どのくらいたったろうか、もうすっかり暗くなっていた。
――校舎(こうしゃ)の屋上(おくじょう)に寝転(ねころ)がっている二つの影(かげ)。雲間(くもま)から差し込む月の光が、辺(あた)りを照(て)らし出す。そこにいたのは月島(つきしま)しずくと柊(ひいらぎ)あずみ。二人は黙(だま)って夜空を見上げていた。
柊は身体(からだ)を起こすと、しずくを見て言った。
「月島さん、私の倶楽部(くらぶ)に入りなさい。あなたを鍛(きた)え直してあげるわ」
しずくは驚(おどろ)いて起き上がると、「えっ、私は…。クラブは自由参加(じゆうさんか)なんです。だから…」
「あなた、どうしてクラブに入らないの? 何か理由(りゆう)があるんでしょ」
「それは…、別に、やりたいこともないし…。もう、いいじゃないですか」
「あなた、このままだと私の担当教科(たんとうきょうか)は落第(らくだい)ね。進級(しんきゅう)できなくてもいいの?」
「どうして、そうなるの? 先生、何で私にそんな意地悪(いじわる)するんですか」
「意地悪? あなたも自分の能力(ちから)に気づいてるはずよ。だから、クラブにも入らないんでしょ。無駄(むだ)に明るく振る舞(ま)って、他の人間と仲良(なかよ)くしようとしてる。友だちとも適当(てきとう)に距離(きょり)をとって、本当の自分を隠(かく)すためにね」
しずくは突然(とつぜん)立ち上がって、「私は普通(ふつう)の女の子です。他の娘(こ)と何も変わらないわ」
「滑稽(こっけい)すぎて、笑(わら)えないわ。あなたには自分ってものがないの。自分の能力を認(みと)めて――」
「先生に何がわかるの!」しずくは思わず叫(さけ)んで、その場から逃(に)げるように駆(か)け出した。
<つぶやき>しずくの心の中は複雑(ふくざつ)なのです。普通の女の子でいられたらどんなに良いか。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます