真夏になった。防災訓練が行われた午前中はまだ、そんなに暑くなかった。地震体験車の周りに大勢の人が来ていた。知った顔は年寄りばかりだ。地震を体験した人は、「見ているよりもきつかった」と、揺れる恐怖を話していた。
鉄棒で逆上がりをしようとした男の子が祖母に、「今はダメ」と叱られ、ふてくされてひとりで築山に登って行った。ちょっと可哀想になって、私も後から登って行った。大きなケヤキの樹に蝉の抜け殻があった。
男の子を呼んで、「ここに蝉の抜け殻があるよ」と声をかけた。男の子は知らない年寄りが何を言っているのかという表情だったが、私が指さす樹木を見つめ、抜け殻を落ちた枝で落としていた。
樹木の下にはたくさんの穴がある。「ここから蝉が出てきて羽化したんだよ。蝉の卵はこの樹に産み付けられ、幼虫は何年も土の中で過ごして出て来たんだ」と話すと、男の子は「でも、1週間しか生きられない」と言う。
男の子は「赤アリはいないの?」と聞いて来る。「虫を集めている」とも言う。「友だちにヘビを飼っている子がいる。学校で捕まえたの」とも。親しくなったからか、別れ際に「おじいさん、白アリ見つけたら教えてね」と言われてしまった。
地震体験車に乗り込む子どもたちは、「平気、平気」と言っていたが、車から降りてきた時は、「怖かった」と目を丸くしていた。恐怖を体験することは大切だと思うけれど、マンションではまずジッとして我が身を守り、外に飛び出さないことを伝えて欲しかった。
南海トラフ地震が起きる可能性は高い。でも、火災が起きればもっと危ない。火を消し、玄関扉を開け、収まるのを待つ。ケガ人や困っている人がいないか、近所の安否確認をする。みんなで助け合うしか災害を乗り越える方法は無いと思う。
訓練が終わって家に帰り、ベランダに出たら庇に虫が止まっていた(写真)。大きなカミキリムシのようだ。あの男の子だったら、すぐに答えてくれるだろう。末は昆虫博士かも知れないから。