◇『償いの雪が降る』(原題:The Life We Bury)
著者:アレン・エスケンズ(Allen Eskens)
訳者:務台 夏子 2018.12 東京創元社 刊(創元推理文庫)
内容的には一種のミステリーものだはあるが、物語主人公の青年の家族を巡るナイー
ブな感情の流れが底流にあって、心和む作品となっている。とにかく描写が丁寧である。
僕(ジョー)はアメリカ、イネソタ大学の学生。家族はアル中の母と、自閉症の弟。
家を飛び出して部屋を借りある酒場でアルバイトをしている。
ジョーが思ってもみなかった大事件に遭遇したのは大学の課題「身近の年長者の伝記
を書く」ことで、ある介護施設を訪問しカール・アルヴァソンに出会ったことに端を発
する。カールは30年前少女を陵虐し焼き殺した殺人犯として受刑中に重篤な癌に侵さ
れ、目下この介護施設に収容されていた。有罪判決を受ける経緯を初めヴェトナム戦争
での従軍記憶などを聞いていくうちにカールの殺人容疑に疑問を抱き始める。
ジョーはハンサムでもないが弟思いの心優しい青年である。彼は少年時代に一緒に釣
りに出掛けた際、濁流に飲み込まれた祖父を自分の判断ミスで助けられなかったという
深い悔悟の念にとらわれていた。この川での遭難場面は叙述に迫力がある。
一方カールはヴェトナム戦争で上司軍曹が少女を陵虐し殺害する現場を目撃し、軍曹
を撃ち殺したものの少女の命を救えなかったことを今も深く悔んでいた。深い悔恨の記
憶を共有する二人は互いに強い信頼関係で結ばれた。
ジョーは命あるうちにカールの無罪を立証しようと事件の詳細を再吟味し、裁判記録
を追って証拠と証言を洗い始める。この作業には大学同期で隣室のライラが協力した。
また被害者少女の日記にある暗号をライラとジョーの弟ジェレミーが解読し、事件解決
の大きな力になった。
結局警察を初め「冤罪証明機関」などの協力もあって、ジョーとアイラはカールの
存命中に真犯人を暴き出すことが出来たのであるが、最終局面はライラとジョーの命
を懸けたスリリングな場面があって、これは大いなる見せ場である。
(以上この項終わり)
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