彼女は、先輩(せんぱい)を前にしてもじもじしていたが、意(い)を決(け)してか細(ぼそ)い声で言った。
「あ、あの…。あたし、先輩のこと…。ずっと…ずっと――」
先輩は彼女の言葉(ことば)をさえぎるように、
「これって、告白(こくはく)って感じのやつですか?」
彼女はこの言葉に気力(きりょく)をなくしてしまった。それでも彼女は思い切って、
「あたし、先輩のこと、好(す)きです。でも、他(ほか)に付き合ってる人とか、いるなら…」
先輩は首(くび)をかしげて、「僕(ぼく)は、誰(だれ)とも付き合ってないけど…。ごめんなさい」
「どうして…、あたしじゃダメなんですか? あたしの、どこがいけないんですか?」
先輩は困(こま)った顔をして、「君(きみ)がダメというわけじゃないんだ。つまりね…」
「あたしのこと、恋愛(れんあい)の対象(たいしょう)にならないってことですか? あたし、そんなに魅力(みりょく)が…」
「だから、そういうことじゃないんだよ。もっと、根本的(こんぽんてき)な問題(もんだい)なんだ」
「えっ…、分かんないです。はっきり言ってください。その方が…」
「分かった。じゃあ、君だけに告白するけど、僕は地球人(ちきゅうじん)じゃないんだ。だから君とは…」
「ひどい…」彼女は涙声(なみだごえ)になり、「こんな時に、そんな冗談(じょうだん)で誤魔化(ごまか)すなんて――」
彼女は、涙をぬぐいながら走り去ってしまった。残(のこ)された先輩は、何を思ったのか、鞄(かばん)から古いファッション雑誌(ざっし)を取り出して呟(つぶや)いた。
「これを参考(さんこう)にしたのがまずかったのか? どうやら、この容姿(ようし)は目立(めだ)ちすぎてるようだ」
<つぶやき>まさか、本当(ほんと)に異星人(いせいじん)だったのか? こっそり私たちを観察(かんさつ)してたんですね。
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私は、友達(ともだち)から呼(よ)び出された。しかも、山の中に――。何か、彼氏(かれし)を紹介(しょうかい)したいってことなんだけど…。はっきり言って、その娘(こ)とはそれほど親(した)しいわけじゃない。
登山道(とざんどう)の途中(とちゅう)で彼女が待っていた。彼女は恥(はず)ずかしそうに言った。
「ごめんねぇ。こんなところまで来てくれて、ありがとう。こっちよ」
彼女は、私を促(うなが)すように先(さき)に歩き出した。しかも、登山道から外(はず)れた道へ入って行く。私は慌(あわ)てて言った。
「ダメだよ。そんな方へ行ったら迷(まよ)ってしまうわ」
彼女は、「大丈夫(だいじょうぶ)よ」と言って、どんどん行ってしまう。どのくらい歩いただろう。ちょっと開(ひら)けた場所(ばしょ)に出た。そこには、木陰(こかげ)の下に木のテーブルと椅子(いす)が置かれていた。そして椅子には、彼氏なのだろうか人の姿(すがた)が――。私は言われるままに椅子に座(すわ)って、向(む)かいの男性の顔を覗(のぞ)き見た。次の瞬間(しゅんかん)、私は凍(こお)りついた。私の前にいたのは、ゾンビ…?!
彼女は隣(となり)の彼氏に言った。「もう、この娘(こ)はあたしの友達よ。そんなに睨(にら)みつけないで」
私は、あたふたして、「ねぇ、逃(に)げなきゃダメよ。もし噛(か)まれたら…」
彼女は平気(へいき)な顔で、「心配(しんぱい)しないで。ちゃんと縛(しば)ってあるから。彼ね、こんな顔してるけど、慣(な)れればとっても可愛(かわい)いのよ。きっと、あなたも好(す)きになってくれると――」
「ど、どうして? 私を、こんなところに呼び出したのよ。まさか、私を…!」
<つぶやき>これは驚いちゃうよね。でも、彼女にはそんな気はないんじゃないかなぁ。
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彼女は、ほんの些細(ささい)なことで彼と口論(こうろん)になった。そして、思わず言ってしまった。彼女が彼と付き合うことにした理由(わけ)を――。
「あたしにとって、メリットがあるからあなたと付き合ってるのよ。愛情(あいじょう)なんかあるはずないでしょ。もう…今のあなたは、あたしの役(やく)に立ってないじゃない!」
彼は困惑(こんわく)して、「何でそんなこと言うんだよ。僕(ぼく)たち、あんなに――」
彼女は感情(かんじょう)を抑(おさ)えられずに、「あなただってそうでしょ? あたしと付き合ってることで、優越感(ゆうえつかん)に浸(ひた)ってたはずよ。あたしのこと責(せ)めることなんかできないはずだわ」
「僕は別に…、責めてないよ。なぁ、落ち着こう。冷静(れいせい)になって――」
「あたしは、そういう女なの。別に…分かれてもいいのよ。でも、あなただって打算(ださん)があったはずだわ。偉(えら)そうなこと言わないでよ」
口論は、どんどん変な方向(ほうこう)へ向かっていた。そこで彼はとんでもないことを打ち明けた。
「あのさ。僕が君(きみ)を選(えら)んだ理由(りゆう)を言ってもいいかなぁ?」
今までそんな話しを聞いたことがなかった彼女は、ちょっと驚(おどろ)いた顔をした。
「僕も、最初(さいしょ)から愛情があったわけじゃないんだ。実(じつ)のところ、君から声をかけられなかったら、僕たちそのまますれ違(ちが)って終(お)わっていたと思うんだ」
「ちょっと…。あたしからじゃないでしょ? 話しかけてきたのはそっちからだわ」
<つぶやき>はたからみたらバカバカしいよね。でも、何が原因(げんいん)でこんなことになったの?
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その事件(じけん)は大きなホテルで発生(はっせい)した。警察(けいさつ)は次々(つぎつぎ)に見つかる被害者(ひがいしゃ)に右往左往(うおうさおう)するばかり――。このホテルに有名(ゆうめい)な推理作家(すいりさっか)が宿泊(しゅくはく)していた。捜査(そうさ)に当たっていた刑事(けいじ)は、その推理作家に捜査協力(きょうりょく)を強引(ごういん)に頼(たの)み込んだ。刑事は事件のあらましを伝(つた)えた。
「一人目の被害者は男性で、服毒自殺(ふくどくじさつ)に見せかけて殺害(さつがい)されていました。二人目は、ベッドで下着姿(したぎすがた)の女性が絞殺(こうさつ)されています。三人目は、ハウスキーピングをしていた女性で、リネン室で刺殺体(しさつたい)として発見(はっけん)されました。犯人(はんにん)はどういう人物(じんぶつ)か推理してみて下さい」
推理作家は呆(あき)れて言った。「そんなこと分かるわけがない。私は、刑事でも探偵(たんてい)でもないんだ。実際(じっさい)に起きた事件を推理すんなんて、私にできるわけないだろ」
「あなたなら分かるはずです。あなたは、多くの人間(にんげん)を殺(ころ)してるじゃないですか」
「それは小説(しょうせつ)の中の話しだ。私の頭の中で作り上げたものでしかない」
「そうです。答(こた)えはあなたの頭の中にあるはずです。思い出して下さい。ホテルで起きる殺人事件を書いたことがあるのでは?」
推理作家は考え込んでいたが、何かを思い出したようで、
「そういえば、処女作(しょじょさく)でそんな話しを書いたことが…。確(たし)か、推理作家を登場(とうじょう)させて…」
「そうです。その作品(さくひん)です。犯人はどんな人物だったのですか?」
「もう何十年も前の作品だ。はっきりは覚(おぼ)えていないよ。確か、偽(にせ)の刑事で――」
「よかった。これで先に進(すす)めます。では、四人目の被害者は誰(だれ)でしたか?」
<つぶやき>四人目の被害者は推理作家だったのかも。作品では犯人は捕(つか)まったのかな?
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「総理(そうり)、つけ心地(ごこち)はいかがでしょうか?」執務室(しつむしつ)で小暮(こぐれ)が言った。
「ああ…。まぁ、腕時計(うでどけい)みたいなものだから気にはならないがねぇ。しかし、本当(ほんとう)に必要(ひつよう)なことなのかね? わしには、やり過(す)ぎとしか思えんが…」
「これは勝手(かって)に取り外しができないようになっていますので、本人(ほんにん)の証明(しょうめい)になります。それに所在(しょざい)の確認(かくにん)も容易(ようい)です。報告(ほうこく)によると、姿(すがた)を変えられる能力者(のうりょくしゃ)がいるということなので、その侵入(しんにゅう)を防(ふせ)げるはずです。総理の安全(あんぜん)のためには――」
ドアがノックされて、権藤(ごんどう)が神崎(かんざき)を連れて入って来た。小暮が言った。
「神崎さん、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
神崎がソファに座ると、総理がゆっくりと彼の前に座って言った。
「すまなかったね。君(きみ)たちが信用(しんよう)に値(あたい)するかどうか知りたかったんだ」
神崎は緊張(きんちょう)した面持(おもも)ちで、「そ、そうでしたか…。私たちは、この国のために――」
小暮が口を挟(はさ)んだ。「ところで、黒岩(くろいわ)がどこにいるかご存知(ぞんじ)ないですか? 実(じつ)は、姿を消(け)してしまいまして。今、捜索(そうさく)をしているところなんです」
神崎は何かを合点(がてん)したように、「私は、何も…。黒岩が何かを企(たくら)んでいると…?」
小暮は小さく肯(うなず)いて、「黒岩は何人も能力者を使っているようで、こちらもその対応(たいおう)に苦慮(くりょ)しています。そこで、あなた方に協力(きょうりょく)していただきたいのです」
<つぶやき>これから何が起こるのか。しずくたちも、巻(ま)き込まれていくことになるかも。
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