読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

またも佐々木譲を

2010年09月17日 | 読書

◇佐々木譲の「暴雪圏」を読む
 2009年2月新潮社から出版全403ページの大作
 (初出は小説新潮2008.1~2009.1)

 川久保篤巡査部長は北海道十勝郡志茂別町(架空の町)の駐在さん。
 強行犯係の有能な刑事でありながら3年前の北海道警不祥事件に伴う玉突き
人事異動で広尾署の駐在に配属された。
 駐在所の巡査部長といえば、受持ち範囲の遺失物とか家出人とか喧嘩の仲裁
とか、軽罪事案処理に明け暮れているかといえば、そうでもなく第一線の警官とし
て初動の要となる。その辺のところは「制服捜査」(2006.3新潮社)に詳しい。
本書は川久保巡査部長もの第2作である。

 「暴雪圏」のすごさはなんといっても北海道という地にしか生まれないといってよ
い大自然の脅威であろう。地元では「彼岸荒れ」という暴雪がやってきた。しかも
10年来という超大型。その圧倒的な猛威の前に、なすすべもない犯罪者と警察と
いう話であるが、主役はやはり「彼岸荒れ」。たしかに川久保巡査部長は駐在とし
ては出来過ぎの働きをし、最後には殺人犯を捕らえて主人公らしいおさまりとなっ
てはいるが、私としては主役は「彼岸荒れ」だ。これなくして今回の事件は起こり
得ない。

 いまや「爆弾台風」と化した「彼岸荒れ」。いわば町全体が密室渋滞となった中
で、一軒のペンションに吹きだまりのように集まってきた幾組かの事件関係者。
暴力団組長宅に押し入った強盗殺人犯の片割れ、二千万円という会社の金を
持ち逃げ中の中年男、出会い系で知り合ったジゴロと不倫に走り、携帯に写真
を撮った男を殺し関係を清算しようとする主婦、義父の性的虐待から逃れる高
校生とその子を車で拾ったトラック運転手の青年、もともと北海道旅行でここを
予約していた定年夫婦・・・。登場人物のあまりの多さにいささか戸惑う。

 10年来という「彼岸荒れ」の猛威は続き除雪もままならず、次第に町の交通網
が不通となっていく。犯罪者も警察も動きがとれない。
 暴雪でペンションの中に閉じ込められた十数人の男女。簡単に殺す殺人犯はジ
ゴロを殺す。残る人たちはおおむね怯える。雪が収まるまでの数時間、この密室
でドラマが続く。

 暴力団組長宅から金を奪った二人組。冷徹な本物のワルが運転を誤って雪道
を転落、呆気なく死ぬという設定が実にあっけなく、もっと作りようがなかったのか
なと残念。また、もう一方のすぐ切れて発砲してしまう殺人犯は川久保巡査に撃ち
殺されるが、せめて足など撃って怪我をさせて、相棒の最期を聞かせてやることも
出来たのではないかなどと勝手なことを思ってしまう。

 いずれにしても久々に佐々木譲を読んで大満足。新作が待たれる。

     

     (以上この項終わり)

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