友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

恋多き歌人の『わが告白』

2023年01月26日 17時31分32秒 | Weblog

 歌人・岡井隆さんの『わが告白』を読んでいたら、81ページにこんな文章があった。

 「父が言ったことがある。『隆、人生をあのたったの数秒で終わる快楽のために捨ててしまうのは愚だぜ』」。(略)「射精後に来るあの暗冥は、アナキスティクである。世の秩序を、身体的行為が、嘲笑っているのである。わが父もしばしばそれを経験しているからこそ『隆よ、なあ、あの数瞬のために、人生をあやまつなよ』とさとしたのだろう」。

 「数秒で終わる快楽」が射精のことだとは分かった。アナキスティクとは何だろう、無政府主義に関連するのだろうか。性行為を射精にだけ求めるのも理解しがたい。抱きしめ合う前から胸は高まり、キスをし、服を脱ぎ、身体を重ねる一連の行為が快楽へと導く。射精だけすれば満足というなら、テレビのコマーシャルではないが、「そこに愛はあるのか」と問いたくなる。

 先輩が昔、「カミさんと愛人は違うぞ」と話してくれた。「カミさんの裸をしげしげと眺めようものなら、嫌らしいと言われてしまう。愛人なら、身体の隅々まで見せてくれるし、性器や尻の穴にキスもさせてくれるが、カミさんにそれを求めようものなら変態と軽蔑されてしまう。愛人とのセックスはドキドキして楽しいが、カミさんとは義理の付き合いみたいなもんだ」。

 結婚して60年以上経っているから、口で言うほどではないと思う。男と女はセックスだけで結ばれている訳では無いし、離れがたい何かがある気がする。年老いた夫婦は互いに我儘が前面に出てしまい、なかなか相手を受け入れようとしなくなる。これも老いが抱える宿命なのだろう。

 岡井隆さんの『わが告白』の帯に、「男女の愛とは何だろうかー。」とあるように、この本の深層でのテーマなのかも知れない。恋多き歌人であり、長寿の人の「告白」だから、何かが見えて来る気がして読んでいる。


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