読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

池井戸潤の『七つの会議』

2013年06月08日 | 読書

◇ 『七つの会議』 著者: 池井戸 潤  2012.11 日本経済新聞出版社 刊

    

  初出が日本経済新聞電子版(2011.5.2~2012.5.21)とある。単行本化で大幅な加筆修正があった。
  企業小説というジャンルがあるが、これもその一つだろう。職場小説という見方もできる。

  小説の舞台は、「東京建電」という某大手総合電機メーカーの子会社である。当然役員、幹部の一部に
 親会社派遣のお目付け役がいて、生え抜きの社員・役員との確執が日常茶飯事。もちろん社員・役員の
 中には、会社の利益のためならそして自身の出世のためならば多少の悪事は意に介さない手合いもい
 るし、誠実を旨に正しく生きようと努力してる社員もいる。そんななか、営業目標(ノルマ)達成至上主義
 を指弾する社内告発がでた。コスト削減のために強度不足を承知で規格を外れた部品を発注した営業
 課長の悪事が露見したのである。リコールに動けば膨大な費用を伴い会社の存続が危うい。リコールか
 隠蔽か。どこの職場・会社にも見られるドロドロした足の引っ張り合いや駆け引きがまきおこる。
 
  『七つの会議』という題名がすっきりしない。確かに会社には役員、各部署の毎週・毎月の定例会議、営
 業と経理の定例会議などがいくつもあって、会議を経ると一安心といったようなところもあるが、「会議」が
 本の主題とも見えない。この中では広報誌の編集会議、職場環境会議、パワハラ委員会、不正発注調査
 委員会、営業部内の会議、営業・経理との計数会議、幹部役員の会議(御前会議)なども出てくるの、で数
 えれば七つにはなるかもしれないが、会議自体に大きな意味を持たせているわけでもない。本の帯に「筋
 書きのない会議(ドラマ)がいま、始まる―」とあるが、ちょっと無理がある。副題に「The Seven Conferences」
 とあるのでまさに会議を指しているのであるが…。
  ま、それはどうでもよいが、面白いのは登場人物が単にキャラクターだけでなく、その依って来たる所以
 つまり生い立ちが細かに説明され、いま在る彼(彼女)の行動・処生の規範たる価値観・世界観が生まれた
 背景を説明して、単なる企業小説に終わらせていないところだろう。

 (以上この項終わり)

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