さすらうキャベツの見聞記

Dear my friends, I'm fine. How are you today?

「私は生きている」 ‘I am’

2005-10-26 14:26:49 | Wednesday 芸術・スポーツ
ここ最近。やっと詩を読みたくなってきた。

 以前、買って、本棚に並べてあっただけの「イギリス名詩選」から、ジョン・クレアの「私は生きている」。

                         
    

 I am : yet what I am none cares or knows,     私は生きている。だが、私のことを誰も
                               構ってくれない、

 My friends forsake me like a memory lost;     忘れてしまったのか、友だちは見向きも
                               してくれない。

 I am the self-consumer of my woes,        私は悲しみで自分の命を
                                縮めている人間なのだ、――

 They rise and vanish in oblivious host,       悲しみが過去の亡霊のように
                                群れをなして出没する、

 Like shades in love and death's oblivion lost;   あるものは忘れ去った懐かしい影、
                                 そして死の影。

 And yet I am, and live with shadows tost      だが、私はまだ生きている、
                               周りに纏わりつく亡霊と共に生きている、

 Into the nothingness of scorn and noise,     そしてやがて侮(あなど)りと
                                  罵(ののし)りのない世界へ消えてゆき、

 Into the living sea of waking dreams,         白日夢のどよめく海原へと
                                  去ってゆこうとしている。

 Where there is neither sense of life nor joys,    そこには生けるしるしもなく
                                  喜びもなく、あるものは、私が

 But the vast shipwreck of my life's esteems;    生涯を通じて築いた名声の
                                 難破した姿かもしれぬ。

 And e'en the dearest―that I loved the bestー    親しかった者たちも、―かつて
                                  私が心から愛した者たちも、

 Are strangeーnay, rather stranger than the rest.   今では私に冷たい、
                                 いや、他人以上に冷たい。



 I long for scenes where man has never trod,     私は行きたい、男が誰も
                                  足を踏み入れたことのない場所へ、

 A place where woman never smiled or wept;  女が未だかつて微笑(ほほえ)んだことも
                              泣いたこともない場所へ。

 There to abide with my Creator, God,       私はそこで、創造主なる神とともに
                               いつまでも住みたい、

 And sleep as I in childhood sweetly slept;     そして、子どものときのように
                                安らかに眠りたい。

 Untroubling and untroubled where I lie,      誰にも迷惑をかけす、
                                 誰からもかけられず、
                                 横になりたいのだ、

 The grass below―above the vaulted sky.       緑の草を褥(しとね)に、
                               大空を頭上に仰いで……。


        
【注】
L.1 I am:‘God said unto Moses, I am that I am' ―「神モーセにいひたまいければ、我はありて
       在る者なり、と」(出エジプト記3:14)のエコーだろう。って、これを訳した人は言っている。
        それももっともだろう、と私も思う。
      旧約聖書で、神がご自分の名をおっしゃったところとして有名だから。



                

ジョン・クレア(John Clare:1793~1864)
イギリス詩人。農民詩人とも自然詩人ともいわれるが、小作人として働く傍ら詩作を試み、貧困に苦しみ、失恋し、精神病院で死んだ。深々とした寂しさと諦めと静けさを湛(たた)えたこの詩は、1842年、病院内で書かれ、彼について書かれたある伝記(1865)の中で初めて公にされた。


引用・参考文献
 ・平井正穂編:イギリス名詩選、岩波書店、2002年
コメント (3)
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