件から3年後、妻のミアとの間に一人娘を設けた彼の幸せの崩壊から話が始まる。初代から何度も主人公を務めるクリス・レッドフィールドの率いる部隊がある晩イーサンの家を襲撃し、妻ミアは目の前で銃殺され娘のローズも連れ去られてしまう。気絶させられたイーサンもまた特殊部隊に拘留されていたが、気がつくと部隊の人間は死亡し真冬の山中に取り残された彼は、娘を取り戻すために一人怪しい「村」へと乗り込んでゆく。
 バイオハザードシリーズは今年で25周年を迎えた長寿のゲームシリーズの一つで、シリーズ8となる『ヴィレッジ』はその記念作ともいえる。シリーズが一定周期を迎える区切りとしてゲームが発売されることは少なくないが、間に合わせようとした結果、中途半端な出来や賛否両論が巻き起こりファンが離れることも多い。その綱渡りを絶妙に渡り抜けた本作は、他のゲームファンにとっては羨ましくも思える成功だ。たとえば初代の主人公のクリスが7と8どちらでも話の中で重要な立場を務めたり、彼を操作して進む場面も話の筋の中で違和感なく作られていたりと大切に扱われている。ゲームとしても強い主人公がゾンビを薙ぎ倒す三人称のアクションゲームから、一般人の一人称視点でプレイヤーをゲームに没入させることを目的としつつ、FPSのように精度の高い操作を要するアクションで遊ぶこともできる。とどのつまりは世界観を崩さずに変えるべきところは変え、守るところは守るという守破離のサイクルを注意して作り上げているということに尽きるのだが、それが簡単にはできないことは多くのシリーズが物語っている。
 たとえばサービス終了が発表されたスマートフォンゲームの『サクラ革命』は往年の名作『サクラ大戦』シリーズを引き継いではいるものの、新作の『新・サクラ大戦』の話や登場人物を引き継ぐことはおろか戦闘システムや世界観など、シリーズを形作っていた要素の大半を無くしてしまったことでファンからは否が多めの賛否両論を買った。結果、わずか半年でサービス終了まで追い込まれてしまっている。本シリーズはアニメや歌謡ショウなどゲーム外のコンテンツが幅広いことでも知られているが、舞台のやり辛い現状も相まりゲーム自体も下火となりつつある現在、続編のぞの字が出るかどうかは神のみぞ知ると言った状況だ。
 ゲームのハードウェアが進化するたびに開発費用をかけられない企業が淘汰された結果とはいうものの、話を終わらせるなら終わらせる、続編を引き継ぐならば人気がある部分を守ることができるかどうかを考える、といった、一般人目線からして欲しいことは削られ、開発者のしたいことだけが先行してシリーズごと潰してしまう現象が多発する中で、その手本がまた一つ出たことは単純に喜ばしい。
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・チョココロネと出会えない

2021年05月08日 | コラム
 会社に通勤していた頃は週に二回、会社の近所に移動パン屋が巡回していたのでチョココロネを週に一度は食べていた。時々はサンドイッチや惣菜パンを買い、昼食も済ませてしまう。バンがビルの前に十二時頃止まると、周囲のビルから日傘のOL達が現れて列をなす。列が道路からはみ出す日もあった。彼女たちはここが勤め先ではないかのように豪快にパンを買っていった。袋詰のバターロールや食パン一斤が次から次へとなくなり、昼休みに入るのが遅いと棚の品物はだいたい無くなっていた。そのうち私の顔を見るとバンの運転手兼パン屋の店員は「こんにちは」と声をかけ、私の手元にチョココロネがないと訝しげな顔をするほどには馴染みになっていった。ゴールデンウイークでも平日には巡回していたと記憶している。出社が彼の周回とかちあう時は今でもチョココロネを買うが、生地がくるくると柔らかくほどけるチョココロネはやはりパン屋でなくてはならず、自宅の近所にパン屋はない。二十分ほど歩いた大通りに面する大型の店があるのみだが、あるだけでも有り難いとは思う。とぼとぼとチョココロネを求めて連休通い詰めた。毎日売り切れていた。
「あの」
「なんでしょうか」
「チョココロネは取り扱いがないのでしょうか」
「そんなことはありませんよ!ちょっと探して来ますね」
 レジ打ちの明るい茶色に染めた前髪が白い頭巾に映える店員が、店の奥でパンを平たい鉄の板に並べていた店員へ尋ねに行ってくれた。三時前のパン屋は私一人きりで、幸い後ろに並ぶ人がいなかったので胸を撫で下ろす。彼女は戻ってくると済まなさそうに「今日は売り切れでした。工場からは毎日来るそうです」と言った。「焼き立て」の小さなカードがパンを並べた四角い皿に置かれているのでパンを焼く設備はありそうだが、生地まで準備する余地はないのだろう。焼かれる前のパン種を工場から運び、店で焼いているのだろうかと検討を付けてその日はメロンパンを買い店を出た。次の日は少し早めのお昼前に店を訪れた。緊急事態宣言で行き場を無くした車は駐車場を埋め、道路に面して排気ガスが後を絶たないオープンテラスではマスクを外した夫婦や家族連れがパンをほおばり、チョココロネは売り切れていた。
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