読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ジョン・グリシャムの『アソシエイト』(上・下)

2015年05月14日 | 読書

◇『アソシエイト(原題:THE ASSOCIATE)上/下』 
                            著者:ジョン・グリシャム(John Grisham)
                            訳者:白石 朗
                            2010年7 新潮社 刊 (新潮文庫)

   

久々のジョン・グリシャム。
リーガルサスペンスの泰斗ジョングリシャムは『法律事務所』、『ペリカン文書』などで有名で
著作も多くが映画化されている。 
毎年1冊くらいのペースで作品を世に出しているが、本書は『法律事務所』と同系統に属する
本格リーガルサスペンスである。

名門イェール大学ロースクールを出て、世界中の拠点を持つ名門巨大法律事務所のアソシ
エイトの一員として採用を約束されている主人公カイル。父親も郷里で法律事務所を構えて
いる。
ある日突然FBI捜査官を名乗るグループに身柄を拘束される。カイルには大学2年生の時に
ルームメイト3人とパーティーを開き、乱痴気騒ぎの果てに友人二人が女子学生に乱暴を
働いた事件があって、警察では事件性なしと解放された過去があった。
FBI捜査官を名乗る人物が言うには、この女性エレインが改めて強姦罪を訴えてきた。カイ
ルは共犯ということになる。この事件が明らかになれば、君の弁護士としての活躍は望めな
い。何とかしてもらいたければ、採用予定の法律事務所に入った暁には、現在係争中の某
訴訟事件の機密情報を盗み出して渡すように迫る。実は彼らはFBIではなく、企業スパイ会
社のメンバーだったことが明らかになる。
カイルは父親にも相談できず、悩みに悩む。そしてかつてのルームメイトと相談し、ある作戦
を進行させる。
結局カイルは企業スパイグループをFBIに訴えることを決断する。暴行事件の訴えを免れ、
父親と共同名義の法律事務所を作ることになるのであるが、あっけない終わり方でがっか
りする。
この間アメリカの法律事務所の実態が余すところなく明かさるところは面白い。アメリカでは
弁護士としての寿命はほぼ25年とか。まるで日本の野球選手と同じくらいではないか。25
年で燃え尽きるのか。はたまた50歳以降は蓄えた金で悠々自適の生活をエンジョイするの
かは腕の違い。
法律事務所ではパートナーという基幹弁護士が中心で、アソシエイトという下働きの弁護士
が実務の多くを支えている。大学出の新米弁護士は初任給でも年20万ドルという高給を約
束されているが、1日17時間も馬車馬のように働かされて、パートナーになれるのはほんの
一握り(7・8年後に10%くらい)。能力とエネルギーをとことん吐き出させられ、数年で燃え
カスのように捨てられる世界だということを知ることになる。
カイルが敢然と企業スパイグループの脅迫に抵抗し、就職予定の名門法律事務所への忠
誠を放棄したのは、父のように小さいながらも地域に根差した信頼される法律事務所の一
員として働くことが本当の幸せなのだと悟ったからだということがわかる。

この本はパラマウントで映画化が決定しているそうだが、結末がなんとも締まらなくてスパ
イを強要したベニー・ライトが行方をくらまして、FBIもさじを投げたという話しはないだろう。
このところをもっと書かなければ読者は納得しない。

(以上この項終わり)

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