みけの物語カフェ ブログ版

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0127「人類の始まり」

2017-12-27 18:42:33 | ブログ短編

 とある大学(だいがく)の研究室(けんきゅうしつ)。今、ここでは壮大(そうだい)な実験(じっけん)が行われようとしていた。学生(がくせい)を前にして、教授(きょうじゅ)が実験の趣旨(しゅし)について話しはじめた。
「これから君たちには、私の実験に参加(さんか)してもらう。実験のテーマは、<人類(じんるい)はいかにして言葉(ことば)を手に入れたのか>。私の考(かんが)えでは、全(すべ)ての言葉の始まりは<ア>だ。ウキウキでもなく、ウホウホでもなく、<ア>が全ての言葉の始まりなのだよ。そこでだ、今後(こんご)、この研究室内での会話(かいわ)は全て<ア>を使うことにする。それ以外(いがい)の言葉を使った者(もの)には、単位(たんい)はつかないと思ってくれ。では、今から――」
「教授、待って下さい」学生のひとりが声をあげた。「いきなりそんなこと言われても」
「アア、アアアアア、アアアーアー(もう、実験は始まっているぞ)」
 学生たちには選択(せんたく)の余地(よち)はなかった。誰(だれ)からともなく<ア>を使い始めると、研究室全体(ぜんたい)が<ア>で埋(う)め尽(つ)くされていった。それは、さながら原始時代(げんしじだい)に戻(もど)ったようだ。中には、猿(さる)の真似(まね)をする学生も現れた。教授はその様子(ようす)を満足(まんぞく)そうに見つめていた。
 数日後のことである。研究室の前の廊下(ろうか)に学生たちが集まっていた。教授が姿(すがた)を見せると、学生たちは教授に詰(つ)め寄(よ)り言った。
「いつまでこの実験を続けるんですか? こんなことをやって何の意味(いみ)があるんです」
「意味を考えるな。原始人になりきるのだ。そうすれば、おのずと言葉は生まれてくる」
<つぶやき>言葉の誕生(たんじょう)の瞬間(しゅんかん)はどうだったのかな。この実験で新語(しんご)が誕生するかもね。
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