読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

『デルタの悲劇』

2020年02月24日 | 読書

◇『デルタの悲劇

  著者: 浦賀 和宏       1989.12 角川書店 刊(角川文庫)




 浦賀和宏らしい手の込んだ作品なので、心して立ち向かった方がよい。
読後感想をどこまで明らかにするか迷うところである。
まず、何はさておき、解説やあとがきなどを先に読む手合いは、今回はこうした
順番はやめたほうがよろしい。プロローグと本編と解説とエピローグが一体とな
った重層構造になっているからである。

 この小説にはプロローグが二つある。事件背景を説明するプロローグはありきた
りであるが、まず最初のプロローグとして作者の母親がある宛先不明の手紙を掲げ、
作者がある事件に巻き込まれて亡くなったことをのべる。本編のあと解説があって
エピローグとして再び作者の母親の視点から本体の事件を解説し犯人を名指しする
ことによって桑原氏の解説を補い締めとする四重構造のスタイルになっている。

 読者は二番目のプロローグで斎木、丹治、緒川という3人の悪ガキの生い立ちや
悪行の次第、いじめの対象であった同級生山田信介殺害という事件を知る。
 さて、3人の少年が成人式を迎えた日、それは斎木らが殺した山田信介の命日だっ
た。
 成人に達した斎木を山田の友人だったという八木と名乗る人物が訪ねてきた。殺し
を認めて自首しろという。
 次いで八木は丹治を訪ねる。緒川をも訪ねたらしい。八木は執拗に犯罪を認めさせ
ようとする。斎木と丹治は精神的に弱っちい緒川が落ちることを懸念し殺そうとする。
 このようにこの作品の表面的な粗筋はさして混み入ったものではない。

 さてここからは桑原氏の解説と作者の母の解説に分け入っていくので「ネタバレ注
意」である。
まだ本体を読んでいない方はできたら読まないでいただきたい。

 本体が終わって次いで解説。これはおなじみのノンフィクションジャーナリスト桑
原銀次郎氏が本書の特徴を解説するという仕掛け。本書の特徴が①時制トリックと②
人称トリック③性別トリックという3つのトリックを絡ませたところにあると明かす。
まさに本書が難解である大きな原因。特に性別トリックはややこしさの最たるもので
ある。従って193ページという掌編ではあるが中味は濃い。

 エピローグの最後では八木(作者)の母親がプロローグで当てた手紙の「あなた」
が真犯人だとして明らかにされる。衝撃的な結末である。
                           (以上この項終わり)

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