読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

垣谷 美雨の『女たちの避難所』

2021年07月08日 | 読書

◇『女たちの避難所

  著者: 垣谷 美雨   2017.7 新潮社 刊 (新潮文庫)

     

 東日本大震災を題材にした被災した女性たちの物語である。著者が実際に
被災したり身内に被災者がいたわけではないが、津波や被災の状況や避難所
の様子などが生々しく伝わってきて、正調東北弁なのかどうかはともかく現
地らしさがリアルで、引きずり込まれる。
 あとがきには作者は現地を訪れ、資料を読み、福島・宮城の被災した友人
から話を聞き、仕切りのない避難所で苦闘する女性たちを、生活者の目線で
追うことを心がけたとある。

 主人公は3人の中年の女性である。
 ①ナギサ洞というスナックを営む山野渚。夫とは離婚して昌也という小6
の息子がいる。②椿原福子。パチンコに明け暮れる夫がいる。津波で”夫が
死んでくれれば”と思った。③乳飲み子を抱えた漆山遠乃。色白の美人。津
波で夫を亡くした。頑迷固陋な舅と遠乃を自分の嫁にと狙う義兄がいる。

 百人の被災者には百個の人生があり、津波という共通する災難に遭遇して
もその受け止め方も生ずる波紋も人それぞれであるし、避難所という世界で
はまた新しい関係が生まれる。そんなことを女性という属性を中心に問題点
を抉り出した傑作であろう。
 貧困、学校でのいじめ、離婚、DV,セクハラその他地域の根強い男尊女卑の
風習、家族関係などが地震と津波による被災で浮き彫りにされる。

 最終的に3人が東京に移り、一緒に未来に向けて生活を築ていく姿が描かれ
ていてホッとする。
                         (以上この項終わり)





  

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