読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

相場英雄の『鋼の綻び』を読む

2013年02月18日 | 読書

◇『鋼の綻び』 著者:相場英雄 2012.11 徳間書店 刊


      

   金融経済小説か警察小説か。
   2005年に『デフォルト 債務不履行』でデビューした相場英雄の最近作である。
   東京証券取引所の一年間の締めくくり大納会をターゲットに「金融テロ」とも言える
  マーケットの大暴落一大パニックを狙った犯罪が、或る男によって着々と進められつつあっ
  た。

     この作品のテーマは何か。
   主軸は震災で起きた原発事故で事実上見殺しにされた福島県警戒区域の人々の憤りと
  恨み。無為の政府を糾弾するために何重もの罠を仕掛け金融パニックをもくろむ。
   復讐を誓った人たちは証券取引所を舞台に、巧妙な株価つり上げと、売り浴びせでマーケ
  ットのフラッシュクラッシュを図り、日本発の金融危機を身代金に政府(首相)の土下座を求め
  る。そしてあわや成功するかに見えた復讐劇は、間一髪の危うさで…。

 
   総理大臣秘書官は財務省・経済産業省・警察庁の三省庁から第一級のえり抜きの人材が
  送り込まれることはよく知られている。
   警察庁出身の秘書官桐野は前身は警察庁刑事部捜査二課長。大納会の鐘を鳴らしたい
  総理の警備に気を配っていた桐野は、たまたま起きた暴力団系金融ブローカー高橋の殺人
  事件に不審を抱く。高橋が持っていたメモにあったメガバンクの取引コードの数字は何を意
  味しているのか。

   
   桐野は元部下の土田を使って独自の調べを進める。
   クラウドコンピューティング技術の新星児「Jハル」という会社。Jハルが手に入れようとして
  いる中小証券会社「木俣証券」。政財界の重鎮が足しげく通った新宿ゴールデ街のバー
  「たまみ」、そのママと深いつながりを持つ不気味な男。その男の指図で株価操作を操る男。
  情報入手で目を剥くような鮮やかさを見せる不思議な男。沖縄宮古島で失踪した金融庁審
  議官、東証で首相秘書官を見掛け、不審な動きに喰らいついていくTVキャスターとその上
   司。情報操作を図るメディア界のボス。 
     これらに立ち向かう警察庁刑事部、公安部、警視庁の捜査陣。  
    いろんな登場人物がそれぞれに、それなりの存在感を持って絡み合う。

   幾分安直な筋書きで、表現もオーバーな点も目に付くが、株価操作と海外のタックスヘブン
  や外資投資会社をも動員しての金融テロという視点は卓越で、経済サスペンスと言ってもよ
  いのではなかろうか。

  (以上この項終わり)
  

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