みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1047「よく見て」

2021-03-20 17:49:55 | ブログ短編

 仕事(しごと)終わりで彼とのデート。いつもの場所(ばしょ)で待(ま)ち合わせをして…。彼が来ると、彼女はさり気(げ)なく彼にアピールを始めた。でも、彼にはまったく通(つう)じてないみたい。彼女は、
「もう、気(き)づいてよ。ほら、今日のあたし、ちょっといつもと違(ちが)うでしょ」
 彼は首(くび)をかしげて、「そうか…? ああ…、服(ふく)ね。とっても似合(にあ)ってると思うよ」
「はい? 何それ。この服、先週(せんしゅう)も着てましたけど…。どこ見てるのよ。分かるでしょ?」
「それより、どこ行く? 俺(おれ)、昼(ひる)めし食べられなくてさぁ。腹(はら)ぺこなんだよ」
「話をそらさないで。あたしのこと、ちゃんと見てよ」
「そんなこと言われても、分かんないよ。もういいから、早く行こうぜ」
 彼女は頬(ほお)を膨(ふく)らませて、「もう、いや。あたし、帰るね」
「何でだよ。待てよ。分かった、分かったから…。じゃあ、ちゃんと見るから」
 彼は、彼女のことをじっくりと見回(みまわ)した。彼の顔が、だんだん寄(よ)り目になり、眉間(みけん)に皺(しわ)がより、鼻(はな)の下が伸(の)びてきて――。彼女は、それが可笑(おか)しくて、くすくすと笑(わら)い出した。
「何だよ。こっちは真剣(しんけん)に見てるんだぞ。笑うことないじゃないか…」
「だって…。もういいわ。教えてあげる。髪(かみ)を切(き)ったのよ。ほんのちょっとね」
「えっ…。そんなの分かるわけないだろ。ああ、お腹(なか)が空(す)きすぎて目まいがしてきた…」
<つぶやき>彼女は、ほんのちょっとの変化でも気づいてほしいのです。ちゃんと見てね。
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