読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ミシェル・ビュッシの『黒い睡蓮』

2018年10月21日 | 読書

◇『黒い睡蓮』(原題:Nympheas noirs)
         著者:ミシェル・ビュッシ(Michel Bussi)
         訳者:平岡 敦     2017.10 集英社 刊(集英社文庫)

     

  印象派の巨匠クロード・モネが後半生を過ごしたフランスはノルマンディーの片田舎
ジヴェルニーを舞台にしたミステリー。フランスで5つの文学賞にかがやき、世界20か国
で翻訳出版されたという傑作。

  冒頭著者が述べているが、ジヴェルニー村のホテル・ボーディ、エプト川、シェヌヴ
ィエールの水車小屋、ジヴェルニー学校、サント=ラドゴン教会、クロード・モネ通り、
ロア街道、イラクサの島、モネの家、睡蓮の池など実在するものすべてを正確に描ている
のが特徴。丁寧な景観描写が”モネの睡蓮の村”を彷彿とさせ、居ながらにしてこの世界的
に有名な観光地を脳裏に描くことができる。

 プロローグで奇妙な解説がある。
 ある村に3人の女がいた。一人目は意地悪で二人目は嘘つき、三人目はエゴイストだった。
 一人目は80歳を超えた寡婦。二人目は36歳で、三人目はもうすぐ11歳になる。
三人ともこの村からの脱出を夢見ていた。
 これが重要な伏線で、一人目の老婦の、辛辣な語り口のモノローグが物語の主軸である。

   
 2010年5月。ジヴェルニーの水車小屋の近くで村に住む歯科医師ジェロームが殺された。
無類の女たらし。有力な容疑者は不動産屋のジャック。ジェロームはジャックの妻ステファ
ニーに言い寄っていた。
 パリから署長として赴任した警部ローランスは有能な部下シルヴィオと捜査に当たる。
嫉妬にかられた男ジャックの犯行説が有力だが、妻はアリバイを証言する。捜査に赴いた
ローランスは、あろうことか容疑者の妻ステファニーの美貌に惹かれ執拗に纏わりつく。

 村人から忘れ去られながらも自ら住む水車小屋の最上階・天守閣から村道や広場の出来
事を覗き見る意地悪婆さん。そのモノローグにのぼる言葉の一つ一つが後に起こるさまざ
まな出来事を暗示する。

 場面は突然73年前の村の小学校に飛ぶ。絵の才能に恵まれたファネット11歳。その男友
達のポールやファネットの信奉者ヴァンサン、うぬぼれ屋のカミーユ。泣き虫のマリなど。
 ある日、ファネットの絵の才能を高く評価するアメリカ人の老画家ジェイムズが何者か
に殺された。
 そしてポールが川で変死する。もしかしたら殺人ではないのか。
 親しいポール、ジェイムズが死んでしまった。ファネットは見事に描き出した睡蓮の絵
を黒く塗りつぶす。この「黒い睡蓮」の絵は水車小屋の最上階天守閣の老女の部屋の片隅
にしまわれてある。

 いったいこの水車小屋の老婆は何者なのか。時空を超えたモノローグで、物語を自在に
引っぱっていく不気味な存在。一種の倒叙法であろうが 最終段(タブローⅡ展示)で示
される驚愕の告白で、一気に全体像が明らかになり、著者がいかに巧みなトリックで読者
を欺いていたか明らかになる。傑作である。
                              (以上この項終わり)

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