◇ 『ベトナムの桜』 著者:平岩 弓枝 2015.7 毎日新聞出版社 刊
毎日新聞連載小説を単行本にしたもの。(2014.1~2014.12まで、毎日新聞日曜くらぶに連載)
徳川幕府の第三代将軍家光は寛永10年(1633)鎖国令を発した。奉書船以外の渡航と5年以上海外に在った
日本人の帰国を禁じた。その後中国とオランダ以外の国との通商も禁じた。また慶長17年(1612)の伴天連追
放令という背景もあった。
こうした鎖国令と禁教令という歴史を踏まえて、時代に翻弄された二人の青年、高取大介と次介兄弟の生涯を描
いたのが本書である。
「感動の歴史ロマン」と本書の帯にあるが、正直いってそれほどの感動はない。危険な航海、切支丹・伴天連
の迫害の苛烈さ、広南国(ヴェトナム)での日本人の生活などの描写にあまり現実感がない。盛り上がりに欠け
る。また、新聞連載小説の特徴かもしれないが、幾度も時代背景、状況説明が繰り返され、くどい。能島村上水
軍の娘・淳姫(大三島水軍の頭領)がキリスト信者として登場するが、歴史ロマン小説とはいうもののいささか
とって付けの感が否めない。
「声を出さずに大笑いした。」(本書204p)には唖然とした。とにかく大平岩先生にしては・・・という感じである。
*「奉書船」=御朱印船は徳川家康が交付した朱印状を持った幕府認許の交易船であるが、寛永8年(1931)
から老中が奉書に連書した免状も必要とすることになった。鎖国令公布の準備である。
(以上この項終わり)
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