ドッペルゲンガーはそのまま日本語となっており、日本では、自分とそっくりの姿をした分身のことを意味する。ドイツ語本来の意味では、ドッペルゲンガーは生霊であり、実際の人間の生き写しが現れる超常現象のことを言うそうだ。
その現われ方はさまざまで、目の端にちらりと見えたり、ひと気がなく薄ら寒い道で会ったり、背後から一緒に鏡をのぞきこんでいたり、本人にはまったく見えず、他人が別の場所でその人を見たということもある。
ドッペルゲンガー現象にはさまざまな説があるが、昔からこの世のものではない不思議なものだと信じられてきた。一方で科学者たちは、脳の電気信号の異常反応であるとか、精神分裂症のような精神疾患によるものだと言う。はっきりしていることは、これらの不気味な幻影は、不吉な前触れの知らせであることが多いということ。もうひとつは、驚くほどたくさんの歴史上の人物たちもドッペルゲンガーを見たと主張してきていることだ。
10.ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
ゲーテ(1749~1832)はドイツの著名な作家、詩人、政治家で、文学界に多大な貢献をした。ある日、フリーデリケという女性と別れたショックで意気消沈して馬で帰る途中、ゲーテは馬でこちらに向かってくる男に出会った。ゲーテ曰く実際の目ではなく、心の目で見たというのだが、その男は着ている服は違えど、まさにゲーテ本人だったという。その人物はすぐに姿を消したが、ゲーテはその姿になぜか心が穏やかになって、このことはまもなく忘れてしまった。
8年後、ゲーテがその同じ道を今度は反対方向から馬を進めていたとき、数年前に会った自分の分身と同じ服装をしていることに気づいたという。また別のとき、ゲーテは友人のフリードリッヒが通りを歩いているのを見た。なぜか、友人はゲーテの服を着ていたという。不思議に思ったままゲーテが自宅に帰ると、フリードリッヒがゲーテが通りで見たのと同じ服を着てそこにいた。友人は急に雨が降ってきたので、ゲーテの服をかりて、自分の服を乾かしていたのだという。
9.エカテリーナ二世
18世紀、もっとも権力のあったロシアの女帝。ある夜、エカテリーナが寝室で休んでいると、召使がエカテリーナが王座の間に入って行くのを見たと言ってきた。本人が自分で調べにいくと、幽霊のような自分の分身が静かに王座に座っていたという。エカテリーナは急いで衛兵にその分身に銃を放つよう命令した。果たして弾が当ったのかどうかは語られていないが、その後まもなくエカテリーナ本人は亡くなってしまった。
8.パーシー・ビッシュ・シェリー
シェリーは 類まれな詩人で、フランケンシュタインの作者メアリーの夫でもある。ホラー作家であるメアリーは幽霊や怪物を見たといわれているが、シェリーもドッペルゲンガーを目撃している。
シェリーは1812年船の転覆事故で亡くなる少し前、自分の分身に何度も会ったことがあるとメアリーに打ち明けている。しかも、自分の分身に話しかけられもという体験もしている。親しい友人であるジェーン・ウィリアムズも彼の分身を目撃している。その場所は本物のシェリーがよく散歩しているルートで、その先は行き止まりのはずなのに彼は戻ってくることなく、姿を消したという。
7.サー・フレデリック・カルネ・ラッシュ
1906年、イギリス議会の議員サー・ギルバート・パーカーは討議に参加しているとき、同僚議員のサー・フレデリック・カルネ・ラッシュが近くに座っているのを見かけた。ラッシュはインフルエンザでふせっていると聞いていたので、驚いたパーカーは、回復してよかったと声をかけた。しかし、ラッシュは何も言わず、険しい顔つきで座ったままだったという。しかし、パーカーが目を離した次の瞬間にはその席には誰もいなかった。ほかの議員も確かにラッシュを目撃していたことが後からわかった。
病気で寝ていた本物のラッシュがこの事件をを知ったとき、それほど驚かなかった。彼は討議に出席したがっていたので、魂が体から抜け出て議会に行ったのではと思ったが、家族は悪いことの前触れではないかと恐れた。実はしばらく前から、ラッシュは同僚議員のおかしな行動に悩まされていた。しょっちゅうラッシュに指を突きつけて、彼が生身の人間かどうか確かめるのだ。ついに、ラッシュは地元の新聞に皮肉をこめた手紙を長々と書くはめになった。ドッペルゲンガーを見ると死ぬという感覚はなかったと言い訳し、これからは態度を改めると約束したのだ。
6.エリザベス一世
1558年から1603年までイギリスを治めていたエリザベス一世は、チューダー朝最後の国王。カリスマ的、冷静沈着、常識的な君主として知られ、超常現象などとは縁がないように思える。しかし、その女王が自分のドッペルゲンガーに会ったと言い始めた。幽霊のような自分が、まるで遺体のように身じろぎもせずにベッドに横たわっていたのだという。ストレスのたまった年老いた女王の一時の気の迷いとして片付けるのは簡単だったろう。エリザベスがドッペルゲンガーを見てまもなく亡くなるという事実がなければ。
5.マリア・デ・ヘスス・デ・アグレダ
ドッペルゲンガーは不吉なものと考えられているが、これを自らコントロールし、一瞬で別の場所に移動できる第二の肉体として利用できる者もときにはいる。
17世紀、新大陸に到着した探検家や宣教師たちは、すでにニューメキシコの部族がキリスト教を信仰しているのに驚いた。彼らは、青い服を着た謎めいた女性にキリストの教えをこい、十字架や礼拝の道具を与えられて、改宗したと語った。
司祭たちはその女性がマリア・デ・アグレダというブルーのローブをまとったスペイン人尼僧であることをつきとめた。マリアは海を越えて、インディアンたちにキリスト教を伝えたと主張したが、本人は修道院を離れたことはなく、新大陸は野蛮だという認識しかなかったのだ。魔女ではないかという疑いもあったが、彼女の話には信憑性があったため、魔女疑惑は晴れ、彼女の力は神のものであることが明らかになった。マリアはたちまち有名人になり、修道院長にも就任し、どのようにして神の力を得たかなど本も書いた。しかし晩年、マリアの話は二転三転し、他の大陸に自分の分身を送ったと言うよう圧力をかけられたと告白することもあったという。
4.エイブラハム・リンカーン
リンカーン本人は自ら数々の超常現象に遭遇していると言っている。初めての選挙のある夜のこと、リンカーンはソファで休んでいた。たまたま鏡をのぞくと、そこには自分そっくりの顔がふたつ映っていた。もうひとりのリンカーンは青白く幽霊のようで、鏡の中からリンカーンをじっと見ていたという。
リンカーンが驚いてソファから起き上がると、その分身は消えたが、座るとまた現れた。第二のリンカーンは二期目も再選されることを意味しているようでもあったが、まるで死者のような風貌は、生き延びることができないという意味のような気がして、妻のメアリは悪い兆候だと恐れた。ドッペルゲンガーがなにかのメッセージをもってきているようで、リンカーンはその後もときどきソファに横たわる実験をしてみたが、二度と分身が現れることはなかった。リンカーンが二期目はまっとうできないというメッセージを伝えたかったのかもしれない。
3.ジョージ・トライオン
1893年6月22日は、海軍中将ジョージ・トライオンにとってはいい日ではなかった。シリア沖で艦隊の指揮をとっていたが、ミスから一隻の船がトライオンの乗った船に衝突し、357名の仲間と共に海に沈んでしまった。
まったく同じ頃、トライオンの妻は、ロンドンで友人たちと豪勢なパーティをひらいていた。そこに突然、軍服に身を包んだトライオンが現れ、客たちは驚いた。トライオンは黙ったまま階段を降り、客間を通って正面玄関のドアを開けて出て行こうとして、ふっと突然その姿を消したという。トライオン夫人は客の相手をしていて、このドッペルゲンガーを見なかったというが、ほかの客の話では彼女も目撃者だったという。家族にその死を伝えにくるという船乗りの生霊の話とよく似ている。
2.ギ・ド・モーパッサン
フランスの作家モーパッサンも、ドッペルゲンガー経験者としての記録が残っている。晩年、自分の分身とよく交流していたという。この不気味な彼の分身は、会話するだけでなく、ある短編の内容をモーパッサンに書き取らせたという。この短編集『オルラ』は、邪悪な霊に宿主として利用され、ゆっくりとむしばまれていく男の話で、文字どおり彼自身のゴーストが書いた話だと本人が言っている。この短編を完成させてから、まるでこの話をなぞるように、モーパッサンの精神も病んでいった。
もうひとつのバージョンは、モーパッサンが怖がって召使を呼んだので、ドッペルゲンガーは話を書き取らせたりせずにそのまま姿を消したというもの。しかし、数ヵ月後にこの分身はまた戻ってきて、悲しい顔でモーパッサンをじっと見つめ、絶望するように手で顔を覆って座り込んだという。ドッペルゲンガーが不吉な知らせを持ってきたと悟ったモーパッサンは恐怖に慄き、その後の人生は転落の一途をたどった。一年後、彼は精神病院で亡くなった。
1.エミリー・サジェ
19世紀半ばのこと。エミリー・サジェは女子校の非常に有能な教師だったが、16年で19回も職場を転々とした。エミリーのドッペルゲンガーが13人の生徒によって目撃されたのが始まりだった。本人の脇や後ろで、もうひとりのエミリーがその動きをそっくり真似していたのだという。
ところが、エミリー本人にはドッペルゲンガーの姿はまったく見えておらず、これが現れるとげっそりとやつれて元気がなくなってしまったという。本人が教室の外にいるのに、ドッペルゲンガーが教室の中に現れることもあり、触れて本物か確認する生徒も出てきた。次第に生徒の親が騒ぎ出し、子供たちを転向させるようになったため、エミリーはクビになってしまった。しかし、次の学校でも同じ現象が起こり、職場を転々とするはめになったのだ。
via:10 Disturbing Tales Of Doppelgangers
日本人編:芥川龍之介
日本人だと、作家、芥川龍之介が自らのドッペルゲンガーを見ているという。芥川はある座談会で、ドッペルゲンガーの経験があるかとの問いに対して、「あります。私のドッペルゲンガー(二重人格)は一度は帝劇に、一度は銀座に現れました」と答え、錯覚か人違いではないかとの問いに対しては、「そういって了えば一番解決がつき易いですがね、なかなかそう言い切れない事があるのです」といっている。
☆俺、20代の頃しょっちゅう見たでぇ!