読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

宮部みゆきの大作『ソロモンの偽証(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ部)』を読む

2013年06月11日 | 読書

宮部みゆき久々の大作

    

  このところ宮部みゆきの作品は時代小説を目にすることが多かったせいか、しばらく遠ざ
かっていたが、この度妻が『ソロモンの偽証』を借りて来たので便乗し読んだ。作品そのものは
「小説新潮」に2009.9号~2011.11号まで連載されたが、この度単行本として出版された。

 構想15年。作家生活25年の集大成というだけに、さすが女流作家の第一人者の作品である。
 第Ⅰ部(事件)、第Ⅱ部(決意)、第Ⅲ部(法廷)までそれぞれ細かい字で700ページを越える
大作で、飽きさせることがない。
 内容的には主人公群が中学生で舞台も学校なので、学園ものと言ってしまえばそうなのだが、
単純な学園小説ではない。ミステリーとして最後まで謎を残し、第Ⅲ部の終章で真相が明らか
になる。とくに第Ⅲ部は法廷が舞台であり、その意味では法廷ミステリーだと思う。

 舞台となっている城東第三中学の二年B組。主人公の藤野や柏木や井上、東都大付属中学
の神野など。確かに優秀な生徒なのだが、彼らが口を開くと、まるで高校生どころかヘタをする
と大学生でもたじたじとなるような難しい論理的な話をする。おいおい、いまどきの中学生がこ
んな言葉をほんとに口にするのかいと思うのだが、作者がこの小説で訴えたいことを読者にす
っきりとわかってもらうには、主人公たち(複数である)にここまできっちりと語らせないと十分に
伝わらないからであろう。その辺は語りの名手はお得意である。

 展開がミステリックとはいうものの第Ⅱ部で大体先が(犯人が)読めたし、でどんでん返しと
か二転三転する展開でもないので、宮部みゆきの作品としてはあきたらない人がいるかもしれ
ない。しかし、不可解なもの不条理なものに疑問を抱き煩悶する時期の少年とそれを取り巻く
同級生たちとの交流・確執、周辺の大人たちの対応などが的確で、環境・状況設定も巧みであ
る。彼らのやり取りとストーリーの展開が面白い。

 雪の降るクリスマスイブの深夜、一人の中学2年生の男子生徒が屋上から墜落死した。
自殺か、事故死か、はたまた他殺か。 生徒、教師、保護者をはじめ学校内外は揺れに揺れる。
死亡した柏木卓也は、しばらく前に大出俊次らならず者グループの3人組とトラブルがあって、
そのあと不登校になっていた。
 警察は諸状況から自殺とみて学校側もその線で収束を図ったが、大出らの報復殺人ではとの
噂が流れ、やがて3年生となり受験期を迎える生徒としては真相を明らかにしなければおちおち
と受験など出来ないと、藤野涼子は野田健一や井上康夫、東都大付属の神野和彦らと共に「学
校内法廷」を設け、真実の解明を目指すことを決意する。
 証人となった人たちの口から意外な事実が次々と明らかになっていく。学校長、学年主任、用
務員、所轄の青少年担当、柏木夫妻、柏木卓也の兄宏之、大出俊次と手下の井口と滝沢、嘘
の告発状を書いた三宅樹里、TV ジャーナリストの茂木等々。
 そして最終弁論前に検事役藤野涼子が証人として召喚したのは、弁護人役で柏木卓也と友人
だった神野和彦。彼が明かした新事実とは・・・。

 『ソロモンの偽証』とは何か。
ソロモンとは古代イスラエルの王ソロモンのこと。知恵者の象徴とされているが、はて作中誰
をもってソロモンとするのか。そしてその偽証とは。
 思わせぶりなタイトルについて作者自身が語っている。 
「 最も知恵ある者が嘘をついた。
 最も権威や権力をもつ者が嘘をついた。
 最も正しいことをしようとする者が嘘をついた。そのどれなのかなということを読者自身で探っ
て欲しい。」

裁判の本質を、加害者と被害者の関係性の修復システムとしてとらえる考え方がある。法律
事務所で働いたことのある作者は、本書の学校内裁判の中で「検事とと弁護人という本当の裁
判にある対立関係ではなくて、関係者の証言を通して真実を明らかにしたい」と藤野涼子をして
言わしめているのは、まさにこのことを言いたかったからではないかという書評があった。

(以上この項終わり)

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