「最近(さいきん)、つき合い悪(わる)いじゃねえか?」同級生(どうきゅうせい)の良樹(よしき)が、和也(かずや)の首(くび)に腕(うで)を回(まわ)しながら言った。
鞄(かばん)に教科書(きょうかしょ)なんかを入れていた和也は、「ごめん。ちょっと忙(いそが)しくてな」
「まさか、受験勉強(じゅけんべんきょう)とかしてんのか? ぬけがけは許(ゆる)さねえぞ」
「そんなんじゃ…。ちょっと娘(むすめ)のことが心配(しんぱい)で、目が離(はな)せないんだよ」
良樹はキョトンとした顔をして、「娘って、何だよそれ?」
「見るか? ずっげえ可愛(かわい)いんだ」和也はスマホで小学生(しょうがくせい)くらいの娘の写真(しゃしん)を出した。
二人の近くにいた美咲(みさき)が、横(よこ)から割(わ)り込んできてスマホを覗(のぞ)き見して叫(さけ)んだ。
「わぁ、かわいいぃ! 親戚(しんせき)の子? 名前(なまえ)、なんて言うの? 今度(こんど)、会わせてよ」
和也はちょっと照(て)れながら、「あゆみ、小学五年生なんだ。俺(おれ)の娘とは思えないだろ」
美咲も引(ひ)いた感じ…。和也はやっと気づいて、「これ、ゲームだよ。今、はまってるんだ」
美咲は何となく納得(なっとく)をした顔で、良樹と目を合わせた。和也は得意(とくい)げに、
「<仮想家族(かそうかぞく)>ってゲームなんだけど、生まれてから死ぬまの人生(じんせい)ゲームなんだ。途中(とちゅう)でリセットできないルールで、ちょうどあゆみが反抗期(はんこうき)で大変(たいへん)なんだよ」
美咲はちょっと気になって、「娘がいるってことは、奥(おく)さんもいるってことよね?」
「もちろんさ。見る?」和也はスマホの写真を美咲に見せた。美咲はほっとして、
「なんだ、おばさんじゃない。もっと美人(びじん)かと思ったわ」
「当たり前だろ。ゲームでは、俺は四十過(す)ぎてるからな。でも、知り合った頃(ころ)は――」
<つぶやき>そう、そうなんだ。でも、リアルにも目を向ける必要(ひつよう)があると思うけど…。
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